第7話 シンシアへの想い

騎士団長の許可を得てジークはアルムンド領へ向かい、その馬上で、シンシアとの事を考え続けていたが、アルムンドの美しい自然が見えてくる頃には、ジークの中からの余計な物ががれ落ち、本当に必要な物だけが見えてきた。自分には好いた女性がいて、その女性に求婚するだけなのだ。きっかけが何だとか、断られたらどうするとか、連座制の事とかは後で考えれば良い。そこに思考が辿たどり着くと、ジークの迷いは消えた。


アルムンドの実家に着いた翌日、ジークはシンシアの部屋で彼女に求婚した。しかし彼女は求婚に対して何も言わず、彼女の身に起こった過去の出来事を話し始めた。


過去のジークとの婚約はシンシア望んだ事だった。その頃が幸せの絶頂期だった。しかし叔父の横槍が入り、婚約話は流れてしまった。しばらくすると父が亡くなり、叔父が領主を引き継ぐことに。父の葬儀を終えてシンシアは家を出ようとしたが、叔父の手下に捕らえられ、男爵邸の屋根裏部屋に閉じ込められた。ある時、叔父が屋根裏部屋に来て、シンシアの着ていた衣服をやぶり、無理矢理にシンシアの純血を奪ってしまった。叔父にはずかしめられたのは一度や二度ではない。またその事を知った夫人には鞭で打たれ、そのあとは今も残っている。逃げ出せたのは幼少期に付いてくれていたメイドのお陰で、叔父と夫人がシンシアを奴隷商人に売り渡そうと話しているのを物陰で聞いたメイドが逃亡を助けてくれた。ジークとの思い出だけが心のり所だったので、逃亡先はアルムンドにした。ジークと再会できた事が今は何より嬉しい。


「私の体はけがれています。お側に置いて下さるならどうか愛妾として...」


そこまで言ってシンシアは泣き崩れた。その姿をみて彼女の叔父への憎しみが沸々ふつふついてくる。彼女の運命は何故こうも過酷なのか。彼女を守ると自身で誓った筈なのに、その彼女は既に不幸のどん底に突き落とされてしまっていた。聞かされた事実はジークの心に突き刺さった。しかし一方で、彼女が自分と結ばれたいと望んでいたと知り、その事がジークの勇気を後押しした。アルムンド迄の道のりで考え抜いたジークに迷いはなかった。


「起き上がってもう一度話をさせて下さい。」


ジークはシンシアをゆっくりと抱き上げ、涙を拭いて椅子に座らせ、彼女の正面で片膝をついて、改めて自身の想いを伝えた。どういう過去があるとしても今こうして2人が共に居られること、シンシアだからこそ自分の側にいて欲しいと願っていること、彼女のこれからの人生を守り抜くと誓ったこと、...つたないながらも幾つもの言葉で想いを語り、彼女の手をとって改めて求婚した。長い静寂の後、彼女は震えながらも頷いてくれた。ジークはシンシアを優しく抱きしめた。


それから少しの間はベントリー領の事や今後の生活について2人で話し合った。連座制の事も伯爵の提案の事も正直に伝えた。その後、家族全員を食堂に集め、シンシアとの結婚を伝えた。


「さすがジークです。貴方の事を誇りに思います。」


おそらくシンシアの事情に気付いているであろう母はそう言った。父と長兄は自分の事のように喜び、大声で何か叫んでいる。妹も本当の姉ができたと喜んだ。その日の夕食には豪華な食事が並べられ、皆がジークとシンシアにお祝いの言葉を述べた。シンシアは時折泣いていたが、その涙に悲しみは感じられなかった。

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