第3話 盗賊団の襲撃

月明かりが届かぬ暗い森の中を怪しげな集団が移動している。時折ガチャガチャと金属音が聞こえるので、彼らが戦闘用の得物えものを装備している事が分かる。人数は不明だが、気配からおそらく20程度だろうと予想できた。農村を襲撃するには十分な人数だった。


怪しげな集団から少し離れた森の中に長兄とジークが、村を囲むさくそばにある植え込みの影に父がひそみ、それぞれが静かにゆっくりと剣を抜いた。アルムンドでは近年の盗賊団襲撃への備えとして夜間でも周辺を警戒し、特にシンシアが来てからは更に警戒を強めていて、怪しげな集団はその警戒網に引っ掛かった。森を監視していた村民が怪しい集団を発見し、あらかじめ取り決めていたフクロウの鳴き真似まねで知らせてくれたお陰で、ジーク達は待ち伏せする事が出来た。


怪しげな集団は森を抜け、村を囲う柵に近づきつつ散開した。森を抜けた集団は月明かりに照らされて容易に視認できる。ジークは集団の斜め後ろから雄叫びをあげながら斬りかかった。その声に反応してか数人が振り返ってジークの剣を弾こうとしたが、間に合わずに斬られた。その他が遅れて振り返りジークへ剣を向けたところで、今度は柵の側に潜んでいた父が背後から斬りかかった。森の方からも戦闘音が聞こえる。森の周辺にとどまっていた者を長兄が始末しているのだろう。全てを終わらせる迄の時間はわずかだった。


「何人か残せ!!」


父の指示に従ってリーダーと思しき者と近くの2名を残した。後で尋問じんもんするためだ。とらえた者を縄で縛り、その他の者にはトドメを刺した。父は柵内に控えていた執事を呼び寄せ、何者かに襲われた旨をナボレス伯へ至急連絡するようにと指示した。


もともとアルムンド家は武による功績により授爵じゅしゃくした家で、その武は父や息子達へも受け継がれている。専門的な戦闘訓練を受けていない者など相手にならない。その武門の家系においてもジークの武勇は突出しており、若年ながら、騎士団において一目置かれる存在であった。恵まれた体格、鍛錬たんれんつちかった技、素早い判断を可能とする思考、それらが騎士団での経験を経て更に高められている。今夜も半数以上を討ち取ったのはジークだった。


ーーーーーーーーーー


「さて、色々と聞かせてもらおうか。」


翌朝、納屋なや軒先のきさきの柱に縛り付けられた襲撃者3名の前に椅子を置き、その椅子にドカッと座った父がそう言った。全て話すまで付き合うぞという態度である。食事は与えない、毎朝にわずかな水分を与えるだけだ。数日もすれば意識が朦朧もうろうとし、素直に話し始めるだろう。実際に5日過ぎた辺りから少しずつ話を聞く事ができた。


当然というか、やはりというか、襲撃者は近隣を荒らしている盗賊団のメンバーで、目的はシンシアをベントリー領へ連れ去る事だった。依頼者はベントリーの商人だと言うが、おそらく黒幕がいるだろう。盗賊団は100名を超える大所帯で、ベントリー領を中心に幾つか拠点を持っている事も分かった。しかし全ては襲撃者の自白だけで、書面などの物的証拠や、第三者の証言などは無い。先日の黒鎧の騎馬兵と盗賊団との繋がりも不明のままだ。


襲撃者の自白が一通り得られた頃に執事とナボレス領の騎士団3名がアルムンドに到着した。父はナボレス伯への報告書を派遣された騎士団員へたくし、生存している襲撃者を引き渡した。シンシアの件は伝えなかった。騎士団員は一通りの現場検証を行い、襲撃者を囚人輸送用の馬車に押し込み、その日のうちにナボレスへと帰って行った。帰り際、騎士団員はジークの長期休暇の中止を要請してきた。ナボレス伯や騎士団長への報告時に同席する為だという。シンシアの事が気掛かりであったが、騎士団からの要請では断れない。明日の朝にアルムンドを出発すると伝えた。


その日の夕食前、ジークはシンシアとの会話の中で、ナボレスへ戻ると伝えた。盗賊団の襲撃については伝えていなかったが、夜間の戦闘音や、その後の周囲の状況から、なんとなく察している様だった。ナボレスへ戻ると伝えた直後は普段通りの表情であったが、次第にシンシアの眼から涙が溢れ始めた。「アルムンドでお帰りをお待ちします...」。胸の奥から絞り出す様に彼女はそれだけを言った。

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