第46話 ゲームの幕引き★

「さあどうする? おっぱいとおまんこ、どっちを隠す?」


千葉が嫌らしく笑う間も、美咲のビキニのブラは落下を続けていた。

彼女が動かせるのは左手1本だけだが、乙女として隠さなければいけないところは、おっぱいと股間の秘所の2箇所あるのだ。

隠せるのはどちらかひとつだけ――。

16歳の少女にとって、そのどちらも衆人環視の中で晒して良いわけがない。


それゆえ、美咲は決断できなかった。

左手は乙女の秘部を隠したまま、ぎゅっと帽子を握りしめる。

それは、自らおっぱいを晒すことを決めたのに等しかった。

彼女は観念したかのように目を瞑り、羞恥の瞬間を待つ。


美咲の美しい乳房が少しずつ露わになり、豊かな膨らみの大部分が見え、ついにその先端にある淡い蕾が――。


「間に合ええええ!!」


その瞬間、飛び上がった蓮司の手によって、美咲の両の胸は後ろから隠された。

柔らかな感触に蓮司は昇天しかけるが、ぐっと歯を食いしばって耐えしのぐ。


「た、立花くん!?」

「ごめん、古川さん! でもこうするしかないんだ!!」


自分のペアの女子生徒を触ることは、ルール上問題はない。

美咲のおっぱいが晒されるくらいなら、また嫌われてしまうとしても、この手で隠すしかないのだ。

ぐっと手に力を込めると、指がその柔らかな膨らみに食い込み、心地よい弾力を返してくる。

そして、気がついた。

右のおっぱいは、手で隠す瞬間にカップがずれてしまったらしい。

ちょうど手のひらの真ん中あたり、美咲のおっぱいの先端の位置に、何やら固いものがある。

これが、美咲の――。


『だめだ、考えるな!』


蓮司は目を見開いて煩悩を振り払った。

今、正気を失うわけにはいかないのだ。

おっぱいの魔力になど負けない。

蓮司は美咲の顔の横から、対峙する千葉を睨みつける。


「ぶっ! はははは! 本当に馬鹿だね、君たちは。」


千葉はまだ余裕そうにケラケラと笑っている。

当然だ。

一時的に危機を防いだとはいえ、まだ蓮司たちは圧倒的に不利だった。

美咲のおっぱいを守っている以上、蓮司も両手が使えない。

こんな状況で逆転できる手段は、ほとんどないように思われた。


「じゃあ次は――。」

「蓮司!!」


千葉が何かを言いかけた瞬間、蓮司のことを呼ぶ声が聞こえた。

小田切だ。

反対側の壁に茉莉を追い込んだ小田切が、必死の形相で叫んでいた。


「今だ!!」


蓮司は、それで全てを理解した。

勝負はこの一度きり――!

蓮司は美咲の体の横から右足を突き出すと、思い切り千葉の股間を蹴り上げた。

運動靴越しに、めりっと何かが凹む感覚がある。


「い、いてええええええ!!」


さすがの千葉も、男の急所は効くらしい。

美咲の腕を掴む手が離れ、その場で小刻みにジャンプする。

その隙を、蓮司は逃さない。


「古川さん、胸を!」


美咲が自由になった手で上から胸を隠すのを確認し、蓮司は両手を引き抜いた。

そして、悶絶する千葉のところまで近づき、急いで方向を確認する。


「くらえ!!」


狙いを定めた蓮司は、思いっきり助走をつけて千葉の体にタックルした。

しかし、千葉は体に力を入れて衝撃に耐えている。


「な、なんなんだよ!?」


千葉が訳もわからず叫んだ。

だめだ、蓮司ひとりの力では、千葉を突き飛ばすことはできない。

そのとき、後ろから誰かがぶつかってきた。


「えいいいい!!」


美咲だ。

両手で胸と股間を隠し、お尻が見えないように横を向きながら、蓮司に重なるようにタックルしているのだ。

ようやく千葉の体が浮き上がり、その足が地面から外れる。

ほんの少しではあるが、千葉の体が離れたところに着地した。


「こんなことして、何に――うわっ!」


その場で体勢を整えようとした千葉は、ふいに足を踏み外した。

突き飛ばした先は、蓮司たちが登ってきた階段の踊り場だったのだ。

ちょうど段のないところに足を置こうとした千葉は、バランスを崩して無様に倒れていく。


「う、うわあああああ!」


そのままゴロゴロと階段を転がった千葉は、一番下まで落ちるとぐったりと横たわる。

しかし、すぐに顔を上げて、こちらを睨みつけた。


「お前ら、許さない…ぞ?」


千葉はそう言いかけて、途中で首を傾げた。

ぼんやりと蓮司と美咲、そして小田切たちと茉莉の位置を確認する。


「しまった。」


全てを悟った千葉は、がっくりとうなだれた。


「離れすぎた。」


その瞬間、蓮司の耳はピピッと鳴る電子音を聞いた。

振り返ると、茉莉が身につけた真っ赤なビキニの紐が解け、ゆっくりと落下をはじめていた。

首と背中の紐が同時に外れたブラジャーは、あっという間に胸の頂点を通り過ぎ、ピンと飛び出るようにして乳首が露わになった。

そして、どういうわけかパンツの両側の紐も解け、足元にポトリと落ちる。

その様子を、蓮司を含めた男子全員が、驚きの表情で見つめていた。


丸出しになったおっぱいは、ロケット型というのだろうか、ブラジャーを失っても一切垂れることがなく、圧倒的なボリュームと張りをもって前面に突き出していた。

その先端の乳首は美しいピンク色で、花の花弁と見紛うほどに可憐に咲き誇っている。

乳房全体も大きさがあるが、心なしか乳首はそれと比しても少し大きく見え、それがなんとも言えないほど官能的、もといエッチである。


下半身は、驚くことに毛が一切生えていなかった。

それが生まれつきなのか、手入れをしているのかはわからないが、とにかく何物にも隠されていないその秘裂が、クラス全員に向けて晒されている。

七菜のときは少し薄暗かったが、ここは十分に明るいため、その部分がサーモンピンク色をしていることも見てとれた。

周囲を覆う肉の花びらまではっきりと確認でき、蓮司はようやく乙女の花園の全貌を理解する。

あの国民的アイドルに、こんな生々しい女性器がついているなんて、誰が想像しただろうか。


時間が止まったかのように、男たちはその姿を見つめていた。

これがあの楠本茉莉の、あのアイドルの、まごうことなきヌードだった。


「え…? やだ、うそっ!!」


周囲の注目を集めた茉莉は不思議そうにしていたが、数秒経ってようやく自分が全裸になっていることに気がついた。

真っ赤な顔で、慌ててしゃがみ込んで体を隠すが、もう遅い。

誰もが絶世の美少女の痴態を、脳裏に焼き付けているのだった。


「報告。千葉大樹、楠本茉莉ペアがルール違反により失格。ルールに則り、自動で水着の剥ぎ取りを実施した。」


状況を確認した九条が淡々と言い放った。

しかし、一体どんな技術で紐を解いたのだろう。

それに、パンツまで脱がしてしまうなんて、この女の倫理観は本当に常軌を逸している。


「――そして、ただいまの時間を持って、水着剥ぎ取りゲームを終了する。みんな、よく頑張ったな。」


九条が時計を確認し、続けるようにアナウンスした。

とにもかくにも、これでイかれたゲームも終了したわけだ。

蓮司は力なく地面に座り込む美咲のもとへと向かい、そのブラジャーの紐を結びなおす。

そして、遠くに落ちていたパンツを拾い上げると、葵に協力してもらいながら、周囲に見えないように身に着けてもらった。


美咲の着衣が整ったところで、ようやく蓮司は地面に腰を下ろした。

小田切たちも安堵の表情を浮かべ、すぐ傍に座り込む。

しかし、まだ納得していない男がいた。


「会長! 待ってくださいよ! 正々堂々やってたら、俺の勝ちだったじゃないですか!」


千葉がゆっくりと階段を上がりながら、九条に抗議する。

九条もそちらに向き直るが、その顔はなんだか怒っているように見えた。


「正々堂々? 立花蓮司たちはちゃんとルールに則って行動していたはずだ。それを言うなら、わざわざ女子の体を触ったり、下の水着まで剥ぎ取っていたお前の方がよっぽど卑怯だろう。」


九条の追求に、千葉はぐっと黙り込んだ。

彼女の言うとおり、蓮司はあくまでルールの範疇で、千葉を失格に追い込んだのだ。

通常なら相手をそれぞれ10m以上離すには、こちらも同じくらいパートナーと離れる必要がある。

しかし、こちらは2組いたので、それぞれがパートナーと一緒に行動することで、うまく千葉と茉莉を分離できたのだ。

チームを組んでいないとできない芸当だ。


「それに、お前はずっと、楠本茉莉のことを気にもしていなかっただろう。お前がもっと彼女のことを気遣っていれば、距離が離れていることにも早く気づけたはずだ。」


九条が諭すように千葉に言う。

確かに、このゲームを通してずっと、千葉は茉莉のことを守ろうとはしていなかった。

それは実力を認めているともとれるが、そのせいで茉莉はひとりで戦わざるを得なかったはずだ。

奴に足りなかったのは、パートナーとの信頼関係だったのかもしれない。


千葉が裸の茉莉のほうを見ると、彼女も千葉の方を向き、少しの間ふたりは見つめあう。

しかし、すぐに茉莉がぷいと横を向いてしまった。


「さて、これにて全てのゲームが完了した。早速結果発表に移ろう。栄えあるこのゲームの優勝ペアは――。」


九条はそういうと、犬にお手をするように手のひらを上に向け、手を突き出した。

すかさず黒服の一人が走っていき、その手に何かの紙を渡す。

九条はその紙に目を通し――、一気に眉間に皺が寄った。


「まじか。」


普段とは違う、俗っぽい発言にクラス全員が困惑する。

顔をあげた生徒会長の表情からは、明らかな動揺が見てとれた。


「立花・古川ペア、12ポイント。小田切・小鳥遊ペア、12ポイント…。」


紙を読み上げる九条の声が震えている。

え? つまり同点てことか?

蓮司は記憶を辿ってポイントを数えてみるが、確かに2組は同じ点数だった。

優勝候補の千葉たちも失格したので、彼らは11ポイントで終了になったわけだ。


「てことは、同点で2組とも優勝?」


美咲が首を傾げるが、九条はゆっくりと首を振る。


「いや、ゲームの優勝ペアは1組だけだ。例外は認められん。」

「じゃあ、どうするんですか?」


思わず蓮司も口を挟んだ。

九条は蓮司たち4人の顔をじっくりと眺め――いつものように、不敵に笑い始めた。


「なっ――。」

「簡単なことだ。2組が同点なら、もう一度ゲームをやって、決着をつければいい。とっておきがある。それで雌雄を決するのだ。すぐに始めよう。」


突然の発表に、蓮司たちはあんぐりと口を開ける。


「と、とっておきって、一体どんなゲームなんですか?」


葵か心配そうに質問する。

それに答える九条の表情は、今まで見た中で一番、邪悪で恐ろしい、狂ったものだった。


「最後のゲームは――、ブラジャー綱引きゲームだ。」


第4章 水着剥ぎ取りゲーム 終

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