第5章 ブラジャー綱引きゲーム

第47話 最後のゲーム

なんでこんなことになったのだろうか。


蓮司は改めて、このゲームが始まってから起きたことを考えていた。

突然九条が教室に現れ、とんとん拍子に行われた3つのゲーム。

その中で、簡単な会話しかできなかった美咲と、打ち解けあい、時に怒られもしたが、何とか最後まで守りきることができた。

そのはずだった。


「ルールは簡単だ。コントローラーで浮島を動かし、ブラジャーで綱引きをするのだ。先にブラジャーが外れてしまったペアの負けだ。」


九条がプールの向こう側から、拡声器を使って話し始めた。


蓮司たちは今、第三のゲームのルール説明が行われたホテルまで戻ってきていた。

ホテルの中にはラグジュアリーなプールも設置されており、そこがブラジャー綱引きゲームの舞台になったのだ。

蓮司と小田切は水着姿のまま、25mくらいのプールの端に立たされ、ルールの説明を受けているわけである。

敗退したクラスメイト達も、同じく水着姿のまま、観戦のために後ろに並んで座っていた。


美咲と葵はというと、ふたりとも蓮司の目の前にいた。

正確にいうとプールの中、水面に置かれた2つ浮島の上に置かれた椅子に、それぞれ向かい合うように腰かけている。

そして、彼女たちの両腕は、頭の後ろにしっかりと縛りつけられていた。


「試しに浮島を動かしてみろ。操作感を覚えるのが、勝利への近道だ。」


蓮司と小田切には、ラジコンのコントローラーのような端末が渡されていた。

言われたとおり、蓮司はスティックを横に倒す。

すると、美咲の乗った赤い浮島が連動して動くのがわかった。

隣の小田切も、葵が乗った青い浮島を操作している。


要は、ブラジャー綱引きとは言っても、女の子たちが自分たちで綱を引くわけではなく、パートナーの男子の操作によって間接的に綱引きを行うわけだ。

ご丁寧に女子たちは身動きがとれなくなっているので、こちらの操作や力加減、駆け引きによって勝敗が決まるわけである。


「それでは、綱を設置する。男子諸君は少しの間待機していてくれ。」


九条のアナウンスに、黒服たちがせっせと大きな綱を運んできた。

即席で作ったのだろうか、ところどころに継ぎはぎや結び目が見られるが、全長15mくらいはあるように見える。

これを、ふたりのブラジャーに取りつけるのだ。


美咲と葵は、身に着けているものも少し変化していた。

下は元のビキニ水着のままだが、上、すなわちブラジャーは肩紐のない、チューブトップ型のものへと変更されている。

おそらくは、引っ張られて簡単に外れるようにするためだろう。

背中の部分も、結び目ではなく脆そうなプラスチックのホックになっている。


黒服たちによってブラジャーに縄が取りつけられる間、ふたりの美少女はその様子を不安そうに見つめていた。

当たり前だ。

これから自分のブラジャーで綱引きをするという、わけのわからないゲームをやらされるのだから。

しかも、ふたりとも腕は固定されているため、万一ブラが外れそうになっても抑えることさえできない。

ブラが外れれば、もちろんそのおっぱいは丸出しになってしまうだろう。

衆人環視のなかでそんな目に遭うのは、美咲も葵も絶対に嫌に決まっていた。


「よし、それでは準備ができた。立花蓮司、小田切幹太、それぞれ開始位置についてくれ。」


ふたりのブラジャーの真ん中、ちょうどおっぱいの谷間に、綱が硬く結びつけられた。

そのまま美咲と葵の距離が離され、ブラジャーからブラジャーに、一直線に綱が張られた状態になる。

少しでも引っ張れば、すぐにどちらかのブラジャーが弾け飛んでしまうだろう。

いつにも増してイかれたゲームである。


「なあ、小田切。」

「ん?」


蓮司は移動する前に、横に立つ幼馴染に声をかけた。

あとでやると約束したふたりの決着が、予期せぬ形で実現したわけである。

小田切も腑に落ちない顔をしながら、葵の姿を心配そうに見つめていた。


蓮司は、口を開いたまま、次の言葉を考えた。

正直言えば、蓮司は美咲のおっぱいを守ることが最優先だった。

こんな大勢の前で、しかも隠せない状態で、その神秘の膨らみが露わになるなんて耐えられない。

でもそれは、小田切も同じだった。

小田切も葵のおっぱいを守りたいはずだった。


「どっちが勝っても、恨みっこなしだぞ。」

「ふん、臨むところだぜ。」


蓮司の言葉に、小田切は肩をすくめた。

考えても仕方がないのだ。

美咲か葵のどちらかが、おっぱいを晒す。

そうすることでしか、このゲームは終わらないのだ。

そうであるならば、正々堂々、全力でぶつかり合うしかなかった。


ふたりの男子生徒は、ゆっくりとプールサイドを進み、お互い向かい合うようにして対峙した。

周囲のクラスメイトたちも、まるでスポーツを観戦するかのように熱気を帯びてきている。


「それでは、これよりブラジャー綱引きゲームを開始する。よーい、はじめっ!」


九条の声に合わせて、蓮司は思いっきりスティックを手前に倒した。

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