第43話 晒される体★

目の前の七菜が、こちらに向けて走ってきている。

その右手が開かれ、蓮司の体にタッチしようと突き出された。


「うわあ!」


蓮司は咄嗟に後ろに飛び跳ねてそれをかわした。

さすがソフトボール部のエース、ダッシュの速度も伊達ではない。


「やるじゃん。立花くんも何かスポーツやればいいのに。」


七菜はそういうと、踵を返して再びこちらに突進してきた。

掌を広げて突き出される右腕をかわすと、今度は左足のハイキックが飛んでくる。

慌てて屈むと、目の前に僅かな布で覆われた七菜の股下が広がっていた。

際どい光景に一瞬思考が止まるが、彼女がさらなる追撃をしようとしているのを感じ、急いで距離をとる。


七菜の魂胆はわかった。

おそらく、"男子は相手の女子の体に触れてはいけない"というルールを逆手にとり、わざと蓮司に接触して、失格にしようとしているのだ。

それは自ら近づく必要があるので、当然水着を剥ぎ取られるリスクもあがる。

だが、彼女はそれを織り込んでも、先に蓮司に触れられると思っているのだ。

運動能力の高い、七菜らしい戦略である。


「ほら、どんどん行くよ!」


息のあがる蓮司とは対照的に、七菜はまだ余裕綽々といった様子だ。

素早い動きでこちらに飛びかかり、体ごとこちらにぶつかろうとしてくる。

蓮司は両手を前に出し、傘の持ち手と先端を持ってガードの姿勢をとる。


「ぐ…!」


七菜の体を傘で受け止めながら、蓮司は声を漏らした。

彼女の細い体からは、想像もつかないほどのパワーである。

七菜がぱっと顔を上げたので、蓮司の目の前にその美しい顔が現れた。

キスできそうなくらいの至近距離から見ても、惚れ惚れするほど整った顔立ちである。


「うわあ! やめろ!!」


遠くで内村の悲鳴が聞こえ、ふたりは一瞬そちらに目を向ける。

少し離れたところで、小田切がロープで内村をぐるぐる巻きにしていた。

これであちらは勝負あっただろう。

あとは七菜の水着を剥ぎ取るだけ、なのだが、そう簡単にはいかなそうである。


「よっと!」


七菜は少し後ろに下がると、体を揺するように小刻みにジャンプをはじめた。

ビキニの紐が揺れ、体にあたって微かに擦れる音がしている。

どこから攻撃が来るのだろう。

蓮司は注意深くその様子を見つめ――、一つのアイデアを、思いつく。


「そろそろ、終わりにするよ!」


七菜がこちらに距離を詰めてくる。

それに対し、蓮司は立ち向かうことはせず、くるりと背を向けて走り出した。


「な…! 待ちなさい!」


予想外の動きに、七菜が動揺する声が後ろから聞こえた。

蓮司は走りながら、エントランスホールにある彫刻やら調度品やらの間をすり抜ける。

一回通ったルートなので、なんとなくだがロープの位置も把握できていた。

背後に七菜がちゃんとついてきていることを確認すると、さらに速度をあげて距離をとる。


「ちょっと、正々堂々勝負しなさいよ!」


七菜が痺れを切らして叫んだ。

ここまでは読み通りだ。

さすがの七菜も男子ふたりを同時に相手にはできないだろうから、まずは蓮司を失格に追い込もうとするはずだと踏んだのだ。

あとは――。


蓮司はあえて狭い空間を通りながら、チラチラと様子を確認する。

そろそろか、と足を止めると、くるりと回って七菜のほうへと向き直った。


「やっと、捕まえた…!」


七菜は進路をふさぐ彫刻の間から顔を出すと、すっとこちらに向かって飛び出した。

蓮司はその様子を、目を見開いて見つめる。

正確には、彼女の下半身を覆う布地を、じっと凝視していた。


するり。

「え?」


七菜も違和感を覚えたのか、立ち止まって、自分の体を確認する。

彼女の視線の先には、自分の股を覆う小さなビキニがあった。

しかし、その布地は、静かに落下を始めていた。


「…やだっ!」


七菜はビキニの紐が、横に長く伸びていることに気がつく。

彼女がそちらを確認すると、飛び出た彫刻の端に、紐が引っ掛かっているのだった。


蓮司はごくりと唾を飲み込みながら、七菜の下半身に集中する。

結び目が解けたビキニのパンツはぺろんと前にはだけ、薄く生え揃った恥毛が顔を出している。

そして、その下に一本の縦筋が入っているのを、蓮司ははっきりと確認した。


そう、ビキニというのはただでさえ際どいのだ。

ハイキックやタックルなんてやっていたら、当然布地はずれるし、紐も緩んでいってしまう。

下の水着の紐が解けかけているのを見つけた蓮司は、あえて鬼ごっこをすることでその紐を解こうとしたのだ。

結果的に紐が引っかかったのが致命傷になり、結び目が解けてしまったわけである。


「いや!! だめ、見ないで!!」


流石の七菜も、乙女の秘所を見られるのには耐えられなかった。

急に女の子っぽい声を上げると、真っ赤な顔で必死で股間に手をやる。

しかし、その秘部が隠されるまで数秒の間、蓮司は次元を超越したかのように、ゆっくりと、克明にその女性たる部分を観察していた。


これが、これが――。

男ならあるべき物体が、そこにはない違和感。

しかし、むしろそのほうが自然であるかのように、その場所は美しく、神々しさすら感じるほどの完成度である。

聖地、秘境、楽園。

そんな言葉が浮かんでくる。

男が簡単には見ることできない、しかし求めてやまない1本の深淵は、花弁のように肉に覆われ、ピタリと閉じられている。

それはまるで、彼女の純潔をそのまま表しているかのようだった。


「やだ…。恥ずかしい…。」


ぺたんと座り込んだ七菜は、耳まで真っ赤な顔で俯いている。

もう彼女は抵抗できないだろう。

可哀そうだが、ブラジャーを剝ぎ取らなければ――。

そう思ったが、下半身の感覚から、自分もまだ動ける状態ではないことに気づいた。


「もらった!」


ふいに小田切が七菜の後ろに現れ、マジックハンドでブラジャーの紐を解いた。

上の水着もはらりと落下し、今度は彼女のおっぱいが目の前に現れる。

その乳房もまた、とても美しいものだった。

控えめながらも、形の良いおっぱいはツンと上向きに鎮座している。

色素の薄い突起は小さく、少し幼ささえ感じるような可愛い乳首であった。


七菜はおっぱいが露わになっていても、手で隠したりしようとはしなかった。

両手は下半身を抑えるために伸ばされ、そのせいで胸が寄せられるように谷間を作っている。

おかげで蓮司は、じっくりとその双乳を堪能することができた。

端正な顔と、細く鍛えられた体、そして程よい膨らみのおっぱいは、さながら中世の絵画のような美しさであった。


『報告。内村葉平、相原七菜ペアが水着を剝ぎ取られ、敗退。』


室内であるにも関わらず、九条の声が鳴り響いた。

この中にも、カメラやスピーカーが設置されているのだろう。


「相原さん…。」


ほっと息をつく蓮司の耳に、内村の声が聞こえてきた。

内村はまだぐるぐる巻きにされたまま、よろよろと七菜のもとへと歩いていく。


「ごめんなさい、相原さん。僕は、相原さんを守れませんでした…。」


内村は七菜の前に跪くと、がっくりとうなだれる。

その姿に、七菜は優しく微笑みながら声をかけた。


「ううん。内村くんは、頑張ってくれたよ。」

「でも、でも、相原さんのおっぱいが…。」


内村は、まだ晒されたままのおっぱいを見ながらつぶやく。

七菜は少し恥ずかしそうに体を揺すりながら、その手で、内村の頭を撫でた。


「まあ、減るものじゃないから。大丈夫だよ。」


蓮司はその様子を見て、何だかいたたまれない気持ちになった。

自分たちと一緒で、内村もまた、大好きな七菜のことを守りたかったのだろう。

それでも、蓮司たちが生き残るには、相手の水着を剥ぎ取るしかない。

このゲームは、そういうルールなのだから。


*******************************************************


『次の禁止エリアを発表する。禁止エリアは、ファンタジーエリアだ。すぐに移動したまえ。』


九条のアナウンスを聞いて、蓮司たち一行は立ち上がった。

内村と七菜が退場した後、しばらくアトラクションの中に隠れていたのだが、ここも禁止エリアになってしまうようだ。


「しょうがない。さっきのカントリーエリアに戻るか。」


これで5個目の禁止エリアとなるので、残るは3つのエリアしか残っていない。

移動範囲が絞られれば敵との遭遇率も上がるだろうが、一体あとどれくらいのペアが残っているのだろうか。


「いらないものは、ここに置いていきましょう。」


美咲の提案で、蓮司と小田切は武器を並べてみる。

蓮司は傘と植木バサミ、小田切はマジックハンドのほか、鉤縄、撒菱、ゴルフクラブを取り出し、最後に内村の持っていたハンディタイプの掃除機とロープの束を床に置く。


「正直、俺のはあんまり使えないんだよな。」


小田切はマジックハンド以外の3つ武器を見ながら言った。

確かに、どれも癖が強くて扱いにくそうではある。


「傘とマジックハンドは要るとして、撒菱は嵩張らないから持っていこう。あとは、植木バサミと掃除機のどっちかかな?」


話し合いの結果、結局最後は植木バサミを持っていくことにした。

掃除機はバッテリー式なので、途中で使えなくなる恐れがあるからだ。

内村のように室内に籠城すれば電源も確保できるが、これからはそうもいかない。


「よし、じゃあ出発しよう。」


外に出ると、少しは暑さも和らいで歩きやすくなっていた。

陽気な音楽が流れる中、しばらくの間、一行は来た道を辿るようにして進んでいく。


「ん?」


小田切が前方を見ながら声を上げた。

蓮司もそちらを注視し、少し先に誰かがいることを確認する。

しかし、妙なのだ。

その人影は、ひとりしかいない。


「あれは…。」


近づくにつれて、その人物の姿がよく見えるようになる。

低い身長、小太りに突き出たお腹、そして、ボコボコに抉れた不細工な顔立ち。

――根田である。


「立花…!」


向こうもこちらに気が付くと、一気に顔が曇った。

蓮司も傘を持つ手に力が入る。

互いに、ミステリーおっぱいゲームであったことを思い出しているのだ。

根田が余計なことをしなければ、蓮司が美咲のおっぱいを揉み、傷つけることもなかった。

もう仲直りしたとはいえ、簡単に許せる相手ではない。

根田も根田で、野望を打ち砕かれたり、飛び蹴りを喰らって失神したりするなど酷い目にあっているので、穏やかではないだろう。


「立花ぁ! この間の恨みを晴らすぜ!」

「こっちのセリフだ!!」


ふたりは叫ぶと、武器を構えて走り始めた。

相手の武器は、おそらく釣竿のようなものだった。


しかし、数歩も進んでいない段階で、異変に気がついた。

蓮司の頭上、大きな木の枝のところに、誰かが座っているのだ。


「えい!」


真上にいる佐々木くるみが、何かを投げた。

それは空中で広がり、蓮司たち一行をすっぽりと覆うほど大きくなる。


「うわ、何だ!?」


それは、大きなネットのようなものだった。

さながら漁で捕えられた魚のように、網は蓮司たちの上に落ち、身動きがとれなくなってしまう。


「よし! かかったな!」


根田が嬉しそうに手をこまねいた。

くるみがさっと木から降りてその横に並ぶ。

彼女はチェック柄のビキニを身につけていたが、その大きな胸は到底収まりきるはずもなく、上下左右から溢れんばかりにはみ出していた。


「なんなのよ、これ。」


美咲が網から出ようともがいているが、端には重りのようなものがついており、簡単には持ち上がらないようになっている。

そして、蓮司は彼女の胸元に、何かが光るのを見つけた。


「…! 古川さん、胸!」


美咲が自分の体を確認し、あっと声をあげる。

彼女のおっぱいを覆うブラのカップには金属の針のようなものが刺さっており、網の動きに合わせてその布地を引っ張っていた。

よく見ると、他にも水着の至るところに針が刺さっている。


「へへへ、どうだ。俺様特製の、釣り針トラップだ!」


根田はそう言うと、網を掴んで思い切り横に引っ張った。

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