第44話 最後のエリア★

「うわ!」

「きゃああ!」


網に引っ張られ、蓮司たちの体は横に大きく動かされる。

網自体は細い縄で出来ているのだが、網目が細かいのでなかなか抜け出すことができない。

先ほど気がついた美咲の胸の針は、ブラジャーを大きく引っ張るようになり、ほんの少しだけカップが上の方にずれ始めている。


「ほらほら〜。気をつけないと、水着がズレてポロリしちゃうよ〜!」


根田が欲望を剥き出しにして声を上げる。

横のくるみは引いた顔をしながら、その様子を見守っていた。


蓮司は、ちょうど目の前にぶら下がってきた針を凝視する。

形はまんま釣り針であるから、おそらく奴が手にしてる釣竿の予備部品を流用しているのだろう。

怪我しないように針は丸くなっているが、それでも薄いビキニの布地を捕えるくらいの鋭さは残っていた。

そんな針が無数に仕掛けられているのだから、たまったものではない。


「やん。これ、とれない…。」


美咲は胸の部分に刺さった針を取ろうとするが、体を動かすと網が動き、他の部分に刺さっている針が引っ張られる始末だ。

なかなか悩ましい状態に、美咲は困った顔をする。


「やだ…。ちょっと、網を動かさないで。」


葵はもっと悲惨だった。

四つん這いの彼女の水着は、首の紐に針が引っかかり、すでにだいぶ引っ張られている。

結び目が解けてしまうのは時間の問題だろう。


どうするのが最善策か。

蓮司が考え始めたのと同時に、場違いな九条の放送が流れてくる。


『諸君、15分が経過した――。』

「どれ、ちょっとイタズラしてやるかな。」


根田はアナウンスを気にすることもなく、美咲の後ろの方へと回り込んだ。

ビキニのパンツに腹が刺さっていることを確認すると、その周辺の網を思い切り持ち上げる。


『次の禁止エリアは――。』

「やん!」


美咲が悲鳴をあげるのと同時に、ビキニのパンツが引っ張られ、そのお尻の溝へと食い込んでいく。

もはや九条の話を聞いている余裕はない。

さながらTバッグのようになった美咲の桃尻を、根田は至近距離から堪能する。


「うほ〜! いい尻だ。額に入れて飾りたいくらいだぜ。」

「あの野郎…!」


歓喜の声をあげる根田を、蓮司は思いっきり睨みつけた。

おそらく、この罠を脱出できれば、貧弱な武器しかない根田を倒すのは容易いだろう。

奴もきっとそれをわかっていて、今この瞬間に女子の痴態を存分に楽しんでいるのだ。

勝ち負けよりも、エロの方を優先しているわけである。


「さて、次は委員長にイタズラしちゃおうっと。」


根田が標的を葵に変えたところで、蓮司はこっそりと動き始めた。

美咲の足元にある武器の入った袋を手繰り寄せると、網を動かさないよう、慎重に中に手を入れる。


「や、やめて!!」


一方の葵は、根田の毒牙に怯えていた。

首の紐にかかった針の部分を、強く引っ張られているからだ。

するすると結び目が緩み、ついに力なく解けてしまう。


「だめぇ!」


葵は片手でブラを抑えるが、それは頼りなく、すでにおっぱいの大部分が見えている。

小田切も必死で葵の方へと匍匐前進しているが、網の中ではうまく進めていないようだった。


「うへへへへ! まずは委員長の"おっぱい"、いただきだぜ!」


根田は器用に網を動かし、葵の背中の紐に針を引っかかると、思い切り手前に引っ張った。

紐がぴんと張り、結び目に力が入る。


「いやあああああ!」


葵が叫び、根田が下品に舌を出す。

そしてーーその不細工な顔面を、蓮司が思い切り蹴り飛ばした。


「ぐほぉ!」


根田が錐揉み回転をしながら飛んでいき、頭から地面に落下する。

立ち上がった蓮司の手には、武器のひとつの植木ハサミが握られていた。

とりあえず自分のまわりだけ網を切り取ることで、難なく脱出することができたのだ。


「手間取らせやがって、この変態クソ野郎!」


蓮司は傘を拾うと、根田の股間めがけて思い切り振り下ろした。

急所にクリティカルヒットをした根田は、あまりの痛みに地面を転げ回る。


「ぎゃあああああ!!」


根田を成敗した蓮司は、パートナーのくるみのほうへと向き直った。

しかし、彼女は観念したのか、手で胸を隠すのみで逃げようとはしない。


「ほんと、男子ってどうしてこうなのかしら…。」


ため息混じりに嘆くくるみのビキニの紐を、蓮司は優しく解いていく。


「…ごめん。」


蓮司がそう言うと、くるみはびくっと体を強張らせた。

その顔はみるみる赤く染まっていく。

平静を装っているが、本当はとても恥ずかしいのだろう。

蓮司は彼女の腕の間から布切れになったブラジャーを掴むと、ゆっくりと引き抜いた。


「…んっ。」


くるみが色っぽい声を上げ、ブラと一緒に手もその胸から外れる。


規格外に膨らんだ乳房の先端には、大きな乳輪と、ぴょこんと突き出る乳首が顔を出していた。

それは、普通の乳輪を大きく引き伸ばたかのように色が薄く、まるでおっぱいの頂点がほんのりピンクに色づいているように見える。


あのニプレスの下は、こうなっていたのか。

蓮司はミステリーおっぱいゲームで見たくるみのニプレス姿を想起しながら、じっくりとその乳首を観察する。

大きさは正義、ではないとわかっているが、やはりこの大迫力の乳房と、儚い乳首のコントラストはとてもエッチであった。

果たして、今後の人生でHカップのおっぱいを見る機会が、どれだけあるだろうか。


「はあん…。見られてる…。」


くるみが興奮したようにつぶやくと、呼応するように乳首が尖り出し、その存在感を増していく。

目の前で行われる変化に、蓮司は呆気にとられていた。

興奮で身体が膨張するのは、何も男性の特権ではない。

大きく膨らんだ乳首は刺激を欲するように主張し、ふるふると震えていた。

これが、くるみのおっぱいの真の姿なのだ。


『報告。根田草一、佐々木くるみペアが水着を剝ぎ取られ、敗退。』


負けが確定した瞬間、くるみはばっと手を組み直し、そのバストトップを隠した。

しかし、それ以外の大部分のおっぱいは露出したままである。

顔も紅潮しているが、それは単に恥ずかしいだけでもなさそうな様子だった。


「佐々木さん…。」


復活した根田が、ふらふらとこちらにやって来る。

まさか、根田もくるみを――?

そう思ったが、口をついで出てくる言葉は変態のそれだった。


「やっぱり、佐々木さんのおっぱいは最高だ! 大きさも形も乳首の感じも完璧すぎる! 国宝級だ!」


蓮司はずっこけるが、くるみは意外にも落ち着いて返事をする。


「あのね、根田くん。もう少し慎ましくというか、そう言うこと、あんまり言わない方がいいと思うよ。」


普段から優しいくるみの眉毛も、困ったように垂れ下がっている。


「でないと、女の子みんなに嫌われちゃうよ?」

「佐々木さん。俺は、エロスのためなら女の子全員を敵に回したって構わない。誰であろうと、エロスの探求を邪魔する奴はみんな倒してやる。」

「…よくわかんないよぉ。」


くるみが困ったようにため息をついた。

珍妙なやりとりに笑ってしまいそうになるが、くるみも愛想を尽かしているわけでもないし、意外と良いコンビなのかもしれない。


「おーい! そろそろこっちも助けてくれー!」


小田切が向こうから呼ぶ声が聞こえてくる。

そう言えば、味方の3人はまだ網の中にいるのだった。


蓮司は植木バサミを拾い上げると、仲間たちの救出へと向かった。


*******************************************************


「これで、よし。」


美咲の水着についた最後の針を外して、蓮司はつぶやいた。

根田のトラップからは何とか抜け出すことができたが、その被害は少し残っていた。

美咲のブラに突き刺さっていた針は、その布地を切り裂き、小さな穴を開けてしまっている。

穴は大きくはないものの、奥の肌が見える程度には開いてしまっているので、あと数ミリ位置がずれていたら美咲のバストトップに到達していたかもしれなかった。


葵はポロリ寸前の状態で救出されたので、美咲にビキニを結んでもらうことになった。

必死で胸を隠す彼女の腕から、微かに乳輪がはみ出しているのが見え、蓮司は慌てて目を逸らす。

あのトラップも、うまく運用されていたらもっと危険だっただろう。


それにしても――。

女子たちを待つ間、蓮司は少しだけ妄想してみる。

このゲームではたくさんのおっぱいを目撃してきたが、その乳首はどれも異なるものだった。

オーソドックスなベージュ色の香織の乳首、乳輪が小さく突き出すような彩芽の乳首、幼くて可愛い七菜の乳首、そして、大きな乳輪をしたくるみの乳首。

どれも甲乙つけ難い。

どのおっぱいが相手でも、蓮司は極限まで興奮できる自信があった。

そうなると、果たして美咲と葵の乳首は、どんな感じなのだろうか。

守ると決めた相手だが、男としてはやはり少しだけ、気になるのだった。


「ごめん、お待たせ。」


美咲に声をかけられ、蓮司は思考を中断した。

おっぱいを見ないように気をつけながら、全員の方へと向き直る。


「それで、これからどうしようか?」


4人とも、うーんと考え込んでしまった。

先ほどの戦闘中に、九条が禁止エリアのアナウンスをしていたのは覚えている。

ただ、肝心のどこが禁止になったのかは聞きそびれてしまったのだ。

今この場に残ってて良いのかすら、わからなくなっている。


「とりあえず、キャッスルエリアに移動しよう。」


小田切が提案する。


「なんでだよ?」

「たぶん、最後に残るのはこのエリアだと思うんだ。このエリアだけ、他のエリア全部と繋がってるし。」


確かに、中心にあるキャッスルエリアであれば、禁止エリアのせいで辿り着けない、ということもない。


「それに、最後の戦いは城でやるって、相場が決まってるだろ?」


ニヤッと笑う小田切に、蓮司は苦笑する。

最後の戦い。

いよいよこのゲームも最終局面なのだ。


「わかった、キャッスルエリアに向かおう。あとは、誰が相手でも迎え撃つだけさ。」


蓮司がそう言うと、一行はテーマパークの中心に向かって歩き始めた。


*******************************************************


そのお城は、近くで見るとなかなかの迫力だった。

正面の広場に立ちながら、蓮司はその姿をよく見てみる。

その意匠は誰もが思い描く西洋の城そのもので、それでいてどこかノスタルジーすら感じさせるものだった。


蓮司たちのいる広場の左右から階段が伸びていて、城の中へと続いている。

ここが有名なお姫様が、ガラスの靴を忘れたところであろう。

階段の中央には大勢が集まれそうな広さの踊り場があるのも見えた。


「すごいね…!」


美咲が小さく感想を述べた。

蓮司は頷くと、その階段を登っていく。

今まで敵らしい姿は確認できなかったので、誰かいるとしたら、きっとこの中であった。


城の1階はオープンスペースになっていて、向こう側に通り抜けできるようになっていた。

その一番奥に、背の高いふたり組が立っているのが見えた。


「やあ、よく来たね。でもなんで4人なのかな?」


そう言ったのは、長身に引き締まった体、チャラついた長髪に顔だけは良い男――千葉大樹だ。


「…たぶん、チームを組んでるんでしょ。ルールでは禁止されていないし。」


答えたのはパートナーの楠本茉莉だ。

蓮司はその姿を見た瞬間、視界全体がまばゆい光に包まれるのを感じた。


――美しい。

茉莉はルールどおり、赤いビキニだけを身につけていた。

クラスNo.1、いや日本No.1といっても過言ではない国民的美少女アイドルの水着姿など、どれだけのファンが見ることを望んでいるだろうか。

そのスタイルも完璧な顔立ちに負けないくらい抜群で、(あまり大きな声では言えないが、)美咲よりもさらに大きなおっぱいに、心配になる程細いウエスト、女性らしい腰回りと長い足は、絵に描いたようなモデル体型である。


「なるほどね〜。あいつら、仲良いしな。」


ケラケラと笑う千葉の手には、このお城にぴったりな、西洋の剣の模造品が握られている。


「ずいぶんふざけたおもちゃだな。」

「かっこいいだろ? 王者の剣って感じでさ。」


小田切が揶揄すると、千葉は自慢げに剣をかざしてこちらに見せる。

しかし、蓮司の目はそれを握る手の方に注目していた。


「…! その手袋が支給された武器だな。」

「そうだよ。おかげでたくさん"おっぱい"を触れらせてもらってるよ。」


蓮司の質問に、千葉が嬉しそうに答えた。

奴の両手には、手首のあたりまで真っ白な手袋がはめられている。

空いた左手で何かを揉むように指を動かす様子を見て、横の美咲がひっと息を飲んだ。


おそらく、千葉は水着を剥ぎ取るついでに女子の体を触りまくっているのだろう。

ルールによれば、男子は女子に触れてはいけないし、武器を使ってしか水着の剥ぎ取りはできない。

それは裏を返せば、武器を介してならいくらでも触って良いということだ。

手袋をした手で無抵抗の女子の体を弄り、おっぱいを揉みしだいた上で水着を剥ぎ取る。

なんてうらやま…じゃなくて下劣な奴なんだ。


「じゃあ、ちゃっちゃと始めようよ。たぶん僕らで最後だしさ。」

「何だって!?」


驚く蓮司に、千葉は愉快そうに答える。


「だって、このエリアの敵は、全員倒してしまったもの。ずっと暇してたんだ。」


なんということだ。

千葉はこのゲームにおいても無敵の強さを誇っているらしい。


「奴の言っていることは本当だ。」


横から、聞き馴染みのある低い女性の声が聞こえてきた。

振り向くと、城の扉が開き、中からビキニ姿の九条が現れる。

そしてその後ろには、なぜか脱落したクラスメイトたちが、水着姿のままで並んでいた。


「な、なんですか?」

「実は、お前たちが最後の生き残りなのでな。せっかくだから、みんなで勝負の行方を見届けようと思ったのだ。」


どや顔の九条に、蓮司は卒倒しそうになった。

本当に余計なことしかしない女だ。

こんな大勢の前で戦って、万一負けでもしたら、美咲のおっぱいがクラス全員に晒されてしまう。

しかも相手は最強な男なのだ。

何もかも、蓮司にとっては都合が悪い。


「な、なあ千葉! もう戦うのはやめにしないか?」

「え?」


蓮司はやけくそで千葉に停戦を申し出る。


「ほら、ポイント的に千葉が優勝で間違いないだろ。だったら、無駄に戦う必要なんてないじゃないか。」

「…。」


蓮司の提案に、千葉は不機嫌そうに首を傾げる。


「八百長しろってこと? 嫌いなんだよね、そういうの。」


聞く耳を持たない千葉は手にした剣をこちらに突きつける。

そして、意地の悪い笑みを浮かべながら、こう付け足した。


「それに、まだ古川さんと小鳥遊さんのおっぱいを見てないしね…!」


だめだ、この男はもうおっぱいの魔力に飲まれている。

目の前に女の子がいたら、そのブラジャーを剥ぎ取らずにはいられないのだろう。

そうなると、パートナーの茉莉を説得するしかない。

美咲も同じことを考えたのか、蓮司より先に友人の名を叫んだ。


「茉莉!」

「美咲、葵…。」


茉莉も落ち着いた声でふたりの名を呼んだ。

ゲームに消極的な彼女なら、停戦の誘いにも応じるはず…。

しかし、その望みはあっさりと打ち砕かれた。


「ふたりに恨みはないけど、私もアイドルとして、こんなところで裸を晒すわけにはいかないの!」


茉莉の顔は真剣そのものだった。

はじめてゲームにやる気な彼女を見た蓮司は、その覇気に戦慄する。

きっと茉莉も、暴走する千葉をコントロールすることができないのだろう。

どうせ戦いになるなら、茉莉も本気でやるという、諦めの境地のような覚悟を決めているのだ。


九条が手元の時計を確認し、蓮司たちに声をかける。


「たった今、トゥモローエリアが禁止エリアとなった。残るはこのキャッスルエリアのみ。最後の15分、思う存分水着を剥ぎ取るのだ!」


九条の激励とともに、千葉がこちらに向かって飛び出した。

少し遅れて茉莉もその後に続く。


「くそ…!」

「蓮司、やるしかないぞ!」


小田切がマジックハンドを引き抜いた。

蓮司も傘を刀のように構える。


あと15分、奴の攻撃に耐えられれば、美咲を守ることができる。

最後の戦いだ。


「「うおおおおおお!」」


蓮司と小田切は、雄叫びをあげながら千葉と対峙した。

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