第36話 作戦と覚悟★

『あー、あー。報告。川田章吾・宮田百合ペアが水着を剝ぎ取られ、敗退。』


頭上のスピーカーから流れてくる九条のアナウンスに、蓮司は少し眉をあげた。

このゲームで初の敗退者だ。

つまり、百合はその胸を相手に晒したということである。

一体どんなおっぱいだったのだろうか――。

美咲もその姿を想像したのか、少し顔をしかめている。


クラスメイトにおっぱいを晒すなんて、流石に同情の気持ちが湧き上がってくるが、油断すれば自分たちもそうなるわけなので、気を抜くことはできない。


「さて、何か使えそうなものはないかな。」


蓮司はそう言うと、キョロキョロとあたりを見回す。

ふたりは今、テーマパークのお土産屋さんの中にいた。

ここならうまく隠れられるし、何か有益なアイテムが見つかるかもしれなかった。

ふたりはカラフルに彩られた商品棚を物色してみる。


「本当に服は何もないのね。」


美咲の視線の先には、おそらくTシャツなどが売っていたであろう空のスペースがあった。

大した徹底ぶりである、と思ったら、カウボーイが被るような帽子だけは残されていた。

基準に首を傾げながらも、とりあえず蓮司は手に取り、美咲の頭に被せる。


「わ!」

「あ、ごめん。似合うかと思って。」


蓮司の言葉に、美咲は少しだけ頬を染めた。

よくよく考えると、美咲とふたりでテーマパークに来ていると思えば、案外悪くない時間である。

しかし、互いに水着姿というのはやはり異様な光景であった。


蓮司は改めて美咲の体を眺めてみる。

ビキニの面積はかなり小さく、その真っ白な色も相まって下着のようにも見えていた。

こんな裸同然の格好で泳ぐ想定なわけだから、女の子の露出の基準はよくわからないものである。


ジロリと目線を動かしながら、蓮司は美咲のおっぱいも凝視した。

彼女の人並み以上に大きな胸は小さな布地には収まりきらず、上下左右に柔らかそうな膨らみがはみ出している。

下半身もパンツにしか見えない小さな布地から、色っぽい太ももが惜しげもなく公開されていた。


「あとは、武器になるものを探さなきゃね。」


美咲は帽子を気に入ったのか、被ったままで店の奥へと進んでいく。


「それにしても、武器を使ってビキニの紐を解くなんて、本当にできるのかしら。」

「それは俺も不思議だった。でもさっきの内村を見てちょっとわかった気がする。」


蓮司の言葉に、美咲が首を傾げる。


「たぶん、武器にも色んなタイプがあると思うんだ。例えば俺の傘。これはきっと、直接紐を解くのに使うんだと思う。」


蓮司はそう言うと、傘を上下逆さまに持ってみる。

本来の持ち手のU字にカーブした部分で、蝶々結びの輪っかに引っ掛けるイメージだ。


「内村が持ってたロープは、たぶん間接的に使うんだと思う。あいつがやったみたいに、罠に嵌めて、その隙に紐を解くんだ。」


彼らが持っていたロープはまだ沢山あったから、きっと色んなところに罠を張るのだろう。


「まあ、どっちも難しいけどね。直接解くには的が小さすぎるし、間接的に罠に嵌めても素手では解けないから、何か他に武器がいる。」

「当たり前です。女の子のおっぱいが簡単に見れると思ったら、大間違いよ。」


美咲は口を尖らせると、蓮司に向かってべーっと舌を突き出した。

慌てる蓮司の様子を見て、すぐ楽しそうに微笑む。


「あとは、体に身に着けるタイプの武器だ。内村は即席でロープを手に巻いていたけど、もし手袋みたいな武器があったら、たぶんそれが最強だ。」


結局武器では思うように水着を剥ぎ取れない以上、極力素手に近い動きができるのが一番である。

店内に衣類がないのも、おそらくそれを見越してであろう。


ふたりはその後も店内を探索したが、結局水着を剥ぎ取るのに役立ちそうなものはなかった。(あたりまえである。)

仕方なく、最初に選んだ帽子と、地図にメモするためのペンを拝借して店を出る。

そのとき、頭上から九条のアナウンスが鳴り響いた。


『諸君、15分が経過した。禁止エリアを発表する。禁止エリアは、バザールエリアだ。』


妙な心当たりを感じ、蓮司と美咲は顔を見合わせた。

慌てて地図を見ると、スタート地点のキャッスルエリアから南下して、今いるのがまさにバザールエリアだった。

あまり移動したくはないのだが、こうなっては仕方ない。


「あっちのほう、行ってみるか。」


行く宛もない蓮司たちは、とりあえず隣のアドベンチャーエリアへと向かった。

一気に街並みが代わり、道の脇には南国のような建物が立ち並んでいる。

さらにいくと横に大きな川が現れ、周囲には熱帯雨林が生い茂っていた。

そのエリア名に違わぬ、冒険心をくすぐられる場所である。


蓮司は注意深く周囲を見回した。

移動するということは、すなわち敵と遭遇しやすくなるということだ。

手負いの美咲は極力戦闘を避ける必要がある。

しかし、そう思っていた矢先、少し向こうに人影があるのを見つけた。


「古川さん――。」


隠れて、と言おうとしたまさにその瞬間、向こうもこちらに気がついたようだった。

あっ、っと驚いた顔をしたあと、わき目も振らずにこちらにやってくる。


「くそっ!」


近づいてくる相手のペアを見て、蓮司は悪態をついた。

傘を構えると、美咲を守るように前に立つ。


「立花じゃないか。4位だからって、調子に乗るなよ!」


相手の男子生徒は、シンプルな作りの刺股を持っていた。

あの形だと直接水着を剥ぎ取ることも、身動きできなくすることもできるだろう。

リーチが長いのが厄介だな、と蓮司は槍のように構える姿を見て思った。


男子の隣にいるのは、クラスで一番のギャルの藤崎香織だ。

黒いビキニは彼女の雰囲気にもよく似合っている。

派手目な顔の下で、ぽよんぽよんと揺れるCカップのおっぱいを、蓮司はチラリと目で追った。


「立花くん!」

「古川さん、俺のそばにいて!」


叫びながら蓮司は思考を巡らせる。

今の状況は、かなり厳しいものだった。

先のスカートめくりゲームのように、先手必勝、剥ぎ取られる前に剥ぎ取ることも考えたのだが、それは美咲が一定時間逃げられる前提だ。

足を怪我した美咲ではおそらく、あっという間にブラを剥ぎ取られてしまうだろう。

そうなると、別の戦い方にするしかない。


「いくぞ! 覚悟しろ!」


男子生徒が突き出した刺股を、蓮司は避けることなく待ち受けた。

少ない腹筋に力を込め、衝撃に備える。

刺股は蓮司の腹部に直撃し、くぼみにすっぽりと収まるような格好になった。


「よ…し…!」

「な、なにっ!」


相手の男子が驚きの声を上げる。

蓮司はあえて攻撃を食らった代わりに、その両手で刺股をがっちり掴んでいた。


「お返しだ!!」


蓮司は体を横に倒し、思い切り体重をかける。

重さが刺股を通して相手に伝わり、遠心力も相まってその場でよろけ始めた。

その隙を、蓮司は見逃さない。


「せい!」


蓮司は刺股から抜けると、美咲の位置を確認し、思い切って前に駆け出す。

一気に距離を詰め、相手が体勢を立て直す前にその懐へと飛び込んだ。


「うわあ!」


相手は慌てて刺股を振るが、その前に蓮司が肉薄する。

この手の長物と戦うには、間合いを詰めるのがセオリーだ。

小田切とよくアクションゲームをやっていたので、そうした戦いの知識はそれなりにあった。


「くらえ!」


蓮司は手にした傘で、思いっきり相手の手首を引っ叩いた。


「痛いっ!!」


たまらず手を離し、地面に落ちた刺股を蓮司が素早く拾う。


「古川さん!」


蓮司はそのまま振り返ると、少し後ろにいる美咲に向かってそれを投げた。

美咲が両手でキャッチをし、困ったようにあたりを見回す。


「えい!」


美咲は脇を流れる川を見つけると、そこに向かって刺股を投げ捨てた。

槍投げのように飛ぶそれは、綺麗な放物線を描き、ぽちゃんと音を立てて水に落ちる。


「ああ! 何するんだ!」


男子生徒が慌てて川岸まで行くが、すでに刺股は見えなくなるほど沈んでいた。

その様子を確認し、蓮司は標的を香織に切り替える。


そう、蓮司たちの作戦は、相手の武器を完全に無力化し、そのあとに水着を剥ぎ取るというものだった。

蓮司が女子生徒を狙えば、どうしても美咲に隙ができる。

なのでその前に、相手の武器を使えない状態にするのだ。

ルール上、武器がなければ美咲の水着を剥ぎ取ることはできない。

その状態を作り出してから、相手の水着を剥ぎ取りに行くのだ。


しかしそれは、蓮司が男子生徒との一騎打ちに勝つことが条件だった。

万一負ければ、それはすなわち、逃げられない美咲の水着を剝ぎ取られることと同義である。

蓮司は背水の陣で戦う覚悟を決めたのだ。


「うおおおお!」


蓮司は雄叫びをあげながら、香織に向かって走り出した。

彼女はその派手な髪を揺らしながら、必死で逃げようとする。

ぷりぷりしたお尻が揺れ、少しずつビキニのパンツが食い込んでいくような気がする。

追いついた蓮司は、軽く傘を振り、香織の膝の下のあたりを優しく小突いた。


「いやん。」


香織が可愛い悲鳴をあげてよろける。

その隙に、蓮司は傘を逆さに持ち替え、狙いを定めて突き出した。


傘は香織の頭の後ろに伸びていき、ぶつかる直前に踵を返すように後ろに戻っていく。

そのとき、U字にカーブした持ち手が蝶々結びをしたビキニの紐の、輪っかにかかるように微調整を行う。

ちょうど輪の真ん中に入ったのを確認した蓮司は、思いっきり傘を手前に引っ張った。


「いけええええ!!」


するり、と紐が解ける感覚が傘を通じて手に届き、同時に香織の頸が露わになった。

うまく結び目を解くことができたらしい。

香織は膝をつき、両手で落下するブラを必死に支えていた。

その背中は、がら空きである。


「もらった!」


蓮司はそう言うと、動かない香織の背中の結び目も解いた。

これで勝った――! と思ったのだが、九条のアナウンスは流れない。


『まさか…。』


蓮司は香織の体の正面に移動する。

ビキニのブラは、結び目を解かれてもなお、彼女の手によっておっぱいを守護していた。

蓮司はごくりとつばを飲み込んだ後、かろうじて残ったカップの間に傘を引っかけて、思い切り引っ張る。


「ああ! だめ!!」


香織がブラを抑える手を強めるが、男子の力には及ばず、じりじりと乳房から離れていく。

そう、このゲームは水着を"剝ぎ取る"必要があるのだ。

結び目を解くだけでは、足りない。


「あ、ああ、あああ…!」


敵わないことを悟ったのか、香織が悲痛な声を上げた。

それでも蓮司はブラを引く手を緩めない。


ついにそのカップの大部分が持ち上がり――するりと指の隙間からブラが剥ぎ取られた。


「い、いやああああああああん!!」


香織の絶叫とともに、おっぱいが蓮司の目の前に晒された。

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