第33話 第三のゲーム
軽快な音楽が響くホテルの中を、蓮司たち1年B組の生徒たちはぞろぞろと進んでいた。
どうやらここはテーマパークに隣接するリゾートホテルらしい。
室内はおとぎ話にあるような可愛らしい設えが施され、至るところに鼠を模したキャラクターの姿が描かれている。
先導する黒服が扉を開けると、そこには大広間のような空間が広がっており、その正面に九条が立っているのが見えた。
何やら大きなマントを身に纏い、てるてる坊主のように首から下を覆っている。
「さあ、入りたまえ。ルール説明を行う。」
九条に促され、蓮司たちは広間に置かれた椅子に腰掛ける。
席順はいつもの教室と同じようだ。
座る瞬間、隣の席に来た美咲と一瞬だけ目が合うが、すぐにぷいっと逸らされてしまった。
「では、お待ちかねの第三のゲームだ。」
大きなスクリーンの前で、九条はまるでプレゼンテーションを行うかのように仰々しく話し始める。
投影された画面には、極彩色の背景にバランス悪いほど大きな文字で、ルールが書き連ねられていた。
■ルール①:男子生徒はショートパンツタイプの水着、女子生徒はビキニタイプの水着を身に着けてゲームに参加する。水着の下に他の衣類や、二プレスを身に着けることは禁止。
■ルール②:男女2人1組でペアとなり、他のペアのビキニのブラジャーを剥ぎ取ることができれば、2ポイントを獲得する。
■ルール③:ブラジャーを剝ぎ取られたペアは即時敗退。そのゲーム内で獲得したポイントも没収される。
■ルール④:制限時間内に最も多くのポイントを獲得したペアの勝利。これまでの獲得ポイントと合計し、優勝者を決定する。
名前から推定されるとおりの内容ではある。
しかし、本気でこんなことを生徒たちにやらせるつもりなのだろうか。
ブラジャーの下に何も身に着けられないということは、つまり、本当に"おっぱい"が開陳されてしまうわけだ。
誰もが思い思いに話始め、ホールの中にはざわざわと声が響き渡る。
「静粛に。まだルール説明の途中だぞ。」
九条はコツコツと足を響かせ、大きく手を広げる。
さながらIT企業のCEOにでもなったかのようにどや顔する姿に、もはや諦めの感情しか湧いてこない。
すぐに画面が切り替わり、追加のルールが表示された。
■ルール⑤:男子生徒は、相手の女子生徒の体に触れてはいけない。ビキニのブラジャーの剝ぎ取りは、ランダムで支給された武器を使ってのみ行うことができる。
■ルール⑥:敗退した女子生徒への追撃は厳禁。即時敗退となる。
■ルール⑦:ゲーム中に活動できるエリアは8つに分類される。15分が経つごとに1つのエリアが使用禁止エリアとなる。最後のエリアが使用禁止となった場合、そこでゲームは終了となる。
■ルール⑧:ペアになったふたりは、10m以上離れてはいけない。10m以上離れた場合は即時敗退となる。
蓮司は顎に手を当て、少しの間考え込んだ。
要は先日のスカートめくりゲームに近いルールなわけである。
こうなるとやはり何の武器が支給されるかが重要であるが、おそらくそれははじまるまでわからないのだろう。
それに、7つのエリアとはどういうことだろうか。
疑問に答えるかのように、正面のスクリーンが切り替わり、テーマパークの地図のような画像が表示される。
「各エリアには様々な建物が配置されている。どこで戦い、どこに身を隠くすかも戦略のひとつとして考えなければならないのだ。」
九条の解説を聞きながら、蓮司はじっくりと地図を眺めてみる。
有名なテーマパークらしいのだが、蓮司はこれまで一度も行ったことがなかった。
どうやら真ん中のお城を起点に、円形にエリアが配置されているらしいが、中がどんな様子なのかは見当もつかなかった。
「そうだ、今の順位も説明しておこう。」
九条が手を叩くと、画面がまた切り替わり、順位表が投影される。
■順位表
1位 千葉・楠本ペア:11ポイント
~~
4位 立花・古川ペア:4ポイント
「ま、ざっとこんなところだ。今回は獲得ポイントがこれまでの倍の2ポイントになるから、下位のペアも諦めるんじゃないぞ。」
各自が自分の立ち位置を確認し、歓喜の声を上げたり落胆したりしている。
やはり1位はダントツで千葉と茉莉のペアだった。
何が千葉をここまで強くしているのか、蓮司にはまだわからなかった。
そして、自分たちは4位という何とも言えない順位であった。
いくらポイントが倍とはいえ、それは他のペアも同じなので、ここから優勝を狙うのは相当大変だと思われた。
「さて、何か質問がある者はいるか? 何でも聞いてくれ。」
珍しく、九条は質問に応じるつもりらしい。
これが最後のゲームになるからだろうか、いつもより随分と親切に説明をしている。
すぐに何人かの手が上がり、九条が順番に指していく。
「今回はボーナスペアはないんすか?」
前の方の席から、小田切が気だるそうに問いかけた。
奴はまだ0ポイントなので、少しでも稼ぎたいのだろう。
「そうだな。せっかくだから用意しよう。ボーナスペアは3倍の6ポイントだ。」
あっさりルールを追加する様子に、ため息しか出てこない。
自分たちはずっと、彼女の掌でおどらされているのだ。
「あ、あの、ビキニって、どんな感じなんですか…?」
隣の葵も恐る恐る質問する。女子たちが身につける水着がどんなものか、確かに蓮司も気になっていた。
「よくぞ聞いてくれた。女子諸君には、これを着てもらう!」
九条は待ってましたと言わんばかりに頷くと、右手で身につけているマントを掴み、一気に脱ぎ去った。
現れた彼女の体を見て、1年B組の誰もが目を丸くして驚いた。
九条の体の大部分は何を身につけておらず、小さな布地のビキニが、かろうじて胸と股間を覆っているだけだった。
今どきグラビアアイドルだってこんなビキニは着ないだろう。
上下とも三角形の布に紐がついているだけのシンプルなデザインで、それぞれ首の後ろと背中、両のふとももの付け根に頼りなく結ばれている。
男子の歓声と女子の悲鳴が響き渡り、ホールの中は騒然となる。
「ポイントはここだ。水着を留めているのはこの結び目だけ。蝶々結び以外は禁止とするから、男子諸君はここを狙ってくれたまえ。」
九条はわざわざ胸を強調するようなポーズをとりながら、背中の結び目をこちらに見せた。
紐が短いため小さく結ぶことしかできず、僅かな衝撃でも簡単に解けてしまいそうである。
これを、うちのクラスの女子たちが着ることになるのだ。
蓮司の頭の中は、すぐに彼女たちのビキニ姿でいっぱいになる。
そして、その紐を解いていく。
想像上の少女たちのブラジャーが、はらりと落ちていく様を想像した蓮司は、思わず前屈みになった。
男子生徒全員が同じ状態になったことは言うまでもない。
「さて、他に質問があるものはいるか?」
九条が広場全体を見回した。
もう他には誰も手を挙げない、かと思いきや、後ろの席から軽薄な声があがった。
「会長〜! 下の水着も剥ぎ取っていいんですか?」
千葉だ。
間抜けな声もさておき、その内容に蓮司は度肝を抜かれた。
女子たちが軽蔑の眼差しで振り返るが、千葉は全く気づいている様子がない。
「まあ、推奨はしないが…。ルールに抵触しない範囲でなら構わん。」
九条は苦虫を噛み潰したような表情で回答した。
蓮司は頭がくらくらとしてくる。
下の水着って、あのパンツのような形状の小さな布のことだよな。
あれを剝ぎ取ったら、一体、どうなってしまうのか――。
「さあ、他の質問がないようなので、さっそく準備に取りかかろう。男女それぞれ水着に着替えたうえで、テーマパークの所定の位置についてくれ。」
説明が終わると、黒服に誘導されて更衣室へと入る。
しかし、男子も水着になる必要などあるのだろうか。
上半身裸になり、派手なショートパンツ型の水着を身に着けた蓮司は、まじまじと自分の体を眺める。
贅肉も筋肉もない細い体に、膝上くらいまでの水着が全然似合っていない。
さらに足元は運動用のスニーカーなので、なんだか笑ってしまうくらい変な格好である。
着替えが終わると、今度はテーマパークまで案内され、初期位置が記された地図を渡される。
底抜けに明るい音楽が流れる中、蓮司は物珍しそうに周囲を見ながら記された場所へと向かった。
よく見ると、スタッフがすべて九条の黒服たちに入れ替わっており、機械的にこちらに手を振っている。
『ここか…。』
指定された場所は、ちょうどパークの真ん中くらいの場所だった。
創設者と思われる銅像の向こうに大きなお城が見える。
蓮司はそこで、そわそわしながらパートナーの美咲が現れるのを待った。
彼女に何と謝ろうか迷う気持ちと、ビキニ姿が楽しみな気持ちが混ざり合って変な心地がしていた。
ガサッ。
背後から足音が聞こえたので、蓮司は振り返り――そしてその姿に目が眩む。
そこには、美咲が真っ白なビキニを身につけて立っていた。
下着よりも小さな面積しかない布地に、蓮司の目はぐるぐると回る。
しかし、彼女の顔は俯き、こちらのほうを見ようとはしなかった。
「ふ、古川さ――」
「あー、あー。みんなスタート位置についたな。」
蓮司の声を遮るように、スピーカーから九条の声が鳴り響いた。
『これより、水着剥ぎ取りゲームを開始する。諸君の健闘を祈る。』
九条のアナウンスにより、ついに第三のゲームが幕を開けた。
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