第30話 神秘の膨らみ★
「ちくしょう! それなら、僕自身が…!」
根田は立ち上がると、素早く美咲の目の前に躍り出た。
まだ手錠をかけられたままの美咲は、驚いた顔をするが逃げることができない。
「"おっぱい"を、見せろおおおお!!」
根田はそう言うと、乱雑に美咲のブラジャーを掴んだ。
そしてその野太い指で、胸の谷間に輝くフロントホックに手をかける。
「や、やめろおおおおおおお!!」
完全に油断していた蓮司は、根田の行動に反応が遅れてしまった。
一瞬遅れて飛び出すが、間に合わない。
根田の狙いは明白で、自らの手で美咲の"おっぱい"を曝け出すつもりだ。
しかし、もうすでに奴の指には力が入り、ホックが外れかけるプツリという音がする。
「き、きゃあああ!」
美咲が恐怖の叫び声をあげた。
だめだ、あと1秒もしないうちに根田はホックを外し終わるだろう。
そして、美咲の"おっぱい"が衆目に晒される。
もう蓮司には、どうすることもできなかった。
そしてーー。
「この、馬鹿者が!!!」
怒号と共に、プレイルームの扉が音を立てて突き破られた。
直後に何かが目の前に飛んでくるのが見える。
その物体から美しい白い脚が突き出され、根田の醜い顔面を直撃した。
そのすぐ後にはためくスカートが目に入り、蓮司は何者かが飛び蹴りをしていることを認識する。
根田はそのまま後ろに吹き飛ぶと、壁に頭を強打し、そのままへたり込んだ。
そして飛び蹴りをした人物ーー生徒会長の九条が華麗に着地を決めた。
「敗退者への追撃は、禁止だと言っておろう! それにもうゲームは終了したのだ。お前のやっていることは、ただのセクハラだ!!」
怒髪天の九条は根田に叫ぶが、本人に反応はない。
どうやら衝撃で気を失っているらしい。
何だがわからないが、とにかく危機は去ったーーわけではなかった。
今度は美咲が悲鳴をあげる。
「え、あ、ちょっと、きゃああああ!」
視線を戻すと、美咲の体がゆっくりと仰向けになるように動いているが見えた。
九条の飛び蹴りの衝撃で、十字架の台座がバランスを崩したのだろう。
ゆっくりと、美咲の体が後ろへと倒れていく。
そして、その瞬間に外れかけていたブラジャーのフロントホックが、プチンと完全に解かれたのを、蓮司の目が捉えた。
「だ、だめえええええ!」
美咲の声が響き渡る中、蓮司は目の前の光景がスローモーションのように見えていた。
美咲の体がコマ送りのように倒れていき、連動してブラジャーのカップが乳房から離れていく。
徐々にその乖離は大きくなり、彼女の"おっぱい"が着実に露わになっていく。
『まずいーー!』
蓮司は無我夢中で手を伸ばした。
両の手が動かせない美咲に、ブラジャーを抑える術はない。
何とかこの手で、美咲の"おっぱい"がこぼれ落ちるのを防がなくては!
美咲の体が床に近づくにつれ、カップはどんどん浮き上がり、ついにその先端に色づく、桜色の部分が見え始める。
そこからカップは少しだけ動きを止めた。
カップの中にある"何か"が、ぎりぎりで引っかかっているのだ。
だがその猶予も時間の問題だ。
『間に合え!』
美咲の"おっぱい"が完全に飛び出す瞬間、間一髪で蓮司の手が間に合った。
両手でブラジャーごと美咲の"おっぱい"を覆い、そのまま一緒に倒れ込む。
膝が床に打ち付けられて激しく痛んだが、何とか美咲の"おっぱい"は守ることができたのだ。
「いたた…。立花くん、ありがとう。」
美咲は自分に覆い被さるパートナーに向かって礼を言った。
彼のおかげで、自分が愛する人にしか決して見せないと誓った、大切なバストは守られたのだ。
しかし、彼からの返事はない。
すぐに黒服たちが駆けつけ、美咲の両手の拘束を解いた。
ようやく自由の身になった美咲は、痛々しく後のついた手首をさする。
その横で気が動転したくるみと、意識を失った根田が黒服たちによって部屋の外へと運び出される。
「あ、あの、立花くん? もう、大丈夫だから…。」
美咲は再び、石像のように固まったままのパートナー、立花蓮司に声をかけた。
しかしやはり何の反応もないーーと思いきや、不意に彼の手に力が入り、美咲の乳房を揉みしだいた。
「ひ、ひゃあ!」
蓮司には、その悲鳴すらも届いていなかった。
その魂は今、宇宙にいた。
宇宙から、人類がこれまで探究を続けてきた、あらゆる神秘について考えているのだ。
そのきっかけは、両の手のひらに収められた、古川美咲の"おっぱい"だった。
これが"おっぱい"ーー。
単なる柔らかいという言葉では形容しきれない、名状し難い感覚。
その感触は心地よく、この手に接しているだけでも多幸感が湧き上がってくるようだった。
優雅な曲線は手のひらにすっぽりと収まっており、あたかも最初からそこにあったかのような安心感がある。
触るだけでこれほどの感覚を得られる物体が、他にあるだろうか。
蓮司は無意識のうちに、何度もその手に、指に、力をこめる。
"おっぱい"はそれに呼応するように、適度な弾力を持って返事をする。
まるで未知の存在との交信をしているようだ。
これはやめられない。
蓮司は何度も、何度も"おっぱい"を揉みしだく。
神秘の膨らみの前では、人は理性など簡単に吹き飛んでしまうのだ。
ぱちん。
不意に頬に鈍い痛みを感じ、蓮司の思考は途切れた。
何者かに、ビンタをされたようだった。
体を包んでいた浮遊感は無くなり、徐々に目の焦点があってくる。
眼前に広がる光景を見て、蓮司は自分が取り返しのつかないことをしたのを悟った。
「最低。」
美咲は、泣いていた。
大きな瞳いっぱいに涙を溜め、一筋の雫が頬を伝って流れている。
そして嫌悪感に溢れた眼差しが、自分自身に向けられていた。
「ご、ごめん。つい夢中になっちゃって。」
言った瞬間に、失敗したと思った。
咄嗟に正直な気持ちをこぼしてしまったが、何の弁解にもなっていない。
「あの、早くどいてくれませんか。」
美咲の声には怒りが込められていた。
こんな彼女は見たことがない。
怯んだ蓮司は逃げるように後ろに倒れ、無様に尻餅をつく。
美咲は黙ってブラジャーのホックを留めると、傍らにあったTシャツを素早く身につけた。
そして、周囲にあるカメラを忌々しそうに睨みつける。
彼女が"おっぱい"を揉まれている様子も、しっかりカメラで中継されていたはずだ。
「これで私たちの負け、ですね。それじゃあ、もう行きます。」
美咲はまるで見知らぬ人に話すように、淡々と他人行儀で告げた。
頬につたう涙を乱暴に拭いとる。
そして蓮司のほうを見ることもしないまま、すたすたと部屋の外へと出て行った。
蓮司はその後ろ姿を呆然と見つめていた。
これまで向けられたこともなかった、激しい嫌悪感に満ちた美咲の目を思い出す。
完全に、自分は嫌われてしまったようだった。
無理もない。
自分がしたことは、最低の行為だったのだから。
「残念だったな。まあ、あの状況で彼女を守るなら、ああするしかなかっただろう。」
背後からの声に振り返ると、目の前に真っ白いふとももがあった。
いつの間にかすぐ後ろに九条が立っていたのだ。
「ただ、その後は良くなかったな。」
九条も非難めいた視線を蓮司に向ける。
途端に罪悪感が体中を駆け巡り、鳩尾のあたりが鈍く傷んだ。
そう、彼女を敗退させ、ゲームから救い出したところまでは良かった。
それなのに、どうしてこんなことになってまったのか。
「だ、だって。"おっぱい"が、"おっぱい"が、俺の手の中に…。」
蓮司は手を伸ばし、先ほどまでそこにあった美咲の姿を幻視する。
ふっと手に力を入れると、想像上の彼女の表情が醜く歪んだ。
「だから言っただろう、"おっぱい"には魔力があると。お前はそれに飲まれたのだ。」
九条の言うとおり、蓮司は"おっぱい"に囚われて大切なことを見失ってしまった。
美咲よりも大切なことなどないのに、目の前の快楽を優先したのだ。
結果として、もうどうにもならないほどに、彼女との関係は悪化してしまった。
わざわざゲームに負けてまで彼女を守ったことも、完全に無駄になったのだ。
絶望感に打ちひしがれた蓮司は、もう立つ気力すらも湧いてこなかった。
「だが、諦めるのはまだ早いぞ。ゲームのことも、彼女のことも。」
話し始める九条に、蓮司は再び顔をあげた。
「どういうことですか? 俺はもう負けてしまったのだから、どうすることもできないじゃないですか。」
九条は返事をせず、黙って後ろを向いた。
そのまま歩き出しながら、両手を広げる。
「忘れたのか? ゲームは3回ある、と最初に言っただろう。次のゲーム、”水着剥ぎ取りゲーム”で勝てばいい。それだけだ。」
九条は格好つけて振り向きながら、そう言い放った。
衝撃的なゲームの名前に、蓮司は口をあんぐりと開ける。
「み、水着剥ぎ取りゲーム…?」
「そうだ。女子の水着、正確にはビキニを、剥ぎ取るゲームだ。」
この女は、一体何を言っているのだ。
蓮司の知る限り、ビキニとは下着と同程度の布地しかないセクシーな水着のことだ。
それを剥ぎ取るとは、すなわち女子を裸にするのと同じこと。
そんなことを、本気でやろうとしているのか。
「…大切なのは、決して倒れないことではない。倒れるたびに起き上がることだ。」
ふいに九条の口調が変わる。
「孔子の言葉だ。まだゲームは終わっていない。諦めるな、立花蓮司。」
唖然とする蓮司に、九条が穏やかに声をかけた。
その表情も相まって、彼女はまるで蓮司を優しく励ましているようだった。
しかし――。
諦めるなと言われても、第二のゲームに負けたことで、蓮司たちのポイントは第一のゲームで溜めた分しかなくなってしまった。
逆転するには、次のゲームでかなりのポイントを獲得する必要があるだろう。
それに、美咲との関係だって、どう考えても元に戻るとは思えない。
エッチなことが嫌いな彼女が、自分のことを許してくれるはずがなかった。
「さて、私はミステリー"おっぱい"ゲームに戻る。せいぜい頭を冷やすことだ。」
九条はそう言うと、呆然とする蓮司を一人残して、プレイルームの外へと出て行った。
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「いい眺めだな〜。」
千葉は椅子の背もたれに寄りかかり、両手を頭の後ろに回しながらニヤニヤとつぶやいた。
目の前には、上半身にニプレスのみを身につけた相原七菜が、真っ赤な顔をして立ち尽くしている。
「ソフトボール部の王子様にも、ちゃんと"おっぱい"はあるんだね。」
下品な発言に、千葉の隣に座る茉莉は眉を顰める。
友人が辱められる様子を、これ以上見ていられなかったのだ。
「えーと、相原七菜の"おっぱい"はB75!」
千葉の宣言に、七菜はキッと視線を鋭くする。
「あんた、戦術カードを使う前から正解はわかっていたでしょ?」
「うん、まあね。でもほら、見たいじゃん。相原さんのニプレス姿。」
千葉は悪びれる様子もなくケラケラと笑った。
対面に座る内村は、魂が抜けたように半裸の七菜を見つめていた。
「試合終了。ミステリーおっぱいゲームの優勝者は、千葉・楠本ペア。」
九条が無表情で言い放つ。
その言葉を聞いて、千葉はいつまでもケラケラと笑い続けるのだった。
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蓮司が教室に戻ったのは、ゲームが終わってからだいぶ後のことだった。
茫然自失で校内を彷徨っている間に夕方になってしまったのだ。
蓮司は自分の隣の席にある、美咲の席に目を向ける。
彼女はもういなかった。
とっくに下校時間になっているので当たり前である。
ふらふらとしながら、蓮司は机の近くまで行き、右手を置く。
明日の朝一番に謝ろう。
何もかも自分が悪いのだ。
到底許してもらえるわけもないが、せめて謝罪の言葉を伝えたい。
蓮司は、そう強く心に誓う。
しかし、その機会は訪れなかった。
次に九条が教室に現れるまでの数日間、蓮司と美咲は一言も、言葉を交わすことはなかったのだ。
失意のなかで、ついに第三のゲームの日が訪れた。
第3章 ミステリーおっぱいゲーム 終
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