第28話 迫力のおっぱい★

「ひゃあああっ!」


美咲が悲鳴を上げ、両手でブラジャーを抑えつける。

幸いホックは留まったままであるが、それでも彼女からしたら堪らないだろう。


「ツンツンしている間は、手で隠さないでください。」

「は、はい…。」


黒服の無情な宣告に、美咲は再びブラジャーを身につけただけの"おっぱい"を晒す。

しかしその表情はひどく怯えており、今にも泣き出しそうである。


「では残り25秒です。続きをどうぞ。」

「う、うーん。」


くるみは複雑な顔をしながら、再び美咲のブラホックに向かってツンツンする。

先端があたる度にカチカチと音が鳴り、蓮司はいつその金具が弾け飛ぶのかと気が気でなかった。


「あ、ああ…。」


美咲が絶望の声を漏らす。

しかし彼女にできるのは、祈るように目をぎゅっと瞑ることだけだった。


「えい、えい。」

カツン、カツン。


しかし、ホックというのは思ったより頑丈に出来ているらしい。

何度突かれても金具はびくともせず、ふたつのカップをしっかりと繋ぎ止めている。

くるみも段々力を緩め、困ったように根田のほうを見た。


「ふむ、だめか。そしたら…。」


根田はようやく諦めたかと思いきや、またしてもくるみに指示を出す。


「佐々木さん、今度はブラのカップの少し上をツンツンしてくれる?」

「え? うん…。」


くるみは指示どおりに美咲のブラのカップの少し上、弾力のありそうな膨らみに指示棒を突き立てる。

ぽよん、と音が聞こえたと錯覚するほど、柔らかな"おっぱい"が一瞬へこみ、跳ねるように元に戻る。


「このあたりかな…。」


くるみがツンツンする横で、根田は斜め上のほうから美咲の胸元を凝視する。

真剣な顔で目を細めるその様子を見て、蓮司はその狙いに気がついた。


『あいつ、隙間から覗く気だな…。』


根田はおそらく、美咲の"おっぱい"が揺れ動くその瞬間を狙って、カップとの間にできる僅かな隙間から中を見ようとしているのだ。

あまりにも無謀である。


「み、見ないで…。」


それでも美咲は恥ずかしそうに訴える。

確かに、当たりどころにやっては際どいところまで見えそうなほど、カップの隙間が広がっているようだった。

しかし当然、その全てを見通すことなどできない。


「3、2、1、終了です!」

「だめか〜。残念、残念。」


ようやくツンツンタイムが終わり、根田はへらへら笑いながら席へと戻っていく。

美咲は再びうずくまりながら、必死に羞恥に耐えているようだった。

その姿を見て、蓮司は沸々と怒りが湧き上がってくる。

なんだって、美咲がこんな目に遭わないといけないのか。


根田は椅子にふんぞり返りながら、何やら考え事をしている。

宣言するのか、と思いきや、予想外の言葉を審判に投げかけた。


「これって、あえて答えないって選択肢はあるわけ?」


蓮司は一瞬その真意を図りかねるが、すぐに理解する。

奴はできるだけ、ゲームを長引かせようとしているのだ。

それはもちろん、美咲の痴態を存分に堪能するためだ。


「可能ではありますが、その場合ターンが進みませんので何も起きません。」

「そうか~。まあ戦術カードもらわないと意味ないよな。」


がっかりする根田を見て、蓮司ははらわたが煮えくり返る思いがする。

下衆な男め、お前には辛そうにしている美咲の姿が見えないのか。


「うーん、古川美咲の"おっぱい"は、E65!」

「ふ、不正解…。アンダーバストが…上…。」


能天気に宣言する根田に、美咲は弱々しく答えた。

もう彼女は限界だ。

このままでは根田が何をしでかすかわからないし、さっさとこのクソみたいなゲームを終わらせるしかない。


蓮司は立ち上がると、手にした戦術カードを机に叩きつけた。


「俺は! ニプレスカードを使う!!」


その言葉に、くるみの顔から余裕が消え、あっという間に羞恥の色に染まる。


「えー!うそでしょ!?」

「よっしゃあああああ!!」


くるみの悲鳴と、何故がガッツポーズする根田の声が響き渡る。

実はこのニプレスカードは、最初に引き当てた戦術カードだった。

強力なカードだが、まだほとんど絞り込みができていない状態で使っても効果が薄いと思い、温存していたのだ。

それに、美咲の気持ちを汲んでいたところもある。

彼女はきっと、友人がニプレスだけの"おっぱい"を晒すことを良しとはしないだろう。


しかし、これだけ美咲が恥ずかしめられた以上、黙ってやられっぱなしというわけにもいかなかった。


「それでは、佐々木さんはこのニプレスを装着し、10秒間"おっぱい"を見せ――。」

「まだだ! まだ俺の戦術カードは終了してないぜ!」


黒服の言葉を遮りながら、蓮司は2枚目のカードもテーブルに出す。


「俺は、ジャンプカードを使う!!」


蓮司の行動に、部屋にいる誰もが動揺するのを感じた。


「せ、戦術カードの重ねがけだと…!」


根田はこのゲームで初めて震えた声を出す。

戦術カードは任意のタイミングで使用できる。

つまり、同時に使ったって何も問題ないわけだ。


「立花くん、ひどい!」


くるみが非難するが、蓮司の気持ちは変わらない。

美咲を守るためには、誰であっても容赦はできないのだ。


すぐに着替え用の暗幕が運び込まれ、向こうでくるみが物音をたてながら服を脱ぐ。

ほどなくして静かになったかと思うと、ひょこりと端から顔を出してこちらを見始めた。

その顔はすでに真っ赤に染まっている。


「で、できました…。」

「ではこちらにどうぞ。10秒と30秒の間をとって、20秒間ニプレス姿でジャンプしてください。」


くるみは呼びかけられても、なかなかこちらに出てこなかった。

しばらく目をつぶり、何度も逡巡した後、意を決して暗幕の向こうから飛び出してくる。

その姿を見た蓮司は、あまりの光景に度肝を抜かれた。


「いやん、恥ずかしい…。」


くるみはカードの効果どおり、上半身裸になり、その"おっぱい"の先端にニプレスだけを張った状態だった。

まず驚いたのは、その大きさである。

丸々と膨らんだ乳房はくるみの顔よりも大きく、重たげに前へと突き出していた。

大の男の手のひらでも溢れんばかりのボリュームは、まさにHカップの巨乳というのに相応しいものだった。


次に驚愕したのは、その形だ。

くるみの"おっぱい"はその大きさにも関わらず、一切垂れることなくそこに鎮座していた。

ロケット型というのだろうか、ハリと弾力により美しく描かれた曲線が、蓮司の視線を惹きつけて離さない。


そして、その先端。

小さなニプレスによって、大切なバストトップが衆目から隠されていた。

ハート型をしたそのシールは、彼女の"おっぱい"と比べるとひどく小さく見える。

しかもよく見ると、その端から、肌の色とは明らかに色素の違う部分が見え隠れしていた。


「に、乳輪が…。」


根田が思わず口にする。

くるみの規格外の"おっぱい"に比例して、その乳輪も大きく、ハートの形も相まって完全に隠し切ることができていなかった。


「ああん、そんなに見ないで…。」


くるみが色っぽい声を上げ、蓮司はごくりと唾を飲み込んだ。

これは、もう、"おっぱい"を見たと言ってもいいのではないか。

乳首こそ隠れているが、くるみはその"おっぱい"の9割以上を晒して目の前に立っている。

クラスメイトのこんな姿を見るなんて、少し前なら絶対にありえないことだった。


「では、始めます。ジャンプしてください。」

「は、はひぃ…。」


くるみは呂律の回らない返事をして、ゆっくりとその場でジャンプした。

合わせてその巨乳がぶるんぶるんと揺れ動き、元の形に戻っては、またジャンプに合わせて大きく弾む。

その迫力たるや、距離のある蓮司のところにまで空気の振動が伝わってくるような気がするほどだった。


「あん。ふぅ。」


声を上げながら飛び跳ねるくるみの"おっぱい"を、蓮司はじっくり観察する。

次第にふたつの乳房はリズムがずれ始め、ひとつずつ違う動きをするようになった。

"おっぱい"とはこうやって揺れるのか。

またひとつ、賢くなったわけである。

蓮司の頭は"おっぱい"の動きにつられ、上下に揺れ動く。


『ん…? まさか…?』


時間も半分くらい経った頃、蓮司はある異変に気がついた。

それはくるみの"おっぱい"の先端、真っ赤な色をしたハートのニプレスである。

心なしか、当初よりもそれは浮き上がっているように見える。


「ああ、剥がれちゃだめぇ…。」


くるみの言葉で、異変が見間違えでないことを悟る。

なんと、乳首を隠すニプレスが、だんだんと剥がれてきているのだ。

すでに乳輪は先ほどよりも大きくはみ出している。

おそらくは、くるみの乳揺れの遠心力に、弱い粘着力が耐えられなくなっているのだろう。

蓮司はその頂点が露わになる瞬間を、固唾を飲んで見守った。


「3、2、1、終了です!」

「いやぁん!」


あと少しのところでタイムオーバーとなり、くるみの"おっぱい"は両の手のひらに包まれた。

とはいえ、そのほとんどは両手でも収まらず、いやらしくはみ出す乳房がまた魅力的だった。


しかし、なんだかお預けを食らった気分である。

その大部分を拝めたとは言え、やっぱり乳首が見えないと物足りない。

やはり"おっぱい"の中でも、乳首は特別な部分であるようだ。

思えば漫画なんかでも、エッチなシーンでは乳首は謎の光や湯気で隠されている。

それだけ男が追い求め、女の子が見られたくないのが、乳首なのだ。


第1試合ではシルエットでの葵の乳首、第2試合では透けたTシャツ越しに彩芽の乳首を見ることができたが、まだ生で拝めたことはない。

"おっぱい"を見るということは、なかなか険しい道であるようだ。


「では、立花さん、宣言をどうぞ。」


黒服に声をかけられ、蓮司はぽかんと口を開ける。

――すぐに正気に戻り、推理をまとめ始めた。

そうだ、美咲を守るために、このゲームを終わらせるのだ。


蓮司は着替えを済ませ、恥ずかしそうに座るくるみを見た。

先ほどの問答で、彼女がHカップの、85、90、95、100のいずれかであることがわかっている。

今の乳揺れを見る限り、その大きさは高めに言って差し支えないだろう。


「佐々木くるみの"おっぱい"は、H95だ!」


くるみはチラリとこちらを見て、ふいと横を向く。

そして投げやりに答えた。


「不正解! アンダーバストがもっと小さい。」


惜しいところまで来ているが、まだ彼女の"おっぱい"の大きさはわからない。

今ので2択まで絞れてはいるので、次が勝負所だろう。


しかし、それは相手も同じだった。

根田も美咲の"おっぱい"の目安は掴んでいる。

互いに次のターンが、重要な局面であることは明らかだった。


「では、おふたりとも不正解のため、次のターンに進みます。こちらの戦術カードから一枚ずつ引いてください。」


蓮司は残り6枚になった戦術カードを慎重に選んだ。

ゆっくりとその効果を確認しようとしーー、突然発せられた寄声に飛び上がった。


「いやっほううううううううう!!」


根田は立ち上がると、両手を広げて天を仰ぐ。

かと思えば、すぐに何度もガッツポーズをして勝ち誇った顔をする。

異常な喜びように、蓮司は背筋が凍りつく思いがした。

胃がねじ切れそうに痛み、視界に霧がかかったように意識が遠くなる。

まさか。いや、そんなはずはない。

頼む違ってくれ。


「僕の、勝ちだな。」


根田がポトリとテーブルにカードを落とした。

そこには、九条の書いた乱雑な文字で、こう書かれていた。


『ノーブラカード』

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