第27話 巨乳の定義★
プレイルームの中は、豪華なシャンデリアが放つ光によって明るく照らされている。
部屋の中にいる黒服と、生徒たち4人、そして無数にあるカメラがその光を受け、テーブルや床に影を作っていた。
しかしその中でも、向かいに座る佐々木くるみの前には、とりわけ大きな黒い影ができている。
「お、お手柔らかにね。」
くるみはおずおずと蓮司に向って言う。
確かに柔らかそうな"おっぱい"だ――。
くるみの豊満な膨らみから目を離せない蓮司は数秒遅れて正気に戻り、ようやく言葉の意味を理解する。
「こ、こちらこそ。お手柔らかに。」
蓮司はそう返しながら、くるみの横に座る小太りの男、根田のほうをちらりと見た。
不細工な小男はその顔を醜く歪めながら、美咲の胸のあたりを凝視している。
変態クソ野郎とはよく言ったものだ。
ぼこぼこに抉れた顔で、欲望を隠すことすらしないその姿は軽くホラーである。
「それではAブロックの決勝戦を始めます。ルールはこれまでどおりです。ルール違反には厳しく対処しますので、ご留意を。」
黒服の発言に、蓮司は先の彩芽への仕打ちを思い出していた。
スケスケカードを拒否した彼女は体の自由を奪われ、無理やりその効果を執行された。
ルールに従わなければ、運営側も容赦はしないということだ。
「それでははじめます。」
「へへへ。古川さんの"おっぱい"は、どんな大きさなのかな~。」
開始早々、根田が気味の悪い声をあげる。
美咲はびくっと反応し、嫌悪感に満ちた視線で睨みつけるが、根田は動じる様子もない。
「僕の予想だと、たぶん平均よりは大きいと思うんだよね。でもさすがにGとかHではなさそうなんだよな。」
蓮司は思わずその顔面を引っ叩きたくなる衝動に駆られたが、ぐっと堪える。
「余計なことを言ってないで、さっさと推理でもしてろ。」
「いーや、僕はこうやって、古川さんの反応を見てるんだ。これも立派な推理だよ。」
根田は二重になった顎のあたりを撫でながら、何やら頷き始める。
「よし、決めたぞ。古川美咲の"おっぱい"は、F80だ!」
根田の宣言に、美咲が微かに動揺したように体を揺すった。
蓮司にとっても少し予想外ではある。
奴はセオリーどおりのD80ではなく、少し上のFカップ、かつアンダーバストの中央値を最初の宣言に採用した。
それは基本戦略を理解したうえで、美咲の"おっぱい"はDカップ以上にあると踏んだのだろう。
相手もこちらと同じくらい、このゲームに関しては慣れてきているようだった。
「不正解。アンダーバストがもっと小さい。」
「まあ、そう言うよね。カップはどうなのか、気になるなあ。」
根田は相変わらず揺さぶりをかけながら、美咲を舐めるように見つめている。
このまま喋らせていると碌なことがないだろう。
蓮司もさっさと推理をまとめようとし――、困ってしまった。
くるみの"おっぱい"は、言わずと知れた規格外のものだった。
もはや胸に果物でもつけているんじゃないかと思うほど、丸々と膨らんだ乳房は体の前面へと突き出している。
明らかに"巨乳"と言えるものだが、それが何カップであるかというと、まるで見当がつかない。
思えば、これまで相対した女の子たちは皆Dカップ以下だった。
美咲によれば平均はBカップやCカップなので、普通の相手であればその経験で十分だったのだが、くるみの"おっぱい"を推し量るには何の役にも立たない。
つまり、このゲームは"おっぱい"が大きいほうが強いのだ。
決勝戦にして、蓮司は初めての苦戦を強いられていた。
「さ、佐々木くるみの"おっぱい"は、F80!」
苦し紛れの宣言は、根田と同じDカップ以上の中央値を言うしかなかった。
くるみはうーんと上を向いて考え込むと、優しそうな眼を細めて回答する。
「不正解、アンダーバストがもっと大きい。」
くるみの回答もよく考えられている。
これはかなり骨が折れそうだ――。
蓮司は焦りからか、額にうっすらと汗がにじむのを感じた。
「では、おふたりとも不正解のため、次のターンに進みます。こちらの戦術カードから一枚ずつ引いてください。」
蓮司は慎重にカードの裏面を見比べながら、ゆっくりとカードを一枚めくる。
そのカードの内容もまた、悩ましいものだった。
引きたかったカードではあったのだが、その効果ゆえ、使いどころも難しいものだった。
「では2ターン目を開始します。戦術カードを使う場合は、カード名を宣言してください。」
根田のほうはニタニタと笑いながら、変わらず美咲を眺めている。
いい加減見過ぎではないだろうか。
美咲は決して目を合わせないよう、テーブルのほうへ視線を下げて我慢しているようである。
「古川さんって、エッチなことが嫌いなんだよね? これまではどんな戦術カードを使われてきたのかな?」
嫌らしく質問してくる根田に、蓮司はたまらず声を上げる。
「おい。そんなこと聞いても、推理に関係ないだろ。」
「なんだよ、つれないな。この戦術カードを使ってもいいんだぜ?」
根田はひらひらとカードを振りながら、挑発するように言い放つ。
その言いぶりからして強力なカードなのだろう。
しかし、こんな戯言、まともに取り合う必要はない。
「何言ってやがる。どうせこっちが何をしたって使う気だろ。」
「まあ、そうだが…。おもしろくない奴だ。」
根田はやれやれと首を振ると、手にしたカードを表にする。
そのカードを見て、蓮司はぐにゃりと視界が歪んでいくのを感じた。
「僕は…脱衣カードを使う!」
脱衣カード――。
身に着けているTシャツを脱ぎ、下着姿になるカードだ。
そして下着姿になるのはもちろん、隣に座る美咲である。
彼女は目を大きく見開き、あっという間に頬が紅潮する。
恥ずかしそうに伏せる目の奥は、すでに少しだけ潤んでいるようにも見えた。
「それでは古川さん、Tシャツの脱衣をお願いします。」
「…はい、わかりました…。」
消え入るような声で答えた美咲は、震える手でTシャツの裾に手をかけた。
ゆっくりと、しかし確実にその布地を持ち上げていき、すぐに彼女の可愛らしいおへそがチラリと覗く。
「うっひょー! いきなりブラジャーが拝めるとはラッキーだぜ。」
はしゃぐ根田とは打って変わって、蓮司は目の前の光景に頭がくらくらしていた。
夢にまで見た美咲の下着姿。それがこの至近距離でお目にかかれることになろうとは。
しかし、状況は最悪だ。
蓮司は様々な角度から美咲を狙う、無数のカメラを睨みつけた。
きっと他のクラスメイトたちが、よだれを垂らしながら美咲の脱衣を眺めているのだろう。
そう思うと、蓮司は胃の周りがキリキリと締めつけられるように痛むのだった。
「…脱ぎました。」
美咲の言葉に蓮司は振り返りーー、そのあまりの眩しさに目を細めた。
美しい。
彼女の体を覆う布地のほとんどは取り払われ、きめ細やかな白い肌の多くが露わになっている。
柔らかな丸みを帯びた肩、細く引き締まったウエスト、そして彼女の上半身を隠す最後の砦ーーブラジャーに目を向ける。
彼女の下着は、やはり純真たる白いものだった。
少しの汚れもない清潔感のある白に、ささやかな花の模様が上品にあしらわれている。
Tシャツ越しでも十分わかってはいたが、やはり美咲の"おっぱい"は人並み以上に大きく、理想的な釣鐘型をしていた。
蓮司は一瞬、何もかもが頭から抜け落ちて、半裸の美咲を眺めた。
出会ったその日から心を掴んで離さない、美しい天使の下着姿は、とても現実のものとは思えず、夢見心地でその隅々までを脳裏に焼きつける。
これが漫画なら鼻血を出して卒倒しているだろう。
「――っ!」
美咲はたまらず、両手で胸を隠しながらうずくまった。
蓮司だけでなく、向かいに座る根田も、カメラの向こうの男子生徒たちも、彼女の下着を眺めているのだ。
美咲がその視線に耐えられるわけがない。
「どれ、ちょっと近くで拝見しようかな。」
根田はそう言いながら立ち上がり、ゆっくりとテーブルのこちら側に向かってくる。
「お、おい! 何してるんだ!」
「何って、近くで見せてもらうだけだよ。相手の体に触る以外は、何しても良いルールだよな?」
制止する蓮司も気にせず、根田は美咲のすぐ隣に立つと、ぐいっと顔を近づける。
もはや根田の鼻の先が美咲の"おっぱい"に届きそうなほど、至近距離から胸元を観察し始めた。
「うほほっ、これはすごい! おや…?」
鼻の下を伸ばす根田はふいに首を傾げた。
嫌な予感がする。
冷や汗が垂れる蓮司の予想どおり、根田は最も知られたくない事実に気づいていた。
「この下着、フロントホックというやつじゃないか! これは楽しめそうだ。」
嫌らしい小男に秘密を暴かれ、美咲は泣きそうな顔で身を縮めた。
蓮司の位置でも、彼女の胸の谷間の下に、ブラジャーを繋ぎとめる金具があることをが見てとれた。
「"おっぱい"の大きさがわかりましたら宣言してください。」
急かすような黒服の言葉に、根田は渋々席へと戻る。
しかしその目は美咲の胸から離さないまま、ゆっくりと時間をかけて宣言をする。
「古川美咲の、"おっぱい"は、F65だ!」
2回連続のFカップ宣言だ。
蓮司はちらりと横目で美咲の様子を伺う。
「ふ、不正解。カップがもっと小さい。」
弱々しく答える美咲に、蓮司は体が強張るのを感じる。
彼女がこうも参っているのは、おそらく下着姿にされただけではないと思われた。
「やっぱりそうか~。」
根田も何やら不敵な笑みを浮かべている。
奴の頭には、すでに正解に近い値が絞り込めているのだろう。
一方の蓮司は、まだ何の手がかりも得られていない。
「佐々木くるみの"おっぱい"は、G90!」
山勘で言った宣言に、くるみはまたもや上のほうを見る。
のんびりとしたその顔はまだ余裕があるようだ。
「不正解。カップがもっと大きい。」
蓮司は彼女の回答を推理に取りいれる。
Gカップより大きいということは…。
え? まじで?
蓮司は改めてくるみの"おっぱい"を凝視した。
このゲームで最高位の"おっぱい"、Hカップであることが判明したその膨らみは、重たげにテーブルの上に乗せられている。
蓮司の視線を感じてか、くるみはほんのりと頬を赤く染めた。
しかも、彼女はわざわざそれがわかるように回答したのだ。
おそらくは、蓮司にアンダーバストの値が予想できないと踏んでの行為だろう。
完全に、なめられている。
だが相手の思惑どおり、くるみのカップ数はまだ絞り込めてはいなかった。
「立花さんは戦術カードの使用はよろしいのですね?」
「あ、はい。使用しません。」
動揺しながらも、蓮司は黒服の質問に答える。
任意のタイミングで使えるということは、すなわち使わないという選択肢もとれるのだった。
「では、おふたりとも不正解のため、次のターンに進みます。こちらの戦術カードから一枚ずつ引いてください。」
再び広げられた8枚のカードを、蓮司はじっくりと眺めた。
美咲が下着姿になった以上、絶対に避けなければいけないカードがある。
それはノーブラカードだ。
先の脱衣カードと合わせて、相手にブラジャーのタグを見せるという効果が発生する。
もちろん、今の美咲にはそんなことは到底できなかった。
『これだ…!』
念じて引いたカードはノーブラカードではなかった。
がっくりと肩を落としつつ、ちらりと根田の様子を伺うと、奴は片眉を上げて驚いている。
リアクションからしておそらく大丈夫だろう。
「では、3ターン目を始めます。」
「へっへっへ…。」
またもや薄笑いを浮かべる根田を、蓮司は軽蔑の目で見つめる。
「古川さん。これからの戦術カードは、全部その恰好でやらなきゃいけないんだよ? 恥ずかしいね~。」
この男、アダルトビデオから出てきたのかと思うほどに下品な言葉を口走る。
だが奴の言うとおり、美咲は下着姿のままで様々な効果を受けてしまうのだ。
「僕は、ツンツンカードを使うよ!」
根田が突きつけたカードは、初戦でも使われたものだ。
しかし今は状況が違う。
運び込まれた指し棒を持ち、くるみが狙いを定める。
すると根田が、意地の悪い声で囁いた。
「佐々木さん。あの真ん中の、ホックのあたりを狙うんだ。」
くるみは驚いた顔をして、根田のほうへと振り返る。
美咲も「ひいっ」と叫び声をあげ、震える手で両胸を庇った。
蓮司も奴の狙いがわかり、勢いよく立ち上がる。
「お前、いい加減にしろ!」
「なんだよ。ルールではどこをツンツンするかなんて、決まりはないだろ。」
根田はそう言いながら、再び美咲の隣まで歩いてくる。
きっとこいつは、至近距離からツンツンされるのを見る気だろう。
「さあ古川さん、手を下ろして。佐々木さん、これも勝つためだ、よろしく頼むよ。」
美咲はぎゅっと目をつぶり、ゆっくりと手を下ろす。
無防備に曝け出された彼女の"おっぱい"は、小さなブラジャーにしか覆われていない。
そしてそのブラジャーを留めるフロントホックは、蓮司の目から見ても頼りなく思えた。
「それでは30秒間ツンツンしてください。はじめ!」
「えい!」
くるみが指し棒を勢いよく突き出すと、その先端が美咲のブラのホックにあたり、カツン、と乾いた音が鳴った。
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