第26話 平らなおっぱい★
「ああ、よく来たな。対戦相手はもう到着しているから、そこの扉から入ってくれ。」
九条は相変わらずモニターから目を離さないまま、蓮司と美咲に言い放った。
1回戦が一通り終了し、今は2回戦の真っ最中だ。
先ほど勝利した蓮司たちも名前を呼ばれ、こうしてプレイルームまで足を運んできている。
この狂ったゲームも、まだしばらくは戦い続けなければならないのだ。
40人20ペアを4つのブロックに分けてトーナメントするということは、各ブロックで優勝するには最大で3回勝たなければならない。
ペアによってはシード権のような扱いになるので、随分と不平等な感じもするが、文句を言っても聞いてもらえる気がしなかった。
「行くか…。」
蓮司は再びAブロックの扉の前に立つと、ゆっくりと、ドアノブを回して中に入っていく。
「あーー!」
中から可愛らしい声があがる。
クラスのマスコット、ロリ系美少女の水本彩芽だった。
彼女も先のスカートめくりゲームで対戦し、蓮司たちが勝利を手にした相手である。
今回はやたらと因縁のある組み合わせが多いようだ。
「今度は負けないぜ!」
意気込むパートナーの男子生徒をよそに、蓮司と美咲は仰々しいテーブルの席に着いた。
「それでは2回戦を始めます。ルールは先ほど同様、相手の体に触れなければ何でもありです。それでは、1ターン目を始めます。」
黒服の無機質なアナウンスにより、ミステリーおっぱいゲームの2回戦が幕を開けた。
『さてと…。』
蓮司は腕を組みながら、彩芽の"おっぱい"を凝視する。
しかし、そこに膨らみらしい膨らみはなかった。
幼い見た目をした彼女は、その旨も相応に年端もいかない少女のようである。
彩芽はそんな思考を読み取ったのか、怒ったような顔で胸を手で覆った。
正直言って、今回はかなり有利ではある。
彩芽の"おっぱい"は、明らかに平均以下と言えるので、それだけで選択肢はだいぶ限られる。
先の美咲の解説を踏まえればAAカップはあまりないかもしれないが、それでも葵と同じBカップというのは無理がある。
「ふっ…。」
予想外に"おっぱい"の知識が増えていることに、蓮司は思わず自嘲した。
ゲームの前はDカップが好き、と宣っていたのに、今ではそれが相当な上澄みであることも知っているのだ。
「古川さん、意外と胸があるよな…。」
対戦相手の男も、美咲の胸を眺めながらつぶやいている。
意外とはなんだ意外とは。
しかし、確かに美咲の"おっぱい"はこれまで相対した誰よりも大きいものだった。
一体何カップなのだろうか。
「はい! 古川美咲の"おっぱい"は、D80!」
相手の宣言に、蓮司と美咲は顔を見合わせた。
まるっきり小田切と同じ回答――効率を求めた中央値の回答だ。
しかし、それに対する準備はしてきている。
「不正解、アンダーバストがもっと小さい、です。」
この回答も、ふたりで擦り合わせておいたものだった。
普通の人であれば、カップの大小よりもアンダーバストの大小のほうが差がわかりにくい。
じゃあ5センチくらい上かな?なんて予想できるのはよほど女子との接点があるか、よほどの変態かのどちらかである。
「宣言します。水本彩芽の"おっぱい"は…。」
蓮司も早々に口を開く。
初回は戦術カードもないため、あまり悩んでも仕方がないからだ。
セオリーどおりなら、ここで蓮司もD80を言うべきだろう。
しかし今回は、こちらに分があった。
「B80!」
途端に彩芽の口がへの字に結ばれ、見るからに不機嫌そうな顔になる。
渋々口を開けた彼女は、小さな声で回答した。
「不正解。アンダーバストがもっと小さい。」
彩芽の場合、明らかにCカップ以上でないことの予想はできる。
ならば、最初から小さいカップ数の中での真ん中あたりを狙って宣言するのが、最も効率が良いのだ。
「では、おふたりとも不正解のため、次のターンに進みます。こちらの戦術カードから一枚ずつ引いてください。」
配られた中から蓮司は1番手前のカードを引く。
その内容は、できれば引きたかったカードのうちのひとつであった。
「では2ターン目を開始します。戦術カードを使う場合は、カード名を宣言してください。」
蓮司は対戦相手の顔を見ながら、次の行動を予測する。
向こうは戦術カードの使用も渋っている様子なので、きっと大した効果ではないのだろう。
ならば――。
「俺は、ノーブラカードを使うぜ!」
蓮司は戦術カードをめくり、相手に突きつけた。
男子生徒は目を丸くし、彩芽は悲痛な声をあげる。
「ええーー!」
彼女は体を隠すように横に捻るが、黒服は容赦がなかった。
「さあ、ブラジャーを脱いでください。」
「こ、ここでですか!?」
彩芽は嫌がるが、戦術カードの効果は絶対なのだ。
みんなが見守る中、彩芽はTシャツの袖から両手を抜き、服の中で器用にホックを外す。
出てきたブラジャーは、ワインレッドのような色をした、落ち着いたデザインのものだった。
『うーーん?』
蓮司はブラジャーから解放された、彩芽の"おっぱい"を凝視する。
しかしそこには、もはや膨らみと呼べるものはないようだった。
先ほどまで見えていたのはブラジャーが生み出した仮初の"おっぱい"だったらしい。
「よし、俺も、パイスラカードだ!」
対戦相手が宣言し、黒服が肩掛けの鞄を持ってくる。
美咲がそれを嫌々身につけると、なるほど、"おっぱい"の間にストラップがはしり、二つの膨らみを強調するようになった。
蓮司は、部屋にある2つの"おっぱい"をじっくり見比べる。
膨らみが強調された美咲の"おっぱい"は美しく、大きさだけでなく形も秀逸であることが伺える。
一方、彩芽の"おっぱい"はもはやその存在も確認できない。
はたしてこれは"おっぱい"なのか――?
素朴な疑問が蓮司の頭を駆け巡る。
場合によっては、太った男子生徒のほうが彩芽の胸よりも膨らんでいるまであった。
「では、両者戦術カードを使いましたので、宣言をお願いします。」
黒服に急かされ、蓮司は慌てて考えをまとめる。
「え、えーと、水本彩芽の"おっぱいは"A70だ!」
彩芽はちょっと首を傾げると、しばらく回答を保留する。
ようやく口を開くと、言葉を切りながら慎重に言い始めた。
「不正解。アンダーバストが、小さい、です。」
2回連続のアンダーバストの回答だ。
ということはつまり、カップは正解――というわけでもなさそうである。
蓮司は頭の中でカップとアンダーバストの表を思い出しながら考えた。
今回の場合はカップでもアンダーバストでもだいぶ絞り込めてしまう状況だ。
あえて、不利になる方を回答することで、ミスリードを誘っているのかもしれない。
「古川美咲の"おっぱい"は、F70!」
「不正解。カップがもっと小さい。」
相手も外したことで、勝負は3ターン目までもつれ込んだ。
蓮司は推理をまとめつつ、先ほど浮かんだ疑問についても少し考えてみる。
彩芽の"おっぱい"は何度見てもそこに膨らみは確認できない。
まるで年端もいかない少女のような胸を"おっぱい"と呼ぶのは、なんだか少し変な感じなのだ。
でも、そうなるとどのくらい膨らんでいたら"おっぱい"なのだろう。
それに、仮に彩芽の胸が成長せずにこのまま大人になった場合は、彼女の胸は永遠に"おっぱい"ではないのだろうか。
よくわからない。"おっぱい"のことを考えすぎて、何だかゲシュタルト崩壊してきている。
「それでは、戦術カードをお引きください。」
機械音声のようなアナウンスで、現実へと引き戻される。
適当な場所から引いた戦術カードを見て、蓮司は思わず頭に手をやった。
『これは、ちょっと――可哀想かな。』
引いたカードは最強のカードではないが、今の彩芽には辛い所業であった。
しかし、勝負の世界に情けは無用だろう。
出し惜しみしても仕方がないので、蓮司は早々にカードの使用を宣言した。
「俺は――スケスケカードを使うぜ!」
彩芽はその顔をぽかんとした顔で見つめ――すぐに顔が真っ赤になった。
これから行われる事態を想像し、両手で必死に胸を隠している。
「では、水本さんはこちらへ。」
彩芽はテーブル脇にあるスペースに立たされる。
随分広い部屋だと思っていたが、こういう時のためのものだったのか。
すぐ扉が開いて、2人の黒服が新たに部屋に入ってくる。
それぞれの手には、何やら仰々しい、大型の水鉄砲が握られていた。
「さあ、手を下ろして"おっぱい"を見せてください。」
「…嫌です!」
黒服の指示を、彩芽は首を振って拒絶する。
その理由は蓮司にもわかった。
にわか雨の降った日、濡れた衣服を身につけた女子たちのあられもない姿は何度も見たことがある。
きっとあのTシャツも薄く、無地の白色なので、きっとよく透けるだろう。
しかも、彩芽はノーブラなのだ。
今、Tシャツが透けてしまったら――。
「では仕方ありませんね。戦術カードは絶対です。」
黒服がカメラに向かって合図すると、さらに2人、何やら大掛かりな装置を持って入ってくる。
それは十字架のような器具だった。横に伸びた棒の先には、おもちゃの手錠がついている。
「ひ、ひゃあああ!」
小柄な彩芽は黒服たちに担ぎ上げられ、あっという間に十字架に磔にされた。
大の字に拘束され、身動きの取れない彼女の"おっぱい"は無防備だ。
「抵抗する場合は、このように強制執行させていただきます。」
黒服がはっきりと言い放つ。
自分でカードを使っておいて難なのだが、少々手荒すぎやしないだろうか。
隣の美咲も険しい顔で眉をひそめている。
「打ち方、はじめ!」
「や、やめてえええええ!」
彩芽の悲鳴とともに、勢いよく水が発射される音が響き渡った。
すぐにTシャツが濡れ、体に張り付き、色を失っていく。
そして、何もないと思っていた彩芽の胸に、ぴょこんとふたつ、何かが浮かび上がってくる。
「いやぁ、見ちゃだめ…!」
それは、紛れもなく彩芽の乳首だった。
次第にその突起は鮮やかな色もわかるようになり、まるで胸にピンクの蕾がふたつ、くっついているようである。
見たところ乳輪はほとんどなく、まんまるく膨れ上がる乳首だけが、Tシャツを貫通して周囲に晒されていた。
「おおお…。」
男たちは思わず感嘆の声を上げた。
先ほどはシルエットで見た乳首が、今は色までわかるほどの状態で目の前にある。
可愛らしい彩芽の乳首は幼い彼女そのもののようで、平らな胸に美しく咲き誇っていた。
『ああ、そうか…。』
蓮司はその美しい光景を見ながら、思わず膝を打った。
簡単なことだった。
"おっぱい"は大きさではない。
先ほど疑問に思った彩芽の胸も、ちゃんと女の子の"おっぱい"だったのだ。
それは何故かと言われるとよくわからない。
透けて見える白い肌か、淡いピンクの乳首か、それとも恥じらう彩芽の顔か、何を見て"おっぱい"を知覚したのかは謎のままだ。
それでも、確かに"おっぱい"はそこにある。
どんな大きさでも、どんな形でも、そこに鎮座しているだけでそれは神秘なのである。
「…いつまで見てるのよ。」
美咲が氷のような眼差しで男どもを睨みつける。
彩芽の乳首を眺めている間に、悠久の時が流れていたらしい。
ようやく両手を解放された彩芽は、体を抱きしめるようにして胸を庇っていた。
「いや、これはほら、推理のためだから。」
蓮司の言い訳に美咲は鉄仮面のようにぴくりとも反応しない。
こうなったら彼女はもう何を言ってもだめである。
「え、えーと。水本彩芽の"おっぱい"は…。」
気を取り直して蓮司は思考を巡らせる。
彩芽の透けた"おっぱい"を見て、先程の回答は罠だというのは確信に変わった。
つまり、彩芽の"おっぱい"は――。
「AA65だ!」
ビシッとポーズを決め、相手の反応を見る。
彩芽ははあ、とため息をついて、頬杖をついた。
そして、じっとりとした目でこちらを見つめる。
「…正解です。」
彼女の回答を聞いて、蓮司はほっと胸を撫で下ろした。
なんとか今回も、美咲の肌を晒すことなく切り抜けられたようだ。
「うわーーーん!! また負けた!!」
急に彩芽が頭を抱えて叫び出したので、蓮司はびっくりして飛び上がった。
彼女からしてみれば、透け乳首を晒した上に負けたので、踏んだり蹴ったりなのだろう。
しかし、なんだか悔しがる様子もコミカルで可愛らしい。
無防備になった胸にまた乳首が透けているのが見えたが、なんだか悪いのですぐに視線を逸らした。
「では、次の試合まで教室でお待ちください。」
蓮司たちは再び廊下に出ると、教室へと歩いていく。
「もう…。大きさを測るだけならちょっと見れば済むでしょ?」
「ごめん。でもほら、また勝てたしさ。」
蓮司はご機嫌斜めの美咲に必死に言い訳する。
彼女はエッチなことに関しては厳しいのだ。
「あっ――。」
廊下の角を曲がったとき、美咲がふいに声を上げる。
視線の先には、蓮司たちとは逆に、プレイルームへと向かうペアが立っていた。
その姿はまさに美男美女――千葉と茉莉のふたりである。
「よっ、立花! 調子どうよ?」
千葉がにしし、と軽い笑みを浮かべながら聞いてくる。
隣の茉莉はいつもの輝きが嘘のように仏頂面をしていた。
「まあまあかな。そっちは?」
「へへ、こんなゲーム、楽勝だぜ。」
上機嫌な千葉はそのまま蓮司の横を通り過ぎる。
後を追う茉莉は、チラリと友人の姿を一瞥した。
「頑張って、茉莉。」
「うん、ありがと。」
美咲のエールにウインクすると、茉莉も廊下を進んでいった。
「あいつ、なんであんな自信満々なんだ…?」
「うーん、千葉くんもわりと頭の回転早いよね。普段はちょっと、あれだけど…。」
言葉を濁す美咲に、蓮司はぷっと吹き出した。
天使の視点からでもあいつはやはり馬鹿らしい。
「それから、確かお姉ちゃんがいたんじゃないかしら。もしかしたら、女性下着は見慣れてるのかも。」
なんと。それはうらやま――じゃなくて、随分なアドバンテージである。
スカートめくりゲームに続き、奴の調子は絶好調のようだった。
「…これから、さらに厳しい戦いになるかもね。」
「そうだね。気をつけないと。」
不安そうな美咲に、相槌を打つ。
シンプルな話で、勝ち上がれば上がるほど、相手も手強くなる。
それに、戦術カードの効果を受ける回数も増えていくので、勝ち続けるのも悩ましいものだった。
「行こう。古川さん。」
蓮司は美咲に声をかけると、教室へと歩みを進める。
どんな相手が来ても、必ず美咲を守ってみせる。
改めてそう誓う蓮司は、拳を強く握りしめるのだった。
*******************************************************
「ああ、よく来たな。次はAブロックの決勝戦だ。心してかかれ。」
九条はほんの一瞬だけモニターから視線を上げ、蓮司と美咲を激励する。
プレイルームに来るのももう3回目だ。
いつ来ても不自然に豪華な設えに違和感を隠せない。
「対戦相手はもう到着しているから、そこの扉から入ってくれ。」
先ほどと同じ台詞を聞きながら、蓮司は渋々部屋の中へと入る。
そこにいるふたりの姿を見て、思わず口元がニヤリと歪んだ。
「…ついに真打の登場、か。」
自分にしか聞こえない声で、蓮司はつぶやく。
目の前の少女――クラスで一番の巨乳、佐々木くるみも、驚いたような顔でこちらを見ているのだった。
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