第23話 雪辱戦★

「お前か…。」


小田切もびっくりしたような顔で呟いたが、すぐに顔をふいと背けてしまった。

隣で葵は心配そうな顔で、ふたりの顔を交互に見比べている。

彼女も他の女子生徒と同じく、ぴったりとボディラインが浮き出るTシャツを身に着けていた。

おかけで胸の可愛らしい双丘の存在もはっきりと見てとれる。


「では第一試合を始めますので、着席してください。」


審判の黒服に促され、小田切と葵もテーブルの反対側に腰掛けた。

間に立った黒服が淡々と説明を始める。


「ルールは先ほどあったとおりです。それぞれの回答が出揃った時点で1ターン、合計5ターン以内に相手の"おっぱい"の大きさを当ててください。相手に触れることは厳禁ですが、それ以外は何をしても構いません。

では、1ターン目を始めます。」


始めます、と言われたが、小田切は一向に口を開かない。

こちらもずっと押し黙っているので、部屋の中には嫌な沈黙が流れ始める。

葵はもちろん、事情をよく知らない美咲も空気を読んでか何も話さなかった。


「…まさか、またこうやって対決するとはな。」


小田切がようやく言葉を発する。

ひさしぶりに目が合った幼馴染の腹の底はわからない。

向こうからすればこの間のリベンジマッチなわけで、闘志が燃えていないわけがないだろう。


「ああ。しかし"おっぱい"の大きさを当てろなんて言われても、わからないよな。」


蓮司も慎重に言葉を選びながら、無理に笑って見せる。

ゲームのことも大事だが、幼馴染との関係がこれ以上拗れるのもごめんだった。


「そっちは有利じゃないか? 葵の胸なら嫌というほど見てきただろ。」

「ちょっと! 勘違いされるようなこと言わないでよ。」


とぼける小田切の肩を葵が引っぱたく。

確かに葵とは付き合いが長いが、さすがに"おっぱい"までは見たことがない。

今朝の夢に出てきた葵の姿も、蓮司の欲望が生み出した偶像なので当てにならなかった。

蓮司が彼女の胸を凝視すると、葵は少し恥ずかしそうな顔をしながら両手でガードする。


「古川さん、悪く思わないでくれよ。」

「う、うん…。」


美咲も小田切の"おっぱい"への視線を感じたのか、同じく両手を胸の前で交差した。

クラスメイトからこれほど自分の"おっぱい"を注目されることもなかなかないだろう。


「さて、お先にどうぞ。どうせ1回目から当てられるわけないんだから、さっさと進めようぜ。」


小田切は余裕綽々という様子で、ひらひらと手を振った。

適当な発言から、特に考えなど無いようにも見える。

しかし油断はならない。

小田切はいつも自分の考えを見せないまま、裏で策を張り巡らせるタイプだった。

昔からテレビゲームなんかしていても、よくそれで出し抜かれたものだ。


「お決まりでしょうか?」


黒服に催促され、蓮司ははっと顔をあげる。

そうだ、何はともあれまずは答えなければならない。

美咲の戦略では、確か最初に答える大きさはあまり関係がなかったはずだ。

そうなると、ぱっと見て大きさを推理するしかない。


こんなことを言うとすぐ怒られそうだが、葵の胸は特別大きいとは言えなかった。

もちろん女性としての膨らみは確認できるが、彼女よりも大きな"おっぱい"を持つ女の子は多くいる。

そうなると、意外と小さいサイズなのではないか。

しかし、小さめといっても色々あるよな…。

蓮司はとりあえず、当てずっぽうの大きさを口にしてみる。


「は、はい。小鳥遊葵の"おっぱい"の大きさは――AA70だ!」


そう言った瞬間、部屋の空気がピリッと固まるのを感じた。


「え?」


蓮司は慌てて周囲の様子を確認する。

小田切は呆れたように口をポカンと開け、その場に固まっていた。

美咲はものすごい勢いこちらに顔を向け、信じられないという表情をしている。

そして、葵は――これまで見たこともないほど顔を真っ赤にしながら、鬼のような形相をしてこちらを睨んでいた。


「正解か不正解か、どちらでしょうか。不正解の場合は、カップかアンダーバストが、大きいか小さいかをお答えください。」

「不正解! カップがもっと大きいに、決まってるでしょ!!」


憤慨する葵は口を尖らせながら、乱暴に答えた。

どうやら、とんだ的外れの答えをしてしまったらしい。


「ほ、ほら。葵って着痩せするタイプよね!」

「お前、AAカップって1番大きいカップだと思ってないか?」


必死でフォローする小田切と美咲からも非難めいた視線を感じ、蓮司はうっすらと目に涙が浮かんでくる。

だってしょうがないじゃないか。

"おっぱい"の大きさなんて、見当もつかないんだから。


「よし、じゃあこっちの番だな。」


場の空気を変えるように、小田切はわざと明るく言って見せる。

ちらりと美咲の胸元を一瞥すると、はっきりとした声で宣言した。


「古川美咲の"おっぱい"の大きさは、D80!」


その瞬間、美咲の目が丸く開かれ、驚いた顔をする。

しかしすぐに元の表情に戻ると、少し考えて、小さな声で返答した。


「不正解。アンダーバストがもっと小さい、です。」


心なしか、美咲の顔には焦りのようなものが見られた。

そういえば、蓮司はもちろん美咲のカップ数を知らないので、今の回答が惜しいのかどうかもわからない。

小田切は目線を上にそらしながら、考え込むように顎に手を当てていた。


そうだ、これは推理ゲームだった。

今のやりとりを踏まえて相手のカップ数を考えなければならない。

先ほど直感で回答をしてしまったことに今さらながら後悔する。


「では、おふたりとも不正解のため、次のターンに進みます。こちらの戦術カードから一枚ずつ引いてください。」


黒服がマジシャンのようにカードをテーブルに並べた。

蓮司はその裏面に描かれた幾何学的な模様を凝視する。

これが戦術カード。

この中に、あのニプレスカードや脱衣カードがある。

美咲に対して使わせないようにするには、自分で引くしかない。


蓮司と小田切は同時に手を伸ばし、思い思いのカードを引く。

そこに書かれたカードを見て、蓮司は目を丸くした。


『これは…。』


10種類の中でも、比較的強力な効果を持つカードを引いた蓮司は、思わず顎に手を当てて考え込む。

刺激的な内容だが、これを使って何かわかるだろうか。

一方の小田切も、微妙な表情をして、カードを手元に伏せた。


「では、2ターン目を始めます。戦術カードを使用する場合はカード名を宣言してください。」


黒服がそう言った瞬間だった。

間髪入れず入れずに小田切は戦術カードをめくり、宣言する。


「俺はツンツンカードを使うぜ。」


ツンツンカード――。

確か女子生徒が、相手の"おっぱい"をツンツンする内容だ。

美咲の顔が強張る横で、黒服がどこからともなく指し棒を取り出す。

1mくらいの棒の先端には、白い手袋をした手が人差し指を立ててくっついていた。


「では、ツンツンをお願いします。時間は30秒です。」


指し棒を渡された葵は、困ったような顔で小田切のほうを見る。

しかし小田切は黙って頷くだけだった。

戦術カードの効果は絶対なのだ。


「い、行くよ!」

「う、うん。」


葵はゆっくりと指し棒の先端を美咲の"おっぱい"に向ける。


「えい!」


葵が棒を突き出すと、それは美咲の豊かな胸の膨らみに突き刺さり――その弾力でぽよんと跳ね返った。


「…んっ!」


美咲が微かに声を発したのを、蓮司は耳にする。

葵はそれから何度も美咲の"おっぱい"をツンツンし、それに合わせてその乳房は縦横無尽に形を変えていた。


――ごくり。

唾を飲み込んだのが自分なのか小田切なのかもわからなかった。

ともかく、二人の男は食い入るように美咲の"おっぱい"がツンツンされる様子を見守っている。

"おっぱい"とは想像していたよりも柔らかく、それでいて張りのあるものだと実感した。


「あんっ…!」


残り時間も僅かになったところで、葵の指し棒が美咲の"おっぱい"の頂点のあたりを掠めていく。

思わず声が出た美咲と目が合ったが、恥ずかしそうに顔を赤らめながら横を向いてしまった。


「以上でツンツンの時間は終了です。」


ようやく黒服がアナウンスし、葵が指し棒から手を離した。

美咲は頬を紅潮させたまま俯いている。

小田切は様子を見て、思考を巡らせるように顔を上にあげた。

一連の流れを見て、何かを掴んでいるのだろうか。


「"宣言"も戦術カードの利用もターン中いつでも行えます。お好きなタイミングでどうぞ。」

「よし、じゃあ試してみるかな。」


黒服の言葉に、小田切は身を乗り出す。


「古川美咲のカップ数はC60!」

「不正解、カップがもっと大きいです。」


またしても"宣言"を外した小田切は、あちゃー、と頭を搔いた。

本当に失敗したのか、はたまた演技かはわからない。

奴は奴なりに、戦略的に正解へ向かっているのだろうか。


「さ、俺はもう何もできないから、あとはそちらに任せるぜ。」


顎でしゃくる小田切に、蓮司は小さく頷いた。

いまだ葵の"おっぱい"の大きさは予想もできない。

ならば、使えるものは、すべて使うしかなかった。


「俺は、シルエットカードを使うぜ!」


蓮司はそう言うと、戦術カードを裏返し、テーブルにたたきつけた。

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