第3章 ミステリーおっぱいゲーム

第20話 想定外のハーレム★

「もう…。ここまで見せるのは、蓮司だけなんだからね。」


小鳥遊葵はそう言うと、制服のスカートを摘まんで、ゆっくりと持ち上げた。

白くて細いふとももが晒され、すぐにその上の布地――パンツまでもが蓮司の視界に入る。


パンツの色は、このあいだゲームと同じく、爽やかな水色だった。

各所にリボンがあしらわれた女の子らしいデザインである。

しかも、よく見ると三角形の各辺のあたりがレース生地になっており、地肌が透けてしまっている。


葵のやつ、真面目ぶっている癖にこんなエッチなパンツを穿いていやがったのか。

蓮司は目の前のパンツをじっくり、時間をかけて観察する。

透けて見える彼女の肌は日に焼けていないため真っ白く、その延長線上の、ぎりぎりで隠された布地の向こうの秘部に想いを馳せてみる。


「もっと見たいの…?」


葵はそう言うと、今度はブラウスのボタンを外し始めた。

蓮司はごくりと唾を飲み込む。

ボタンが外され、その向こうの胸元が見え隠れするたび、鐘のように打つ心臓の音が大きくなった。


葵はブラウスのボタンを外しきると、少し躊躇した後、一気に脱ぎ去る。

華奢な彼女の上半身を覆っているのは、パンツと同じ水色をしたブラジャーだけだった。

僅かな布地に包まれた彼女の乳房は人並みに膨らんでおり、蓮司の目はその間にできた谷間に釘付けになってしまう。

これが”おっぱい”か――。下着越しではあるが、幼馴染のあられもない姿を前に、蓮司の興奮は最高潮に達していた。


「ねえ、外して…。」


葵が顔を真っ赤にして懇願する。

外すって、まさかブラジャーをだろうか。そんなことをしたら、本当に、生の”おっぱい”が見えてしまう。

でも、本人が外せと言っているんだし、問題ないよな。


蓮司は夢見心地で葵の"おっぱい"に手を伸ばし――、困惑する。

あれ、これってどうやって外すんだ?


可愛らしいデザインをしたブラジャーには、見たところ外すような場所はない。

上の方にずらそうとしても、カップが葵の体にフィットしているのか、全く動く気配がない。


真っ赤な顔の葵は何も言わない。

目の前に”おっぱい”があり、それを見る権利もあるのに、外し方がわからない。

あと少しで”おっぱい”が、”おっぱい”が、この手に掴めるのに――!


「くそおおおおおおおお!」


そこで、立花蓮司は夢から目を覚ました。

体を起こし、時計を見ると、まだアラームの時間より30分も早い。


「またか…。」


蓮司は自室でひとり、つぶやくのだった。


*******************************************************


「ねえ、大丈夫? ちゃんと寝れてる?」


葵は、自宅の玄関前に立つ蓮司の顔を、心配そうに覗き込んだ。

蓮司は少し顔を赤らめ、視線を逸らす。


「大丈夫、いつもと変わらねーよ。」


蓮司の返答を聞いても、葵は心配そうな表情を変えない。

蓮司は頭をぽりぽりと掻き、無言で学校に向かって歩きだした。

慌てて葵も横に並ぶ。


「今日はちゃんと問題集持ってきてる?」

「ああ。」

「数学の宿題は?」

「ああ。」

「…現代社会のレポート、金曜日までだけど覚えてる?」

「ああ。」


矢継ぎ早に質問する彼女に、蓮司は前を向いたまま答える。


「もう! ちゃんと聞いてるの?」


生返事しかしない蓮司に、とうとう葵はぷりぷり怒りだしてしまった。


「ごめん。ちゃんと聞いてるよ。」


蓮司はようやく葵の顔を見ると、ぎごちなく謝った。

今日は葵の指摘どおり寝不足ではあるものの、彼女への返答に困るのには別の理由があった。


先日のゲーム――スカートめくりゲームの終盤で、葵が言った言葉を、蓮司は何度も思い出していた。


『蓮司になら、パンツくらい、いつでも見せてあげるから…。』


涙目の葵の顔がフラッシュバックする。

パンツをいつでも見せるだなんて、年頃の女の子が言っていい台詞じゃない。

その場をしのぐために咄嗟に言っただけかもしれないが、蓮司は嫌でも葵のことを意識せざるを得なくなっていた。

その結果が今朝の破廉恥な夢である。


「ほんと、能天気でいいわね。あんたは。」


葵はというと、普段と全く変わらぬ様子で蓮司に話しかけてくる。

蓮司も基本はいつもどおり接しているのだが、ゲームから数日経った今でも、時折あの言葉を思い出しては、彼女にどんな顔をしていいのかわからなくなっていた。


「小田切くん、今日もいないね。」


いつもの待ち合わせ場所を通り過ぎるときに、葵がぽつりとつぶやいた。

ゲームが始まってから、小田切は待ち合わせ場所に現れず、葵とふたりだけで登校している。


「きっと先に行ってるだろ。」

「そうだけど…。」


素っ気なく返す蓮司に、葵は寂しそうな顔をする。


本当のところを言うと、蓮司だって小田切がいないのは寂しかった。

いつも一緒だった親友がいないと、何だか日々の楽しみがずいぶん減ってしまったような感じがする。

しかし、依然として小田切の様子がおかしくなった理由は見当もつかず、蓮司は仲直りの糸口を掴めずにいた。


ふたりは学校につくと、それぞれの席に向かう。

先に席に座っていた小田切はこちらを見ようともしない。

蓮司はふーっとため息をつくと、隣にいる美少女、古川美咲に挨拶した。


「おはよう、古川さん。」

「おはよう、立花くん。」


微笑む美咲の顔は何度見たって飽きることはない。

彼女が視界に入るだけで、蓮司は心がなんだか暖かくなるような気がしたし、実際に小田切との喧嘩の傷も癒えていくようだった。


「最近は朝早いね。」

「いやいや、古川さんいつも先にいるじゃん。」

「そうでした。でも私もさっき来たところよ。」


先日のゲームが終わってから、ふたりの会話は以前よりも弾むようになっていた。

少しずつ、だが着実に距離は縮まっている。

彼女との時間が増えると思えば、早起きも案外悪くないと思えた。


キーンコーンカーンコーン。


ホームルームの鐘が鳴り、美咲は前へと向きなおった。

今日も今日とて自習だ。

もちろん蓮司は勉強する気もなく、問題集に落書きをしたり、こっそり持ち込んだ漫画に教科書を重ねて読んだらして時間を潰した。


ほどなくして昼休みになり、蓮司はひとり購買へと向かう。

人だかりの中から好みのパンを選び、レジに並ぶ。

しかし、あと少しで自分の番というところで、致命的なミスに気がついた。


『やっべ、家に財布忘れた…。』


ポケットを探ってみても小銭の一枚もない。

仕方ない、小田切にでも借りるか。

そう思ってすぐに喧嘩中であることを思い出す。


『まずいな…。』


他にお金を貸してくれそうな友達もいない。

千葉はきっと昼休みもサッカーをしているし、内村はお小遣いが少ないと嘆いていたからたぶん貸してくれないだろう。

根田に借りを作ると後が怖そうなので、それも気が引ける。


蓮司は恨めしそうにパンを商品棚に戻すと、とぼとぼと教室へと歩き始める。

今日は昼飯抜きになりそうだ。


そう思ったときに、ふとひとつのアイデアを思いついた。


*******************************************************


「それで、私のところに来たってわけね。」


葵は呆れたようにため息をついた。

彼女はいつも弁当を持ってきているので、蓮司はそれを分けてもらう算段だった。


「お願いします。玉子焼きだけでも、ニンジン一片だけでもいいですから、お恵みください。」

「いいわよ。でも御礼は10倍返しだから。」

「感謝します、神様仏様葵様。」


蓮司は葵に向かって何度も手をこすり合わせた。

葵はそんな蓮司を横目に、友達の女子グループがつなげた机のほうに移動する。

蓮司も少し戸惑いながら、ひょこひょこと後ろについていった。


「あれ、立花くんどうしたの。」

「こいつが財布忘れたから、お弁当分けてあげるの。」


驚く女子たちに、葵が心底呆れたような顔で弁明する。

その様子を見て、女子グループは顔を見合わせて笑っていた。


「ふふ、相変わらず仲が良さそうね。」


そう言ったのは楠本茉莉だった。


彼女の明るい色の髪の毛が、陽の光を浴びて美しく映えている。

大きな瞳に星のような煌めきを宿し、絵画のごとく端正な顔をこちらに向けられた蓮司は、思わず心臓がドキリと脈打った。

そこにいるのは、普段からテレビで見かける国民的アイドルそのままの姿の美少女だった。


「仲良くないわよ。こいつとはただの腐れ縁。」

「はいはい。そういうことにしといてあげるわよ。」


むくれる葵の顔を見て、茉莉は満足そうに微笑んだ。

彼女は芸能人という肩書がありながら、決してお高くとまることもなく、いつも気さくにクラスメイトと会話している。

真のアイドルとは美しい容姿だけでなく、良き人格も兼ね備えているのだと、茉莉を見ていると思うのだった。


「ほんと、すっかり立花くんのお母さんよね。」


横に立っていた相原七菜もふふっ、とこちらに微笑みかけた。

整った顔立ちにショートカットの黒髪、すらっとした背丈で白い歯を見せる姿は、まるで王子様を思わせるオーラがある。


「まだ毎朝迎えに行ってるんでしょ。もう一緒に住んじゃえば?」

「やめてよ。何度置いていこうと思ったか、わからないんだから。」


からかう七菜は蓮司にも流し目を送りながら、シンプルなデザインの弁当箱を机の上に置く。

さっぱりとした性格の彼女は、蓮司も話しかけやすい女子生徒のひとりだった。


七菜が茉莉の隣に座ったので、蓮司は思わずふたりの姿を見比べる。

美しく白い肌と健康的な褐色、明るい長髪と黒髪のショートカットと対照的なふたりではあるが、どちらも驚くべき美少女である。

同じクラスなのでいつもは意識していないが、やはりうちの女子たちは相当にビジュアルのレベルが高い。


「立花くん、ちゃんとお話したことなかったから嬉しいな。」


ふたりのさらに横に腰掛けながら、佐々木くるみもにっこりとこちらに微笑みかけた。

パチリと目が合った蓮司は思わず視線を下に逸らすが、彼女の主張する豊満な膨らみが目に入り、さらに顔を横に向ける。


「いつもは購買のパンだけ?」

「う、うん。焼きそばパンが最高にうまいんだ。」

「そうなんだ。私もたまには買いに行ってみようかな~。」


視線を泳がせながら、蓮司はかろうじて質問に答えた。

くるみの緩やかにカールした髪と穏やかな顔立ちは、見る人に柔和な雰囲気を与えている。

しかし、彼女が発する包容力の最大の要因は、そのたわわに実った胸の果実であろう。

蓮司は机の上に重たげに乗せられ、魅惑の曲線を描く"おっぱい"を見ないように気をつけるが、やはり視線が吸い寄せられてしまう。

高校一年生としては規格外のそれは、事あるごとに揺れ動いては、男子たちを楽しませているのだった。


「私も、一緒に食べてもいいかしら。」


ふいに後ろから声をかけられ、蓮司は振り返る。

そこにいたのは古川美咲だった。途端に心臓がドキッと跳ね上がり、顔が真っ赤に染まるのを感じた。

彼女も目が合うと、少しだけ恥ずかしそうに目を伏せる。

美咲は空いている席は蓮司の隣に座ると、可愛い風呂敷から弁当を取り出した。


美咲と一緒にランチができるだなんて、この上のない幸せである。

それだけではない。

気がつけば蓮司のまわりにはクラス中――いや学校中でもトップクラスに可愛い女子たちに囲まれていた。

思わぬハーレムの状況に、ニヤつきそうになるのを必死に隠す。

これも自分の人徳のなせる業というものだろうか。いやはや。


「いただきまーす!」


みんなでお行儀良く手を合わせ、みな各々の弁当を食べ始めた。

蓮司はというと、葵から提供されたソーセージやら卵焼きやらをちょっとずつ口に入れる。


「昨日のドラマ見た? 私泣いちゃった〜!」

「ねえ、駅前に新しいカフェ出来たの知ってる?」

「うちの弟がさ〜、ほんとありえないんだけど。」


テンポ良く進むガールズトークに、蓮司は思わずキョロキョロとしてしまう。

話題の切り替わりが激しすぎて口を挟む間もない。

せっかくのハーレムだというのに、黙って縮こまっているしかできなかった。


「そういえば、あのゲームってやつ、次はいつやるんだろうね。」


ふいにくるみが誰ともなしに問いかけた。

一瞬だけ沈黙が流れ、互いに顔を見合わせる。


「もうやらなくていいわよ。どうせまた変な内容だし。」


葵はむすっとしながら弁当を頬張る。

蓮司の隣で、美咲も猛烈に頷いていた。


「そういえば、脱落者の控室にモニターあるの知ってた? あれで他の人の様子が全部見えてたっぽいよ。」

「えー! じゃあ私のパンツもみんなに見られてたってこと?」


衝撃の事実を話す七菜の言葉に、くるみが悲鳴をあげた。

確かに至る所にカメラが設置されていたが、まさか脱落したクラスメイトに公開されていたとは。


「ほんとありえないよね〜。なんで男子にパンツ見せなきゃいけないんだって話よ。」


茉莉の言葉に、蓮司は居心地悪そうに体を揺すった。

思えば、ここにいる女子の半分くらいは蓮司がスカートをめくっている。

それぞれが履いていたパンツが克明に頭に浮かんでくるのを、首を振って必死にかき消す。


「あの、なんか、すみません…。」


いたたまれなくなった蓮司は思わずポツリと言った。

しかし、意外にも女子たちは寛大な反応をする。


「別に立花くんが謝ることないって〜! あんなルールにした生徒会長が悪いのよ。」

「ほんと、頭の中どうなってんのよね。」


パンツを見られた分のヘイトが自分ではなく九条に向かっているとわかり、蓮司は胸を撫で下ろした。


「でも、できれば見たものは忘れてほしいな…。」


ふいに美咲が、顔を赤らめながら小さくつぶやいた。

その言葉に、蓮司は舞い上がる彼女のスカートと、純真な心をそのまま映したような清いパンツを思い出す。


「あ、あの、あのときは、ごめん…。」

「ううん、大丈夫。私も油断してたから…。」


盛り上がる女子たちに聞こえないよう、小さく謝った蓮司に、美咲も頷く。

恥ずかしそうではあるが、さほど怒ってはいないようなので一安心である。


「ま、できればもうこのまま終わってほしいよね〜。あの生徒会長も、何かでクビになればいいのに。」

「残念ながら、そうはいかないな。」


葵の言葉に答えた声に、全員がビクッと反応した。

ランチの輪の中からではなく、教室の入り口のほうから聞こえたその声の主を探す。

そこには案の定、九条生徒会長その人が、ふんぞり返ってこちらを見つめていた。


「食事を済ませたら、席に戻れ。第2のゲームの説明を始める。」


九条はそれだけ言い残すと、長い髪を靡かせながら、颯爽と廊下へと消えていった。

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