第19話 夕焼けとパンツ★

長かったスカートめくりゲームは終了した。

そのあとは九条の指揮のもと、みんなで旧校舎の片付けをすることになった。


旧校舎内はひどいあり様だった。

至る所に水溜まりやチョークの粉が散乱し、備品がぐちゃぐちゃにされ、窓ガラスが割れているところもある。

特に体育館のローションが最悪で、完全にヌメりがとれるまで、蓮司は何度も雑巾がけをする羽目になった。


クラスメイトのみんなも不平不満を口にしていたが、意外にも九条が率先して片づけをする様子を見て、渋々従っていた。

途中、パンツを見た彩芽や穂乃香、結花と目が合ったが、みんな顔を赤くして目を伏せるのだった。


片づけは数時間にわたり、ようやく蓮司たちは解放された。

この後は結果発表が行われるらしい。

みんなが1年B組の教室へ戻る中、蓮司はひとり、旧校舎の入口で美咲を待っていた。


現れた美咲は、少しずつ、慎重に歩いていた。

彼女のスカートはもう穿いてないに等しいほどに短く、そのせいで後片付けも免除されていた。

ようやくゲームから解放されたわけだが、着替えるまではこうして慎重に進まなければならない。


「古川さん、お疲れさま。」

「うん。立花くんもお疲れさま。」


のろのろと校庭を歩く美咲の少し前を、蓮司は歩いていく。

何はともあれ、これでゲームは終了だ。

今日は早く寝て、疲れをとろう。

蓮司は疲れた体をほぐすように、うーんと手を広げて伸びをした。


「立花くん。」


ふいに、美咲に名前を呼ばれた。

蓮司は振り返ると、眩しさに一瞬目を細める。

いつの間にか陽が陰りはじめている。

柔らかなオレンジ色の光の中に、美咲が立っているのが見えた。


「今日は守ってくれて、ありがとうね。」


そう言うと、美咲はニッコリと微笑んだ。

美しい。彼女の笑顔は何よりも美しい。

蓮司も、美咲のことを守り抜けて本当に良かったと、心から思えた。


その時だった。


校庭に一陣の風が吹き抜けた。

微かに砂埃が舞い、木々の葉が音を立てて揺れる。

そしてその風は、美咲のボロボロのスカートを、いとも簡単にめくりあげた。


「あ…。」


美咲が驚いて声をあげた。

しかし、彼女が手で抑えるより早く、スカートは高々と舞い、その中にあるパンツが露わになった。


蓮司は目を見開いて、その光景を見つめていた。

先ほどまで必死に守ってきた美咲のパンツが、目の前にある。

その色は、美咲のように純真な、洗練された白だった。

小さな布地は肌触りの良さそうな素材で、シンプルなデザインながら、中央についた可愛らしいリボンが女の子らしさを演出している。


美しいのは、パンツだけではない。

すべてが露わになった白い太ももは、艶やかで優雅な曲線を描いている。

丸みを帯びたお尻も、大きすぎずも小さすぎもなく理想的だ。

そしてその中心、パンツに隠された女性たるその部分を、蓮司は穴が開くほど見つめる。


蓮司は気がついた。パンツとは、光なのだ。

眩しすぎるから、女の子たちはスカートの中に隠してしまう。

だがこうして衆目に晒されれば、パンツは見る人を魅了してやまない。


特に、美咲のパンツは格別に輝いている。

何もかも、今日見てきたパンツの中で最も美しく、最も神々しかった。


美咲は一瞬遅れてスカートを抑え込む。

あっという間に耳まで真っ赤になり、恥ずかしそうにぎゅっと目をつむった。


「み、見えた?」


美咲は目を開けると、上目遣いで蓮司に問いかけた。

その目には薄っすらと涙がにじんでいる。


しかし、その声は蓮司には届かなかった。

いや、届いてはいるし認識もしているのだが、頭が正しく動作しなかった。

答える代わりに、蓮司はうわ言のようにつぶやいた。


「白…。天使の羽のように美しく、穢れのない、純白…。」


蓮司の言葉に、美咲はあっと驚いたような顔をする。

しかし、すぐにキッと怒ったような顔になり、蓮司に向かって言い放った。


「もう! 立花くんのエッチ!」


彼女はぷんぷんと怒って、蓮司の脇を通り校舎へと向かう。

蓮司はその状態のまま、しばらく動けずに立ち尽くしているのだった。


*******************************************************


「今日はみんなよく頑張ったな。素晴らしいスカートめくりだった。」


九条は教壇のうえで拍手する。

褒められているのかどうなのかも、よくわからない。


黒板にはゲームの順位が乱暴に書かれていた。

蓮司たちが獲得したのは4ポイントで、全体3位とまずますの出だしだ。

1位はやはり千葉と茉莉のペアで、なんと7ポイントも稼いでいる。


「今回のポイントは、次のゲームに引き継がれる。ただし、敗退したペアのポイントはすべて没収、0ポイントだ。」


今回のゲームで生き残ったペアはほんの一握りらしい。

敗退すれば0ポイントというのは、意外とシビアなルールなのかもしれない。


「次のゲームはまた近いうちに実施する。ペアは変更しない予定だから、それまでに親睦を深めておくように。」


九条の言葉に、蓮司は隣の美咲のほうを見た。

美咲もこちらを見たが、目が合うと、顔を真っ赤にしてぷいと前を向いてしまった。

あとで謝らないといけない。


「九条先輩。あの、次のゲームは一体どんな内容なんですか。」


葵がまっすぐ手をあげて質問した。

しかし九条は首を振って答える。


「何度も言わせるな。ゲームの内容は当日まで秘密だ。だが――。」


九条は含みを持たせると、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

嫌な予感がする。彼女の笑みはどうしてこうも邪悪なのだろうか。


「――だが、あえて聞かせてもらおう。」


九条は邪悪な表情のまま、両手を大きく広げた。

舞台女優ばりの大げさな仕草である。

そして、その状態のまま、クラス全体に問いかけた。


「お前たち、"おっぱい"は好きか?」


第2章 スカートめくりゲーム 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る