第18話 ついに決戦!狙うは幼馴染のパンツ★

小田切が扇風機を片手に蓮司たちに迫る。

扇風機からは強力な風が吹き出しており、近づかれれば美咲のスカートはひとたまりもない。


しかし、周囲が鏡が敷き詰められており、風を躱すのは至難の業だ。

あっという間に近づかれてしまい、美咲のスカートがめくれ、パンツが露わになる光景が目に浮かぶ。

その前に、相手の――葵のスカートをめくるしかない。

めくられる前に、めくるのだ。


「さあ、行くぞ!」


小田切が声をあげる。

しかし蓮司の目は、隣にいる葵の姿をとらえていた。


葵は武器の熊手を構え、真剣な顔をしているものの、性格を考えればあまりゲームには乗り気ではないだろう。

小田切と直接戦うより、葵を優先的に狙ったほうが勝機はありそうだった。


葵のパンツ。

彼女とは小学生以来の仲だが、パンツは一度も見たことがなかった。

昔からガードが堅かったのである。

葵に恨みはないが、美咲を守るためにはスカートをめくるしかない。


「行けっ!」


蓮司は美咲の前に立ったまま、手にしたスーパーボールを投げつけた。

葵は驚いて目を見開くが、手にした熊手を大きく振るう。


「えいっ!」


打ち返されたボールは明後日の方向に飛んでいく。

葵はテニス部だから、こういうのもお手の物なのだろうか。

しかし、ラケットではなく長い熊手を振ったことでバランスを崩し、よろめいてしまった。


「今だ!!」


蓮司はその隙を見逃さず、さらにスーパーボールを投げ込んだ。

鋭く跳ねたボールは葵のスカートを持ち上げる。


「いやあん!」


真面目な葵が決して見せない、太ももの大部分が露わになる。

そしてその先の、秘密の布地がついに――。


「おっと! そうはさせないぜ。」


小田切が葵の前に立ちはだかり、蓮司の視界を塞いだ。

おそらくは小田切の後ろで葵のパンツは晒されているはずだが、その様子は全く見ることができない。


「この、へんたい!」


葵が小田切の肩越しに真っ赤な顔を出した。

あと少しで彼女のパンツが見られたのに。


「さあ、次はこっちの番だぜ。」


小田切はそう言うと、一気にこちらに距離を詰めてくる。

強い風を感じた蓮司は両手を広げるが、風の全てを防ぐことはできない。


「きゃあ!」


美咲は間一髪でスカートを抑えるが、はためく布地はビリビリと音を立てる。


「くそっ!」


蓮司は最後のスーパーボールを、扇風機を繋ぐ延長コードに投げつけた。

ボールが連結部分にあたると、少しだけコンセントが緩み、扇風機の電源が落ちる。


「ふん。やるじゃねえか。」


小田切はそう言うが、余裕綽々という様子だ。

蓮司とふたりの距離はまだ少し離れており、うちわでめくりにいく隙はない。

逡巡する間に、葵が延長コードを直しに走りに行った。


『ここまでか…。』


蓮司は心の中でつぶやいた。

葵がコンセントを直せば、再び美咲は強力な風に晒されてしまう。

彼女のスカートは5分も持たず、パンツを見られて試合終了だ。

対抗しようにも、残るうちわでは手の打ちようがない。


「悪く思うなよ。これもゲームだ。」


小田切も勝利を確信しているようだった。

美咲が怯えたように蓮司のシャツの背中を掴む。

しかし、もう彼女を守る術はない。


そう諦めかけたとき、ふいに蓮司は、昨日九条から言われたことを思い出した。


『パートナーとはよく会話しろ。どんなに状況が悪いと思えても、協力すれば道は開ける。パートナーを信じるのだ。』


九条が冷たくこちらを見下すような目をしながら、どこか優しさも混じった声で、蓮司に語る様が目に浮かぶ。


「…ははっ。」


蓮司は自嘲気味に笑った。

小田切が困惑して首を傾げる。


あんな女の言葉に背中を押されるなんて。

もしかして、こうなることも見越していたのだろうか。


「何が可笑しい。追い詰められておかしくなったか?」

「どうかな、本当に追い詰められているのはそっちのほうだぞ。」


小田切の問いかけに、蓮司は堂々と答えた。

この言葉はハッタリだ。

ほんの少しだけ、美咲と話す時間を稼ぐ必要がある。


案の定、動揺した小田切は、コンセントを直して戻ってきた葵と互いに顔を見合わせる。

その隙を蓮司は逃さない。


「古川さん――。」


小田切がこちらを向く前に、蓮司は小さな声で美咲に指示を出した。

そして、腰につけていたビニール袋を手渡す。

視界の外で美咲が微かに頷くのを感じる。


「訳わからないこと言ってないで、これで終わりだ!」


小田切がこちらに向きなおると、再び扇風機のスイッチを押そうとする。

その瞬間に、蓮司は叫んだ。


「今だ!」


同時に小田切めがけて駆け出す。

小田切は驚いた顔で扇風機を構えるが、その前に小田切と葵のあいだに何かが投げ込まれ、パンという音を立てて弾けた。


「うわ!」


弾けた物体から液体が吹き出し、足元に広がっていく。間髪入れずに2つ目、3つ目が投げ込まれ、小田切たちの足元はすぐに水浸しになった。


「なんだこれ! うわ!」


小田切はその液体を避けようとし、つるりと滑って尻餅をついた。

液体の正体は、先程売店で購入したローションだった。

蓮司と美咲は、バケツ一杯あったローションを理科室で小分けに袋詰めし、簡易的なローション爆弾を作っていた。


蓮司の合図と同時に美咲がその爆弾を放り込み、あたり一面をローションまみれにすることに成功したのだ。


「きゃあ!」


葵も足を取られて前に倒れ込んだ。

スカートが舞い上がったが、パンツはぎりぎりで死守されている。

蓮司はその様子を確認すると、小田切の手元に転がった扇風機を、思い切り蹴り飛ばした。


「くそっ!」


小田切が悪態をつく。

扇風機は鈍い音を立てて宙を舞い、敷き詰められた鏡の向こう側にガシャンと落ちた。


これで五分五分だ。

うちわと扇風機ではそもそも勝負にならない。

蓮司がやるべきだったのは、小田切の隙をついて、奴の強力な武器を無力化することだった。


蓮司は次の目標、葵のパンツを狙いに行く。

スカートは水分で溶けてしまうので、葵は四つん這いの姿勢で腰を浮かしていた。しかし、こちらに突き出されたスカートのお尻の丈は短く、軽く仰ぐだけで簡単にめくれてしまいそうだった。

葵は必死に逃げようとするが、ローションのせいでうまく動けないでいる。


小田切はまだ立ち上がれない。好機だ!

蓮司はそんな葵に近づこうとし――、すぐ横でパンッとローション爆弾が弾け飛んだ。


「え? えええ??」


美咲が次の爆弾を投げ込んだのだ。

蓮司も足を取られて、無様にその場で倒れ込む。

床に体を強打して、膝がじんじんと痛んでいた。


美咲のほうを見ると、既に両手に次の弾を装填している。

そういえば、何個投げ込めとか、具体的な指示を出していなかった。


「古川さん、も、もう大丈夫!」


蓮司が叫ぶが、既に爆弾は宙を舞っていた。

最後の2つも弾け飛び、周囲は完全にローションまみれになってしまった。


こうなるともう泥試合である。

這いつくばった小田切が、倒れる蓮司に馬乗りになった。


「やらせるか!」

「この!」


ふたりは取っ組み合いになるが、いかんせんローションまみれなので力も入らず、ぬるぬるになりながら地面でのたうちまわる。

その横では、かろうじてパンツを隠した葵が四つん這いで逃げようとする。

昭和の下世話なテレビ番組のような絵面であったが、やってる本人たちは至って真剣であった。


「この、離せ!!」


蓮司は小田切の体を蹴り飛ばす。

なんとか振り切ることができたが、小田切も今度は美咲を狙いに行く。


「パンツを、見せろ!」

「きゃあ! 来ないで!」


べたべたの状態で下からスカートを覗こうとする小田切から、美咲は逃げようとする。

しかし後ろには鏡があり、残り少ないスペースはローションにまみれている。

迫る小田切に追い立てられ、ついに美咲も足をとられて転倒してしまった。


「あん、だめ!」


美咲はぎりぎりスカートを抑えるが、小田切は手でローションをかき集めると、彼女のスカートに振りかける。

ボロボロの布地は、ローションの水分で裾の方から徐々に溶け始めてしまっていた。

美咲は手で隠すが、下手に抑えるとそれが致命傷になりかねないくらい、ギリギリの状態だ。


「くそ!」


蓮司も必死に葵のほうへと匍匐前進する。

美咲のパンツが開陳されるのは時間の問題だった。

小田切もこちらを追ってはこず、美咲のスカートが破れる様子を凝視している。

その前に、葵のスカートをめくるしかない。


蓮司は葵の後ろまでたどり着くと、手にしたうちわを構える。


「だめ、お願いやめて…。」


葵が真っ赤な顔をこちらに向け、蓮司に懇願する。

片手を伸ばしてスカートを抑えるが、その隙間から、蓮司はうちわで風を送り込んだ。


「めくれろ! めくれろ!! めくれろ!!!」

「ああん、もうやめてよお。」


葵が泣きそうな声をあげる。

彼女の白いお尻のほとんどが見え、パンツまであと数ミリだ。

蓮司がうちわに力を込める。

しかしそのとき、葵がこちらを向いて言った。


「本当にやめて。蓮司になら、パンツくらい、いつでも見せてあげるから…。」


その言葉に、蓮司の視界がぐらついた。

一体何を言っているんだ。パンツを見せるって、しかも俺になら、って――。

葵は目に涙を溜めながら、まっすぐこちらを見ている。

その顔が、幼い頃から見てきた彼女の笑顔と、重なって見えた。


「ああ、もうだめ…。」


遠くで美咲が喘ぐのが聞こえた。

美咲のスカートは大部分が溶け去り、ほぼパンツと同じ面積しか残っていない。

もたもたしていたら、パンツが見えてしまう。


「――ごめん。」


蓮司は迷いながらも、思いきりうちわを振り上げた。

葵のスカートが舞い、パンツの半分くらいが露わになる。

少ない面積だが、色を確認するには十分だった。


「小鳥遊葵のパンツは水色! 爽やかで透明感のある、青空のような水色だ!!」


蓮司は叫んだ。

すぐに九条の声が聞こえる。


『正解。よって小田切幹太、小鳥遊葵ペアは敗退。』


それと同時に、ゲーム開始のときと同じブザーが、旧校舎内に鳴り響いた。


『そこまで。これでゲーム終了だ。生き残ったペアはよく頑張ったな。』


その言葉に、蓮司はその場に大の字で寝ころんだ。

ローションが体中に染み渡るが、気にならない。


「ちくしょう!!」


小田切も声をあげると、同じくその場に倒れこんだ。

美咲のスカートは、本当にギリギリのところで、何とかパンツを隠していた。

葵もローションのないところまで四つん這いで進み、ぺたんと座り込む。

先ほどまでとは打って変わり、体育館は静寂に包まれていた。


ゲームは終了、そして美咲を守ることにも成功した。

しかし、蓮司の気持ちはなんだか複雑だった。

蓮司は悔しがる小田切と、恥ずかしがる葵の顔を交互に眺める。


小田切はまるで引退試合に負けた野球部員のように倒れこんだまま動かなかったが、しばらくすると立ち上がって体育館を後にした。

後ろ姿は悲しげで、蓮司に声をかけることはおろか、一瞥もくれることなく去っていく。

その様子を見た蓮司は、美咲を守る代わりに大事な何かを失ったのだと、悟るのだった。

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