第17話 仕掛けられた罠★

ゴーー!


謎の音は廊下中に響き渡っていた。

そして、その音ともに謎の物体が、こちらに向けて猛スピードで近づいてきている。


蓮司はその物体に目を凝らし――、仰天した。

人だ! 仰向けに寝転んだ人が急速にこちらに迫ってきている!


「パンツを見せろおおお!!」


その人物とは変態クソ野郎、根田であった。

勢いよく仰向けの人間が移動し、しかもそれが不細工な小男なのだから、その様子は驚きを通り越してホラーである。


根田はその姿勢のまま、一直線に美咲の足元に向かってきていた。

下からパンツを覗き込む気だ。


「いけええええ!!」


もう目前までに迫った根田はカッと目を見開いた。

そこで蓮司はようやく気がついた。

スケボーだ。この男はスケボーに仰向けに寝転んだまま、廊下を滑っているのだ。

パンツへの飽くなき探究心に、蓮司は脱帽した。完敗である。


しかし、そんな熱い想いは実らなかった。

美咲はそんな根田を――まあ、当たり前なのだが――横にひょいと飛んで軽く避けた。

方向転換ができない根田は、彼女の2mくらい向こうを通過していく。


「ちくしょおおお!」


根田はそのまま高速で廊下を突き進み、突き当りの壁に頭から勢いよく激突した。

ゴツン!と大きな音がして、根田が頭を抱えて悶絶している。


なんてこった。

根田の顔はただでさえぼこぼこに抉れているというのに、またひとつ凹みが増えてしまったかもしれない。

おいたわしや、と心の中でつぶやきながら、蓮司は廊下の手前にいる根田のパートナー、佐々木くるみのほうへ向き直った。


「いやん、だめ。」


くるみは蓮司と目が合うと、逃げるように駆け出す。

しかし、数歩で立ち止まってしまった。

パートナーと10m以上離れると、即時敗退のうえパンツの色を放送される。

根田はまだうずくまったまま動かないので、くるみはこれ以上逃げることができないのだ。


「悪いけど、めくれせてもらう!」

「きゃあ、やめて!」


蓮司は中腰になると、地を這うようにうちわをスイングし、くるみのスカートの中に風を送り込んだ。

逃げられないくるみは手でスカートを抑えながら、必死に蓮司の攻撃をよけようとする。

彼女が身をよじるたびに、クラスで1番の巨乳がぽよんぽよんと揺れていた。


「この、この!」

「だめだって! 見ないで!」


彼女が悲痛な声をあげて逃げ出そうとしたそのとき、つるりと足が滑って前に転んでしまった。


「きゃあ!」


倒れたくるみは、蓮司のほうにお尻を突き出すように四つん這いの姿勢になった。

あまりにも無防備だ。まるでめくってくれと言わんばかりのスカートに、さすがの蓮司も少し申し訳ない気持ちになる。

でも仕方がない。蓮司は心を鬼にして、目の前のスカートをめくりあげた。


「あん。」


くるみが官能的な声をあげる。

自分のパンツが見られたことを感じたのだろう。

いつもとは違うくるみの声に興奮しながら、蓮司は目の前のパンツを凝視した。


くるみのパンツは、赤色の布地に黒のタータンチェック柄だった。

可愛らしい見た目だが、転んだ拍子にそうなったのか、そのほとんどがお尻の割れ目に食い込んでしまっており、Tバックと見紛うような状態になっている。

くるみの丸まるとしたお尻はほぼ隠れておらず、至近距離で見ている蓮司にはその産毛まで確認することができた。


今までで一番近くで見たパンツに、蓮司は胸にこみ上げるものがった。

昨日までは全く縁のないものだったのに、今ではこうして、食い込む布地の隅々まで眺めることができている。

スカートの中の秘密をついに暴いたのだと、蓮司は心の中で密かにガッツポーズをするのだった。


「佐々木くるみのパンツは赤! おしゃれでセクシーな、赤と黒のチェック柄だ!!」


蓮司が高らかに宣言し、くるみの敗退が決まる。

唇を噛みながら俯く彼女は、普段とはまた違った美しさがあった。

パンツひとつで人はここまで魅力が増すのである。


「もう! 一体何人いるのよ。」


美咲がうんざりというようにつぶやいた。

彼女もここまでスカートをめくられそうになったのははじめてのことだろう。


「もう少しの辛抱だよ。」


蓮司は彼女を宥めるが、自分自身もだいぶ疲労がたまってきていた。

できれば、これ以上は戦闘もなく穏便に終わらせたいものである。


「さあ、先に進もう。」


蓮司はスケートボードを拾い上げると、美咲に声をかけ、ふたりは廊下を進んでいった。


*******************************************************


ほどなくして、ふたりは体育館にたどり着いた。


「暗いね…。」


体育館は照明が落とされていて、そのうえカーテンまで閉められている。

廊下からの光が差し込む範囲以外は、真っ暗で何があるかよくわからなかった。


「この感じだと、誰もいなそうだな。」


蓮司はそう言うと、恐る恐る体育館の中に足を踏み入れる。

ペタペタという足音が、室内に小さく響き渡った。


「ちょっと怖いけど、ゲームが終わるまでここにいるのはどうかしら。」


美咲も後に続いて体育館に入る。

彼女の言うとおり、ここで時間いっぱいまで過ごすのが安全か。

そう思った瞬間、突然体育館の入口が音を立てて閉められる。


「なんだ!?」


体育館が完全に暗闇になり、周囲の様子が確認できなくなる。

美咲が怯えたように、蓮司の腕をぎゅっと掴んだ。


そのまま少しすると、バッ、バッと音を立てて徐々に明かりがついていく。

段々と体育館の中の様子が明らかになる。

ぱっと見る感じ何も異変はない――かと思ったが、一瞬だけ床がキラリと光るのを、蓮司は見逃さなかった。


「古川さん、危ない!」


蓮司は美咲の腕を掴むと、体育館の中央まで引っ張っていく。

おそらくあれは――。

明るくなった体育館の床には、大小様々な鏡が、至る所に置かれていた。


「鏡!? なんで?」


美咲が驚きの声をあげた。

スカートを着た状態で鏡の近くに立てば、反射で中のパンツが見えてしまう。

つまり、これは体育館に来た女子のパンツを見るための、罠だということだ。


「まさか、お前がかかるとはな。」


姿を現したのは小田切と葵だった。

体育館の入口を塞ぐように立ち、その手には家庭用の扇風機が握られている。

電源は何個も延長コードを繋ぎ、体育館の壁のコンセントにつながれていた。


「小田切…!」


蓮司は美咲を隠すように前に出る。

状況はかなりまずい。鏡が敷かれた体育館の中で移動できる範囲はかなり限られている。

その状態で、強力な扇風機と戦わなければならない。

吹き出す風を避けきることは、ほとんど不可能に思えた。


さらに、美咲のスカートはもう限界だった。

ただの風ですら、スカートを引き裂きかねない。

すでに小さなスリットだらけの美咲のスカートからはふとももの大部分が露わになっている。

次に何か衝撃が加われば、そのスリットのどれかが大きく開き、美咲のパンツが丸見えになるだろう


つまり、絶対絶命の状況というわけだ。正面きって戦うのは極力避けたい。

蓮司は嫌な汗をかきながらも、小田切に話しかける。


「なあ、こんなに鏡集めるの、大変だったんじゃないか?」


しかし小田切はニコリともせず、扇風機をこちらに向ける。


「負ける訳にはいかないからな。やれることは全部やるだけだ。」


隣の葵も、掃除用の熊手をぎゅっと握りしめ、強張った顔でこちらを見つめている。

ふたりとも完全にやる気だ。

蓮司もゆっくりと背中に手を回すと、差し込んでいたうちわを引き抜く。


『スカートめくり中の諸君。ゲームの時間が残り5分となった。最後まであきらめず、スカートを捲り続けてくれ。』


ちょうど良いところで、九条の放送が入った。

いよいよ残り5分。それまであの扇風機から逃げ切れれば、美咲のパンツを見られずに済む。

これが最後の戦いだ。


「さあ、行くぞ!」


小田切が声をあげると、扇風機のスイッチを入れた。

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