第15話 追加の武器
「…こんな所で何やってるんですか。」
机にふんぞり返る九条に、蓮司は呆れたように声をかける。
「何って、見てわからんかね。売店だ。」
九条はさも当然と言わんばかりに言うと、両手を広げ、目の前のカウンターを指した。
彼女の言うとおり、カウンターの上には商品と思しきものが並んでおり、その横には値札のようなものもついている。
「売店って、これもゲームの一環なんですか。」
「そのとおりだ。今まで獲得したポイントと引き換えに、追加の武器が手に入る。」
追加の武器。
そう呼ばれた品々を見て、蓮司は笑いそうになった。
置いてあるのは珍妙なアイテムばかりで、遠くからスカートを覗く双眼鏡や、スカートを掴むマジックハンド、果ては先ほどの内村の武器の小型版、ハンディタイプの扇風機もある。
すべてスカートをめくるために用意されたというわけだ。
「ほしいものがあったら、そこの部下に声をかけてくれ。私は仕事に戻る。」
九条はそう言うと、椅子をくるりと回して背を向けた。
その先にはたくさんのモニターが並んでおり、黒服たちがそれを監視している。
おそらくは、ここで全校舎内の様子を見ているのだろう。
すでに九条は真剣な面持ちで画面に集中している。
まったく、その真面目さを普段から出してほしいものである。
「せっかくだから、ちょっと見てみる?」
美咲の言葉に、蓮司は頷いた。
武器に関して言えば、蓮司たちの持っているうちわとスーパーボールだけでは心許ないので、強力な武器が手に入るならありがたい。
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
「なんだこれ、高すぎる!」
先ほどの双眼鏡でも必要なポイントは3ポイント、強力なハンディ扇風機にいたっては5ポイントも必要だ。
それだけスカートをめくれているなら、こんな武器いらないのではないだろうか。
「えーと、私たちは彩芽を倒したから…、1ポイント?」
「はい。おふたりの現在の獲得ポイントは1ポイントです。」
首を傾げる美咲に、黒服の女性が機械的に答えた。
1ポイントで買える品物はほとんどない。
さらに言えば、ポイントが多いペアが優勝なので、ここで消費して良いのかという話もある。
正直厳しいか。
そう思ったとき、蓮司はとある商品が目についた。
カウンターの一番端、バケツ一杯に入れられた、透明な液体。
「これは…。」
蓮司は商品を手に取ると、ふるふると振って液体を揺らす。
粘りのある性質を見て、その液体が何かを理解する。
「なに、これ?」
蓮司は美咲の問いかけには答えない。
美咲には――、まだ早いと言うか、きっと言わない方がいいだろう。
なんせ、所謂アダルトグッズなのだから。
その液体はちょうど1ポイントで交換可能だった。
蓮司は少し考えこむ。
そういえば、さっき理科室があったよな。
「よし。これにしよう。」
「え? 何に使えるのよ、これ。」
訝しむ美咲をよそに、蓮司はその商品をレジに運んだ。
生徒会室の端にはコンビニのようなレジの設備が置かれており、そこにも黒服が控えている。
「いらっしゃいませ。袋はお付けしますか?」
「あ、はい。できるだけたくさんください。」
黒服が商品をスキャンすると、ピッと音が鳴り、蓮司は画面の支払ボタンを押す。
なんだこのシステム、必要か?
「ありがとうございました。」
ペコリとお辞儀する黒服を横目に、蓮司は美咲のほうへと向きなおる。
「さっき通った廊下に理科室があったから、あそこまで戻ろう。」
蓮司の提案に、美咲は不思議そうな顔をしながらも頷いた。
廊下へ出ようとするふたりに、九条が声をかける。
「気をつけろ。残っているペアは猛者ばかりだ。これまで以上に厳しい戦いになる。」
九条は顔こそこちらに向けないが、忠告をしてくれたことに、蓮司は一応礼を言う。
「ありがとう、ございます。でも俺たちは、負けませんから。」
そう。俺たちは負けるわけにはいかない。
敗北とは、すなわち美咲のパンツが晒されるということだ。
そんな事態は絶対に、避けなければならない。
蓮司たちは廊下に戻ると、先ほどの来た道を逆戻りする。
バケツを持っているので、液体をこぼさないように気を付けないといけない。
「あーあ、これで0ポイントになっちまったな。」
蓮司はバケツに入った液体を眺めながらぼやいた。
とはいえ、負けてしまったらポイントは没収されるので、少しでも勝機を高めたほうが良いはずだ。
「ねえ。立花くんて、やっぱり優勝したいと思うの?」
蓮司の横で、美咲が顔をこちらに向けて聞いてくる。
「したいよ。でも今は、古川さんを守る方が大事かな。」
蓮司はそう言って、顔が赤くなるのを感じた。
今までは勢いで言っていたが、改めて言うと随分クサい台詞である。
美咲も少しだけ頬を染める。
「へーえ。じゃあ、付き合いたい人がいるのね?」
美咲の質問に、蓮司はドキリとする。
それは美咲だ、なんて言えるはずもない。
「そ、そうかもね。古川さんは? 優勝したい?」
蓮司の返しに、美咲はうーんと考える。
「私は別にいいかな。あんまり付き合うとか、考えたことないし。」
他の男の名前が出なかったことを安堵する一方、自分も圏外であることを悟り、蓮司は少しだけ落ち込んだ。
まだまだ先は長いようである。
「でも、立花くんが優勝したいなら、協力するよ。もちろん、負けない範囲でだけど。」
そう言った美咲の目はキラキラしていた。
友人の恋路を応援する、と言いたいのだろうが、すれ違いに蓮司は心を痛めるのだった。
ようやく理科室にたどり着くと、蓮司は机の上にバケツを置いた。
予想どおり、理科室にはかつて使われていたビーカーやら何やらの備品が残されている。
「よし。じゃあ古川さん、ちょっと手伝って。」
蓮司はそう言うと、早速作業に取り掛かった。
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