第10話 狙われたスカート★
『まず初めに武器を取り出してみろ。スカートめくりは武器を使ってしか行うことができない。倒した相手の武器も使っていいぞ。』
九条の呼びかけに、蓮司は渡されていた袋を開く。
中から出てきたのは、白地に日の丸がデザインされた、普通のうちわであった。
「なんだこれ。こんなのが武器だっていうのか。」
試しに仰いでみるが、ちょっと涼しくなるくらいで、特段変わったところはない。
「もしかして、うちわで仰いでめくるってことじゃないかしら。」
美咲もうーん、と頭を抱える。
教室で武器の入った袋を渡されたとき、その大きさは人それぞれで、物によっては人の背丈くらいの袋もあった。
九条も武器はランダムと言っていたので、他の生徒には違うものが配られているのかもしれない。
蓮司は美咲の儚げなスカートを見つめる。
「ちょっと古川さんのスカートで試してみてもいい?」
「は? 何言ってんの?」
美咲は先ほどとは打って変わって冷ややかに言い放った。その顔から笑みは消える。寒暖差で風邪をひきそうだ。
「やだなぁ、冗談だって。」
蓮司は引きつった顔でおどけてみせるが、美咲の顔は仮面のように表情がない。こんな一面もあったのか。
『次にルールについてだが、違反がないよう、校舎全体には監視カメラが設置されている。私と部下が常に見ているので、不正はしないように。』
「はあ、最悪。」
九条の説明に、美咲がため息をついた。
女子からしてみれば、自分がスカートをめくられるところをカメラに収められるわけで、いい気分な訳がない。
九条の黒服が全員女性であると言うのが唯一の救いか。
『それから、ペアと10m以上離れると敗退することも忘れるな。敗退した者のパンツの色はこの放送でアナウンスする。』
つまり、晒し者という訳である。
あの女の辞書には「道徳心」とか「倫理観」といった言葉はないのだろうか。
『最後に、このゲームのボーナスペアを発表する。ボーナスペアは、立花蓮司と古川美咲のペアだ。』
「えええええ!?」
最後の一言に蓮司は思わず叫び声をあげた。
ボーナスペアは、倒したときに通常1ポイントのところが5ポイントになる。
つまり、美咲のパンツは、他の生徒の5倍の価値がついたということだ。
まあ実際は5倍でも足りないくらいだとは思うのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
『というわけで、制限時間いっぱいまで頑張ってスカートをめくってくれたまえ。』
なんとも不思議な激励を最後に、校舎中にブザーが鳴り響いた。
いよいよ戦闘開始、ということである。
蓮司はあたりを見回した。
下駄箱のあたりは周囲に何なく、色んな方向から丸見えの状態である。
「古川さん、まずは隠れられるところに移動しよう。」
「わかった。」
美咲は頷き、蓮司の後ろに隠れるようについてくる。
ふたりは廊下に出ると、校舎の奥のほうへ向かって慎重に前に進みはじめる。
やはりどこか教室に入るのが得策だろうか。
旧校舎の配置はよくわからないので、とりあえず進んでみるしかない。
しかし、突き当りの角を曲がろうとしたところで、反対側から来ていた他のペアと鉢合わせしてしまった。
「いたぞ! 立花だ!」
男子生徒が声をあげた。
まずい。蓮司たちはボーナスペアなので、真っ先に狙われてしまう。
蓮司は美咲の腕をつかむと、踵を返して走り出した。
「ちょっと!」
美咲が声をあげ、慌てて反対の手でスカートのお尻を抑える。
短いスカートでは、ちょっとの動きでパンツが見えてしまう。
今回はかろうじて隠しきれたようだが、今後は注意しないといけない。
相手の男子生徒は手にした武器――釣り竿を構えると、美咲のほうに向かって大きく振りぬいた。
先端の重りが勢いよく発射され、針が美咲のスカートに直撃する。
「きゃあ! 立花くん! ストップ!」
慌てて足を止めると、美咲のスカートの裾が、ピンと張られた釣り糸により持ち上げられていた。
あらかじめ手で抑えていなかったら、あっという間にパンツが丸見えになっていただろう。
「よし、かかったぜ!」
男子生徒は嬉しそうに叫ぶと、勢いよくリールを回した。
針にかかった美咲のスカートが少しずつ持ち上げられ、段々と色白なふとももが露出してしまう。
「だめ、やめて!」
美咲が悲鳴をあげる。
蓮司に目の前に起きている出来事が信じられなかった。
本当に、クラスメイトのスカートをめくろうとしている!
一瞬あっけにとられかけたが、すぐに我に返り、急いでスカートに引っかかった針を外そうとする。
「この…。」
美咲のスカートは、針を外そうとするとピリッと音を立てて小さな穴が開いた。
本当に脆い素材である。攻撃を受け続けていたら、いつか破れてしまうかもしれない。
蓮司は外れた針を掴むと、壁に向かって思いきり投げつけた。
「あ、こら…!」
男子生徒が止めようとするが間に合わない。
針は廊下の壁に深々と刺さり、簡単には抜けなさそうであった。
「古川さん、今のうちに!」
相手が針を外しに行く間に、ふたりはその場から逃げることに成功した。
やはりうちわではまともな戦闘ができるとは思えない。ハズレ武器だったということだろうか。
ふたりは廊下を逆走すると、とりあえず目の前にあった扉の中に隠れた。
じめっとした空間だが、今は我慢するしかない。
蓮司と美咲は息をひそめていたが、誰も追ってこないことを悟ると、安堵のため息をついた。
「ふう、なんとかなったね。」
蓮司が笑いかけると、美咲も微笑みを返す。
しかし、周囲を見渡すと、急に顔が曇り始めた。
「ちょっと立花くん、ここ女子トイレよ。」
蓮司もはっとしてあたりを見回した。
目の前にいくつかの手洗い場があり、その奥には男子トイレよりも多くの個室が並んでいる。
生まれて初めて入った女子トイレを、蓮司は思わずよく見てしまう。
「もう。男子ってどうしてこうなのかしら。」
「ちがうって。俺もよくわからないまま入っただけだから。」
慌てて取り繕うが、美咲は聞く耳を持たない。
不機嫌そうな顔のまま、こちらをじっと見つめて続ける。
「このゲームだって、女子のパンツを見たい男子のためのゲームでしょ。」
美咲の言葉に、蓮司は二の句が告げなかった。
考案者こそ九条生徒会長ではあるものの、その内容は女子にとって何のメリットもないものだった。
「私ね、お父さんとお母さんから、自分の体は本当に好きな人にしか見せちゃダメって言われているの。だから、将来結婚する人以外に、パンツとか見せたくないんだよね。」
美咲はふーっと息を吐くと、悲しそうに目を伏せる。
彼女が本心を語るのを聞くのは初めてだった。
「俺も――。」
蓮司は思わず口を開いていた。
「俺も嫌なんだ。古川さんのパンツが、みんなに見られるの。」
「本当に? 立花くんは私のパンツ、見たくないの?」
美咲は疑いの目でこちらを見ている。
「他の男に見られるくらいなら、俺は古川さんのパンツを見たくない。男だからって、みんながみんなパンツを見たいわけじゃないよ。」
この言葉は半分嘘だった。
蓮司は美咲のパンツを見たくないだけで、他の女の子のパンツは是非とも見たかった。
美咲は何か言いたそうに口を開ける。
が、そのとき、頭上にあるスピーカーから、音が鳴り始めた。
『あー、あー、報告。七原秋也・藤崎香織ペアがパンツの色を当てられ敗退。パンツの色は紫。』
九条の声で、最初の敗退者の報告が響き渡った。
あのギャルの藤崎さんは、見た目に違わず派手目のパンツだったのか。
「香織…、可哀そう。」
思わず想像する蓮司とは反対に、美咲は友人を気遣っていた。
蓮司も邪な考えを払いのけ、美咲へと向き直る。
「古川さん。俺たちも戦わなくちゃ、パンツを見られてしまう。」
蓮司の真剣な眼差しに、美咲もまっすぐこちらを見る。
「だから、一緒に戦ってくれ。古川さんを、守るために。」
「わかった。その言葉、信じるね。」
美咲は深く頷いた。艶やかな黒髪が宙を舞う。
「でも、うちわだけでどうやって戦ったらいいのかな。」
「そうだな。対等に戦うには、ちゃんと作戦を練る必要がある――。」
蓮司はそう言うと、美咲に頭で考えていたことを説明しはじめた。
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