第3話 九条生徒会長

制服の女性が我が物顔で教室へ入ってくると、後ろから黒服の女性たちが現れて、ぞろぞろと続いてくる。

不穏な状況に、クラス中がざわめきに包まれる。


彼女は黒板の前にある教師用の椅子に腰かけると、偉そうに足を組んでこちらを向いた。

その顔だちは端正で、間違いなく美人と言えるものだったが、鋭い眼光が強烈な威圧感を放っていた。


「私は3年生の九条だ。今日からお前たちのクラスの担任を代行することになった。」


彼女の発した言葉に、クラスメイトの誰かが声をあげた。


「3年生の九条…? 大金持ちで生徒会長の?」

「いかにも、美人で巨乳で大金持ちで生徒会長の九条 梢(くじょう こずえ)だ。」


九条は教師用の椅子に腰かけたまま、これ以上ないほどにふんぞり返った。

なんだか余計な形容詞が追加されているが誰も突っ込まない。

相手が生徒会長であるとわかった以上、余計な発言は命取りになるとみんながわかっているからだ。


九条梢の存在は、入学した当初からよく聞こえてきていた。なんでも、このあたりで1番の富豪の一族のお嬢様だという。

その一族は、学校に代々多額の寄付を続けており、そのため一族の人間が入学すると必ず生徒会長に任命されるのだとか。そして、その権力を盾に学校を好き放題にしている、というのが彼女にまつわる噂であった。


つまり、目の前で威張っている女は相当な要注意人物ということである。

普段は軽口をたたく小田切も、正義感の強い葵も、黙り込んで様子を伺っていた。


九条は立ち上がると、芝居がかった仕草で教壇を闊歩し始めた。

こうして見ると、普段立っている桃子ちゃんよりも随分と背が高い。歩くたびに胸の大きな膨らみがたゆんと揺れる。


「自己紹介はこのくらいでいいだろう。本題だが、お前たちのクラスは夏休みまで私が担任を代行することになった。そして担任権限で、夏休みまでの授業の中止を宣言する。」


授業の中止だって?

蓮司は耳を疑った。授業がないのは願ったり叶ったりだが、あまりに突然すぎやしないか。

そもそも生徒が教師の代行をする、ということ自体が意味不明だし、情報量の多さにクラス中が圧倒されていた。


「すみません。担任代行って、佐藤先生はどうしちゃったんですか。」


葵が恐る恐る手をあげた。

その声は不安からか、いつもよりずいぶん震えたものになっている。


「佐藤先生は、ご家庭の事情で夏休み明けまでお休みをとられることになった。なので、私を担任を代行する。」


九条は淡々と答える。

ご家庭の事情って、昨日までは普通に授業していたじゃないか。

佐藤先生――桃子ちゃんはまだうら若い新人教師で、子供もいないためそんなに休む用事があるとは思えない。一体何があったのだろうか。


「でも、来週は期末テストがあるので、授業しないのはまずいんじゃ…。」


葵は生徒会長に怯みながらも続ける。

普段ならテストなんてどうでも良いのだが、今回ばかりは葵の言うことはもっともである。


「期末テストも私の一存で中止することになった。それよりも、もっと大事なことがあるからな。」


九条は長い髪の先をいじりながら、葵の質問につまらなそうに答えた。

葵は反論しようとして、慌てて口ごもる。

状況的に、相手の出方を伺ったほうが賢明なのは明らかだった。


九条は窓際に寄りかかると、顔だけこちらに向け、一人一人の顔をじろじろ見つめた。

蓮司も一瞬彼女と目が合い、心臓をぎゅっと掴まれた気分になる。

九条はぐるりと教室中を見回し、にやりと笑ったかと思うと、口を開いた。


「このクラスから、不純異性交遊の兆しを感知した。よって風紀を正す必要がある。」


不純異性交遊。

聞いたことはあるが、意味はよくわからない。確か、なんというか、つまりエッチなことだったと思う。

その兆しが、うちのクラスにあっただって? 蓮司の知る限り心当たりはなかった。


しかし九条は続けた。


「つまり、このクラスは、不健全性的行為防止法の対象に選ばれたということだ。」


うわっ、と誰かが呻くのが聞こえた。

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