第2話 舞台の開演

 某日、都内某所。

 俺たちは薄暗い部屋に集まっていた。窓もなく、ドア一つだけの部屋だ。

「これで参加者は全員揃いましたね。それでは私たちスタッフは退出させていただきます。以降は無線による音声にて指示を行います。それでは最後の大舞台、盛大に楽しんでください」

 そう言ってスーツの人たちは部屋を去り、入ってきたドアのロックが閉められる。

 部屋の中には沈黙が漂っていた。そう。彼らも俺と同じく、この世界に存在価値を見出せない同類なのだ。その心情は非常によくわかる。わかりすぎて、自分も早く消えたいと切に願うばかりだ。あぁ、早くショーは始まらないだろうか。

「ちょっと機材トラブルの影響で開始が十分ほど遅れます。その間参加者同士で会話をして緊張をほぐしておいてください」

 無線でただ一言。その一言が俺たちを絶望させる。

「あ、あの……自己紹介……しませんか……」

 三十秒ほどの沈黙を破ったのは、何かのアニメキャラのTシャツを着たロングヘアの女性だった。視線が彼女に集中する中、続ける。

「わたし……Yotsubaって名乗っています……よろしくお願いします……」

 正直、誰かが話し始めないかとその時を待っていた。一番乗りで話し始めるのはとても勇気のいることだ。スベったらどうしよう。その恐怖さえも俺には耐えられないものなのだ。

 俺は称賛の意もこめて続けて発言する。

「俺はKINGって名乗ります。よろしく」

「僕はMirrorと名乗らせてもらうよ」

「あたしはKarenでーす。よろしくー」

 やっぱり一人が発言するときれいに進んでいくものなんだな。

「皆さん……ここに集まった縁ですし……不幸語りでもしましょうか……」

 そして再びYotsubaが発言する。リーダーシップのある方なのだろうか。

「あたしからでいい? わたしねー、このしゃべり方以外が苦手でー、ちょっと人から避けられがちなんだよねー。ちなKarenって本名ねー」

「次は僕だ、いつからか自分の幻影みたいなのが見えるようになってね、Mirrorって名付けたそいつがいつも嫌なことばかり言ってくるんだ。もう耐えられないよ」

 みんなも俺相応な不幸な目にあっているんだな。初めて見る同志に感動すら覚える。

「次は俺ですね。クラス全員から無視されて早一年の高校生です。名前の由来か……まぁ、好きだったゲームに由来しているとだけ。今は大嫌いだけど」

「私はですね……私は……アニメオタクをこじらせて……会社でいじめられて、もう、我慢ができなくなって……」

「皆さん、大変だったんですね。でも俺たちは幸運にもこうして集まることができたんです、最後くらいは世界に爪痕を残してみんなでサヨナラしましょう」

 その声は気づかないうちに口を出ていた。参加者たちの過去を聞いて気持ちが高ぶってしまったようだ。

「すいません。配信の準備ができました。それでは目を閉じてください。目が覚めたら知らない場所にいたというテイで進めていきます。それでは十五秒前――」

 いよいよショーが始まるようだ。

「皆さん……もらった腕輪は付けましたね……」

 その声に皆がコクリとうなずく。

「十秒前――」

 俺は軽く目を閉じ、高まる心を落ち着かせる。

「五秒前、四、三、二――」

 最初で最後、最高の晴れ舞台にしてやる、そう心に誓った。



 薄暗い部屋に男女が二人づつ。彼らは同時に目が覚めると同時に、自分の置かれた状況に困惑する。

「ここ……どこなんですかぁ?」

 ロングヘアの女性に、

「いったいどういうことなんだ!」

 眼鏡を付けた男子児童、

「あのさー、君たちがあたしを誘拐したんじゃないのー?」

 制服を着た女子高生、そして

「皆さん、一回落ち着きましょう。きっと俺たちは仲間です」

 水色のシャツを着た青年の四人は、まさしくパニックに陥っていた。まさしくこんがらがっている状況の中、天井から音が流れ出す。

「ようこそ、この部屋へ。これからあなたたちには、命がけのゲームに挑戦していただきます。ここから生きて帰れるのたった一人、いったい誰になるんでしょうねぇ?」

 音声がそこで途切れると、全員われ先にと文句を口にする。

「ゲームなんかに付き合ってられるかー! あ、ドアあるじゃん、このままでーちゃお!」

 その中でも一番声が目立つ女子高生の子が出口へ向かって歩き出したその時――パタリ。一瞬のうちに倒れてしまった。他の三人は彼女のもとへと向かい、手首や口に手を当てている。

「あーあ。思ったより早く最初の被害者が出てしまいましたね。ゲームに逆らうとこうなりますからね。あとドアは鍵が掛かっているので中から出られないですよ」

 天井から声がすると残りの三人は急に静かになった。

「まぁ、すぐに出られますよ。この部屋は、ね。手下たちよ、やってしまいなさい」

 そういうとドアから黒ずくめの男が三人現れて彼らに目隠しをし、どこかへと連れ去っていった。

「まずは第一ゲームです。生き残れるのは二人だけですよぉ」



同時刻・niyaniya生放送 コメント欄

:わくわく

:本物のデスゲームってどういうことだ?

:楽しみ

:デスゲーム物大好きなんだよな

:人が死ぬ瞬間って見てて楽しいよね

:お、はじまった

:スタート!

:え、これ実写!?

:CGじゃないんかい

:まさかのリアル

:こりゃ本物だわ

:これ実際に誘拐してきてるんだ

:混乱は見ものだよねぇ

:あー、反乱はしないほうが……

:第一犠牲者

:きたーw

:無慈悲こそエンターテイメント

:連れてかれた

:わくわく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る