Battle:7 衝突
前回までのあらすじ:
マヤ、エイジ、アクルス、ラフロイグの四人は
生徒会から脅迫まがいの口止めを受けた事で
彼らが何かを隠していると考え、秘密を暴き
襲撃犯の正体を解き明かす為に行動を開始。
そんな中、マヤは生徒会の隠している情報や
一連の事件とその黒幕に繋がる手掛かりを
求めて列車内の捜索を始めるのだった……
ー送迎急行、第2客室ー
「うーっ……」
マヤは内心で舌打ちしながら、500億味
ビーンズを咀嚼する……口に含んだのは
タルタル風味のビーンズだったが、まさに
苦虫を噛み潰したような表情であった。
彼女の周囲には必ず生徒会保安部の兵士が
2人以上おり、絶えず監視されている状況だ。
定期的に水晶玉で何者かと連絡を取っており
仮に運良く撒けたとしてもいつまでも
隠れていられる保証はどこにもない。
攻勢に出ようにも他の挑戦者の目があるし、
向こうにも連絡手段がある以上は1対1の
状況を作らなければやはり厳しかった。
「追い詰めたぞ」
だが、厳しいというだけで不可能ではない。
マヤは人目につかない貨物車両に迷い込んだ
体を装って入り込み、生徒会の兵士を睨む…
「ここなら他の人達に気兼ねせず遊べる。
追い詰められたのはどっちかな?」
マヤが杖を構えると同時に、生徒会の兵士も
一斉に剣やナイフ、杖を鞘から抜き放つ。
「ハッ!あまり面白い事を言うなよ魔女め…
こっちは幾らでも増援を呼べるんだ、
お前があの短時間で仲間を集めたとしても
せいぜい2、3人が限度の筈だぜ」
相手は4人。いずれも冒険者や魔術師を
志しているだけはあり、そこらのチンピラや
魔女狩りの暴徒とは強さの次元が違う。
「増援が到着する前に倒せばいいってだけ。
その後、この列車の中を全力で逃げ回って
君達の手を10分でも煩わせる事が出来れば
その隙に他の仲間が成果を上げてくれるよ」
「地獄でほざけーッ!」
ヒュンッ!
マヤは先陣を切って突っ込んで来た
ナイフ使いの喉を狙った鋭い突きを躱し、
猿のように素早い身のこなしで積みあがった
木箱やトランクの山を駆け上がる!
「撃てっ 足を狙うんだ」
バシュン!
「わわっ!?」
逃げ道を潰すように放たれるボルトの雨を
躱し、荷物を背に杖を振りかぶる!
「直接切り刻んでやるわっ」
ナイフ使いが荷物の山を駆け上がって
マヤに強烈な一撃を加えようと飛び出す!
「
シ ュ ゴ オ ッ !
カラスの嘴を模った杖の先端から緑色の
毒々しい雲が噴射され、不意に視界を塞がれ
足を踏み外したナイフ使いが山の頂上から
一直線に落下する!
「ガボ……ゴブ、ブバァア!!」
ナイフ使いは素早く立ち上がったが
すぐに口元を抑えてうずくまり、嗚咽の後に
ドロドロとした茶色い液体と抜け落ちた
数本の歯を2、3秒ほど吐き続けて失神した。
「なっ……なんだあっ!?」
前列で彼女を取り囲む数名の兵士たちが
顔を青くして僅かに後ずさる。
「け、喧嘩は苦手なんだけど……
こうなったのは君達のせいだからね!」
マヤは杖を構え直し、周囲を威圧した。
普段はシャワー室や台所の掃除に使っている
「酸の雲」だが、相手の呼吸に合わせて
近距離で使えば喉を潰し、はらわたを焼く
非人道的な化学兵器へ早変わりだ。
「どうとでも言え、一人で何が出来る?
トラビスは俺たちの中じゃ一番歳下だ」
「生きてこの車両を出られないぞ…!」
しかし相手もそれなりの場数を踏んでいる
生徒会の兵士、仲間が一人倒れた程度では
強固な結束に亀裂は入らない。むしろ仇を
取る為に奮起する者すら存在した。
「食らえ!」「しゃあぁぁーっ!」
一人が片手杖を構え、もう一人が鉤爪を
装備してマヤに飛び掛かる!
(左右からの挟み撃ち……上は天井、なら!)
「えいっ!」
ズボッ
マヤは二人を限界まで引き付けたのち、
一瞬で荷物の山に潜り込んで攻撃を回避!
「バカめ、このまま吹き飛ばして……」
「よせ!」
紛れ込んだ荷物ごとマヤを高位の炎魔法で
爆殺しようとした片手杖の兵士を他二人が
慌てて制止する。
「この列車に貴族や権力者の縁者が一体
何十人乗っていると思ってるんだ!?
彼らの私物を故意に破壊したとなれば
文字通り俺たちの首が飛ぶぞ!」
「ぐっ……」
(ママ、小さくて素早い身体に産んでくれて
どうもありがとう……お陰で助かったよ)
マヤは鞄と箱の山に埋もれながら杖を抱き、
息を殺して生みの親に感謝した。
「おいコラ、さっさと出て来い!」
「バーカ!この腰抜け!べロべロべー!」
「チッ……どうするんだ?まともに
攻撃出来ないのにどうやって無力化する?」
相手から迂闊に攻撃を仕掛ける事は出来ず、
かといって丁寧に荷物を片付けようものなら
奇襲で一網打尽にされる可能性が高い。
図らずも、今この瞬間マヤは相手の弱点と
逆襲のチャンスを握る事に成功していた。
(残念だったね!君達は所詮このマヤの
手のひらで踊ってるに過ぎなかったのさ!)
「部屋の暖房を全開にして蒸し焼きにしたら
どうだ?息苦しくなって出て来るかも」
「それだ!」
「あっ」
無慈悲に空調のダイヤルが回され、室内の
温度が1度、また1度と上がってゆく。
「えっ……あの、ちょっと?」
「よし、これであの方にも手土産が出来た。
俺たちは昇進間違いなしだ、やったな!」
ガチャン!
5人が部屋から出ていくと同時に
第3貨物室のドアが施錠され、数分後には
灼熱地獄と化す予定の部屋に放置される。
「あっ、あっあっあっあっ……」
ガ ゴ ン !
「えっ?」
慌てるマヤの目の前に壊れた通気口の蓋が
勢いよく落下し、人影が現れた。
「しかし、あなたも考えましたねえ」
声の主は空調のダイヤルを元に戻すと、
生徒会の制服を抜いで床に投げ捨てる。
「まさかワタシがダクト内に隠れている事を察した上で敵を一箇所に集め、空調を弄る
事によって居場所を知らせて一網打尽に
してしまうとは……見事な作戦です」
ガ バ ッ
「で……でしょ?昔から周りとは違うと
思ってたけど、やっぱ自分でもナイスな
作戦だと思ったんだよねー!天才って奴?」
マヤは荷物の山から飛び出してエイジに
大得意で自慢するが、涙目になっていた。
「まあ…足りないなりに考えたようですね。
結果論ですが、努力と貢献は認めますよ」
ド ン ッ !
だが、これで終わりではない……先程の
兵士がダクトの破壊音を聞きつけ、
ドアを蹴破って部屋に入って来る。
「おや……女児一人に怖気付いた挙句
散々回りくどい策を講じて時間を浪費し、
標的を仕留め損なった無能者の皆さんが
慌てて戻って来ましたね」
「だがお陰で手土産が増えそうだ」
「ええ、ワタシ達の手土産がね」
カシャン!
エイジは胴のベルトを外すと背負っていた
金属製の長杖を素早く抜き放ち、姿勢を
低くすると片手で担ぐように構えた。
「へっ……そんな地味な杖で何を」
ゴ ッ !
次の瞬間、エイジが不自然な程のスピードで
杖を振り抜くと頭蓋骨が陥没した兵士が
失神し、膝から崩れ落ちるように倒れた。
「……
仮にこの杖が刀剣の類であれば、兵士の頭は
綺麗にスライスされた断面を晒して血と
脳漿をカーペットにぶち撒けた事だろう。
「うあぁぁーっ!」
ドンッ、ザスッ!
「はうっ」
兵士の一人が事態の重大さを察して
武器を構えようとしたが、マヤのナイフで
肝臓を一突きにされ絶命する。
「はぁ……はぁ……これ蘇生出来るよね、
普段は傷薬塗った包丁で刺すんだけど」
キィンッ!
「挽き肉にでもしない限り平気ですよ。
庇ってあげる必要がなさそうで何よりです」
大柄な兵士が上段から振り下ろした長剣を
回し蹴りで弾き、杖の先端で喉を潰しながら
落ち着いた様子でエイジが答える。
「食らえ…
「よっと!」
ガッ
マヤは敵兵が杖から射出した石つぶてを
踏み台にして距離を詰め、顔に杖を向ける!
「
ジュッ!!
「目があぁァァ!!」
バシュッ!ドゴォン!
「や、やめ…あうっ!?」「うわぁぁ!」
マヤに目を焼かれた兵士は錯乱しながら
杖を振り回して周囲に大量の石をばら撒き、
次々と仲間を巻き添えにしてゆく!
「うわぁ……映画で見た事ある奴だ」
ガボッ
マヤは再び荷物の山に紛れ込んで岩石弾を
避けると、隙間から顔を覗かせる。
(えっ!あの、ちょっとマヤさん……
ワタシはどうなるんですか!?)
エイジは荷物の山から引っ張り出した
キャリーケースを盾代わりにして岩石弾から身を守りながらマヤのいる方角を伺う。
「ごめーん!こっちに来た弾だけでいいから三発くらい弾いてくれる?」
「全く……世話が焼ける!」
ダッ!
エイジはキャリーケースを蹴飛ばし、
寄って来た兵士に当てて転ばせると素早く
前転しながらマヤの前に立つ。
「そこかアァァァァッ!!」
気配を察した兵士が岩石弾を撒き散らし、
エイジは杖を構えながら一気に駆け出す!
キィン!
横一閃の攻撃で一発目を弾く!
ガッ!
跳躍した状態で前蹴りを放ち二発目を砕く!
ゴ ォ ン !
更に空中で杖を振り下ろして三発目を破壊!
「……マヤさん!」
「んあー」
エイジの合図でマヤが荷物の山から顔を
覗かせ、その口が一瞬だけ大きく裂け、
青白く細長い生き物が勢いよく飛び出す!
バシュッ!
「おごっ」
マヤが吐き出した”それ”は蛇のように
床を這って兵士に接近すると一気に跳躍、
絶叫を垂れ流す口に入り込んだ。
「あうっ……うぐぅ!ばうぅ!」
兵士はしばらくの間、喉を押さえて悶絶し
その生き物を吐き出そうと努力していたが
窒息したらしく仰向けになって倒れた。
「やっぱり気になっちゃう?」
訝しげに兵士を眺めるエイジにマヤが
問いかけると、彼は首を縦に振った。
「見せた方が早いかな……はい起立!」
マヤが二回手を叩くと、倒れていた兵士が
むくりと起き上がり二人の前に立つ。
「私の場合、使い魔は文字通り身を削って
作る訳だけど……そうやって作った使い魔、
それも寄生虫を丸ごと食べちゃった人は
どうなると思う?」
「……従順な仲間の完成という訳ですか。
まるで低予算で作ったホラー映画ですね」
「そういう事……使い魔を生成する魔法って
基本的に術者より重い生き物は作れないから
悪い魔女はこういう裏技を使って村とか街を
ちょっとずつ支配して兵隊を増やすんだ」
兵士に椅子を持って来させ、足の裏を
マッサージさせながらマヤは得意気に語る。
「これで監視の目はある程度誤魔化せるし
安全な場所も探しやすくなる……つまりは
私が一番活躍したって事だね!」
「いいや、今回のMVPは俺がいただく」
兵士の持っていた水晶玉が突如として輝き、アクルスの姿を映し出した。
「無事だったんだね!今何処にいるの?」
「屋根の上だ……生徒会の兵隊どもと
俺を襲った黒服の仲間が目の前にいる。
やっぱし、連中はグルだったな」
「どの車両の上ですか?ワタシも行きます」
「散々逃げ回りながらちまちま数減らして
来たから分かんねーよ、もう切るぞ」
ー送迎急行、屋根の上ー
グシャッ、パキン!
アクルスは水晶玉を地面に叩きつけて
踏み潰すと、獰猛な笑みを浮かべる。
「そろそろ、カッコいい所見せなきゃな…」
ザッ、ザッ、ザッ
それを見た兵士たちも陣形を組み、
黒装束の女を守るように一斉に並び立つ。
「おいおい、野郎に守ってもらって
当たり前みてェな面してやがるなお前……
デートで割り勘要求されたら超キレそう」
「乳離れも済んでるか怪しいガキには
言われたくないわね……殺しなさい」
ジャキンッ!
その言葉を待っていたと言わんばかりに
武器を抜く兵士たちを前に、アクルスも
姿勢を低くしてゆっくりと拳を構える。
「殺してみろよ…できるもんならなぁ!」
ー続くー
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