Battle:6 リベンジ・プラン

前回までのあらすじ:


「毒を殺す毒」の完成を目前に控える中、

マヤ、エイジ、アクルスの三人は襲撃犯を

捕縛する為、犯人のナイフに付着した血を

マヤの使い魔が追跡可能であるという事実と

その対処法を敢えて大勢の前で開示。


後がなくなり、ナイフの消臭と消毒の為に

食糧庫を訪れざるを得なくなった実行犯を 

追い詰める事に成功するが、襲撃犯の正体は

複数人で構成された暗殺部隊である事が

判明、実行犯の迎撃を担当したアクルスも

増援によって包囲されてしまう。


最初の襲撃以降、人知れずアクルスの事を

護衛していたラフロイグが協力したことで

撤退には成功するものの、襲撃犯の全容や

目的は未だ不明であり、順調と思われた

捜査は失敗、白紙となるのだった……




ー送迎急行、マヤの個室ー



四人は円形の大テーブルを囲み、仲間以外に

自分の会話が聞かれないように座っていた。

盗聴の可能性も考えて、部屋の角や扉の前は

マヤの使い魔に警戒させてはいるが、

それでも今朝の事を考えれば心許ない。


マヤの作った解毒薬の効果はてきめんで 

アンリラナの容体は快方に向かっていると

デイムスから聞かされたものの、それすら

疑わしいと言わざるを得ない状況だった。


「単刀直入に聞くね……私以外で生徒会が

接触して来た人はどれくらいいる?」


マヤの言葉に、アクルスとエイジが

ゆっくりと手を上げる。


「ラフちゃんの所には来なかったんだ?」


「あぁ……昨日、生徒会室から合鍵を

拝借したと言っただろう?変装した上で

使われていない部屋を経由していたし、

何より本格的に君達と連携を取る前の

事だから特定はされなかった筈だよ。

部屋が薄暗かったのも有利に働いたね。」


「じゃ、アクルス君とエイジ君に質問…

何て言われた?予想はつくけど一応。

せーので言おうか、せーのっ!」


「「「口止め」」」


四人は安堵し、そして警戒度を引き上げた。

三人の証言は概ね合致しており矛盾や違いは

全くないようだった。 


アクルスを襲撃した犯人が見つかったので

拘束し、次の駅で憲兵隊に引き渡すこと。


犯人は単独犯で、鼻を折られて言い逃れが

不可能だと判断したので諦めて自首した

らしいということ。


先の流血沙汰を生徒会長と理事長は非常に

重く見ており、口外した場合編入試験は

中止、守秘義務を破れば三人にもそれなりの

処分が降るかも知れないということ。


「全く、呆れたな……生徒会の面々は体面と

保身の事しか考えていないらしい」

 

ラフロイグは珍しく怒りの感情を表に出し、

芝居がかった口調も控えめになっている。


「生徒会の対応に呆れて辞退してしまえば

それで良し、最悪従わなくても面子を

潰された報復は出来る、という訳ですか」


エイジはいつも通り穏やかで無機質な

表情を浮かべているが、言動の節々に

相手への嫌悪と侮蔑が見え隠れしており、

誰が見ても不機嫌であった。


「で、いつにするんだ?」


「何が?」


「生徒会室に殴り込んで隠し事を暴くのよ。

秘密を共有する相手に手土産の一つも

持たず脅しに来てんならもう”敵”だろ?

敵はさっさと潰すに限る」


非常に単純明快で合理的な意見を述べながら

アクルスは自分の杖を磨いている……

彼の場合、一人でも賛成すれば今すぐにでも

生徒会の人間を闇討ちしかねない。


「ふむ……確かにやられっぱなしでは

面白くありませんね。あの方々の対応を

見るに、馬鹿正直に約束を守ったところで

筋を通してくれるとは思えませんし。

ある程度血が流れた方が早いでしょうか」


案外血の気が多いのか、ここに来てエイジも

アクルスと同じく生徒会に対立する意向を

見せていた……以外と気が合うのだろうか?

そんなマヤの他愛もない考察は、緊張した

空気の中で浮かんですぐに消えてしまう。


「今から四人で知り合いに連絡しまくって

かき集められるだけ兵隊集めようぜ」


「時期尚早とは思いますが、まあ連絡して

協力を取り付けるだけならタダですか」


アクルスの言葉にエイジが反応して連絡用の

水晶玉を取り出し、ラフロイグもしきりに

自分の鞄を眺めて気にしている。


(やばいやばいやばい!このままじゃ確実に

戦争になっちゃうじゃん!私の輝かしい

サクセスストーリーはどうなっちゃうの!?

助けて、イマジナリーおばあちゃん!)


((マヤ、聞こえるかいマヤ))


マヤと同じ帽子を被った悪人面の老婆が

おぼろげな姿で彼女の目の前に現れる。


(助けて!このままじゃ友達が……!)


((あんだって?最近耳が遠くってねぇ。

ここは一発、ドデカいのを頼むよ))


(だから!友達が生徒会と戦争しようとして

大変な事になってるからアドバイスお願い!)


((あー!はいはい、わかりました……

オホンオホン、心して聞くんだよっ!))


(分かってるから早くして!)


((いいかい、喧嘩に勝ちたいなら手段を

選ぶんじゃないよ……相手が一番やられて

困る事をやってみるんだ。その為の方法なら

アンタは幾らでも知ってる筈さ))


(いやあの、私が聞きたいのは戦争の止め方で)


((何だいアンタそれでもアタシの弟子かい!

一度喧嘩を売られたならその愚か者が

“生まれて来てごめんなさい”と言うまで

徹底的に反撃するのがマーサ流黒魔術の

鉄則である事を忘れたとは言わせないよ!))


マーサの幻影はそう吐き捨てると、マヤの

意識の奥底に吸い込まれて消えていった。


「そう言えばおばあちゃん、私を拾う前は

城斬りエブレフェルとか白鬼のセタンタと

肩を並べた事もあるって噂もあるほど

バッチバチの超武闘派だったっけ……」


「少し、待ってくれないか?」


梯子を外されたマヤが項垂れていると、

ラフロイグが威厳のある声で周囲に告げる。


「正々堂々と殴り込むというのも悪くない。

それでも充分に打撃を与える事は可能だ」


「しかし、それじゃあアンタの面子が」


「やはりそうだったか……この一件、無理に

ボクの顔を立てて騎士道に拘る必要はない」


「よかった、それじゃあ……」


マヤの顔が明るくなる。それもそうだ、

二人は面接と一次試験を突破できるだけの

頭脳と良識を持っている……考えもなしに

生徒会や学園のバックにいる勢力に対して

喧嘩を売るような残虐な野蛮人ではない。

この中では最も年長者で尚且つ騎士という

責任ある役割に就いているラフロイグを

敬い、尊重していただけの話だったのだ。


「闇討ち、騙し討ち、脅迫、武器の使用、

罠、盗み……とにかく何でもありだ。

そもそも君たちはボクの部下ではないし

手段を選んでは勝てない戦いもあるからね」


「敵対するの決まっちゃってるー!?」


「喜べよ、黒魔術を存分に振るう機会だぜ。

しかも騎士階級からの”命令”なんだ……

平民の俺らが逆らうなんてとんでもねえ」


「ああ……列車内での攻撃魔法使用禁止の

規則ももう気にしなくていい。どうせ

向こうは何をやっても難癖をつけてくるさ」


「まあ、許しが出た事ですしやれる範囲で

やってみましょうか……」


「そういう事。やらなきゃ死ぬだけだ」


エイジは有機的な形状のガントレットと

ピストルのように湾曲した持ち手が特徴的な

片手杖を鞄から取り出して装着し、

アクルスも手裏剣や苦無が連なったベルトを

胴と腰に巻き、白いジャンパーを羽織る。


「……あーもう!」


マヤは杖を背負うと呪いの文字が刻まれた

手鎌やナイフをバッグから取り出して

ベルトと靴に装着し、黒いローブを着た。


「結局暴れるのは変わんないじゃん!

黒魔術が呪いや小細工だけじゃないって事を

証明するのはもっと後だと思ってたのに」 


「こうしている間にも包囲網は迫ってる……

私は自分の足で手掛かりを探してみるよ」


「ボクは生徒会の様子を探りにいく。

今の所はノーマークの筈だからね」


「俺は留守中に来た奴等をぶっ叩く」


「ワタシは個室フロア以外に安全な場所を」



四人は互いの無事を祈りつつ、役割を

果たす為にそれぞれの持ち場につく……

これが、彼らの長い一日の始まりだった。



ー続くー

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黒魔術の正しい使いかた @AHOZURA-M

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