Battle:3 暗殺計画

前回までのあらすじ:

魔法学校の編入試験を受けるため、

送迎列車に乗り込んだ挑戦者たち。

乗車して早々に流血沙汰の抗争が

発生するも、列車に乗り合わせた

ラフロイグが諍いを収めた事で

事なきを得たのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




ー学園行き送迎特急、7番客車ー



「あれだけ騒いだら流石に警察や

冒険者が来ると思ったけど、

思ったよりすんなり終わったね」

 

あの後、二人が周囲の証言を

集めた事が決め手となりアクルスは

証拠不十分のためお咎めなしで済み、

逆に彼を襲った蟲人は失格となった。


「魔術師や冒険者というものは

血の気が多くなければ務まらない

職業でもありますし、蟲人相手なら

やや過剰気味とはいえ正当防衛の

範疇と見なされたのでしょう」


実際、あの程度の小競り合いなら

学園側も慣れているらしく

証言者を連れて職員の所へ向かう際に

問題を起こした挑戦者を送還する

専用の車両がある事を知らされた。


ガ コ ン !


「あっ!」


音に反応したマヤが窓を覗くと、

分厚い壁に鉄格子がはめられた

車両が切り離され、先程の蟲人が

こちらを指差しながら鬼の形相で

何かを喚いているのが見える。


「へへへっ、バイバーイ!」


マヤが手を振っている事に

気付いた蟲人は鉄格子を激しく

揺らして暴れながら叫んでいたが

その顔も次第に小さくなってゆき、

数秒後には全く見えなくなった。


「マヤさん……あなた意外と

いい性格してますよね」


「相手の嫌がる事を全力でやるのが

一流の黒魔術師になる秘訣だって

おばあちゃんに教わったからね」


「黒魔術には詳しくないですが、

あなたを怒らせるとかなりの

不利益を被る事は理解できました」



ジリリリン! ジリリリン!



二人が他愛もない話をしていると、

ベルの鳴る軽快な音が車内に響く。


「夜の6時になりましたのでェ、

個人用客室の鍵をお渡ししまァす」


カラン……


アナウンスと共に天井のパイプから

次々と客室の鍵が投下されて来る。

要は寝台車の各種設備をより

強化し、防音性や安全性を確保した

個人用のスペースなのだろう。


「あれ、予定だと7時からだったと

思うけど……何かあったのかな」


「人の手足を千切って遊ぶような

輩がいたからじゃないですか?」


「そうかな?私はあの状況で何も

しない人の方が残酷だと思うけど」


マヤ達は個人用客室が並ぶ

車両へと移り、自分の部屋がある

4両目の2階に辿り着いた。


「何となく番号で察したけど

エイジ君の隣だ、やったね!」


「……インキュバスやサキュバスの

隣でないだけまだマシでしょうか。

夜中に阿片の精製や動物実験を

しないのであれば尚良いですね」


「もー、言われなくてもそんな

変な事しないから安心してよねっ」


「まぁ、あなたは簡単に人を

騙せる程器用ではなさそうなので

要らぬ心配に終わりそうですが」


「うむ、わかればよろしい!」


「ではまた」


バタン……ガチャ!


二人は戸締まりをすませ、

所持金の確認や荷物の整理などを

始めた……基本的に食事以外は

ほとんどが自由時間との事だが、

あの列車にいた者の顔ぶれからして

既に二次試験は始まっていると

言っても過言ではない。


エイジの実力は未知数だが、

アクルスやラフロイグはかなりの

実力者と見て間違いないだろう。

他の車両にも彼らに匹敵する者が

複数いるとなれば、二次試験の形式が

どういうものであれ相当な激戦と

なる事は想像に難くなかった。


挑戦者同士の牽制や小競り合いも

引き続き行われるだろうから、

この列車の内部にいても身の安全が

100%完璧に保証される訳ではない。


「……おばあちゃん、私頑張るね」


今日は早朝に起きた事もあり、

マヤはここ数日の遺品整理で蓄積した

身体の疲れを取るため、シルクの

布団をかぶり眠りにつく事にした。 


(おばあちゃん家のボロボロの布団、

持ってくれば良かったかな)




ー数時間後ー



「グゥ……グゥ……ンゴーッ」


彼女は、自分が思っているほど

繊細な人間ではなかったようだ。

いびきをかきながら、豪華な

クイーンサイズベッドを転がり回って

時折セクシーなポーズを決めている。


「ムフフッ、ランドセルの中に

白米をいっぱい詰めてあげようね」


ゴロゴロゴロゴロ……


「早く中腰になりなさいエイジ君、

これは上司である私の命令よ……

本当は期待していたんでしょう?」


ボ テ ッ


「ぼうっ」


意味不明な寝言を呟きながら

ベッドから激しく転がり落ちると

マヤはようやく目を覚ました。


「んぁ?残念、やっぱり夢か」


カッカッカッカッカッ……


「あれれ、天井に猫でもいるn」


ガ シ ャ ー ン !


「のわああぁぁぁっ!?」


まだ薄暗く、霧も深い山の風景を

映し出していた部屋の窓ガラスが

真鍮の窓枠ごと木っ端微塵となり

破片が辺り一面に転がった。


「わーっ!わーっ!」


「静かにしろ……騒ぐな!」


ガ オ ッ


錯乱したマヤを一喝し、血塗れの

フードに身を包んだ人影は床を這って

素早くベッドの下に身を潜める!


コン、コン、コン


「すみません、保安部の者ですけど

この辺でオオカミか何かが暴れて

幾つか物が壊されたみたいなんです…

ちょっと確認してもいいですか?」


マヤはベッドの方へ振り返ると、

指示を出すよう相手へ促した。


「よし…俺が来た事は絶対言うな。

用が済めば出て行くし礼ならする」


「オッケー、任せといて」


ガチャッ


白い制服に青い腕章をつけ、

腰のベルトから警棒型の杖を下げた

二人組の生徒が部屋に入って来る。


「なっ…何があったんですか!?」


「えーと、恐竜!そう、小型の

肉食恐竜が窓を突き破って部屋に

侵入して来たの!でも私が杖で

殴ったらどこかへ逃げてった!」


「ふむ、肉食恐竜……小型……

他に特徴は覚えていますか?」


保安部の生徒は相方にメモを取らせ、

周囲を警戒しながら質問を続ける。


「じゃあ……ええっと、確か

羽毛が生えてました、それだけ!」


「ラプトル種に酷似した形態……

竜人族の挑戦者には該当者なし、

恐らく固有種か変身魔法の使い手」


「えっと……あの、部屋は?

とにかく片付けないとダメだよね。

取り敢えず掃除機か何かを借りて」


「いえ……部屋は新しく生徒会が

より厳重なものを手配しておきます。

貴女の証言を逆恨みした者が

報復を試みた可能性がありますので」


「状況は概ね予想通り。猛獣駆除部と

奉仕部の生徒を一人ずつ寄越してくれ」


保安部の生徒がそう告げると今まで

メモを取っていた相方が水晶玉で

連絡を取り、どこからかやって来た

大型クロスボウを背負った生徒と

緑色の腕章を着け、清掃用具を持った

メイド服の生徒が部屋に入って来る。


「荷物は後から持って行きますので

貴女はひとまず下の階の空き部屋へ…

腕の立つ者を護衛としてつけます」


「あ、あの……ベッドの下は」


「荷物なら回収しておきます、

また狙われるかもしれないので早く」


そう言って、マヤは半ば部屋から

追い出される形で連行されてしまう。


「取り敢えずベッドをどけてから

窓を補強しよう。美術部の生徒が

来てくれるそうだし我々は撤収して

生徒会長と理事長たちに報告だ」


「しかし、今学期の編入試験も

中々に荒れそうだな……よっと!」


保安部の生徒たちは二人がかりで

ベッドを持ち上げて移動させ、

荷物をまとめると他の生徒に

軽く挨拶をして部屋を後にした。


「しかし彼女、さっきベッドの下に

何かあるような口ぶりだったが…」


ぺタ、タッタッタッタッタッ……


「ん?」


「どうした、急に後ろを振り向いて」


「…まあ見落としがあったとしても

奉仕部の先輩達がいれば大丈夫だ。

さっさと生徒会長たちに報告して

早いとこ朝飯にしようぜ」 


「そうだな」


ストン!


保安部の生徒達が駆け足で車両を

後にしたのを確認すると、アクルスは

天井から飛び降りて素早く着地した。


「へっ、甘ちゃんが!」


汚れたフードを慣れた手つきで裏返し

そのまま何もなかったかのように

立ち去ろうと歩き出すが……


「やあ少年!」


「うげえっ!?」


そこにラフロイグが現れ、元々

血色の悪い彼の顔が更に白くなる。


「アンタか……いや悪い、あんな事が

起きた後だしちょっと気が抜けてた

みてェだ、誤解しないでくれ」


「昨日は本当に災難だったね。

理事長も仰っていたが、周囲に助けを

求める事と弱みを見せる事は決して…」


「あぁ……勿論、肝に銘じとくぜ。

もっと話したい所だが情けねェ事に

高い物を胃が受け付けなかったんで、

ちょいとキジを撃ってから」


「……待ちたまえ」


脇腹を押さえて立ち去ろうとする

アクルスだったが、ラフロイグは

トーンの下がった冷徹な声で

素早く呼び止める。


「要らぬ気遣いはよして貰おうか」


「はぁ?何言ってやがr」


「左脇腹と右脚、肩……どれもかなり

深い傷だね。僕でなくともこの列車に

乗り込んで来るレベルの実力者なら

遅かれ早かれ気付くと……ッ!?」


ダ ン ッ !


アクルスが反射的に身構えると同時に

ラフロイグは瞬間移動じみた速度で

身を屈め、0.2秒後にその頭上を

超高速で投擲された包丁が通過!


「チィッ、外したか……」


「ま、待て誤解だ!ボクが敵なら

昨日の内に君を始末して……」


ジリリリリリリリリ!!


「なにっ!?」


「なーんてな!ここはもう敵陣だぜ」


ブ シ ュ ー ッ


「むぅ……っ!」


ラフロイグが武器を捨てようとした

次の瞬間、大音量で列車中のベルが

悲鳴を上げ消火剤が散布される!


見ると、壁に取り付けられた

赤いボタンに深々と包丁の先端が

突き刺さっているではないか!


「火災報知器の手動スイッチ……!

最初からこれが狙いだったのかあっ」


粉末状の消火剤が瞬く間に彼女の

視界を白一色に染め上げてゆく!


「……この状況で昨日会った奴を

信用するなんざ、自分から大声で

“早く殺して下さい”って言うてるのと

1mmだって変わりゃしねェだろうが!」


「守りたかったんだよ!」


「俺はな、今まで手前が吐いた血を

飲み干すくらいの覚悟をもって

鍛えに鍛えてここまで来たんだ……

それをお前、”守ってやる”だと?

何も出来なかった奴がよく言うぜ!」


「……すまない」


「安心しろ…お前みたいな連中の手を

借りなくても、俺が一人で襲撃犯を

ぶちまわして生徒会に突き出してやる。

騎士としての仕事がしたいんだったら

勇敢な市民に渡す感謝状の一枚でも

書いとけや、なあ?」


「待て!」


ガ ア ッ


「ぐうっ!?」


高速で蹴り飛ばされた瓦礫が

ラフロイグの頭に直撃して砕け、

彼女の身体が2m近く吹き飛ぶ……


「……お互い試験を控えた身だ。

詮索や介入は抜きにした方がアンタも

気が楽ってもんだろ……じゃあな」


アクルスは絞り出すように

そう吐き捨てると再び壁を登って

天井に張り付き、煙の中に消えた。


「む……行ってしまったか」


誰かが換気扇を作動させたらしく

徐々に煙が晴れてゆき、彼女の前に

小さな人影が現れる……昨晩、

アクルスを襲った男の一取り巻きだ。


「そこのキミ、この辺りで挑戦者が

襲われたらしい……生徒会から

話があるまで部屋で大人しく」


「あっ、あの……」


「どうしたのだ?まさか君も

犯人を探すなどと言うんじゃ……」



「わ……私の友達が……」



「アンが……アンリラナが!

部屋で……し、死んでるのっ!」




ー続くー

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