第13話
『ホルモン777さん、ぴゅるるんさん、お仕事お疲れ様です。いつも応援ありがとうございますっ。あ、ジョセフさんこんばんは。お仕事お疲れ様です』
坂東さんは画面に流れるコメントに丁寧に明るく返事をしていた。その姿は明るい委員長や優等生といった感じに見えてくる。
同級生の生配信なんて見たことないし、増してや真横でなんて、自分じゃないのに変な気恥ずかしさがあったり失敗しないかなって心配があったりで不思議な感覚だった。
それにどう見てもいつもの彼女とは思えない。
強いて言えば、それこそまるで学校での篠崎さんみたいに明るく朗らかだった。
もしかするとこれが昔の彼女だったのかもしれない。
『今日ですか? 今日は学校で、良いことあったんです』
『なんと気になる男の子とおしゃべりしちゃったんですっ!』
『だから、今日は水分補給しないと耐えれないかも…あ、さっそくありがとうございまぁす』
ピロンと鳴り、どうやら視聴者が画面に表示されてるメニューを頼むと、投げ銭みたいなのが入るらしい。
何となくルールというか仕組みがわかった気がする。
ライブなんだろうけど、これはチャットだ。
胸元のアクセサリーは、結構お高く見えたけど、こうして稼いでたいのだろうか。
そういえば彼女は値の張るお化粧道具ばかり持っていて、彼女にするメイクは楽しかった。
お高いのには、取り扱いのし易さという点もあるとは父の言だ。商品の値段、ましてや道具などはそこにこそ反映されているって言っていた。
『どんな子? ええ? それは内緒です』
それにしても、気になる男子なんていたのか。
そういえば今日はクラスのお調子者、浅野と坂東さんは話していた。ぼくはいつバラされるか地獄でそれどころじゃなくて、怯えていたから会話の内容はあんまり覚えてないけど、確かに楽しそうだった。
『だから今日は早速脱いでいきますね。汚しちゃいそうだし…』
「(ぷふっ!?)」
もしかして、ハイスクールエロライブとは、やっぱり読んで字の如くで、ぼくの想像したままだろうか。
音楽なんて、ぼくの勝手な決めつけだったのだろうか。
でもそれは校則なんて遥かに飛び越え、おそらく法律違反なんじゃないだろうか。
これ、逃げるなら今だろうけど、篠崎さんの時と同じで後ろ手に縛られているから無理だった。
『ちょっと準備しますね』
そもそも脅迫されているのだから最初から無理なのはわかっている。だから猛烈に坂東さんに告白した奴の事が憎くなってきた。
だって当たるところそこしかないもの。
でもそれ以上にぼくは、これから始まる坂東さんのライブに、行末に、興奮に動悸が激しくなっていた。
『雑魚? 雑魚じゃないですよ! 皆さんが悪いんですからねっ』
そう言って坂東さんは立ち上がり、カメラの位置を上に向けた。
しかし、汚すとか、雑魚とか、何なのだろうか。
しかも脱ぐ…??
つまりいまからが本番…??
何人が見てるのかここからじゃ見えないけど、やっぱり本気で…?
止めた方がいいのだろうか。
止めない方がいいのだろうか。
止めれる気もしないけど、ぼくの青春の裏にこんな世界が広がっていたなんて、まったく想像してなかった。
それに何の感情かわからないけど、自分以外の人が彼女の姿を見ていることに、何とも言えない気持ちになる。
これは何なのだろうか。
そしてぼくがモゴモゴしてる間に始まったのは、やはり彼女の公開ストリップだった。
最初に見た水着姿になるまで視聴者と会話しながらスカートを捲ったり、お臍を見せたりしながら焦らすように、恥じらうように、ゆっくりと脱いでいった。
どうやら何かゴールが設定されてるらしく、上とかスカートとか、おそらく投げ銭が集まったらそのお題をこなしていくみたい。
そこからは胸の谷間を見せつけたり、お尻を向けたり、四つん這いになったり、画面に映る様々なリクエストに答えていった。
まるでグラビアアイドルの撮影会かなって感じで、ぼくもスクショ撮りたいくらいのエロさだった。
写生したい。
インフレももう限界だけど、ふわふわする頭で感心して見ていたのはその対応力だった。
坂東さんは、淀みなくポーズを変えたりお話したりして飽きさせないようにしていた。
コミュニケーションに自信のないぼくは、その視聴者をさばいていくその能力にこそ一番驚いた。
『じゃあそろそろ皆さんも一緒にしましょうね』
その驚きの中、角度的に気づかなかったけど、篠崎さんと同じことが始まった。
ギターだ。
しかもエレキギターだ。
「(ぁぐぅぅぅ!?)」
ぼくはあまりの衝撃に彼女の言葉も入って来ないくらいその状況に、いわばクラシックギターをぶん殴られていた。
それくらい水着姿の彼女の、何かが乗り移ったのかというくらいにグネグネとした、びくんびくんと跳ねる姿は、清楚なのにエロくて、投げ銭をお知らせする音がピロンピロンと鳴り響いていたことに、ブィィンの振動もあって、気づかないほどだった。
視聴者との会話も言えないような言葉ばかりで、股間が凄まじくイライラしていたけど、篠崎さんの時と同じで、ぼくはやっぱり動けなかった。
つまり、ぼくだけがご一緒してなかった。
別に目の前でかき鳴らしたいわけじゃないけど、ぼくのボッチ具合が突き抜けて、まるで全世界規模で起きているような気持ちになった。
何より、彼女のその姿を他の多くの人が見ていることに、さっきとは比べものにならないくらいイライラしてる自分がいることに驚いた。
付き合ってもいないのに、そんなこと思うなんてどうかしてるし、浅野が知ったらどうなるのかとか、ぼくこそ視聴者に文句なんて資格なんてないとか、青春とか、脅しとか、彼女が指を忍び込ませた水着の下というか丘の上というかそこに何があるのかとか、感触はどうなんだろうとか、後でお金払おうとか、いくら支払えばいいんだろうかとか、そんなの言ったら新井田さんが困るとか、思考が興奮で乱高下を繰り返していた。
『っく、はぁ、はぁ、えへへ…お見苦しい姿を晒してしまいました…えっと、夏みかんさん、今日はいつもと違くね? ですかぁ? ジャガーさんも、横チラチラ見てない? ふふ、そうですかぁ?』
確かにチラチラと坂東さんはぼくの方を見ていた。その挑発するかのような視線は、清楚メイクだからこそ、何かいけないものを見てるようで、その度にぼくは目を逸らしていた。
『ふふ、よくぞ聞いてくれました。今日はお手伝いさんを呼んでいます』
その言葉に、ぼくの荒い鼻息はピタリと止まった。
そしてノートPCのカメラをぼくに向けた坂東さんは少し息の乱れた声で言った。
『ドM奴隷のヤル男くんです』
そしてぼくはいつの間にか、そんな設定になっていた。
画面下から表れるコメントは、ぼくと同じで、すぐにハテナマークで溢れ出した。
坂東さんは青ざめたぼくとは真反対に、紅潮した肌で、とても嬉しそうにくすくすと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます