第11話
いつもぼくがしているメイクは清楚なナチュラルメイクだ。
明度と血色を上げるために、下地はオレンジ系を薄く伸ばし、その上に薄いピンクトーンのベースを作る。
ファンデにも高保湿のベースを混ぜて使い、ハイライトゾーンとそうで無い場所でコントラストを少しつける。パウダーを乗せ、目の下にカラーハイライトを入れて、最後に頬の高い位置にうっすらとした赤みを足す。
ジューシーなフレッシュピーチ肌。
それを今回も施した。
「佐伯のメイクのおかげで誰もあたしってわかんないし」
そんな風に言うけど、かなり素顔に近く、逆に晒しちゃまずいと思うんだけど。
それに、いじめからの脱却があのバッチリメイクなのだとしたら、むしろいじめてたっ子にバレるんじゃないかって心配になる。
「あとマスク。まだ学生だし」
「マスク…?」
つまり顔出し配信じゃないのか。ぼくが気にすることじゃないかも知れないけど、なぜかホッとした。
ならメイク関係ないんじゃ…? しかもせっかく作ったハイライトゾーンが隠れてしまうんだけど…。
でも…ファンがいる…?
というかどうやって笛を吹くんだろうか。
「佐伯のも用意してるから。ほい」
坂東さんはそう言って、レスラーがかぶるようなベージュに赤い縁取りの覆面を渡してきた。
「…これを…ぼくが?」
「そ。あとこれね。ルームウェア。着替えてきて」
渡されたのは、コンビニの袋だった。
途中のコンビニで何か買ってるなと思ってたけど、どうやらぼく用だったみたいだ。
というか、なぜ着替えなくてはならないのだろうか。衣装合わせも含めた配信なんだろうか。
「なん? 身バレしたいの? てか、バレたくなければ言うこと聞いたほうがでいいよ…? いろんな意味で」
「ッ、は、はい…」
「ぷ、あはは、もー冗談だって。大丈夫大丈夫。最初は見てるだけでいいし…ってめっちゃ落ち込んでんじゃん……にしし。しょうがないなぁ。これで気分上げろし」
そう言って坂東さんは立ち上がり、スカートをストンと落とした。
「うわぁっ!?」
紐、腰の両サイドが頼りない紐で、光沢の強いワイン色の下着だった。
「み、水着だからそんな驚くなし。そっちが照れるとあたしも照れるじゃん…」
白のブラウスの隙間から覗くその大人ワインは、どうやら水着らしい。
「あ、でもこの反応はいいね。嫉妬稼げそう。ししし」
「…嫉妬を…稼ぐ…?」
それはすごく嫌な響きで、中学の頃を思い出してしまう。
「なん? また緊張? ほら、脱衣所こっち。来て」
気分が落ち込んで下を向いてしまうぼくの目の前には、同級生の水着のお尻がリズム良く揺れていた。
「ッ!」
だからすぐにインフレになってしまった。
◆
案内されたバスルームは、白を基調とした配色で、洗濯籠と洗濯機があっても割とゆったりとした作りだった。
お風呂場を覗くことはしなかったけど、匂いが我が家と全然また違っていた。
「とりま早めになー」
「う、うん」
渡されたコンビニのビニール袋を急いで開けると、中身は白の大きめのTシャツと、白のブカブカのブリーフだった。
「坂東さん…これ、衣装じゃないよっ…!」
脱衣所からいくら呼んでも坂東さんは来てくれなかった。もっとも、ぼくのノミの心臓では、彷徨くことも、人様の家で、しかも女の子の家で大きな声を出せるわけがなかった。
仕方なく脱衣所で念仏を唱えながらその白の上下に着替えた。
姿見に映るぼくはかなり情け無い姿だった。
最初の部屋にとぼとぼと向かうと、坂東さんは白のビキニ姿になっていた。そして髪を二つ括りに結いながら立っていた。
いかにも女子中学生といったスクールな部屋に、大人っぽい彼女のそのグラビアモデルみたいなスタイル。
そこに貼りついた少し小さめな白のビキニはいろいろ溢れそうで、その姿は全て生々しく、血色のいい彼女の肌に浮かぶぼやけた青白い血管と肉感に、ぼくの念仏デフレはすぐさま回復してしまった。
ぼくはすぐさま白のTシャツをぐいっと前に引っ張った。
大きめで助かった。
「にししっ、なん、大きくなっちゃった?」
彼女には一瞬でバレていた。
「責めてないって。寧ろありがとう的な?」
「な、なんで?」
「え? 割と身体自慢だし?」
そう言って彼女はその場でくるりとターンした。その遠心力で彼女の大きな胸がボロロロンと丸く跳ねた。
ぼくの腰も震えた。
それの遠心力が大き過ぎたのか、肩紐が少しずれた。それを直す仕草はまさに大人の色気と言った具合で、同級生が放つエロスじゃあなかった。
白い水着ブラはやっぱりパンと張り詰めていて、そこから溢れそうなくらい大きく、ぼくが逆に不安を覚えるほどだった。
その下には細くくびれたウエストがあって、可愛らしいお臍の薄茶がいいアクセントで、彼女が少し身をよじるたびに、その形を変えていた。
そしてさらに下のお尻は女性らしい丸さを湛えていて、いい肉付きなのにカッコいいって感想で、もちろんエロスに塗れていて、瑞々しいその肉感と、それを支えるしっかりとした太ももに目を奪われてしまう。
「なん? 太ってる?」
「ぜ、ぜんぜん、むしろいい…はっ、い、良いと思います…」
「なんそれ…ウケる」
太ももの太さを女の子は気にするんだろうけど、ぼくはちょうどいいと思った。お尻のボリュームに似合っていて、立ってるだけでS字を描いていて、何様って感じだろうけど、バランスが死ぬほど良かった。
そこに釘付けのぼくの視線を剥がすかのようにして、彼女はまたアニメ猫みたいに笑った。
「にっしっしっし〜、佐伯がさ、そんなにおっきくしたんならさ、言葉より信頼できるじゃん」
「え?」
「つまり佐伯はあたしに告白してるんだよ? えっちしたいよぉボクって」
「ししし、してないよっ!」
それにそうなると、ぼくはここ数日でかなりのヤリチンになってしまう。寧ろヤリチンより酷いかもしれない。
「あっはっはっはっ! 目ん玉ドリブルしてるし、股間抑えたままじゃんっ! おっ、そーだ。…佐伯君、好きなだけ…見ていいよ…?」
そう言って、彼女は前屈みになり、胸に谷間を作った。
「うっく!?」
「ぷふっ! 腰っ! 腰引いておじいちゃんみたいっ! それじゃあ海行けないじゃんっ! あーっはっはっはっ!」
坂東さんはいつもの「だるぅい」って感じが抜けていて、これが素なのかわからないけど、かつて見たことのない明るい笑顔で、楽しそうに笑った。
笑う度に胸が大きく揺れていて、いつもは制服姿の彼女の、プライベートな半裸に興奮が止まらなかった。
だって水着と下着の区別なんて、ぼくにはつかないんだもの。
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