第5話
ぼくは篠崎さんに発見された姿のまま、変な表現だけど、自室に連行された。ぐちゃぐちゃに汚れたTシャツは脱ぐように支持された。
それには恥ずかしい臭いが充満していて、せめて靴下は脱ぎたかったけど、そのままだと命令された。
それに抵抗する気は起きなかった。
だってまだ気怠くて、なのにまだカチくて、その空気を読まない無節操さの恥ずかしさと、でもこれからの未知の恐怖に頭が真っ白だった。
ぼくのシングルベッド──篠崎さんがさっきまで励んでいた場所にぼくを座らせるし、なんとなく湿ってる気がするし、そんなのますますカチくなる。
そんなぼくをよそに、彼女は、鼻歌なんかを歌いながら、制服のポケットから取り出した大きめの赤いチェックのハンカチで視界をふさいできた。
これ、お手洗いとかで使う奴じゃないだろうか。カルキとかの臭いは全然しないけど、ひたすらいい匂いがして脳が茹る。
そしてクローゼットを漁ったのか、「予備のネクタイ貸してね」とぼくの両手首を後ろで縛ってから立たせた。
そしてキィキィゴロゴロという音から推測するに、ぼくの学習机の椅子に篠崎さんは座ったんだと思う。
「実は君のお父さんとわたしのママが友達でね。詳しい話は後でするけど、両家公認でここにいるよ」
「…」
「今日は顔合わせだけだったんだけどね。あ、奴隷って言うのはお願いを聞いてくれるだけでいいの。犯罪とかお金とかじゃないから安心してね」
そんな事を彼女は言うけど、本当かどうかわからないし、これがもはや犯罪だと思うし、安心ってそもそも何だろうと疑問に思う。
「ぜ、全然安心出来ないんだけど…いったい何を…」
「勝手に動いちゃダメ。命令だからね。……それっておさまらないの?」
それ、とは多分ぼくのカチカチ下半身事情だ。だって仕方ないじゃないか。いつものぼくの部屋に混ざる知らない良い香りはカチンと来るんだもの。
「う、うん…」
「へぇ…ふぅん。ね、これって大きい方なの?」
「そ、そんなこと知らないけど…ひっ!?」
視界が閉じたせいか、はたまた達したせいか、下半身に冷たい風をゾワゾワと感じる。いったいどれだけ近づいているんだろうか。
五感の刺激に恐怖が奥までギターの穴から芯に届いている感じで、想像するだけで、恐怖へ逆に猛ってしまう。そんな気持ちわからないだろうけど。
「…」
「はぁ、はぁ、あ、あの、それよりカーテン──」
「…待って。いち、にー…グーが二個半くらいか…。おへそまであるね。お風呂で比べたりしないの? 女子はすぐ分かるけど男子はわからないよね? どうしてるの? たしかバトルってあるよね? 学校何位?」
「ちゅ、中学生じゃないんだからわざわざ比べないよ! その、大きくなる前と後じゃまったく違うから比べてもわからないし…どうもしないっ…です…」
「つまり
「え?」
「インフレイト。つまり膨張って意味。ちなみにこれってここからまだ大きくなる? 変身残してる? もうバブル? まだ弾けないの?」
何をいってるのかわからないけど、話す吐息が、風をめちゃくちゃ生み出していて、それどころじゃない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「はぁ、はぁ、っく、はぁ、し、篠崎さんって…こ、こんなこと、は、恥ずかしくないのっ…?」
「えー、恥ずかしいよー? 顔熱いし。多分耳まで赤いよ?」
見えないから本当かどうかわからないけど、篠崎さんはそんな事を小さな声で言った。
「でも恥ずかしいとこ見られちゃったし、せっかくの機会かなぁーって」
そう言った瞬間、カメラのシャッター音がまたした。
「あっ!? 写真はやめ──」
「動いちゃダメ。ばら撒かれたいの?」
篠崎さんは冷たくそう言った。覗いたぼくが悪いのは悪いけど、写真は普通におかしい。だけど、女の子が訴えたならぼくは負けるのはわかってるから、素直に従った。
いや、硬直してた。
その淡々とした篠崎さんの声が、生殺与奪を握られた奴隷とはこんな扱いだったなって嫌でも思い出させてくるから。
「わたし、結構友達多いんだよ? わかるよね?」
そして彼女はぼくの腰をやんわりと掴んだ。ゾワリとして一瞬で鳥肌が立つ。自分で触れても何ともないのに、電流みたいにして得体の知れない感覚がそこを基点に走った。
そしてギターの先端に何かが触れた。
「ひぐっ?!」
「あ、ごめん。ほっぺた」
「ほ、ほっぺ…はっ! ご、ごめんっ」
「…なんで謝るの? ふふ、そうそう、じっとしてて。お願いって言うのはね、昔から男の子の身体に興味あって……君、体毛薄いね…ふふ、女の子みたい…ってどうしたの?」
「も、もう無理です」
「嘘だー。二回も果てたんだし、男の子は無理って知ってるんだから。ふふ、わたしにして欲しいんでしょ? まだお預け」
「はぁ、はぁっ、じゃ、じゃなくて、もうシャッター音とか、はぁ、はぁ、声とか、風とか、はぁっ、や、ヤバいです」
「わわっ!? 身体ビクンビクンしてどうしたのかな? ふふ、ほら先っちょ見て見てって見えないよね。ごめんね。また写真撮ってあげる。すっごくイケメン。格好いいよ」
「あ、うっ、うっ、うう…」
ぼくは自然と涙が出ていた。
おそらくあの日以来の涙だった。
罪悪感か、情け無さか、恥ずかしさか、気持ちよさか、容姿より前にギターを褒められた悔しさか、褒められたことを疑う醜さか、掻き鳴らせない、行き場のない欲求か、それとも…でも嗚咽を我慢出来ていたことは確かで、だからか、篠崎さんは気づいてなかった。
「わぁ…つつーって泣いてる。ふふっ、さっきと全然違うよ? 傑くんはご主人様に嘘をついたのかな〜? ウリウリ」
篠崎さんはそう言ってぼくのギターをボロロンと弾いた。その衝撃に仰け反ったせいか、すぐ真下の篠崎さんは、ぼくを心配するような声を出した。
「えっ、冷た。…涙…? 傑くん、泣いちゃったの? やりすぎちゃった? 男の子なのに? ごめんね。んふふっ、優しくいーこいーこ撫でてあげるね」
「あふっ!? そ、ぐっ、ご、ごめんっ!! …っっ……ッッ!!」
「きゃあぁっ!?」
もう括約筋が限界だった。
だってこんなのエロすぎるんだもの。
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