第4話
「そ、そんなのダメ……え、ヌード?」
「はい」
やっぱりぼくは童貞勘違い野郎だった。
学校で直結なんて創作なのに、ぼくの妄想は止まることを知らなかった。
彼女はぼくの膝にスカートを巻き込むようにして跨っているけど、例えば二人ともそのヌードだったら恐ろしいくらいの格好で冷えピタみたいに接触していて、隔てるのはおよそ三枚の布で、太ももが熱くて、つまり服はすごい。
それに絵画にヌードは付きものだし、芸術であることに多少の疑問は持っているけど、絵を始めたのだって目的はそれだ。
ぼくも描きたい。
中学二年生の時の、おそらくあれは初恋だったと思う──が終わった時からぼくは女性の身体に興味が津々だ。
でも描きたいんであって見られたいわけじゃない。
目に焼き付けたいんであって人目に晒したいわけじゃない。
それにそれは先生に聞かないとわからない。だけど、凛とした先生のことだ、きっと反対するだろう。それとそもそも論として、校則違反だと思う。
何よりぼくは敏感なんだ。
脱いだらすぐにピキってしまう。
嘘だ、脱がなくてもピキる。
ダメだ。いけない。
イケるけどイッてはいけない。
違うことを想像しないと、ヤリチンみたいになってしまう。
男はみんながみんな、あんな公衆の面前で立つダビデみたいなヤリチンじゃないんだ。あんなにリラックスなんてしてないんだ。童貞がヌードなんて絶対にピキピキしてしまう。尤もダビデがヤリチンかどうかは知らないし、ダビデみたいに王様ならヤリチンなのは当たり前かも知れないけれど。
「先輩…?」
「え? あ、そ、それは無理だよ」
ぼくがそう言うと、新井田さんはこれ見よがしに溜息を吐いた。そのせいで太ももの の上にある、その柔らかさが変化を伝えてくるかのようにして形を変える。
「はぁ……。以前から思っていたのですが、やっぱり先輩には熱意が足りません」
「…熱意…?」
「そうです。アートに対する熱意です。この間も宮代先生とお話しましたが、満場一致でした」
宮代先生とは顧問の先生だ。
「つ、つまりそれって二人だけの密室裁判じゃないか」
そもそも異性二人とぼくだけだと意識してしまって違う熱意を隠すのに必死で筆が進まないだけなんだ。
言い訳だけど。
「民主主義は数なので」
「ぐっ、べ、別に熱意がなくてもいいじゃないか。みんながみんなアートなんてわかってるわけじゃないし、だいたいぼくだけがなんで──」
「もちろん私も脱ぎますよ?」
「…え…?」
え? 脱ぐ…?
「まだお手入れはしていませんが」
「お、お手入れ…??」
「ほら、ここ見てください」
「腕…? 腕がどうしたって…」
「いつもしてるみたいによく観察してください。少ない方ですが、あるんです、体毛。全体的にぱやぱやしてるんですけど…まだぜんぶ未処理なんです。先輩は生まれたままの私と整えた私、どっちがいいですか───」
◆
そのセリフを聞いて、ぼくはすぐに部活を終わらせた。
沸騰した頭で答えなんて出せないし、口から何が飛び出すかわからない。だから黙って悶々としながら家に帰った。
ぱやぱや。ぱやぱや。
ぱやぱや、ぱやぱや。
僕は頭と身体に、急激な暑さを感じていた。これは外気温じゃない。
阪東さんのキス顔と谷間と太もも。新井田さんのお尻の感触とセリフ。それらを混ぜつつ、玄関を開けてリビングで制服を脱ぎ捨て、自室に向かった。
そこで定位置を占領されたぼくは事故に遭い暴発した。
そして今、思い出したせいか、また再び爆発しそうになっていた。
足裏なんて、未知の感触で、なんて気持ちいいのだろう。
「奴隷のスグルくんには何してもらおうかな…ってちょっと、話聞いてる? 随分と気持ち良さそうだけど」
「もうダメです」
「あっつぅっ!? ……うふふ…すごいすごーい。これはかなりの変態さんだ───」
そうして、ぼくは後輩のお願いを叶える前に、学校一の美少女に、ヌードというか痴態を晒し、あまつさえ「変態」という断定的な評価──レッテルをまた、貼られることになってしまったのだった。
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