21
中に入ると、老若男女関わらず様々な声が出迎える。
「おや…珍しく早いですね」
「あらカワイ子ちゃんたちが増えたね」
「こんにちは」
「…」
大広間には老婆の姿をした魔女とハヴィそのほか三人の魔法使いたち、それに加え彼女たちの弟子たちが寛いでいた。粗末とまではいかないが、そんなに凝った造りでもない広間に置かれたお洒落なティーセットは何度見ても合わない。
「…」
セシルをじっと見つめたハヴィはセシルに気づかれる前に目線を外して、アネリが座るための椅子を一つ取り出した。他の魔法使いたちもセシルに対して何やら視線を向けている者もいたが、レーナはあの場にいた者に口封じの術を掛けたため、話題にもできないのだろう。
子供たちはもう弟子同士の交流に混ざっている。しがらみの少ない子供たちを羨ましく思いながら紅茶に口をつけた。
「アリア、久しぶり」
「フェリスお姉ちゃん、こんばんは」
静かに手招きしたフェリスのもとにセシルを連れて向かう。あまり他の魔法使いと交流をしない彼女は、薄桃色の髪を二つに結び、傍らには同じ髪色の小さな人形が置いてある。
自分のベッドの上で作業をしていた彼女は、作業途中の人形をいったん置いてベッドから降りた。
「この子は?」
「この子はセシル。師匠のあたらしい弟子だよ」
「よろしく…お願いします」
先ほどから魔法使いがたくさんいる場所に少し緊張している様子のセシルを紹介する。するとフェリスはセシルの両頬に手を当てて固定し、いろんな角度からしばらく観察した。一通り見て満足するとふん、と鼻を鳴らしてまたベッドに戻る。
「フェリスお姉ちゃんは師匠の友だちの弟子で、ちょっと人みしりだけどいい人だよ」
「へえ…」
布をめくらんばかりの距離感であちこちを観察されたセシルは既にぐったりとしていたが、フェリスの人も知りセンサーには引っかからなかったらしく、アリアと一緒にベッドの上に招かれた。
「針を踏まないように気を付けてね」
「今はどんな子を作っているの?」
「あなたの人形。終わったらセシルも作ってあげましょうか」
「いいの!?やったあ!」
ぴょんぴょんと跳ねたアリアによって寝台が揺れる。フェリスの作る人形は、精巧で可愛らしく里内でも人気がある。
「やめて、針がずれてしまうわ。アリアに比べるとセシルはおとなしいわね」
「…あ、え…ありがとうございます?」
「変なしゃべり方ね、敬語はいらないわよ」
なんと反応していいか分からずに、とりあえず返事をすると不思議そうに首を傾げられた。礼儀がひどく重んじられていた環境で育ってきたために、初対面の人には敬語で話しかける習慣がなかなか抜けない。
「そういえば、里の方は大丈夫なの?」
「本当に最近来た子なのね。よくあることよ、あまり心配しなくていいわ」
「そうそう。朝になったら、きっとぜんぶおわってるから」
ベッドに腰掛け、足をぶらぶらとさせてあっけらかんと言い放つアリアやフェリスはもう慣れっこと言うように外からかすかに聞こえる戦闘音を気にしていない。
「そもそもここで何が起きているかわかってる?」
「わからない、戦争…?」
出てきた単語にフェリスはまた鼻を鳴らして笑った。
「まだこんなの戦争じゃないわ。これはね、小競り合いって言うのよ」
「でも里が…燃えてたけど」
「あれは合図みたいなものよ。…人間ごときが魔法使いに勝てるわけないのに」
人間、と口に出した瞬間に彼女からあふれ出した感情に、背筋に虫が這うような感覚を覚える。ふと手に温もりを感じて横を見ると、いつの間にか舟を漕いでいるアリアが手を握っていた。
「フェリス、お姉ちゃん…セシルをこわがらせないであげてね…」
そう途切れ途切れに言うと、アリアはそのまま眠りの世界に旅立った。もたれかかってきた体を慌てて受け止め、ゆっくりとベッドに寝かせる。その言葉を受けて、冷静になったフェリスは小さく謝って布団をアリアにかけてやった。
小さくため息をついた彼女は、作りかけの人形とベッドに広げられていた裁縫道具を無造作に放り投げた。投げられた人形は空中に浮かび、そのままぱっと消えた。
「飽きたわ」
そう言ってフェリスは、傍らに置いていた薄桃色の人形を抱き寄せてアリアの隣にごろりと寝転がった。
「私は寝るわ、あなたも早く寝ることね」
「う、うん」
唐突に静かになった空間に困惑を隠せないまま、二人に従って寝ようかとベッドに寝転がった瞬間に広間の扉が勢いよく開いた。
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