13

「君もここにきた時はそうだったの?」

「そう?」


 妙な言い方にアリアが首をかしげた。


「アリアにはここに来る前の記憶はある?」

「んー…ないっていうかそもそも、わたしは生まれてすぐに連れてこられたんだって」

「生まれてすぐ?」

「魔法使いってふきつなそんざいだから、生まれてすぐにつれてこられる子が多いんだ」


 魔法使いの子が生まれると、地域によっては潜伏している魔法使いがその子の魔力や噂から察知して子供を引き取りに来る。そうして引き取られた子は里に連れてこられて、住民達の会議によって決められた師匠に引き取られていく。この里の子ども、住民のほとんどがそうやって里に入ってきた。


「じゃあ、お母様の顔は見たことがないの?」

「ないよ。でも、きっといたらリウみたいな人なんだろうなって思う」

「リウ?」

「一ばんの友だちなの、今はいないけどいつもそばにいるんだ」


 それだけ話すとアリアは黙りこくった。自分にしか見えていない友達の話をすると、大抵は変だと馬鹿にされることが多い。だから、深いところまで話さないくらいがちょうどいいのだ。


「そっか、きっと優しい人なんだ、ね…」

 

 そう言って微笑んだセシルはいつの間にか目を閉じて、眠りに落ちていった。ふと触った彼の銀髪はさらさらとしていて触り心地が良い。静かにセシルを抱きしめると、温もりが伝わってきてとろりとした眠気がやってくる。

 背後から見つめる女に気づかずにアリアはそっと目を閉じた。








「ねえ、アネリ」

「なんだ?」

「あそこにある妙な痕跡はあなたの新しい魔法?」


 レーナが階段の前にある血溜まりを指さすと、アネリは顔色を変えてその血溜まりを飛び越えて階段を駆け上っていった。


「…痕跡?」


 どうやらハヴィには見えていないようだった。その血溜まりに近づいて触れてみると影のように揺れて消えていった。魔力だったりねっとりと手に絡みついてくる感覚がある。


「どうやら、私は魔法を感知する力さえも…」

「いや、大丈夫だよ。あれは少し特殊なものだ、大半の魔法使いには見えないだろうね」

「君には私の家から道具を取ってきてもらうよ、ちょっとまっててね」


 またさめざめと泣き出しそうなハヴィをあしらい、レーナは帽子の中から取り出した紙とペンで簡単なリストをつくった。

 ハヴィが家から出たのを確認すると、すぐにアネリの後を追う。


 アネリは寝室の入口で静かに中の様子を伺っていた。ベッドでは二人がお互いを抱き合って眠っている。


「何かいる?」

「いや、いません。それに二人も無事だ」

「そりゃよかった」


 レーナは部屋に入ってぐるりと周囲を見回す。妙な人影は無いが、床にはやはり小さな血溜まりがある。レーナが血溜まりを踏み締めると血溜まりは逃げるように霧散していった。


「うーん、わからん…呪いかなぁ」

「軽率に変なものを踏むなよ…けどあなたにも分からないのなら、かなりの難題だな」


 とりあえず子供を安全なところに連れていこうとアリアとセシルを抱えようとする。セシルに触れた瞬間一瞬弾かれるような妙な感覚を感じて、手を離す。しかし改めて触ると何も無く、とりあえず二人を抱えて移動することにした。


 一階に結界を張り、未だ夢の中にいる子どもたちを抱えたまま緊急会議が始まる。


「十中八九、この子に着いてきたものだろうね」

「痕跡の見え方からして呪いとは本質的に違う気がするが」

「アリアのイマジナリーフレンド二号かな、なんて」


 冗談めかして舌を出したレーナは窓の外に視線を向けた。そこには箒に乗ったまま右往左往しているハヴィがいる


「おっとごめんよ」

「勘弁してくださいよ〜」


 フラフラと部屋に入ってきたハヴィはレーナの家から取ってきた道具を取り出す。レーナは道具を一つずつ確認しながら楽しそうに笑った。


「幽霊退治の道具だよ」

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