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「こ、れは?」
「びっくりさせてすまないね、この子は人間だ」
緑がかった半透明の結界に守られて眠っている子の顔は幼い。アリアと同い年くらいだろうか。
「どうしてここに?」
「あの…それについては
輪の中にいた魔女が一人、控えめに手を挙げて一歩進み出た。彼女は引っ込み思案でいつもこのような会議で発言することはほとんど無い。
「この子は、私の友人の子でして…先日、私の友人は不幸な事件に巻き込まれて亡くなったのです」
彼女の友人は貴族の妻だった。どういう経緯で知り合ったかは分からないが、お互いかなり親しかったようだ。
魔法使いは人間と交わることは無い。これが今の人間の世界における常識であり、地域によっては伝説の中の存在だと思っている者すらいる。
そんな中、家の者から魔女と関わりを持っているという事実が密かに広まっていった。そして、彼らの統治する領土で起きる事件や不可解な現象、更に不作までもが魔女のせいにされた。
今年は特に不作の年で、領主は税を引き下げたが民たちの不平不満は収まらず、先日領民による反乱が起きた。
彼らの家に魔女がいれば屋敷に一歩たりとも踏み込まれはしなかっただろう。しかしそうはならなかった。親交があると言えど、魔法使いは気まぐれな生き物で、相手も忙しい身の上だ。月に一度お茶会をする程度の関わりだった。
「それでも、彼らが万が一危険な状況に陥った場合のために魔道具を渡しておいたんです」
「それが上手く機能しなかったのか?」
「いえ…」
話が進むにつれて彼女の声はか細く、震え始めた。その顔を覆っている薄布は彼女の震えと共に細かく揺れ、布を飾る装飾がカチカチと音を立てていた。
「彼女は、自分の息子に道具を持たせたんです。私の魔道具はあまり性能が良くないから、一人しか守れない…その事を伝えた時の彼女の表情の意味を、この子を助けた時初めて理解しました…」
「ハヴィ、もう自分を責めるのはよしなよ」
「私にもっと力があれば…いや、もっと様子を見に行くべきだったのでしょうか……」
「ハヴィ、子を守るってのは母に備わった基本的な本能だよ。君はその力でこの子を守ったんだ」
レーナが優しい声音で語りかける。魔法使いは生まれてからすぐに親に捨てられる場合が多い。親に愛されることも無く、師匠から愛を学べれば幸いだが、一生全てを憎み害悪を撒き散らす者もいる。そのために人間の親子という関係を不思議に感じ、理解できないものも少なくない。
「それで、この子はどうするのかしら」
重苦しい空気を全く気にしない女の声が場に響く。黒の布地に金銀の装飾や宝石をこれでもかと着飾って、ずっと見つめていると目が痛くなるような派手さだ。
「アルフィ、もうちょっと…なんて言うか情緒をな」
何人かからお前が何とかしろという無言の圧を感じて女、アルフィをなだめようと試みた。この中でアルフィと関わりが一番深いのは、遺憾ながらアネリだった。
「そうそう、それなんだよ」
いつの間にか泣き出したハヴィを慰めていたレーナが顔を上げて真剣な声音になった。ここでは誰の表情も見えないため、声色で語る。
その言葉を受けて、恐らくは
「この子を弟子に取りたいって人、手上げて」
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