3.二度目
「気持ち悪い」
「重い」
親友や家族がそう言って離れていくという悪夢を何度か見ながらも中学受験に挑み、見事第一志望校に入学してから一年と半年。
『もう恋愛は諦めよう』
そう思っていた私だったけど、小学校時代の親友を誘って地元小学校二つが開いている夏祭りに行った日に、再会した同級生と話していてその考えを翻しました。
夏祭りといえど花火などがあるわけではなく、私とSちゃんが付き合う事に特に明確なきっかけもなかったのですが、ただ一緒にいたメンバーの中で彼氏がいなかったという理由で付き合う事になったからです。
付き合い始めた理由はなあなあでしたが、だからと言って彼女の事を大事にしていなかった訳ではなく、夏期課題が溜まっていた為に近場にはなってしまったけど、二人でお出かけしたり、色違いでお揃いのイヤリングを買って渡したりと、それなりに付き合っている人間として大事に向き合っていたはずでした。
以前に「重い」と言われた事を覚えていたから誠意を持って、けれどあまり構いすぎないように細心の注意を払っていましたし、Kさんのように対応が冷たくなっていくこともなく 、Sちゃんとの仲も良好でした。
始まり方はあまり良いものではなかったけど、今回はちゃんと長く一緒にいられると、その時の私は本当に思っていたのです。
私の学校の夏期講習が始まり、彼女も運動部だったので部活が始まって、お互いに頑張ろうね‼︎と応援しあって夏季休暇が終わろうとしていました。
ですが、その四日後。
私の夏期講習最終日の朝のことでした。
彼女から連絡が来ていて、何だろうと思って見てみると『別れて欲しい』という一文だけのメールが届いていたのです。
事情を聞くと、ポンポンとメッセージが届く。
そのいつもと同じ、私とは違う素早い返信に彼女との短くも大切だった日常を感じて、それと同時に送られてくる文を見て、彼女への気持ちが冷めていき、彼女が自分の中で過去の人になっていくのがわかります。
曰く『部活の先輩に告白された』
曰く『君とこのまま付き合っても、私は女の子と付き合っているとか親に言えないし、何よりその告白に応えたい』
曰く『君と付き合っている事は親にも誰にも言ってないし知らないから別れてくれたら無かったことに出来るし、別れて欲しい』
彼女の話は、私が誰かに彼女と付き合っている事を話していたら無理なものでしたが、私は自分がレズビアンである事も誰かと付き合ったりしている事も誰にも話していなかったし、その事を彼女も知っていたから、こういう考えになったんだろうなとぼんやりとした頭で思いました。
わずかな希望を掴めたと思っていたところからの、この話。
取り敢えず『今から夏期講習だから少し待ってて』とだけ返事を打って、英数国の三教科分の授業を受け、疲労している脳を回して帰りの電車の中で別れる事を了承する内容の返事を書いてから彼女の連絡先をメールから消しました。
今でも覚えているのは、何が悪かったのかとか、そういう事の思考は進まないのに、「彼氏が出来た」という事を理由にフラれるのも二回目になると慣れるんだなという事は考えられる事に気が付いて、なんだかとても面白くなった事です。
ああ……彼女と過ごした一ヶ月もない短い時間で印象に残っているのは、彼女とは小学校で五年間クラスメートで友人として過ごして来たのに恋人としては一ヶ月も持たなかった事や、つい数日前に『夏期講習頑張って‼︎応援してるね♪』というようなメールを送ってきていた彼女と前兆なく別れ話が出てきた事のように別れてからの話ばかりで、彼女との思い出じゃなかった事に少し悲しくなると同時に、酷く安心したという事に自分の醜さを感じて吐きそうになった事も、確かに覚えています。
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