2.一度目
私が初めて誰かと付き合うという経験をしたのは、十一歳の時でした。
「私、風宮さんの事好きなんだけど付き合ってくれない?」
小学校五年生のある日、一緒に帰っていたKさんに帰り道でそう言われた事がきっかけです。
確か、道徳か何かの授業でLGBTQ +について学んだ日の帰りだったはずです。
「……いいよ?」
彼女は五年生でのクラスは違うものの、一年生の時と三年生の時に同じクラスだった事と家が割と近くて通学路が途中まで同じだった事から、顔を合わせた時には一緒に帰ったり、話したりとする子でした。
二人だけでではないものの、彼女とは今までも何度か一緒に遊んでいて、人となりは分かっているつもりだったし、何よりKさんの隣は居心地が良かったから、その時は頷いたのです。
恋人というものを小説や漫画でしか知らない私は、何となく付き合っても基本的には友人と距離は変わらないだろうと思っていました。
でも、彼女の方は違ったようです。
誰か他の人がいる時は以前と全くと言って良いほど変わらなかったけれど、二人の時は必ずと言って良いほどに手を繋ぎ、「愛してる」「大好き」と言ってくるし、私にもそれを求めている様子でした。
私も、彼女と付き合った理由が最初はただ居心地がいいからというだけだったはずが段々とKさんの事を好きになっていき、お互いにあだ名で呼ぶようになって、私からも彼女が求めるように、彼女と同じような行動や言葉を返したりして、私なりに大事にしていました。
六年生になってすぐ、春のある日。
私が塾に行く為に駅前を歩いている時に、Kさんが同級生で同じクラスだった男子と、手を繋ぎながら笑って話すところを見るまでは。
「だって翠、重いんだもん」
「……重い?」
「すぐに私にハグしてくるし、休みの間も公園で会いたいとか、ちょっと重すぎ。
だからMくんに相談してたの。そりゃ、黙ってたのは悪いと思うけどさ……それに、正直この先翠と付き合ってても、幸せになれるとは思えないんだよ」
でも、気持ちを素直に伝えて大事にした結果、彼女は私にそう言いました。
公園で会いたいと言ったのは、私が家の方針でまだ家の電話以外の連絡手段を持っていなかったからだと言っていたし、彼女もそれで納得してくれていたはず。それに、幸せになれると思えないってどういう事なのか。とか色々と彼女に言いたい事はあったけれど、私はそれを口にする事は出来ませんでした。
「わかった。幸せにね」
告白された時と同じように、言葉少なに返して私はこの件を終わりにしたのです。
私は中学受験の勉強をしている時期だったし、何より自分がどうしようもなく惨めに思えて出来るだけ早く彼女の前から去りたかったから。
彼女の前では、泣きたくなかったから。
結局、彼女とは約半年ほどの付き合いで終わりました。
彼女はこれからMくんと正式に付き合うようだったし、私も私に関する相談を口実に浮気していた彼女に思うところがあったので、お互いに付き合っていた事は口外しない事、そしてこれからも表面上は出来るだけ今まで通り過ごす事など、いくつか決め事をしてから別れました。
この時はまさか、後に彼女に感謝……はしなくてもそれに近い感情を抱く事になるとは思ってもいなかったのです。
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