1.初恋

自分が同性愛者レズビアンだと気が付いたのは、小学校二年生の時です。


天然パーマなのか、ゆるくウェーブを描いている黒い髪をポニーテールにしており、紫色の縁のメガネをかけた二年生のクラス替えで初めて同じクラスになった女の子、Aちゃんを見た瞬間でした。


今まで初恋だと思っていた気持ちが全て吹き飛ぶくらい、その子に強烈な感情を抱いたのがきっかけで、私は自分が女の子が好きなんだと知ったのです。


子ども特有の順応力の高さを持っていた私はその時、特に葛藤もなく恋とは「そういうものなのだ」と思って自分の気持ちを受け入れました。


私は学校があまり得意ではなく時々休みながら登校するのが常でしたが、小学校低学年で同じクラスの女子同士。


クラスの端で静かに本を読んでいる事が多いAちゃんと本好きの私は当然のように仲良くなり、二学期が終わる頃には二人組を組めというグループワークに二人で取り組むくらいに親しい仲になりました。


ですが、二年生の二月十四日のバレンタインデー。

幼い私は、同性が好きな事を異質な事だと思わずにAちゃんに告白をしました。


「す、好きです‼︎」


校区のほとんど反対側にあるAちゃんの家に行き、小学二年生の私がお小遣いで買うには少し高いバレンタインのチョコを持っての、精一杯の勇気を出した行動でした。


冬の夕方、既に日が落ちかけて暗くなり、私とAちゃんの長く大きな影が伸びている玄関口で私の言葉を聞いたAちゃんは、私が渡したピンクの袋に入ったチョコを手に暫くキョトンとして固まりました。


唖然と固まるAちゃんの答えを待っていた私に返されたのは、嫌悪に表情を歪めたAちゃんの顔とたった六音の言葉。


「気持ち悪い」


Aちゃんは私に向かってそう言って、そのまま家の中に帰ってしまったのです。


その後私は、その言葉にひどくショックを受けて帰った……はずです。

正直言って、その後の記憶はあまりありません。

三年生になるまでの記憶が、あまりはっきりと思い出せないのです。


一応、不幸中の幸いと言うべきかAちゃんは誰にも話さなかったらしく、その後に私がAちゃんに告白したという噂が流れる事はなかったので、今までと同じように学校生活を送れた事は覚えています。


Aちゃんとは気まずくなり……というよりもAちゃんが私の事を避けていたし、小学三年生以降でAちゃんと同じクラスになる事もなかったので、卒業までほとんど言葉を交わす事はありませんでした。


Aちゃんが浮かべた表情と私に言った言葉は、今でも夢に出てくる程度には忘れられない記憶です。


彼女は、私にレズビアンである事を気付かせてくれた人物であると共に、消えない記憶を刻み込んだ人物でもありました。

良い意味でも悪い意味でも私はきっと彼女の事を、この初恋を、一生忘れないと思います。

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