第6話 TS転生したら処刑目前って冗談じゃねえ!(クソゲーのオープニングでいわれなく惨殺されてしまう悪役令嬢にTS転生してしまった)
石造りゆえに硬い壁に頭を打ち付けました。
強い力で突き飛ばされ、手鎖で手の自由が利かず、受け身をとれなかったのです。衝撃で一瞬世界が揺れて見えました。その時、別の何かが同時に見えたような気がしました。
『ゲーム、画面……?』
この世にあるはずのない言葉が脳内に浮かびます。聞き覚えないはずなのに、妙に聞き慣れたようなその言葉。見えたのは四角い、厚みのある板のようなもの。ただし、そこには色鮮やかな絵が描かれていて、あまつさえ動き回っています。
それを見ている自分。いえ、手元の、あれは……ゲームパッド? またしてもこの世界に存在しない名前です。そのボタンを──え? あの丸いものもボタンと言うのでしょうか? 押して、操作しているようです。
そう自覚した途端、一気に頭の中に記憶らしきものが蘇りました。濁流のように押し寄せる誰かの記憶は、生まれてからこれまでの十六年を押し流し、かつ塗り替えてしまいそうなほどの勢いと量でした。
膨大な情報に酔ったようになったのもつかの間のこと。ややあって落ち着いてきますと、2つの記憶が頭の中でうまいことバランスをとって存在することがわかりました。公爵令嬢ペルミア・アズダルコとしての記憶と、地球の大学生であった一乗谷一彦(いちじょうたにかずひこ)という青年としての記憶とが、同時に存在するのです。
『まさか、異世界転生!?』
そう、前世で私は、こことは違う地球という世界でいわゆる大学生という身分の男性だったのです。
ゲーマーなどと呼ばれる人種で、あらゆる種類のゲームに手を出していました。一応真面目に学業に励んでもいたので、成績は比較的良かったように思います。
特に得意としたのがアクション系のゲームで、アクションRPGなどが好みのジャンルでした。──その記憶が、告げています。この世界は──この世界の住人としての私の記憶が間違いないのであれば──かつて自分がプレイしたアクションRPGの世界だと!
そのゲームは、非常に良好な操作性や美しいグラフィック、良くできたキャラクターモデリング、種類豊富なエネミー、選択可能な難易度で初心者から上級者まで遊ぶことが出来るなど、良くできていました。にもかかわらず、実際にプレーしたほとんどのゲーマーがクソゲーと言いきったいわく付きのゲームてした。そう、非常に良好なゲーム性で、動かすだけなら気持ち良く進められるにもかかわらずに。
ストーリーがあまりにもひどかったのです。
キャッチフレーズは『真実の愛を貫くARPG』でした。オンライン上のゲームショウでは戦闘部分の試遊が出来、素晴らしい操作性に誰もが期待しました。また、事前のゲーム誌やネットニュース、メーカーの公式HPなどでキャラクターが発表されたときには、ゲームクリエーターや絵師のファンだという友人に誘われて注目していた自分も、期待が高まったのでした。
主人公は大陸の大半を領有するエオン王国の王子、ペリアシン。剣を主な武器とし、聖なる光をまとった剣撃でアンデッドの軍勢を薙ぎ払う一騎当千の勇者。それでいて金髪碧眼のザ・王子様といったキャラデザで発表当時周囲の女性ゲーマーが騒いでいたものです。
ヒロインは王子が愛する聖女、クリティシア。庶民の出ながら神聖術を使いこなす、背中まである金の髪も美しい美少女。右眼の白目部分に星型の小さなホクロがあり、これが神に選ばれた神聖力の持ち主の証なのだとか。華奢ながら出るところは出ているスタイルで、悪友などはシコリティ高いなどと興奮していたのを覚えています。
もう一人のヒロインとして、王子の許嫁ながらアンデッドの軍勢に対処すべく前線で戦う公爵令嬢、いえ、十六歳にして女公爵であるペルミア・アズダルコ。元は長髪だったのを肩でバッサリ切り揃えた黒髪に黒眼の凜とした美少女で、ペリアシン王子やクリティシアとは学友同士。学園では許嫁のいる身でクリティシアに心引かれて常に共にいる王子に苦言を呈することもある生真面目な少女ですが、不死の魔王率いるアンデッド軍団の出現に、戦死した両親に代わって王国を守るべく、手槍を手に出撃するのですが……。
ペルミアの副官、トライアシク。庶民の出ですが優秀で、実力主義のペルミアに引き立てられました。ペルミアを愛していますが、身分差と彼女が王子の許嫁であることとで心に秘めています。まだ学生の身で、両親の戦死のために公爵位を継いで前線に赴かねばならなくなったペルミアを影に日向に支えます。自身の身の丈ほどもあるグレードソードを振り回すパワーファイターです。
──このような説明と美しく描かれたキャラ絵に、期待のボルテージは更に高まったのです。
しかし。
ゲームが販売され、早速購入していざプレイ! ──そのわずか十数分後にはあまりにもひどい内容に呆然とするとは思いもしませんてした。恐らくは購入してプレイしたプレイヤーの大半が、似たり寄ったりだったでしょう。あるいは怒りに任せてゲームパッドをぶん投げたかもしれません。
そう、ついさっき現実になった出来事こそが、そのプロローグそのままだったのです。
プロローグはフル3DCGアニメになっていたのですが──
私が王城に到着したのは、既に日が西へとだいぶ傾いた頃でした。最前線で戦っていた私に、学園の卒業記念パーティーには必ず出席するようにと許嫁である王子からの命令が届いたからです。
本来なら最前線の総司令官である私を召し出せるのは、軍の統帥権を持つ国王陛下だけです。しかしながら婚約者であり、各地を視察中の国王陛下夫妻に代わって王都で指揮を執る立場でもある王子の言葉を無視するわけにもいかず、急ぎ参じたという次第です。
それに、戦いの日々の中、参加を諦めていた卒業記念パーティーに出席できるとあって少々浮かれていたのも事実でした。
王城前まで騎馬で駆けつけ、顔なじみの馬丁に馬を預け、衛兵に自身の主武装である手槍と腰の剣を預けると、パーティー会場であるダンスホールへと案内を受けました。戦場から直接来ましたので軍装のままでしたが、王国法に正規の士官服であれば正装と認められると規定されていますので問題はありません。何より戦時中なので、パーティーが終わり次第最前線にすぐ戻らねばならないという事情もありますし。
本音を言えばドレスに身を包みたかったところですが、参加することになったのが本当に急だったので用意できなかったという事情もありました。
会場には既に大勢の正装した生徒たちが詰めかけて、パーティーの始まりを今や遅しと待っていました。顔見知りや友人たちと挨拶しながら、王子の方へと歩いていった私は、彼の姿を目にして微笑もうとして、しかし、顔をしかめることになってしまいました。というのも、彼は許嫁である私を差し置いて、平民の少女クリティシアを侍らして、あろうことかエスコートしていたからです。
このような公の場で、人々の規範たらねばならぬ王家の人間の振る舞いではありません。もちろん私が最前線から戻らなかったなら、さほど問題にはならなかったでしょう。しかし私を呼び寄せたのは他ならぬ王子自身なのです。であれば、エスコート相手は私でなくてはならないはず。その程度のことを分かっていない人ではないはずなのですが。
「来たか、ペルミア・アズダルコ女公爵」
私が口を開くより先に、王子が目を細くして告げました。自分の名の呼び方がいつもと違うことに内心首を傾げます。普段は普通に名前のみを呼ぶというのに。
なお、両親の戦死とともに私は国王陛下より家督の継承と公爵位の継承とを認められていますので、正式に公爵となっています。
私が改めて口を開こうとするのを先んじて止めるかのように、王子が言葉を続けました。
「貴様との婚約を破棄することを、この場にて宣言する!」
「えっ?」
思わず、変な声を上げてしまいました。
今、彼は何を告げたのでしょう。婚約破棄? 国王陛下の肝いりでまとめられた婚約を? そのようなことをすればどれだけの影響が出るのか分かっていないはずはないのですが。
「私は真実の愛を見つけた。このクリティシア嬢と真実の愛を貫くことにしたのだ!」
まさか、という思いでした。王族とはいえ言って良いことと悪いことがあります。
たとえ平民でも能力があれば国の重鎮としての仕事に携われるエオン王国とはいえ、平民が王族に嫁ぐということはまずありえません。それでも押し通すというのならば、まずはどこぞの有力貴族の養女にした上で、国王陛下の裁可を仰がねばならないと、法に定められています。
しかし、その話を耳にした覚えがないということは、根回しを全くしていないということです。それは法を無視した、次期国王にあるまじき振る舞いでした。加えて、卒業記念パーティーという公の場で、あたかも許嫁を辱めるが如き言動。王太子の座の剥奪で済めばもうけものというくらいの事態です。国王陛下夫妻が不在であるため、今すぐにということにはならないだけです。
「殿下。殿下のお気持ちは承りました。私はこの場を失礼し、最前線に戻ることにいたします。加えて、各戦線を視察中である国王陛下にもご報告いたします」
ドレスではないのでカーテシーはできませんが、軍人らしく胸に手を当てて腰を曲げて一礼します。──その時でした。
「待て! 考えてみれば貴様、パーティーにその格好は何だ!」
「えっ?」
「貴様も先ほどまで私の許嫁であったのなら、私と並んでも恥ずかしくないドレスに身を包んできて然るべきであろう。そのような振る舞いは私を侮辱するにも等しい!」
何を言っているのだろうかと思いました。元々参加予定のなかったパーティーに、いきなり来いと言われたのです。ドレスの用意などしていないのは当然でした。それに戦時中は軍装での行事参加は法でも認められているのは周知のこと。すぐにも戦地に戻らねばならない身の上の私に、この物言いは何でしょうか。
しかし、事態は私が王子の言動について諫言申し上げるより早く進んだのでした。
「そうか、軍装ということは反逆の意思ありということか!」
「何でそうなるのですか!?」
だめだこの人は、と愕然としてしまいました。先ほど愛用の武器は全て預けて丸腰の、一兵も率いていない人間を、事もあろうに反逆者呼ばわりするとは。
抗議する間もあればこそ、王子は衛兵に呼びかけます。
「この反逆者を捕縛せよ! 城前の広場にて即刻公開処刑とする。その準備中、そうだな、囚人服に着替えさせたうえで城の半地下室に幽閉しておけ! 準備が済み次第処刑することとする!」
滑稽なことに、法を無視して私を糾弾した王子が、今度は法を盾にして私を処刑しようというのです。そう、反逆罪は公開処刑。けれども、何の故あって私が反逆者扱いされないといけないのでしょうか。
魔王軍相手に直接戦闘の経験もある私ですが、重厚な鎧で完全武装した兵士たち二人がかりで取り押さえられては抵抗しようもありませんでした。しかも、反論は猿轡を噛まされたことで封じられてしまいました。
屈辱的なことに、その場で私は軍服はもちろんのこと、肌着まで全て剥ぎ取られ、まるで頭陀袋に穴を開けただけといった形の囚人服を着せられたのです。大勢の貴族の子女がいる場でです。中には当然、学友もいたというのに。
その後、王子の命令通りに半地下室に突き飛ばされるように入れられ、石壁に頭を打ち付けて今に至るというわけです。
『冗談じゃない! あのゲーム通りなら、あと数時間もせずに処刑されるんじゃありませんか!』
前世で見たプロローグアニメの続きを思い返します。
断頭台に引きずり出され、半狂乱になりながら斧で首を落とされる彼女の姿はあまりにもあわれで、しかも事前の紹介ではメインキャラ扱いだったはずなのに、出てきたと思ったらこんな退場の仕方で、呆然としてしまいました。
しかも、更に事態が悪化するのです。突然ペルミアが処刑されたと知って、配下であるトライアシク達が都に戻り、晒されている彼女の遺体の引き渡しを求めたところ、武装した彼らの姿に反逆であると王子が判断、彼らを殺してしまうのです。よりによってこれが、ゲーム本編における戦闘のチュートリアルだったりするのでした。なお、トライアシク達は抵抗らしい抵抗をしません。武器を抜かず、口でペルミアの遺体返還を要求しながら殺されてしまうのです。
大事なことなので、もう一度言います。ペルミアとその手勢は、不死の魔王の軍勢を防ぐべく最前線で戦っていました。付け加えるなら、主力でした。その主力がごっそりいなくなってしまったのです。戦線をはじめとする各地を視察していた王と王妃は、事態を知って息子をすぐにも叱責したいのをこらえて指揮を取って戦いましたが、戦線の混乱を建て直すには間に合わず、二人もまた息子の愚かしさを呪いながら戦死してしまいます。
都に迫るアンデッドの軍勢。奴らの侵入を許せば、ペリアシンとクリティシアの真実の愛も破れるでしょう。戦え、ペリアシン! 護れ、クリティシア!
──という訳で戦闘の連続となるゲーム本編に移行するのですが──完全に自業自得以外の何物でもありません。というか、前線の兵士達や王子の両親はとばっちりで死んでいるわけですし、明らかに王子達が結婚するために罪を着せられ──どう考えてもペルミアが捕縛されるまでの一連の流れが流暢すぎましたから、初めから処刑ありきだったとしか思えません──処刑されたペルミア、更に虐殺されたトライアシクはじめ配下達。これだけ死なせておいて、いけしゃあしゃあと真実の愛のために戦うなどと、脳内お花畑でのたまう王子達に怒りを禁じ得なかったとしても仕方がないでしょう。
しかも、魔王を討つために鍛えられたという神剣を手に入れるイベントのあと、魔王の居城へと王子とクリティシアだけで踏み込み、長い戦いの末に不死の魔王を討ち取るのですが、その時にはもう王都に敵の侵入を許し、多くの犠牲が出てしまうのです。
不死の魔王が最後の呪いを都にかけたことが分かり、都に戻っての最終決戦となります。アンデッドと化した都の住人たちをなぎ倒しながら進み、城の地下に現れたラストダンジョンに挑むのです。
ラストダンジョンの道中では、息子に怒りを燃やすあまりアンデッドと化した王や王妃、全身を切り刻まれた姿でアンデッド化したトライアシク達が中ボスとして出てきたので、誰もがまさかと思いました。
果たしてラスボスは、アンデッドのペルミアでした。切り落とされた自分の首を手にした彼女が現れたとき、多くのプレイヤーがコントローラーを投げ捨てたといいます。というか、私自身がそうでした。
しかも、ラスボス戦の戦闘前演出で、ペルミアが現れたのを見たペリアシン王子が叫んだ台詞がまた、プレイヤーの怒りに油を注ぐような代物でした。
『またお前か! 我らの真実の愛を、死してなお妨害するのか!』
三ヶ月近く、ゲームの情報交換掲示板は、いかにして王子達をペルミアに殺させたか、というネタでお祭り状態になったのは言うまでもありません。私自身、何回王子達を惨死させたことか。終いには、このゲームはきっと王子達の因果応報を描くものだったのだろうなどという考察まで出る始末でした。
なお、ゲーマーのさがから一応クリアも目指しました。──ラスボスペルミアの反応速度は異常に早く、しかも接近しては手槍、離れては魔術を使い分け、しかもまるで機関銃のように途切れなく攻撃の嵐を見舞ってきました。魔力切れする気配は全く無く、更には一定時間ごとに死者の軍勢を召喚します。HPもとんでもなく高く、更にはやたらと硬いのでした。弱点属性の武器である神剣でもちまっとしかダメージにならず、それ以外の武器だと傷をつけたように思えないほどでした。その凶悪ぶりに、先程の考察もあながち的はずれではないんじゃ…と思ったものです。
それでもどうにかクリアしたあと、流れるエンディングアニメーションの中でペリアシン王子がクリティシアに語った言葉がまた、怒りを掻き立てるような代物でした。
『これで、誰も私たちを邪魔しない。真実の愛は勝ったのだ』
この台詞を、破壊し尽くされて人っこ一人いない瓦礫の山と化した都の真ん中で声高に語り、クリティシアと激しいキスをして終わるのです。
クソゲーだというのもお分かりいただけるでしょうか──いや、それよりも問題なのは──私が今現在、悲劇のヒロインであり、王子たち視点からは悪役令嬢の役割である女公爵、ペルミアに転生してしまっている、ということです。
『確か、あの明かり取りの窓から刑場になる城前広場が見えるんですよね……』
自身に降りかかった突然の悲運に打ちひしがれるペルミアが、薄暗い室内で光を求めて窓に近づき、粛々と処刑の準備が進んでいるのを目の当たりにして、さらなる絶望に叩き落されるというシーンでした。まだ十代半ばの少女の心を抉る演出の数々に、よくぞここまで悪意を込めた演出ができるなと、ゲーム制作者たちの精神構造に感心すらしたものですが──ゲームが先か現実が先か、鶏と卵のように答えの見えなさそうな疑問を抱きつつ窓の外を見てみますと。
「んご?」
猿轡のせいでくぐもってしまいましたが、変な声が漏れてしまいました。
処刑台が記憶にある映像と少し異なるのです。
記憶に間違いなければ、台上にあるのは断頭台と呼ばれる小さな台です。そこに首を乗せられ、斧をあてがい、斧の背にハンマーを叩きつけることで頚を切断するのです。しかし、その台の他に二本の太い杭が並んで立てられています。
──私の顔は今、きっとひどく青ざめているに違いありません。
あのゲームのクリエイターと絵師のインタビュー記事が、ゲーム誌に乗っていたのを読んだ覚えがあるのですが、
──新作発売おめでとうございます
ゲームクリエイター・城崎研吾(以下、城崎)「ありがとうございます」
絵師・チョンパ(以下、チョンパ)「然り!」
──早速ですが、今回のゲームはお二人が同人ゲームとして制作されたものを商業ベースに作り直したものだとか
城崎「はい。実は俺とチョンパさんは同好の士でして。チョンパさんの絵目当てに絵渋(イラストなどを投稿するSNSサイト)を覗いていたんですよ。そのうちに実際に会うようになって、理想のゲームについても語り合うようになり、同人ゲームを作るという流れでした」
チョンパ「然り!」
城崎「まあ、いわゆるリョナ(人体破壊などに興奮する嗜好)というマイナージャンルですから、ほとんど売れなかったんですけどね。でも、今お世話になっている会社に拾ってもらえて、ゲーム性は良いのだから演出を抑えてレーティングを下げれば商業ベースで売り出せると言ってもらえたんです」
チョンパ「然り!」
──あれで、抑えてるんですか!?
城崎「ええ。例えばペルミアの処刑シーンなんか大半をバッサリとカットしてますからね。斬首もうつ伏せに変更してますし」
チョンパ「然り!」
──(駄目だ、チョンパさん「然り!」としか言わねえ。もう全カットするか)参考までに、どういうシーンだったのかお聞きしても?
城崎「まず、刑場に引き出された時点で彼女の囚人服に火がつけられます。硫黄が染み込んだ服なので、すぐ燃えるんですよ。彼女が熱がって転げ回ると水がかけられ、鎮火しますが、全身真っ赤になった裸身をさらけ出すことになります。続いて二本立てられた二メートルくらいある杭に足首をそれぞれ結びつけて、180度開脚した状態で逆さに吊るされます。その状態で(伏せ字)に油を染み込ませた太い芯を挿入。そこに火をつけられ、数十分の間篝火状態になります。その後、焼けただれた(伏せ字)を観衆に晒された状態で魔導巻き取り機で腹の半ばまで裂かれてから生きているうちに仰向けのまま斬首、という流れでしたね」
──(絶句)
などと、狂った内容でした。その時は「うわ、最悪じゃん」と思っただけでしたが、我が身をもって体験することになりそうです。さっきから腐った卵のような匂いがしてますし。マジで冗談じゃありません。
前世で何やら爆発に巻き込まれて死んだようですが、せっかく生まれ変わって新たな生を生きることになったのにすぐ死ぬなんて。しかも、こんな鬼畜そのもののシナリオで。
それだけではありません。ペルミアとしての記憶があり、彼女の人格が馴染んでいるこの身体だからこそ、焦る気持ちが生まれています。このまま処刑されれば、まず確実に彼らが──ペルミアの部下たちが──トライアシクたちが王都に来てしまいます。そしてシナリオ通りに進めば、彼らは抵抗せずにひたすらペルミアの遺体の返還を願い出ながら無惨に斬殺されてしまうのです。
『それだけは、ダメ』
大切な人達だという意識が心にちゃんとあります。彼らを死なせないためにも、そしてその先にある国王陛下夫妻の死も、王国の人々の死も、回避しなくては。
しかし何ができるというのでしょうか。既に処刑までさほど時間のないこの時に。そこまで考えたところで、不意に思い浮かんだのは例の情報交換掲示板の書き込みでした。
984 クソ王子を処した名無しさん
しかし、皮肉だよな。ペルミアが入れられた半地下室、ゲーム終盤で明らかになったあのアイテムがあるところだろ?
985 クソ王子を処した名無しさん
ああ、あれか。ペルミアがそれを知ってたら、最悪の事態はまぬがれたのかね?
それはまさに天啓でした。
あの『アイテム』がある場所はと振り返ると、覚えのある神像が目に入りました。ゲームをやっていた時は背景のちょっとした小物としか思っていなかったそれは、世界を再生した最高神、カレイキャクスライム様の像なのでした。
青くてまんまるな神像の真下、台座の半ばあたり。そこに隠し扉があり、ゲームでも最終盤にヒントが出されて手に入れに行くアイテムが隠されているのです。
果たしてそこもゲーム通りなのか。手鎖をはめられてはいても手そのものは封じられていませんから、両手を前に出して覚えている手順を実行すると。
『開いた!』
隠し扉が見つかり、開くところまでは一緒。肝心の中身は。
『あった!』
それを掴み出すと、ペルミアは猿轡を頑張ってずらし、隙間を作って口の中に少しずつねじ込み、ごくり、と嚥下しました。
それから隠し扉を元に戻し、その時を待つのでした。
『でも、最悪を避けられるだけで、処刑そのものは避けられないんですよねぇ』
と憂鬱になりながら。
────────────────
その夜。城前広場に、鎧に身を固めた一団の姿がありました。トライアシクをはじめとする、ペルミアの部下たちです。
「ペルミア様……!」
彼らの目の前には、屈辱的かつ無残な姿にされて晒されているペルミアの遺体がありました。
遺体の脇には衛兵が数人見張りに立っており、遺体を持ち去ろうとする者がいないかと眼光鋭くトライアシク達を睨めつけています。もちろんトライアシク達に秩序を乱してまで遺体を持ち去る意思はなく、交渉するつもりでいます。もちろん交渉相手はペリアシン王子です。
「ペリアシン殿下にお取次ぎを! 我らはペルミア様をお連れし、埋葬したいだけなのです! どうか、ご許可を!」
本音を言えば謂われなくペルミアを残酷なやり方で殺した王子のことは、今すぐにでも背中のグレートソードで真っ二つにしてやりたいくらいなのですが、それをすれば本当に反逆者です。秩序の番人でもあったペルミアの部下として、その矜持に傷はつけられないのでした。
王子が姿を現しました。傍らにはクリティシアの姿もあります。
「殿下! どうか、ペルミア様の遺体を弔い、埋葬する許可をいただきたい!」
がばと土下座して声を上げるトライアシクに対し、王子がふむ、と微かに声をもらしました。そこへクリティシアが耳打ちすると「それもそうか」と一言。トライアシク達が願いを聞き入れられたのだろうかと期待を込めて顔を上げたところへ王子は告げました。
「武装して反逆者の遺体を要求するとは、貴様らにも反逆の意思ありということだな」
そんな無茶な、と兵士の一人が呻くように呟きました。王子が剣を抜き払い、クリティシアも杖を構えて攻撃魔法を準備しています。殺されるのかと悟り、それでもトライアシクは背中の得物に手を伸ばしません。
ペルミアの一番の部下として、そして密かに彼女を愛する者として。たとえ臆病者、主君の仇を討とうとしなかった者と後ろ指を指される事になろうとも、最後まで理を尽くして遺体返還を要求するつもりなのです。
トライアシクの姿に彼の覚悟を悟った部下たちも、全員改めて覚悟を決めて唱和します。
「ペルミア様の遺体をお返しください!」
王子の返答は口ではなく剣で。彼の一撃がトライアシクに振り降ろされ──
「間に合った!」
あるはずのない叫びと共にペルミアの遺体が強烈な輝きを放ちました。次の瞬間、傷一つない彼女が王子の腕をがっしりと掴んで、剣を止めていたのでした。
────────────────
「な、何ッ!?」
私は驚愕して目を大きく見開くペリアシン王子の腕を取ったまま、体重移動だけでやすやすと体勢を崩させ、クリティシアの方へと軽く押して転ばせるのでした。
「ペルミア様! 生きておられるのか!」
喜びにあふれるトライアシクにうなずいて見せ、
「トライアシク、あなたはひととき私とともにここに残って。残りは急ぎ、最前線に戻りなさい。今この瞬間にも魔王の軍勢は戦線突破を狙っているかもしれないのだから!」
「はっ!」
部下たちが一礼し、その場を去っていくのを見届ける私の肩に、トライアシクが自身のマントをかけてくれました。そういえば処刑された時には囚人服を燃やされて一糸もまとっておらず、その状態から復活したのですから当然裸でした。今更ながら顔を赤くして「あ、ありがとう」と礼を言うと、忠実なる副官は「いえ。本当に……良かった」とだけ返しました。
「さて、殿下」
振り返ると無様に尻もちをついて私を見上げたまま動けないでいる王子に声をかけます。
「ごきげんよう。もう二度とお会いすることもないでしょう。私は為さねばならぬ事をするために蘇ってまいりましたので、そのために行きます。婚約破棄は受け入れました。一度は殺されてあげたのです。これであなたとの縁は切れたものとさせていただきます。おそらくはさほど長くない時間でしょうけれど、クリティシア嬢とお幸せに」
その時です。クリティシアが金切り声を上げました。
「まさか! あなた、復活の宝珠を飲んでいたわね!?」
それを聞いて、私の脳裏にある閃きが走りました。
「──清光院アキラ」
私の呟きを聞いて、クリティシアがぎくりと動きを止めました。その名はかつて前世の私にあのゲームを勧めた友人のものです。やはり、と嘆息して私は続けます。
「あなたもTS転生していたとはね。そういえば前世で死んだと思われる爆発があった時、隣にいましたよね。確かバスを待っていたんでしたか。イチイチですよ、私」
一乗谷一彦という前世の名前は姓名ともに一の字から始まるということで、そういうあだ名だったのです。そして。
「あの絵師とゲームクリエイターのファンということは、あなたもまたリョナ趣味の持ち主だったというわけですね。おおかた殿下に斬首以外の趣向を吹き込んだのはあなたでしょう。お陰で本当に死ぬことが救いと思えるような目に遭いましたよ。まあ、こうして最悪の事態を避けるために頑張って復活したわけですけど」
復活の宝珠。それが私があらかじめ飲んでおいたアイテムでした。
カレイキャクスライム様が戯れに制作したと伝えられる神造アイテムの一つで、回数に制限はあるものの、殺されたとしても時間をかけて蘇ることができるというものです。そんな物が何故こんなところにあったのかは全く分かりませんが。
この時間をかければというのが曲者で、元々神聖術に長ける聖女であるクリティシアならあっという間に復活できるのですが、そうした力のないペルミアだとどれだけ時間がかかるか分からなかったのです。
まあ、ギリギリでしたがトライアシクが斬られる前に間に合ったから良しとしましょう。
「さて、アキラさん──いえ、クリティシアさん。あのインタビュー記事を参考に処刑内容を考えたのなら、その後のインタビュー内容も当然覚えてますよね?」
まさか、というような顔をするクリティシアに、それこそまさか考えてなかったのだろうかと訝しく思いました。
「あの制作者二人組のリョナ趣味の対象は──私だけでなくあなたもだったという話でしたよね」
そうなのです。あの城崎研吾とチョンパの二人が特に好んでいたのは『強い美少女が肉体を破壊されて苦痛に呻いたり泣き叫んだりしているシーン』でした。そしてクリティシアもまた、二人の好み通りの美少女なのです。ペルミアと異なり腕力はさほどありませんし、戦闘技術に長けているわけでもありませんが、神聖術というアンデッド特攻の魔術で活躍し、ペリアシン王子の傷を癒す聖女でもありますから、十分強いのです。
そこまで言えば読者諸氏にもお分かりでしょう。そう、ゲーム中、ダメージ表現が洒落にならないレベルでリアルかつ凄惨なのです。
腕や脚を斬り飛ばされるのはしょっちゅうで、腹に穴が空いて内臓が飛び散ったり、頭をふっとばされて脳味噌がこぼれたりと、絶対に食事前にプレイしちゃいけない内容でした。
しかも神聖術を使えるクリティシアは、やたらと生命力が高くて簡単には死なないのです。そう、手足を無くそうが土手っ腹が貫通しようが、頭を半分ふっとばされようが、彼女は死なないのです。それどころか時間をかければ再生するのでした。
ゲーム中では、攻撃力は高いものの紙装甲でヒットポイントも低いペリアシン王子を蘇生するなどサポートし、自身は簡単には死なないことを利用したバンザイアタックを繰り返すキャラとして確立していました。というか、王子ともどもヘイトを稼いでいたので、プレーヤーはほぼみんな彼女を操る時はわざと攻撃を避けずに血を流させながら前進させていたのです。
なお、ラスボスペルミア戦では、一撃で蒸発する王子を、持ち前の生命力の高さと前述の復活の宝珠による残機確保とで戦線を維持しつつ蘇生し続け、王子が神剣で攻撃してダメージを稼いで倒すのがセオリーでした。
しかし、死ににくいだけで痛みは人並みにあるようです。画面上でもダメージを負っている最中はボロボロと涙を流し、時には『痛いよぅ、痛いよぅ……』などと呟きながら戦っていましたし。
つまり、目の前でガタガタ震え始めた彼女もまた、私同様にゲーム制作者の悪意を一身に受けた存在なのです。これから戦いが始まるならば、ゲーム中同様血と涙を流しながらも戦い続けるという、いわゆるゾンビアタックをする羽目になることでしょう。その前に逃げ出すかもしれませんが。
──まあ、簡単には逃げられないと思いますけどね。そうそう、あのゲームには、魔王軍に敗れて殺されること以外にもバッドエンドが存在しましたっけ。私はクリティシアの耳元に口を寄せ、その呪いの言葉を口にします。
「バッドエンドナンバーフォー、市民の怒り」
ぎょっとした顔をしてもダメですよ。私には響きません。あなたに一度惨殺されたんですから、これくらいの報復は許されるでしょう?
私たちが何を話しているのか、王子とトライアシクは理解できていない様子でしたが、トライアシクの方はどうやら話は終わったようだと判断したのか「そろそろ参りましょうか」と声をかけてきました。
「そうね。急いで最前線に戻らないと」
「では、お持ちください」
横から声がかけられました。それは遺体を見張っていた衛兵のものでしたが、彼はなんとペルミアの武器一式と服とを持ってきていたのでした。
「殿下の命により心ならずもあなたに地獄のような苦痛を与えてしまいました。この程度では罪滅ぼしにもならないと思いますが、どうぞお持ちください」
衛兵の背後からは馬丁がペルミアの愛馬を連れてきてくれています。これで前線で再び戦う準備ができます。
「いいえ、ありがとうと言っておきます。あなた達の立場は理解していますから」
マントで体をうまく隠しながら肌着を身に着け、軍服に袖を通し、武器を腰に佩いてようやく人心地ついたように思います。
「行きましょう、トライアシク!」
「はっ!」
彼も自身の愛馬を連れてきてまたがりました。
長い夜も終わり、東の空が白々と明るくなってきています。最前線はその明るくなりつつある方角。まずは東の門を目指して馬を駆けさせます。まだ呆然としている王子と恐怖に顔を引き攣らせてへたり込んでいるクリティシアをその場に残して。
トライアシクが遅れずについてきたことを確認しながら、私は声をかけます。
「トライアシク、私をきちんと弔おうとやって来てくれてありがとう。私の名誉を守ろうとしてくれてありがとう。本当に感謝してもしきれないわ」
「いえ、自分にはこれくらいしかできませんので」
「それこそが私にとって何より嬉しかったのよ」
微笑みます。死を乗り越えた今、死を恐れずに来てくれた彼の姿を目にして、私の心がどうしようもなく高鳴っています。前世では確かに男性でその記憶も心に残ってはいますが、今の自分はペルミアという一人の少女です。この胸の高鳴りは間違いなく私のものでしょう。
「国王陛下に願い出ましょう。あなたの叙爵を」
「えっ? 光栄ではありますが」
「あら、不服かしら? 私の婿になる最低限の条件なのに?」
まあ、私が爵位を返上してあなたのところに行くのも一つの手ですけど、と続けるとトライアシクは目を白黒させました。
「まあ、考えておいて頂戴? ほらほら、門よ。開けてもらわないと」
その後の物語はそれこそ一編の英雄譚や戦記に描かれるようなものになりました。
最前線で再会した国王陛下に願い出てトライアシクと正式な夫婦となり、共に戦うこと数ヶ月。その間にカレイキャクスライム様が降臨され私が正式に神撰の勇者として認められたり、魔王軍の大規模攻勢を知略の限りを尽くし全軍一丸となって跳ね返したり、私やトライアシクをはじめとした選抜チームを率いて魔王の城を襲い──王国に魔王軍の襲撃があっても大丈夫なよう手当した上でです──激戦の末に魔王の不死の秘密を暴いて討ち取ったり。
その間に、魔王軍襲来の報を聞いて泡を食って逃げ出そうとしたペリアシン王子とクリティシアが、魔王と戦う女公爵を殺そうとした挙句に自分たちは逃げ出すなんてと人々の怒りを買い、逃亡虚しくすぐに捕捉され、馬車から引きずり出されて殺害されるという事件がありました。
魔王軍との戦いを放棄してもクリティシアの異常とも言える生命力に変わりはなかったらしく、あっけなくお亡くなりになったペリアシン王子とは対照的に、なかなか死ねずに苦しんだようです。
犯され、切り刻まれ、叩き潰され、火までかけられて。原型を止めないほど破壊されてなお異常な回復力を見せて逃げようとする彼女に、人々は不気味さを感じながらも執拗に攻撃を続け、3時間もかかってようやく絶命したそうです。
連絡を受けて遺体を確認しましたが、クリティシアさんの面影はまったくなく──というか、あまりにも破壊されてミンチ肉みたいになっていましたので、埋もれたみたいになった金髪だけが辛うじて彼女の面影のほんの一部を見せているように思える程度でした。
ただ、肉と骨の山の中から特徴的な星型のホクロが入った眼球が出てきましたので、本人だと分かりました。しかし、ざまあというような爽快感は感じませんでした。たとえ私をあんな目に遭わせた張本人とはいえ、さすがにこんな死に様は酷すぎましたから。
ちなみにその後の調査で判明したのですが、国外逃亡を主導したのは王子の方だったそうです。クリティシアさんは最後まで反対していたそうですが、王子に無理やり引きずるようにして連れ去られたのだとか。馬車に連れ込まれる時、
『バッドエンドは嫌ァ──ッ!』
と叫んでいたと、馬丁が証言してくれました。
そう、『バッドエンドナンバーフォー 市民の怒り』。あのゲームの、数少ない戦闘敗北からのバッドエンドとは別に用意された、選択ミスに起因するバッドエンドのひとつ。
ペルミアとトライアシク達を虐殺した後、魔王軍が最前線に殺到して王都にまで攻め入りそうな勢いだと報告され、王子が『ここは一旦後方に下がって体勢を整えるべきだと思うけど、どうだろうか』とクリティシアに相談するシーンが出てきます。
ここでの正しい回答は『いいえ、まず打って出るべきです』。一緒に後方に下がるという回答を選ぶとバッドエンド一直線になります。
実は王子はもはや戦う気はなく、神に選ばれた勇者にあるまじきことに、後方に下がるという言葉で皆を騙して国外逃亡を図るのです。これを知った人々が怒り狂って王子たちの乗る馬車を襲撃。ふたりともなぶり殺しにされてしまうのです。
そしてもう一つ。トライアシク達を殺害するあのチュートリアルは、実は王子に度胸をつけるという意味合いもあったのだそうです。例のインタビューでゲームクリエイターが明らかにしていました。その際インタビュアーが『なら、もしそのシーンが無かったら王子たちはどうなるんですか?』と尋ねたところ、
『そりゃあ、バッドエンドナンバーフォーへ一直線さ』
そう答えていました。だからこそ、あの時王子たちがどのような運命を辿るのかはある程度予想できたのです。まあ、今となっては全て詮無いことですが。
転生が実際にあることは私自身がよく知っています。クリティシアさんが今度は、自身はもちろん周囲も穏やかな人生を送れるよう祈っておくとしましょう。
不死の魔王が討たれ、世界に平和が戻って十六年後。エオン王国は国王陛下の崩御にともない、四分五裂しました。ペリアシン王子が既に亡かったことも関係していますね。
王子に兄弟姉妹はおらず、国王陛下の弟であった私の父も亡くなって幾久しく、唯一継承権を持っていたのが私でした。しかし王位を譲りたいと陛下に相談された時に、自分には王国を率いるだけの才覚はありませんと固辞しました。私が王子に殺されたあの時、国の重臣たちは皆王子を諌めることもせずに、私を見捨てたんですよ? そんな連中を御するなんてとてもとても。
私の愛用の武器を鍛えてくれたドワーフ達とともに、大陸南方の山岳地帯に領有するスイザーラントを経営していければそれで良いのです。地名も景勝も、前世で好きだったスイスによく似ていますし。
ドワーフ達の技術保護の意味も込めて陛下の許可を得て始めた貨幣製造も順調ですし、その関係から金融業に手を出しましたけどこちらも信頼を得たこともあり、王国分裂後も唯一無二の金融都市国家として重きをなすことになりました。
まさか、王国通貨がそのまま大陸共通通貨として流通し続けることになるとは思いもしませんでしたが。だったらお金の単位に前世で好きだった漫画の登場人物の名前を使うのはやめておくんだったでしょうか。今更ですが。
神撰の勇者となったことで、不老となった私はパートナーであるトライアシクと共に、成長した子どもたちに後を任せて眠りにつき、そのまま神々の国へと旅立ちました。そこでは王子に渡されるはずだった神剣を打って女神になったというオルハン様と知り合って、複雑な気分になったりもしましたが。
今は次代の勇者の誕生を待っているところです。彼、あるいは彼女が魔王を討つために旅立ったなら、これを見守り、必要ならば手を差し伸べるために。
──とんでもなくチートな勇者の誕生に、びっくり仰天するまであと僅かでした。
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次回、いよいよ魔王誕生(?)です。
「異世界転移に巻き込まれたら魔王扱いされているんだが(ヒーローとヴィランに巻き込まれた傍観者、いわれなき魔王認定)」
お楽しみに。
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