第113話 港町北ダコダ

 翌日、俺とセレナとミラは指定された時間に北ダコダの門へと赴いた。ベルには昨日のうちに事情を説明して今日は俺抜きで作業をこなす様に言いつけてある。まぁ、多分やらないだろうが、昨日の頑張りを評して休暇を与えたとでも考えておこう。


「……お前らがエルグランドさんに呼ばれてる冒険者か?」


 北ダコダの町の方から男が三人、こちらに近寄りながら声をかけてくる。使いを寄越すと聞いていたからてっきり執事みたいなのが来ると勝手に思っていたが、まさかこんな荒くれみたいな連中が来るとは。


「群青色の髪をした男に銀髪の女、それに黒髪の嬢ちゃんって情報だからこいつらで間違いないと思うぜパジェロさん」

「うひょ! めちゃくちゃ美人じゃねぇか! 是非ともお近づきになりてぇよ!」

「馬鹿野郎。エルグランドさんの客に手を出すんじゃねぇ、殺すぞ」


 お世辞にも気持ちがいいとは言い難い視線をセレナに向ける巨漢の男に、巨大な剣を背負った男が冷たく言い放つ。


「悪いな。俺達育ちが良くねぇもんで」

「それはお互い様だ」

「そう言ってくれると助かるが……兄ちゃんはともかく、そっちの別嬪さんはそういう風には見えねぇけどな」


 剣を背負った男が眉を潜めながらちらりとセレナを見る。セレナは曖昧な笑みでそれに応えた。


「まぁいい。冒険者なんてのは脛に傷をもってる奴ばっかだ。詮索するのは野暮ってもんだよな。俺の名はパジェロ。エルグランドさんに頼まれて客人を迎えに来たんだ」

「あ、私は」

「ああいい。お前らの特徴と一緒に名前も教えてもらっているから自己紹介は不要だ」


 セレナが名乗り返そうとしたところでパジェロがそれを手で制す。


「それでこの頭でっかちなのがキューブで、このデブがカルタスだ。まぁ、あんたらをエルグランドさんの屋敷へと送るだけの間柄だ、名前なんて覚えてもらわなくて結構だぜ?」

「よろしく」

「よ、よろしくお願いします!」

「よろしくです」

「オッケー、じゃあついてきな」


 そう言うとパジェロはさっさと門に向かって歩き出したので、大人しく俺達もその後についていった。


「これは……!」


 町に入った瞬間、セレナが驚きの声を上げる。その気持ちは分かるぞ、セレナ。北と南というだけで同じダコダであるはずなのに、こんなにも街並みが違うとはな。

 俺達が今拠点にしている南ダコダは商人の町と称されるだけの多種多様な店がずらりと並んでいたが、ここは違う。店は店でもあるのは料理店ばかりだ。町を歩いているだけで食欲をそそるいい香りが、四方八方から襲い掛かってくる。


「お腹空いたです」


 ミラがそう呟くのも無理はなかった。俺も腹の虫が鳴りそうになるのを必死に抑えている。


「がっはっは! すげぇいい匂いだろ? ダコダに来た観光客の胃袋を一瞬で掴むために、町の入り口に飯屋が並んでんだよ。……まぁ、こんな状況だと、虚しいだけだけどな」


 パジェロが人影が殆どない様を見つつ、寂しそうに笑いながら言った。ここも以前は凄い賑わいを見せていたんだろうな。南ダコダで買い物してから北ダコダで食事をとる。容易に想像がつく光景だ。


「それでもあの連中が店を捨てて夜逃げしなくてすんでいるのはエルグランドさんのおかげだ。あの人は私財を投げうって町の奴らの生活を支えてるんだよ。偉大なお方だ、本当に」

「そうなんですね……」


 パジェロの話を聞いたセレナが噛みしめる様に言った。なるほど、確かにその話だけ聞くと立派な人物のように思える。だが、モコ達の話じゃ、ダコダの不況の原因を作ったのはそのエルグランドって男らしいからな。いい奴なのか悪人なのか、決めつけてかかるわけにはいかない。まぁ、実際に会ってみればわかる事だ。


「……さぁ、ついたぞ。ここだ」


 町に入ってから三十分ほど歩いたところで、目的地にたどり着いた。随分と豪勢だな。流石は領主の屋敷といったところか。

 門番のチェックを受けて屋敷の中へと招き入れられる。送迎係の仕事は終わりという事で、玄関前でキューブとカルタスとはここでお別れになった。だが、護衛という名目なのか、パジェロだけは俺達と同行する。

 外観同様、屋敷の中も高そうな家具ばかりが目に映った。町全体が不景気で税収入もない上に、私財を投じて市民の生活を支えているんだろ? ただの見栄っ張りか、はたまた無限に金が湧いて出てきてでもいるのか。


「……どうぞ!」


 両開きの一際豪奢な扉をパジェロがノックすると、中から少し甲高い声が返ってきた。


「いやー! 会えるのを楽しみにしていたよ!」


 部屋の中で待っていたのは、ニコニコと笑いながら両手を広げて俺達を出迎えた、少し小柄な男であった。


「さぁさぁ、遠慮せずに座ってくれ!」


 言われるがままに俺達はソファへと腰を掛ける。座り心地から察するに、このソファも俺達庶民が手の出る代物じゃなさそうだ。パジェロだけは扉のすぐ近くの壁に腕を組みながら寄り掛かった。小柄な男は笑いながら俺達の向かいに座る。


「いやー、いやー! わざわざ呼び立てて済まなかったねー! どうしても君達とお話がしたくてねー! 僕がダコダの領主、エルグランド・ダンフォードさ!」

「冒険者のレオンだ」

「セレナです」

「ミラはミラです」

「うんうんうん! いいよいいよー! 君は若いのに歴戦の冒険者って感じがするし、君達二人はハッと息を呑むほどに可憐で美しい! 絵になる冒険者パーティだねー!」


 なんともテンションが高い男だ。こんな男が北と南のいざこざを引き起こしたっていうのか?


「確かレオン氏はBランク冒険者だっけ? いいよー高ランク冒険者、大歓迎だよー! で、セレナ氏とミラ氏がDランクと! いいんじゃなーい? レオン氏をリーダーに冒険者としての腕を磨いているんでしょー?」

「いや、パーティリーダーはセレナだ」

「へ?」


 一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたエルグランドだったが、直ぐにまた笑顔に戻る。


「うんうん! それもいいね! 確かにセレナ氏を前面に出した方が受けよさそうだしねー! 結構考えてるじゃなーい! もしかして敏腕プロデューサー?」

「そう……ですかね」


 エルグランドの勢いに押されながらセレナが曖昧な笑みを浮かべた。


「おっといけない! またいつもみたいに僕が一人でぺちゃくちゃ話しちゃうところだった! 自重自重!」


 笑顔でそう言うと、エルグランドは乗り出していた身を戻し、深々とソファに腰かけた。

 

「……さーって、君達は回りくどいのが好き? それともズバッと要件を言って欲しいタイプ?」

「後者だ」

「だよねー! レオン氏はそうだと思ったよー!」


 間髪なく答えると、エルグランドが嬉しそうに何度も頷く。そして、エルグランドはこれまでずっと張り付けていた人のよさそうな笑顔から、少しだけ影を含んだものへと表情を変えた。


「――君達、僕の自警団に入らないかい?」

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