第94話 商会令嬢参戦

「あっ、レオンさん! こっちこっち!」


 時間になったので集合場所まで行くと、もう既に俺以外は全員集まっていた。俺に気が付いたミゼットに手招きされ、そそくさと駆け寄っていく。


「随分とまぁ買ったもんだな」


 輪の中に入りながら女性陣を見て俺は言った。モコ、ミゼット、タント、そしてセレナですら両手に買い物袋を持っている。ポーションやらエーテルやらが目的だったはずなんだが、なぜかその袋達から洋服ばかりがこんにちはしていた


「えーっと……みんなと色々見てまわっていたらたくさんかわいい服があったものでつい……」


 俺から目を逸らし、申し訳なさそうに体を小さくしながらセレナが言う。


「あぁ、いや。別に責めてるわけじゃ」

「ちょっとレオンさん! 女の子が友達とショッピングに来たらこれぐらい服を買うなんて常識でしょ!」

「女子。買い物。服。それを責める男、狭量」

「いやだから責めてないって言ってんだろ」


 俺と買い物に行ってもこんな風に買ったりしないからちょっと意外だっただけだ。やっぱり女性同士で行く方が買い物は盛り上がるらしい。


「それにしてもミラは全然買ってないんだな」


 手ぶらなミラをちらっと見ながら言うと、モコとミゼットが微妙な表情を浮かべる。

 

「あー……ミラにもいろいろ服を勧めたんですけどねぇ……」

「全っ然気に入ってもらえなかったんだよー!」

「ミラにはあんなチャラ付いた服は不要です」


 腕を組みながらむふーんと鼻息を噴き出すミラ。


「もっと動きやすくて闇夜に紛れる服だったら買ってやってもよかったです」


 "暗殺者アサシン"の俺よりよっぽどアサシンっぽいこと言ってるなおい。まぁでも、服に関しては俺もミラ派だな。隠すとこ隠せて動きやすけりゃなんでもいい。目立たないならなおいい。


「あーあ、もったいないなぁ。こんだけ可愛くて女の子っぽい服着れば世の男は黙ってないよ絶対」

「……ミラは可愛いです?」

「可愛いの最上級だね! お人形さんみたいに可愛らしいっていうのはミラのためにある言葉だよ! レオンさんもそう思うでしょ?」

「ん? あぁ、まぁそうだな。ミラは可愛いな」


 ミゼットからの問いかけに軽い調子で同意すると、なぜかモコとセレナがぴくりと反応した。


「レオンさんって意外とロリ好き……? ゴスロリの服って持ってたっけ……?」

「……私も可愛いって言ってもらいたいです……」


 ……何やら二人がぶつぶつと呟いているが聞かなかったことにする方が吉だろう。深入りすると痛い目に合う気がする。


「レオンさんはもっと自分の発言に責任を持つべき。じゃないといつか刺される」

「わたくしもそう思いますわ! レオンさんは女性にかける言葉をもっと考えるべきですわ!」

「だねー。まぁ、そういうところがレオンさんっぽいっちゃレオンさんぽい……って、えええ!?」


 まるで最初からそこにいたかのようにタントの言葉にうんうんと頷く金髪ドリルの出現に、ミゼットが目を丸くした。ちなみに俺は近づいてくる気配を察していたので驚きはない。どうしてここに来たのかの疑問はあるが。


「あー……どちら様でしょうか?」

「フィットさん!」

「お久しぶりですセレナさん」


 目で見て分かるぐらい困惑しているミゼットとは対照的にセレナが嬉しそうな声をあげる。


「え? セレナの知り合いなの?」

「はい! こちらはフィット・クローズさんです!」

「フィット・クローズ……って、まさか!?」

「ご紹介に預かりました、クローズ商会の一人娘。荒野と言っても過言ではない商業界に咲く一輪の薔薇、フィット・クローズとはわたくしの事ですわ!」


 ドヤ顔で自己紹介するフィットに、三人娘があんぐりと口を開けた。クローズ商会の本店があるこの町でこの女は上級貴族にも匹敵するだろうからこういう反応にもなる。


「皆さんわたくしのお店の商品をたくさん買っていただいたみたいで、感謝にたえませんわ!」

「あ、いや、こちらこそいつも贔屓にさせていただいております……」


 モコが恐縮するように頭を下げながら言った。モコ、こんな奴に下手に出る必要はないんだぞ。


「何しにきたんだよ、お前」

「ふんぎゃ!?」


 天狗になってる様がなんとなく気に入らなかったので脳天に手刀を叩き下ろしながら尋ねた。


「な、なにするんですの!? レディの頭にチョップするなんて信じられませんわ!!」

「俺は我が物顔で参加してるお前が信じられねぇよ」


 頭を手でさすりながら涙目でこちらを睨んでくるフィットに、俺は極力冷たい声で言い放つ。


「クローズ商会の娘様に脳天チョップ……」

「だ、大丈夫なの……?」

「レオンさん……恐ろしい子」


 三人娘が慄いているが無視だ。こういうやりとりを見せればこの女に遜るのが無駄な事だと気づいてくれるだろう。


「レオンとセレナの知り合いです?」

「ん? あー、そうか。ミラは知らないのか」

「セレナさんを除いて新しい女性が四人……レオンさん! あなたも隅に置けない方ですのね!」

「そのまま知らなくていい相手だ。むしろ知り合うと人生を後悔する」

「ひどいっ!」


 何を言うか。俺は事実を伝えたまでだぞ。


「えーっと……そこの可愛らしいお嬢さんのお名前は?」

「ミラはミラです」

「ミラさん! わたくしは以前恐ろしい野盗に襲われているところをレオンさんとセレナさんに助けられた者ですわ! そして、その時にレオンさんに見初められ、将来を誓い合った……」

「そんな事実はありませんよね?」

「ひぃ!!」


 セレナの氷の微笑を受け、フィットの顔が恐怖に染まる。セレナさん、それは俺も怖いんで勘弁してください。


「なるほど。ミラは理解しました」

「わ、わたくしの魅力が伝わりましたか!?」

「はい。関わり合いにならない方が良さそうだということがわかったです」

「ひどいっ!」


 ミラの理解力に満足する俺。それでこそ新しいパーティメンバーだ。


「ちゃんとダコダに戻って来れたんですね。ずっと気がかりだったのでホッとしました」

「セレナさん……あなたは本当に心優しいお方なのですわ! ……レオンさんが絡むと般若の如く恐ろしくなりますが」

「何か言いましたか?」

「い、いえ! 何も言ってませんわ!」


 にっこりと笑っているのにまるで笑っていないセレナにフィットの背筋がピンと伸びる。


「ミラさん。この方は……うーん……私とレオンさんの友人という表現が一番正しいですかね?」

「そうですわ! わたくしはレオンさんとセレナさんの大事な大事なお友達ですわ!」

「あ、俺は友達ダチと思った事はねぇから。一度も」

「ひどすぎるっ!」


 当然だろうが。友人だと思ってるなら店の商品を押し売りしてくるな。


「フィットさん。こちらは私達の新しいパーティメンバーのミラさんです。そして、こちらの方々は色々とお世話になっているダコダの冒険者のモコさん、タントさん、ミゼットさんです」

「あ、モコ・グウィルトです」

「ミゼット・ハルムショーでーす」

「タント・ナッシュ」

「よろしくですわ!」


 あっ……三人娘を紹介してしまった。正直、これはよろしくない。なぜなら商人というのは……。


「これでわたくしとあなた方はお友達ですわ! というわけでわたくしのいきつけのお店で祝杯をあげましょう! お友達記念ですわ!」


 ……強引さと図々しさを兼ね備えた生き物だからだ。

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