第88話 ランクアップ2
「お帰りなさい。ギルド長がお待ちです」
ギルドに戻ると昨日最初に声をかけてきた受付嬢が出迎えてくれた。余程成果が気になるようだな。それだけ追いつめられているという事か。
「ねぇピノ。私達はついていかない方がいいのかしら?」
モコが尋ねると、ピノと呼ばれた受付嬢がちらりと俺に視線を向けてくる。
「別にいいんじゃねぇか? 内緒話をするわけでもないだろうし」
「レオン様がそうおしゃるなら問題ないと思います」
そう言うとピノはすたすたと前を歩き始めた。ギルドにいる冒険者からの視線を一身に受けながらその後についていく。
「お待ちしていました! ……あら?」
ギルド長室に入ると期待に満ちた笑みを浮かべ待ち構えていたキャリィが、一緒にいるモコ達を見て僅かに首をかしげる。
「この町に来るときに世話になった冒険者達でな。今日は魔物を一緒に狩ったんだよ」
「……!! なるほどなるほど!! それは素晴らしいですね!! 魔物の処理だけではなく、将来有望な我が町の冒険者の面倒を見ていただけるなんて、レオンさんには足を向けて寝られそうにないです!!」
別に面倒を見たつもりはないんだけどな。まぁ、連携にアドバイスをしたり立ち回り方を指導したりしたから、結果的には面倒を見た事になるか。
「そ、それで? 今日はどれくらい魔物を倒せましたか!?」
トレードマークの分厚い眼鏡がずれるのもお構いなしに、キャリィが前のめりになりながら聞いてきた。今回はセレナとミラとは別行動をしていたという事で、俺もどれだけ魔物を倒したのか気になるところだ。
「とりあえず出来る限り魔物を倒してきました。ここに核を出してもいいですか?」
「もちろんです! 是非ともその成果をお見せください!」
「それじゃ……」
そう言うと、セレナは自分のマジックバッグに手を入れ、集めた魔物の核を取り出し始めた。
ジャラジャラジャラ……。
キャリィの机にどんどん核を出していく。それを笑顔で見ていたキャリィであったが、徐々に山になっていく核を見て、段々と笑顔が引きつっていった。
「え、ちょ……!」
ジャラジャラジャラ。
「いや、これは……!」
ジャラジャラジャラ。
「……これで全部ですかね!」
机に乗りきらず、床に落ち始めたところでようやくセレナの手が止まった。
「ま、まじですか……!」
「ミラとセレナで頑張ったです」
分厚いレンズの奥の目が大きく見開かれているキャリィ。そんな彼女を見て少し得意げなミラ。口をあんぐりとあけている三人娘。ちなみに俺は何となく予想はしていた。途中から全然魔物の気配がしなくなってたからな。
「こ、これ……百や二百じゃきかないわよね……?」
「ここまでとは思わなかったな……」
「……今日一日で町周辺の魔物が消えたのは間違いない」
三人娘はそんなに驚くことはないだろうに。午前中にセレナと一緒に行動して、その規格外ぶりを目にしたわけだし。
「言っておくが、別行動していたからこれはセレナとミラの二人でやった成果だぞ」
「ま、まじですか……!」
どうやら驚きすぎてキャリィの語彙は死んでしまったようだ。しばらく放心状態だった彼女は、冷や汗を流しながらクイッと眼鏡を指で押し上げる。
「いやはやこれは嬉しい誤算ですねぇ……。ちょっとお聞きしたいんですが」
「なんだ?」
「いえ、レオンさんにではなくてですね……。一緒に魔物の討伐をしてくれたお三方にです」
「え? わ、私達?」
「はい。……レオンさん達はどうでしたか?」
真剣な表情を浮かべながら、キャリィがモコ達に尋ねた。
「どう、と聞かれても……流石としか言えないわね」
「そうだね……まぁ、一つ言えることは、セレナはランク詐欺だよ。私達と同じEランクとは思えない」
「ミゼットの言う通り。セレナはEランクの器じゃない」
「そうですか……」
三人娘の言葉を受け、キャリィが黙って何やら考え事をし始める。少し不安げな表情でセレナがこちらを見てきたが、俺はすまし顔で小さく首を左右に振った。多分だが、心配するような事ではない。
「……冒険者になって三ヶ月弱。異例の速さではありますが、これまでの功績を考えたらそうせざるを得ませんね。セレナさん、Dランクに昇格です!」
「えぇ!?」
セレナが驚きの声をあげる。そして、驚いているのはセレナただ一人だった。他は一様に納得顔をしている。経験は圧倒的に不足しているものの、人外であるSランク冒険者に勝るとも劣らない破壊力を有する彼女のランクが上がるのは至極当然の事だろう。
「こ、今回の成果はミラさんの力添えが大きいんですが……!?」
「はい。それは分かっています。だから、ミラさんの評価ももちろん上がります。ですが、彼女は冒険者になって一ヶ月と少し。流石にランクを上げるわけにはいきません」
「で、でも……!」
「セレナ。ミラは別に気にしないです。というか、ミラは陽動をしていただけで、実際に魔物を倒したのはセレナだからこれは正当な評価といえるです」
戸惑うセレナにミラが涼しい顔で言った。それでも微妙な表情をするセレナにキャリィがにっこりと笑いかける。
「これはギルド長権限の決定事項です。異論は認めません」
「ギルド長権限じゃどうする事も出来ねぇな。セレナ、ここは大人しく言う事を聞いておいた方がいいぞ? ギルドを敵に回すのはおっかねぇからな」
「……わかりました」
セレナが困った顔で笑った。俺がBランクである以上、セレナもある程度までランクを上げないと彼女を
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