第83話 お掃除依頼
「それでは依頼内容を詰めさせていただきたいと思います!」
俺達の気が変わらないうちに決めてしまいたいのか、キャリィが少し早口で言った。
「今うちが出してる依頼は一つだけです。町がこんな状態だと、ギルドに依頼を持ち込む人なんていませんからね。内容はいたってシンプル、ダコダ周辺の魔物の掃討です。依頼主は冒険者ギルド南ダコダ支部で報酬は討伐の証拠として魔物の核をお持ちいただいて、それを割高でギルドが買うというものです」
「
「はい! 今回は
魔素の濃度が異常に高くなると発生する
「グリズリーやブルバット、フレアリザードなどのそれなりに高ランクの魔物の目撃情報があるのですが問題なさそうですか?」
「それくらいなら問題ねぇよ。モコ達から報告を受けてるから分かってんだろ? その辺はここに来る道中で倒したアウルベアとそう変わらん」
「流石はBランク冒険者ですね! とても心強いですね! ……ところで、少し気になる事があるのですが」
ミゼットがちらりと俺の顔を見てきた。
「なんだ?」
「えーっとですね……手元の資料によると、ミラさんは冒険者になりたてのEランクで実績にも不審な点はないのですが、Eランクのセレナさんがその……」
「私ですか?」
セレナが少し緊張した面持ちになる。どうしてBランクの俺じゃなくてEランクの自分がリーダーをやっているのか聞かれるんじゃないか、とか思っているんだろうか。もしそうなら多分その予想は外れていると思う。
「二ヶ月とちょっとでEランクというのはミラさんとそこまで変わず、冒険者の平均を見ても別におかしなことではないのですが……この『ドラゴンを討伐』というのは何ですか?」
キャリィが困惑したような信じられないような微妙な表情で尋ねてきた。それを尋ねたくなる気持ちも、そんな顔になるのもよく分かる。あれは冒険者一年生が相手にしていい、ましてや倒していい魔物ではない。だが、そんな一般常識を教会暮らしだったセレナは持ち合わせていなかった。
「何ですか、というのはどういう意味でしょうか?」
「え? あー……ギルドデータに記載されている以上、事実である事は間違いないので『本当ですか?』と聞くわけにもいかず、かといってそれを鵜呑みにするにはあまりにも荒唐無稽で……俄に信じられないと言いますか……」
「はぁ……?」
何が言いたいのかわからずセレナが首をかしげる。これは助け舟を出した方がよさそうだ。
「同行していたSランク冒険者のレクサス・ギャラガーの力を借りて倒したって事だ」
「……!? あ、あぁそういう事ですね!! い、いやーこれを見た時から不思議だったんですよ。ご存じだとは思いますが、
「いや、実際にセレナが止めを刺した」
「ふえ?」
さらりと俺が言ってのけると、キャリィが目を点にしながらぱちくりと瞬かせる。おっと、これは失言だったかもしれない。先ほども言った通り、過度な期待はさせない方がいい。冒険者ギルドの長には正確な情報を伝えた方が後々トラブルにならないだろう。
「いや、ドラゴンにとどめを刺したからといって、セレナの実力がランク以上に高いというわけじゃない。冒険者になるまで魔物なんて倒したことなかったらしいし、魔法が得意だから飛び道具の威力がSランク冒険者に匹敵するだけであって、立ち回りや接近戦なんかは甘く見積もってもDランク冒険者と同等だ」
回避に特化した訓練をしてきたからDランクの前衛戦士にも負けはしないだろうが、攻め手もないというのが俺の見解だ。これをちゃんと伝えておかないと、変な勘違いをされてしまう。
「Sランク冒険者に匹敵する魔法……!?」
だが、キャリィの目は点になったままだった。
「……もしかしてミラさんもセレナさんと同じ規格外なんですか?」
「ミラは普通です。まだまだ修行中の身なのでです」
「そ、そうですか……」
どこかホッとしたようにキャリィが言った。規格外というよりもアブノーマルといった方が正しいか。あの能力はとても珍しい。とはいえ、セレナもミラも規格外になる素養はあれど、今はまだそこまでじゃないのは確かだ。
「……なにやら私の想像以上に凄い方々だったみたいですね。いや、嬉しい誤算ではあるのですが……」
キャリィが汗をかきながらクイッと丸眼鏡を人差し指であげる。
「と、とにかく! ギルドからの依頼、受けていただけるという事でよろしいのでしょうか?」
「はい! もちろんです!」
セレナが元気よく答えると、キャリィが安堵したように笑った。路銀にいくらか余裕はあれど、ぐうたら過ごせる程潤ってもいない。割高で核を受けてくれるというのも裏路地で行われる口だけ取引と違って信頼できるものだろう。このケースはしっかりと利益が見込めるので受けない理由はないな。ただ一つ気になる事がある。
「当然、北ダコダの冒険者ギルドとは話がついてるんだよな? 南ダコダの冒険者ギルドではこの依頼しか出してないって話だから問題ねぇだろうが、北ダコダのギルドが出してる依頼とバッティングしたら面倒な事になりかねねぇからな」
「その心配はありません。なにせ北ダコダには冒険者ギルドがありませんから」
「北ダコダにギルドがない?」
予想外の返しに思わず眉を顰める。大きな町だと冒険者ギルドが複数あってもおかしくない。現に王都には本部と城下町支部が存在する。それ以上に大きく、ましてや南と北に分かれているダコダにはギルドが二つ以上はあるものだと思っていた。
「はい。少し前まではこの南ダコダ支部と中央ダコダ支部、北ダコダ支部があったのですが、北ダコダの領主が変わった時にあとの二つが閉鎖されたのです。ギルドなんてダコダに一つあれば十分だ、とおっしゃって」
「へぇ……」
確か北ダコダの領主はエルグランド・ダンフォードだったか? 南と北で冷戦状態の今は、北ダコダで冒険者は活動する事が出来ないという事か。なんとなく歪な感じがする。
「そういうわけでギルド同士の不毛な縄張り争いはないので存分にその力を振るっていただいて構いません!」
「……だってよ。どうするリーダー?」
「微力ながら協力させていただきたいと思います」
「ありがとうございます!」
この依頼であれば討伐目標が指定されていないので、ターゲットを求めて森の中を彷徨う必要もないだろう。別にダコダに思い入れがあるわけではないが、ダコダの料理は別だ。美味しい料理を食べるという目的がある以上、この町の自慢の料理を食べつくすまでは魔物に攻め滅ぼされるわけにはいかない。精々冒険者として、この町に貢献するとするか。
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