第58話 アピク山
翌朝、簡単に朝飯を取ってから俺達はアピク山に入った。ここはアメリア大陸最大の山脈であるロッキン山脈の入り口と呼ばれている山であり、標高はそこまで高くない。一般人でも半日とかからずして山頂まで行けるだろう。……順調にいけばの話だが。
「……随分と魔物の数が多いな」
登り始めてからそう時間も経っていないというのに、魔物との遭遇が止まらない。この頻度は正直異常と言わざるを得ない。
「山頂にこわーいお友達がたくさん遊びに来てるから、元々いた子達が山を降りてきてる影響ね。それも含めて、ワイバーンちゃん達は討伐しないといけないわねぇ」
レクサスの言う通りだ。今は山の中だけで異変が収まっているが、このまま山を追われた魔物達がブラスカの町を襲いでもしたら大惨事になりかねない。
「こういうアブノーマルな状況が起こる事によって魔素の乱れが生じて、魔物が異常発生した結果、
「そうねぇ。
「だから、大量に現れたとはいえ、たかがCランクの魔物を討伐するのにレクサス本人が出張ってるってわけか」
「たかがCランクなんて言わないの。口酸っぱく教えたはずよ? どんな魔物が相手でも、少しの油断が命取りになるって」
レクサスが厳しい表情で俺をたしなめる。これに関しては全面的に俺が悪い。どうやらレクサスが一緒にいるという事で、知らぬ間に気が緩んでいるようだ。ここは人間の庇護下を離れた自然、何が起こるか誰にも分からない。今一度気を引き締めなおさなければ。
「……あ、あの」
「ん?」
「どうしたの?」
そんな会話をしていた俺達に、セレナが遠慮がちに声をかけてくる。
「私達は戦わなくていいんですか?」
俺達の少し前方で必死に魔物達を狩っているノート達をちらちら見ながらセレナが聞いてきた。俺とレクサスが互いに顔を見合わせる。
「必要ねぇだろ」
「そうね。あの子達だけで十分よ」
俺とレクサスが事も無げに答えると、セレナが何とも言えない表情を浮かべた。別に心配する事もないだろう。死闘を繰り広げているのならまだしも、数が多い事にてこずっているだけで、ノート達は一切傷を負っていない。任せておいても問題ないはずだ。
「……一応、助っ人という名目でクエストに参加しているので、こうやって後ろで見ているだけというのは少し心苦しいですね」
「いいんだよ。しっかりと連携が取れているのを見るに、あいつらは五人でそれなりの数の依頼をこなしてきたんだろ。下手に手を出しても邪魔になるだけだって」
「そういう事よ。こうやって複数人で依頼をこなす時は、体力を温存する役割も重要なの。特にセレナは回復魔法が使えるんだから、あの子達がケガをした時に力を発揮してちょうだい。目の前に立つ魔物を倒す事しかできないレオンよりも、あなたの力の方が助っ人として期待してるんだから」
そういう事かよ。まぁ、後衛としてセレナ以上に頼りになる奴なんて滅多にいないから、レクサスの言い分も分からなくもない。仲間の傷をいやす事が出来、かつ危険な時には聖魔法によって防御魔法も行使してくれるセレナの価値が俺とは比べられないほどなのは子供だって分かる事だ。
「つーわけで、今のセレナのやる事はいざって時に最高のパフォーマンスを発揮できるよう、力を蓄えておくことだな」
「……分かりました」
そう答えると、セレナは瞬時にサポートが出来るよう、五人の冒険者を注意深く見守る。数が多いとはいえ、ノート達はこのレベルの魔物に後れを取るような技量ではない。
彼らの戦いは今日初めて見たのだが、クランの中でも一目置かれている
ただ気になるのが、後ろにいる俺達を護るように戦っている事だ。一瞬、レクサスが俺達の側にいるからかと思ったが、そういうわけでもないだろう。なぜなら、レクサスは護る必要のない相手だからだ。
一進一退とまでは言わないが、一歩進めば出くわす魔物に時間を取られながらも、何とか昼前にアピク山の頂に辿り着いた。これまで鬱蒼と生い茂る森の中を進んできたが、山頂は殆ど緑がなく、殆ど岩肌だった。そんな場所に三十余りのワイバーンが、我が物顔で羽根を休めている。
「どうするレクサスさん」
これまで倒してきた低ランクの魔物とは違うという事で、ノート達がこの冒険者チームのリーダーであるレクサスに方針を尋ねた。ランク以上の実力を持ちつつ、自分の力を過信せず他人に意見を求める器量も持ち合わせている。こんな優秀な冒険者達をクランメンバーとして迎えているレクサスの慧眼に思わず舌を巻いた。
「予想よりもワイバーンがいるけど、あなた達なら問題ないって思えちゃうアタシは親バカなのかしら?」
「いいや? この程度の数、俺達なら問題なくこいつらを討伐できる……足手まといがいないのであれば、な」
ノートがちらりと俺とセレナの方を見た。何が言いたいのかは馬鹿でもわかる。
「安心なさい。レオンとセレナはアタシと一緒にあなた達の頑張りを見守っているから」
助っ人とはなんなのか、と思わなくもないが、それを口にしたところで角が立つだけなのは明らかなので、黙っておく。
「……それはありがてぇな。なら、俺達があの成長しすぎたトカゲ共を駆逐する様を、のんびり眺めていてくれ!」
そう言うと、ノートは愛用のショートソードを手に持ち、ワイバーンへと向かっていった。
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