第47話 教育係
そんなに長い時間ではなかったのだが、それでも満足したみたいでお店を出るとレクサスは適当に別れを告げどこかへ去っていった。
「……なんだか大きな人ですね、レクサスさんって」
レクサスが歩いていった方向を見つめながらセレナが呟く。それが体格の話ではない事などもちろん分かっている。目がちかちかするような恰好をしているあの男が、クラン長として皆から慕われているのはその圧倒的な強さだけではなく、そういった懐の広さに合った。それは俺もちゃんと認めているところではあったが、セレナに言われるとなんとなくこそばゆい。
「まぁ、確かに態度はでかいな」
「そう意味じゃないですよ! ……って、あれ? もしかしてちょっと照れてますか?」
「うるせぇ」
にやにや笑いながらセレナが顔を覗き込んできたので、俺は仏頂面でそっぽを向いた。
「そんな事より、これからどうする?」
「えーっと、確か受付嬢のグロリアさんから夜ご飯のお誘いを受けてるので、それまでは時間がありますね」
「ブラスカの町でも見て回るか?」
アオイワに比べて、特に女性は見るところが数多くあるこの町を回るには半日では足りないと思うが、軽く見るくらいはできるだろう。
「うーん……それもいいですが、折角この町に来たのにまだエブリイとヴィッツの二人と全然話せてないんですよね」
「だったら、適当に宿とってギルドに戻るか」
「そうしましょう!」
レクサスに会ってしまった以上、最早姿を隠す意味はないのでギルドに行くのに抵抗はなかった。まぁ、
ダンジョンでかなりの臨時収入を得たのでそこそこの宿に足を運んだ俺達は、広めの部屋を一つとってからギルドを目指した。本音を言えば、お金にも余裕あるし、セレナもそれなりに戦えるようになってきたという事で、そろそろ別部屋でもいいか、と思っていたのだが、セレナがものすごい剣幕で同じ部屋を希望したので、とったのは一部屋だった。なんだかんだ言って裏ギルドから命を狙われているのが恐ろしいのだろう。実際問題同じ部屋にいる方が護りやすいので、セレナが構わないのであればありがたい話だ。
「セレナさん!」
「師匠ぉ!」
ギルドの修練場に入ると、クランメンバーからしごかれていた二人が俺達に気が付いてこちらに駆け寄ってきた。
「おう、やってんな」
「先ほどは全然お話しする時間がなかったので戻ってきましたよ」
満面の笑みで近づいてくる二人を見て苦笑いを浮かべた。
「ようレオン! それと……セレナだったか?」
「うわっ! 何度見ても超美人だな!」
「久しぶりだな。ハイエース、オデッセイ」
二人の後ろから歩いて近づいてきた懐かしい顔に、俺は軽く手をあげて応える。この二人は
「俺はハイエース・ウェズリー、こっちはオデッセイ・ファラーだ。よろしくな」
「よろしくお願いします。セレナです」
差し出された大きな手をセレナが笑顔で握り返す。
「お前が目を付けたこいつらは、まだまだひよっこだが中々に見込みあるぞ!」
「別に目を付けたわけじゃねぇけど、まぁそれならよかったな」
「最近の若い奴はすぐに諦めちまう奴ばっかだが、こいつらは根性がある! 将来が楽しみだ!」
「その言い方は『最近の若い奴』に反感を持たれるからやめとけ」
親しげに話す俺達を、エブリイが少し驚いた顔で見ていた。
「……気になってたんだけど、レオンさんって
「ん? そういやそうだな。クラン長とも普通に会話してたし……はっ!? もしかして師匠って
興奮するヴィッツの方に、ハイエースが笑いながら手を乗せる。
「いーや、こいつは
「そうだぜ。こいつともう一人活きのいいのがいたんだが、誘っても頑なに入ろうとしなくてよ。気づいたら冒険者パーティの中で一番有名な」
「おい、オデッセイ。いいのか? 余計な事言ったら……」
「……あぶねぇ、そうだった」
お調子者のオデッセイがその一言で固く口を閉ざした。ん? なんだ? もっとセドリックの事とかセレナの事とか聞いてくると思ったんだが。
「グロリアから言われてんだよ。『みんなで問い詰めたらレオンに迷惑だ。もし、それでも聞こうとするやつがいるなら、自分の斧の錆落としにしてやる』ってな」
「けっ! 錆落としどころか、返り血でさらに錆びちまうだろうよ!」
グロリアが事前に言い聞かせてくれたのか。それなら納得だ。
「つーわけで、新人教育を再開したいところではあるが……」
「えぇ!? あのダンジョンのボスを倒したんですか!?」
「はい! とても手ごわい相手でしたが、何とか勝ちました!」
「すげぇ! 流石師匠とセレナの姉ちゃんだな!! 詳しく教えてくれよ!!」
「……流石に邪魔するのは無粋ってもんだよな」
仲良く談笑している三人を横目で見つつ、ハイエースが肩をすくめた。二人と別れた後のダンジョンでの出来事をセレナが楽しそうに話している。あそこには俺の都合で行ったから少し気になっていたんだが、あの表情を見る限り、そう嫌な思いはさせなかったみたいでホッとした。
「……なぁ、オデッセイよ。なんかレオンが今まで見た事のない顔でセレナちゃんを見てるんだが、どう思う?」
「あぁ、ハイエースよ。全てを壊したい衝動に駆られるんだが、俺だけなのか?」
「大丈夫だ。俺も同じ気持ちだから」
「そうだろう、そうだろう」
「……なんだよ?」
無表情で俺を挟み込むように立つオデッセイとハイエースを面倒に思いながら交互に見る。
「腕がなまっていないか、お前の元教育係だった俺達が確かめてやる」
「下らん場所で死なれても寝覚めが悪いからな。なんだかんだ言って俺もハイエースもお前の事を心配してんだよ」
練習用の木の剣を差し出してきながら、神妙な面持ちで二人が言った。自分の元を去った生徒にまで気を配る、まさに教育係の鑑だ。まさか二人がこんなにも立派な人物になっているとは……これが本心からの言葉であればの話だが。
「…………本音は?」
「「あんな可愛い子と二人旅とかマジでむかつく!!」」
昔と何も変わっていない二人に、何とも言えない安心感を覚える俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます