第44話 修練場にて
「……ちょっと羽目を外しすぎたわね」
レクサスから闘気が消え失せた。それを確認した俺は脱力しながら地面に大の字で倒れ込む。
「あらあら。この程度でばてちゃったの? ちょっと体力落ちたんじゃなぁい?」
「……あんたと闘り合ったら誰だってこうなるって。しかも、ちょっと本気だっただろ?」
「うふ♡ 可愛い教え子が成長していたらハッスルしちゃうものよ」
「だとしてもやり過ぎよ。あなた達が好き勝手暴れたら修練場どころかこの建物が大破するわ」
愛用の戦斧を肩に担ぎながらグロリアが怖い顔で言った。相変わらずの怪力で尻の穴が縮み上がりそうだ。こんな受付嬢、他にいないだろ。
「レオンさん!」
大声で名前を呼びながらセレナが駆け寄ってくるのが見えた。だが、俺の方に来ているのは彼女だけではない。
「大丈……!!」
「レオンじゃねぇか! 久しぶりだなぁおい!!」
「なによ! ブラスカに戻って来てるんなら一声かけなさいよ!」
「レクサスさんとやり合えるとは流石だな! また腕を上げたんじゃねぇか!」
「おかしな噂を聞いたぞ! セドリックと喧嘩でもしたのか?」
わらわらと群がってくる
「はいはいはい。懐かしい気持ちはわかるけど、レオンの新しい仲間のセレナちゃんが押しつぶされちゃってるわよ。どいてあげなさい」
ぱんぱんと手を叩きながらレクサスが言うと、集まっていた連中が横に割れ、ボロボロになったセレナが姿を見せた。
「だ、大丈夫ですか……?」
「いや、お前の方が大丈夫か?」
フラフラと近寄ってきたセレナに、体を起こしながら声をかける。
「突然戦いが始まったので驚きました。今回復魔法で傷を治しますね」
「いや、大した傷は負ってないから大丈夫だ」
「それならよかったです。息をのむほど激しい戦いだったので心配しました」
「悪かった。ちょっとばかしはしゃぎ過ぎたみたいだな」
「もう……やんちゃもほどほどにしてください」
なんか最近セレナの母親感が増した気がする。聖女というか聖母だな。セレナは精神年齢が高すぎる。
……というか、なんでこんなに静まり返ってるんだ? レクサスも含めてここにいる全員が無言で俺達をじっと見ているんだが。怖すぎる。
「……うぉぉぉぉぉい!! 一体どうなってんだよぉぉぉぉぉ!!」
「なんでだ!? セドリックと違ってレオンは愛想も悪いし、女にもてる要素ねぇだろうが!! それなのになんでこんな奇麗な子がこいつの心配してんだよぉぉぉぉ!!」
「お前にはツンデレ女王のシルビアちゃんがいるだろうが! 俺に譲れよぉぉぉぉ!!」
「死ね! 今すぐに地獄に落ちろ! そして、涙ちょちょ切れながら俺達に土下座で懺悔しろ!! し続けろ!!」
「あたいは逆に女の子相手に優しく話すレオンに不覚にもきゅんとしちまったよ!」
「あんたにもそんな一面があったんだね! そのギャップにお姉さんは萌え萌えだよぉ!」
……本当に
ズドォォォォン!!
修練場に凄まじい地響きが鳴り響いた。全員が恐る恐る振り返ると、地面を砕いた戦斧と額に青筋をたてながら完全無欠の笑みを浮かべているグロリアを見てぶるりと体を震わせる。
「……修練場は和気あいあいと団欒をするところではありませんよ? そういうのはギルド併設の酒場でやっていただけますか?」
「あ、はい。すみませんでした」
残ったのは五人。レクサスとグロリアとセレナ、そして……。
「師匠ぉ! 来てくれたんだな! すげぇかっこよかったぞ! 流石は俺の師匠だ!」
「すごいね、レオンさん! 強いのは知ってたけど、ここまでとは思わなかったよ!」
少し後ろにいたヴィッツとエブリイが、他の連中が俺の側からいなくなったのでぐっと近づいてきた。その興奮振りに思わず苦笑いを浮かべる。
「二人とも、念願の
「うん! とはいっても仮入団なんだけどね。これからの成長次第で正式なクランの一員になれるんだ! というか、レオンさんは
「宣言通り師匠達と潜った'血'のダンジョンの戦利品は使ってねぇぞ!? 真正面からテストを受けて認めてもらったんだ!」
「わかってるよ。短い期間しか一緒にいなかったが、お前ら二人が誠実なのはちゃんと知ってるつもりだ」
ゆっくりと立ち上がりながら二人の頭に手を置き、優しく撫でた。嬉しそうにはにかむ二人を見て、思わず頬が緩む。
「あんたもそんな顔するのねぇ。というか、うちのルーキー達と知り合いだったのねぇ」
「ダンジョンで偶々会ってな。その時に少しだけ共闘したんだ」
「あぁ、そういう事? どうりで試験に来たこの子達の戦い方があたし好みだと思ったら、レオンが仕込んだのねぇ」
レクサスが顎に手のひらを当てながら納得したように頷いた。少し後ろに立っているグロリアが注目を集める様に咳払いをする。
「レクサス様。先ほども言った通りここは……」
「んもう! わかってるわよ。レオンとセレナちゃん、場所を変えましょ。色々とお話もしたいし」
「え……?」
「あー、わかった」
予想外の申し出だったのか、セレナは驚いた様子だったが俺はすぐに了承した。この男にはちゃんと説明しないといけないだろう。顔見知りなんて間柄ではないのだから。
「あなた達も一緒にどう?」
「い、いや俺達は……!」
「く、訓練もありますので……!」
俺と話す時とは全然違い、がちがちに緊張しながらヴィッツとエブリイがぶんぶんと両手を振って断る。まぁ、そういう反応になるのも仕方ないだろう。
「そ。じゃあ、行きましょうか」
軽快な口調でそう言うと、レクサスは衣服を直しつつ、スタスタと歩き出した。その後についていこうとした俺に、グロリアがつかつかと近づいてくる。
「今は職務中だから一緒に行けないけど、夜はあけときなさい? いつものとこ行くわよ」
「……へいへい」
「セレナも来てね? お酒も料理もおいしいお店だから」
「は、はい! わかりました!」
セレナが少し硬くなりながら笑顔で返事をした。今夜は長くなりそうだ、そう思いながら俺とセレナはレクサスの後を追い、修練場を後にした。
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