第29話 初めての四人チーム
「エブリイ! こいつ、酸を飛ばしてくるから注意しろ!」
「わかった! なんとか魔法を唱える隙を作って!」
少し離れた先で巨大な蛇の魔物と相対している二人の冒険者を腕を組みながら見守る。今戦っているブラッドヴァイパーの通常個体であるヴァイパーはランクC。出会った時に苦戦していたオークよりも更に上だ。正直、あの二人だけで倒すのは相当厳しい魔物といえる。
ちなみにセレナもあの二人と共にブラッドヴァイパーと戦っている。だが、どうにも手を出しあぐねているようだ。威力はあれど、弓の扱い自体はまだまだ一人前とは言えないから、ブラッドヴァイパーのように素早く動き回る相手にはまだまだ当てられずにいる。今後の課題だな。
「ヴィッツ、相手の動きをよく観察して移動先を予測しろ。無意味に攻めても体力と時間を無駄に消費するだけだ」
「予測って……師匠の指示はむず過ぎるっての!」
「せっかく四属性の魔法が使えるんだ、ブラッドヴァイパーにはどの属性が有効なのか探ってみろエブリイ。その際は初歩的な魔法でいい。重要なのは魔法を当てて弱点属性を知る事だ。魔物によっては
「は、はい! わかりました!」
ふむ、やっぱり筋がいいな。若干十五歳でDランクになるだけの事はある。エブリイも、なんだかんだ言ってヴィッツも素直に人の意見に耳を傾ける事が出来るからだろうな。
「レ、レオンさん! 狙いが全然定まりません!」
「不用意に打つなよ? 万が一セレナの矢があの二人にでも当たったら死んじまうからな」
「は、はい……」
光の矢は威力の操作が可能らしいから、極力魔力を込めずに打てば二人に危険はないが、それだとあのブラッドヴァイパーの鱗は貫けないだろう。まだ彼女には複数人の戦闘は早いかもしれない。
そう、俺達はヴィッツとエブリイの二人とチームを組んで行動している。なぜなのか、と問われたら俺にも分からない。ヴィッツに短期間同行させてくれと頼まれた上にエブリイからも必死にお願いされ、断る事が出来なかったからなのだが。
まぁ、こういう若い芽が日の目を見ずに枯れていくのは正直忍びない。魔物に対抗する事の出来ない人が数多くいる以上、冒険者というのは必要不可欠な職業だと思っている。優秀な人材はいくらいてもいいだろう。
「くそ……! 偶に攻撃が当てられてもすぐに回復しやがって……!」
「このダンジョンの魔物の特性は話しただろ? 半端な攻撃じゃすぐ回復されるのが落ちだ。その高い回復力を上回る速度で連撃を決めるか、一撃で倒せる大技でしかそいつは倒せない」
「わかってるよ、ちくしょう!!」
ヴィッツがやけくそになりながら剣を無茶苦茶に振った。やれやれ、あれじゃいつまでたっても倒せないぞ。
「はぁ……はぁ……!!」
大量の汗を流しながらヴィッツが息を荒げている。かなり長い時間戦ってるから限界が近そうだ。そろそろ手を貸すとしよう。
「大分、息が上がってるな」
「あ、師匠……!!」
「援護射撃があまりなかったから、殆ど一対一で対峙していたもんな。だが、それは前衛であるお前のせいだ。後ろから攻撃をしてくれる奴らに攻撃しやすい状況を作り出すのが、前で戦う奴の役目の一つなんだよ」
前衛の心得を説きつつ、ヴィッツと役割を交代した。さて、と。倒すこと自体は容易だが、どうしたものか。
「"
指の間に八本の飛剣を作り出す。これは飛ばす事に特化した剣だ。杭のように使う事も出来る。
「よく見てろ。後衛がいるならこういう戦い方もある」
後ろに下がったヴィッツにそう告げると、シュルシュルと壁や天井を動き回るブラッドヴァイパーに狙いを定めた。そして、左手の四本を一気に放つ。
「ゲギャ!?」
ブラッドヴァイパーの動きが止まった。訳も分からずもがいていると、自分の尻尾が四本の剣によって壁に磔にされている事に気が付く。更にその上半身を四本の剣が貫いた。
「すばしっこく動く相手はとにかくその動きを止めろ。そうすれば大抵何とかなる。エブリイ」
「え? あ、はい! "
いい的になったブラッドヴァイパーをエブリイの魔法が燃やし尽くした。突然指示したのに中々いい威力の魔法だ。ブラッドヴァイパーが苦手とする炎魔法をしっかりと用意していたのだろう。
「こんなにあっさり……やっぱ師匠はすげぇな」
「あっさり倒せたのはお前の相方が優秀だったからだよ」
「それは師匠があの魔物を釘付けにしたからだろ? やっぱすげぇよ」
黒焦げになったブラッドヴァイパーを見ながらヴィッツが地面に寝転んだ。
「かー! 自分が弱すぎてむかつくぜ!!」
「そう悲観する事はねぇ。エブリイとの連携は良かったぞ。互いに信頼し合っているようだった」
「し、信頼って……! べ、別にそんなんじゃねぇよ! ただ、エブリイとはガキの頃からずっとつるんでるから、あいつのしぶとさを知ってるだけだ!」
「ガキの頃から、か……」
そんな昔から一緒にいれば、嫌でも相手の動きや考えがわかるよな。それは俺もよく知ってるよ。
「師匠だってセレナの姉ちゃんと息ピッタリじゃねぇか! 常に姉ちゃんの身を護るように動いてるくらい、俺にだってわかったぞ!」
「いや、俺達は……」
そこで言葉が止まる。俺とセレナはヴィッツ達とは違う。ヴィッツとエブリイはチームメンバーとして背中を預けて戦っている。対して俺達は一緒に戦っていても関係性は護衛とその対象だ。セレナが多少戦えるようになった今でもそれは変わらなかった。いつかそれが変わる日が来るのか、俺にはわからなかった。
それからもう少し浅い階層に移動し、ヴィッツやエブリイ、セレナのレベルにあった魔物を三時間ほど倒し続けた後、今日はここまでという事で俺達はセーフティエリアに戻ってきた。ドロップしたアイテムは十二か。まずまずといったところだな。
「アイテムの取り分は半々でいいか?」
「半々!? ちょ、ちょっと待てよ! 俺達は無理言って師匠達についてってんだぞ!? そんなのもらえねぇよ!」
「そうですよ!」
まさか断られるとは思わなかった。予想外の反応だ。
「何言ってんだ。魔物を倒したのはお前達だろ」
「レオンさん達が一緒にいてくださったおかげで、心置きなく魔物を倒せたんです! 私達だけじゃ絶対無理でした! だから、いただくわけにはいきません!」
短い付き合いの中で、エブリイが真面目で意志の固い少女である事を知った。こうなったら受け取ろうとはしないだろう。だが、それは良くない。臨時とはいえチームを組んでるんだ、報酬は均等にするのが冒険者のマナーだといえる。
「……ヴィッツさん、エブリイさん。どうか受け取ってくれませんか? 魔物と一緒に戦って得た成果なので是非とも共有したいんです。同じチームを組んだ記念として」
俺が困っているのを察してセレナが助け舟を出してくれる。優しく微笑まれたヴィッツが顔を真っ赤にさせながら視線を左右に泳がせた。
「セ、セレナの姉ちゃんがそこまで言うなら……!」
「ヴィッツ!?」
「だ、だってよ! 師匠や姉ちゃんとチームを組んだ記念とか言われちまったらよぉ!」
「で、でも……!!」
「遠慮するのもいいが、冒険者はもっと強欲じゃねぇとダメだぞ、エブリイ。変に勘繰られて、いらぬトラブルを招くことだってあるんだ」
「そ、そうなんですか……?」
基本的に欲深いのが冒険者という生き物だ。そんな冒険者が報酬はいらないと言えば、なにか下心があるのではないかと疑うのも無理はない。まぁ、今回エブリイに下心がないのは分かっているが。
「……わかりました。レオンさん達の厚意に甘えたいと思います」
「それでいいんだ。ただ、一つお願いがある。分けるのはダンジョンを出て鑑定をしてからでもいいか? どうしても欲しい効果をもったアイテムがあるんだ」
「あぁ、当然かまわねぇよ!」
「分けていただけるだけでありがたいんですから」
二人が快くオッケーしてくれた。ありがたいのはこちらの方だ。この中に'増血'の効果が付与されてるものがあればいいんだが。こればっかりは自分の運を信じるしかない。
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