第24話 戦闘訓練

「俺の戦闘スタイルが近接タイプだって事を見てもらったところで、次はセレナにも戦闘に参加してもらう。その時、俺に魔法をかけながら戦ってみてくれ」

「は、はい!」


 一番最初に確認しておきたい事はこれだ。魔法を使いながら戦闘できるかどうか。これは俺のサポートという面もあるが、セレナのためでもある。アリアがそうであったように、自分に防御魔法をかけながら戦う事が出来れば、それだけで生存率が飛躍的に上昇する。


「……また来たぞ、今度は五だ。気配的にさっきと同じブラッドウルフだな。お誂え向きといったとこか。今度はわざと一匹見逃すからそいつの相手を頼む」

「わかりました」


 セレナの表情が真剣なものに変わった。俺は僅かにひざを曲げ、ブラッドウルフ達の姿を視認した瞬間、一気に地面を蹴る。


「"血化鉄ちかてつ戦斧ハンドアックス"」


 片手で持てる斧を作りだし、すれ違いざまに四匹のブラッドウルフの首を刈り取った。そして、すぐさまセレナの様子を確認する。襲い掛かってくるブラッドウルフの噛みつきを冷静に躱していた。自分が使う武器として弓を選んだため、近接戦はどうしようかと悩んだ結果、アオイワでは回避に特化した訓練をした。下手にナイフとかを使わせるよりもいいと思ったが、どうやら間違いではなかったようだ。


「ここです!」


 攻撃を躱していくうちにブラッドウルフの隙を見つけたセレナが矢を射る。見事胴体に命中し、ブラッドウルフはその場にぐったりと倒れ込んだ。


「やりました! レオンさん!」


 自分の戦果に興奮気味な様子でセレナが喜声をあげる。ふむ、悪くない内容だった。相手がただの魔物であればの話だが。


「ダンジョンモンスターは確実に息の根を止めるまで油断をするな」

「へ?」


 俺が駆け出すのとブラッドウルフが動き出すのがほとんど同時だった。


「え!? なんで!?」


 まさか起き上がって来るとは思っていなかったセレナが慌てて弓を構えようとする。だが、動揺した状態ではうまく矢をつがえる事が出来ない。そんなセレナを待ってくれるわけもなく、ブラッドウルフがその喉元を嚙み千切ろうと大口を上げた。寸でのところで俺が斧を叩き下ろす。


「あ……あ……」

「ダンジョンモンスターは特殊な魔素の影響を受けていると話したよな? 俺は一撃で絶命させてたから気づかなかったかもしれないが、この'血'のダンジョンの魔物は異常な回復力を身につけている。それこそ致命傷を与えてもすぐに回復するぐらいのな」


 ブラッドウルフが死んだことを確認しながら、その場にへたり込んだセレナに淡々とした口調でレクチャーする。


「……ごめんなさい。倒したと思って気を抜きました」

「ん。反省できればそれでいいさ」


 深呼吸して自分を落ち着けながらセレナが言った。少し意地悪だったかもしれないな。セレナの攻撃力ではこうなる事は分かっていた。

 だが、魔法を使いつつ戦うという事に関しては合格点だ。これなら次のステップに移っても問題ないだろう。

 

「恐らくブラッドウルフはこのダンジョンで一番弱い魔物だ。それでもセレナの弓じゃ余程当たり所が良くない限り一撃で倒す事はできない」

「連射しなければならないという事ですか? いやでも……」


 セレナが口を閉じて何やら考え始める。俺は何も言わずにセレナの言葉を待った。


「……一撃で仕留める術を身につけろ、という事ですか? 聖魔法を駆使して」

「大方正解だな」


 セレナの答えに俺は笑顔で答える。どうやら俺がわざと矢を少なくした理由を察してくれたようだ。


「弓兵が最も困る事は何だと思う?」

「相手に接近される事でしょうか? 遠距離では圧倒的なアドバンテージがあっても、近づかれると対処が困難です」

「確かにそれも困るな。だが、一番じゃない。今だって近づかれても一瞬の隙をついて攻撃する事は出来ただろ?」

「……あ! 矢がなくなる事です!」


 閃いたセレナは再び思考を巡らせ始めた。


「現物の矢は有限……なくならないよう大量に持てば動きが制限される……それならばレオンさんみたいに……」


 何やら難しい顔をしながらぶつぶつ呟いている。わざわざ俺の戦い方を、もっと言えば俺の魔法を間近で見せた意味があった。この感じだとこれ以上俺の言葉は必要なさそうだ。


「わかりました! 魔法で矢を作り出せばいいんですね!」


 やはり彼女は頭の回転が速い。殆ど助言なしで、俺が求めている答えに行きついた。


「それが出来れば大幅強化だな。魔法で矢を作れれば魔力がある限り矢はなくならないし、セレナの聖魔法の腕は一級品だから威力も段違いになるだろうぜ」

「そんな……一級品だなんて」


 セレナが照れながら体をもじもじさせる。事実なんだから照れる必要なんてない。聖魔法が使える奴なんて片手で数えるくらいしか知らないが、その中でも抜群に才が抜けていたアリアと同等かそれ以上の使い手なんだから。


「まずは聖魔法を矢に纏わせるようにするといい。俺もそうやって剣やら斧やらの造形を頭に叩き込んだ口だ」

「魔法はイメージが大事……より具体的に頭に描く事で形にする事ができる、という事ですね」

「そういう事だ」


 やるべき事がはっきりした事でセレナの顔つきが変わった。後は実践あるのみだ。幸いここなら試す相手に事欠かない。セレナのいい練習場になってくれそうだ。

 それから三時間ほどダンジョンを探索して引き上げる事にした。セレナについては期待以上の成果を見せてくれたが、ドロップアイテムに関してはお世辞にも良かったとは言えない。まぁ、セレナの戦闘訓練の関係であまり奥深くに行かなかったというのもあるだろうが、それにしても寂しすぎる成果だった。ブラッドウルフに加えて、すばしっこいブラッドラビットやこちらを見るや否や突進してくるブラッドボアなんかも倒したが、ドロップしたのがナイフ一本だけ。鑑定魔法が使えない俺にはどんな効果が付与されているのかなんて分からないが、多分大したことない気がする。


 まぁ、ファーストアタックはチュートリアルみたいなものだ。セレナの成長を考えると、次はもっと奥まで行けるだろう。そこでお目当てのアイテムをゲットさせてもらおう。

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