第15話  髑髏タトゥーの男

 キンタッケーからアオイワの間にある薄暗い森の中を、黒いローブに身を包んだ集団が突き進んでいた。ここルイブルの森は魔物の数が多く、素材の収集でもなければ冒険者でも近寄ろうとはしない。そんな森を移動経路に使っている時点で、この集団が一般市民ではない事は明らかだった。


「あーぁ……かったりぃな、おい」


 殆んどの者が深くフードを被って顔を隠している中、一人だけ顔を隠さずに歩いていた男が、不満全開の様子で言った。左頬に髑髏のタトゥーを入れてる特徴的な男だったが、それよりもまず目を引くのが背中に背負ってる彼の得物だった。返り血により赤黒く染まった人の身の丈程ある禍々しい巨大な鎌。男が醸し出す剣呑な雰囲気も相まって、それがどのような用途に用いられるかは想像に難くない。


「なぁ、おい。なんで俺様がわざわざ小娘如きを殺しに行かなきゃいけねぇんだ?」


 髑髏タトゥーの男に話しかけられた黒ローブの人物がビクッと体を震わせる。


「た、確かにターゲットの娘に戦う力はありませんが、その娘についている護衛は相当な手練れです。我々全員で襲い掛かっても仕留める事が出来ませんでした」

「それはてめぇらが雑魚過ぎるだけじゃなぁい。つーか、てめぇらが失敗ミスったせいで、その尻拭いで俺様はこんなだるい思いをしてるってわけだ」

「も、もももも申し訳ありません! で、ですが聖女の護衛が強いのは間違いないです! 強者と戦いたい、という高い向上心を持っておられるディアブロ様が満足できるほどに……!!」

「黙れ。殺しちゃうよ?」


 髑髏タトゥーの男から放たれた殺気は、ルイブルの森にいる手ごわい魔物達ですらその場を離脱するほどのものだった。それを間近に受けた黒ローブ達の者達の全身からは冷や汗が噴き出し、自然と呼吸が荒くなる。


「……ちっ。つっても、てめぇらを皆殺しにしてギルドに戻ったら親父にどやされるのは目に見えてっからな。クソむかつく話じゃなぁい」


 殺気を消しながら舌打ちをした髑髏タトゥーの男が面倒くさそうに頭をかいた。黒ローブの者達がホッとしたように息を吐く。


「つーわけで、てめぇらがそのお強い護衛とやらをるまで付き合ってやる。ただ、だりぃから手伝いとかはしねぇ。見てるだけだ」

「そ、それは……!!」

「俺様と同じで親父からてめぇらのお守りを頼まれたチビがいるじゃなぁい。そいつにご助力願えよ」


 黒ローブの者達の中で一際小柄な人物を見ながら髑髏タトゥーの男は言った。自分の事であるのは分かっているだろうに、その小柄な者は一切反応せずに黙々と歩を進めている。


「そ、それでターゲットを始末するよう努力します! で、ですが、もし仮にそれでも始末する事が出来なければその時はディアブロ様のお力を──」


 ヒュン……。


 風を切る音が聞こえた。誰かが動いた素振りはない。にも拘らず、直前まで言葉を発していた黒ローブの男の首が宙を舞った。一瞬にして空気が張り詰める。


「……他に死にてぇ奴はいるか?」


 いつの間にか大鎌を手にしている髑髏タトゥーの男が周りに鋭い視線を向けた。誰一人として口を開く者はない。


「けっ、さっさと仕事を終わらせてくれよ、雑魚ども」


 不機嫌そうにそう告げると、髑髏タトゥーの男は大鎌を背に戻し、魔物の気配が一切しなくなった森の中を大股で歩いていった。

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