第13話 悪夢
視界が
熱さは感じない。焦げた匂いもしない。つまり、そういう事なのだろう。
ゆっくりと顔を横に向ける。思った通り、そこには金髪の少年が涙を流しながら地面を殴りつけ叫び声を上げている姿があった。なぜか、世界から音が消えてしまったかのように何も聞こえはしないが、鮮明に覚えている。あの日の嘆きと、憎悪と懺悔の入り混じった瞳を、一度たりとも忘れたことはなかった。
空が目まぐるしく変化する。周りの景色がぐにゃりと歪んだ。
再び視界が
「――レオン、悪いがパーティを抜けてくれ」
抗うことのできない大炎の前で泣き崩れていた少年が、逞しく成長した姿で俺に冷たく言い放つ。
落ちていった。闇の中へと音もなく真っ逆さまに。
俺の目にはもう……何も映らない。
*
自分の鼓動で目を覚ました。最悪な気分だ。ため息を吐きながら立ち上がり、窓から外を見る。濃紺の空はまだ顔を見せる様子のない陽の光を待っているようだった。
嫌な夢を見た。これまでは子供の頃のあの一幕だけだったというのに、いつの間にかおまけまでついてくるようになった。寝るのが嫌になりそうだ。
念の為周囲の気配を探るが、怪しいものはなし。安心して寝てもいい状況なのに寝る気になれなかった。眠気がないわけじゃない。むしろ、長い馬車旅で十分に寝れていなかったので体は睡眠を欲している。だが、目を瞑り意識を手放した瞬間、またあの場面に送られたらと思うと尻込みしてしまう。我ながら女々しいな。
とはいえ、保護対象がいる状況、休める時に休んでおかないと、いざって時に体が動かなくなってしまう。それは困るので無理にでも寝とかなければ。
憂鬱な気持ちでもう一度ソファに横になろうとした時、何気なくセレナを見た俺は気づいた。気づいてしまった。
「セレナ……」
うつ伏せ気味に寝ているその顔から涙が流れている。彼女が俺に何が起こったのか知らないのと同様、俺も彼女に何があったのか具体的には知らない。知っているのは教会から裏切られたという事だけで、それがセレナにとってどれほどの事なのかは考えようともしなかった。
そうだ。初めてセレナを見た時、彼女は死を享受していたじゃないか。それなのに俺と行動するようになってからは、そんな様子はおくびにも出さず、普通の女の子のように明るく振る舞っている。吹っ切れたと勝手に思っていたが、枕を濡らしているところを見るにそういうわけでもない。では、いったい何故か。
「そうか……」
――あなたのためです。
自分に差し向けられた刺客を殺さないよう頼んできたセレナが俺に言った言葉が思い起こされる。俺のためなのか。必死に隠そうとしているが、その実未練たらしく憔悴している情けない俺を救うため気丈に振る舞ってるのか。
「……はっ、これじゃ、どっちが護られてるのかわからねぇな」
自嘲の笑みを浮かべながら、少しはだけたセレナの布団を静かに直した。この人は死んでも護る。義務感や同情じゃない、俺がそうしたいと今心の底から思った。
少しの間セレナの寝顔を見つめていた俺は、そんな決意を固め、もう一度眠りについた。
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