『壊して』飛んでみるには

「話、脱線しちゃったね。ごめん」

「いえ、もっとフィリア様のことが知れたので。それに……まだ『ハルモニア』まで時間があるのですから無駄話もいいものです」

「それならよかった。とりあえず、『空間移動』って言い方でいいのかな……仕組みを説明するね」

 気を取り直して、本来行いたい説明のために三枚目のメモ紙と、ペンを貸してもらう。

 私は、二つの点を紙の端と、端にぐるぐる付けた。

「お兄様、この紙を空間だと仮定して、この二つの点を最短で行くとしたら、どうすればいい?」

「そんなのは簡単です」

 お兄様は、さも当然のように紙を折り曲げて二つの点をくっつけた。

「こうすれば、最短で向かうことが出来ます」

 確かにこれは正解だ。

「これは『壊してない』よ」

「あ……確かに、そうですね」

 でも、私にはできないアプローチの『正解』だ。この手段は私には使えない。

「これは、前提条件を言ってなかった私が悪かったね。ごめん。じゃあ、改めてしつもんするよ。お兄様。この紙を折ることなく最短距離で向かうにはどうしたらいい?」

「……うーん。ハサミを用意しても?」

「だめ。その代わり、切りたいところを教えて。その通りに私が『壊す』から」

 これは、あくまで私の『能力』を用いた『空間移動』のアプローチだ。ハサミで切ったら、それはハサミで空間を切って移動することになる。

 でも……お兄様の着眼点は完璧だ。あとは場所だけど……

「フィリア様。点の真横に二箇所、始点と終点を繋いだら点が通るように、平行に切れ込みをいれてください」

「うん。わかった」

 口角が上がりそうになるのを我慢しながら──


 パキ。


 お兄様の言われた通りに紙を『壊すと』を入れると、短辺のない長方形のような形を想起させるヒビが、紙に入った。

「お兄様、ヒビには触れないようにね。最悪指が落ちるから」

「っつ!……はい、気を付けます」

 私が紙を渡そうとすると、お兄様は一瞬右手の薬指と小指を左手で反射的に抑えた後、紙を受け取った。

 ……お兄様にしては、妙に動揺していたな。


「こういう感じですかね、紙全体も曲がっていますが……」

「うん。これで合ってるよ。空間の時は、何故か周りは歪まないけどね」

 お兄様が私に見せたのは……切れ込み部分が下に大きく曲がった状態で、点と点が繋がった紙だった。

 なんなら、切れ込みを入れたところを折り曲げても正解だ。だって、『壊した』場所にある空間は、存在しないのだから、どうなっていようと関係ない。

「実際は立体的だからもう少し細かいけど……こうやって切れ込みを入れていきたい場所と場所の間の距離を壊すと、一瞬で移動できるんだ」

「……これ。使って大丈夫なんですか?下手をするとこの空間内に居た人とか物の身体が……」

「あ、それは大丈夫。私が壊してるのはあくまで『距離』だけだから、中に人がいても、すっぽり壊した場所に埋まらない限り害は無いよ」

「……埋まったら?」

「うーん……切れ込みを入れた場所のどこかに、飛ばされる、と思う」

「精密なのか大雑把なのかよくわからないですね」

「それは、私が一番思ってるからね」

 

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