戦闘描写の視点について

るいす

第1話

 戦闘描写において、選択する視点は物語全体の雰囲気やキャラクターの成長、読者にどのような体験を提供したいかに大きく影響します。それぞれの視点には独自のメリットとデメリットがあり、物語の目的に応じて最適なものを選ぶことが重要です。以下に代表的な視点と、それぞれの効果について詳しく紹介します。


 1. 一人称視点

 一人称視点は、主人公の内面的な感情や思考に深く入り込むため、読者が主人公と一体化しやすい特徴があります。この視点は、戦闘中の緊張感やパニック、恐怖、興奮といった感情を強く伝えることができるため、主人公が直接感じている臨場感を読者にリアルタイムで伝えるのに適しています。また、キャラクターの成長や葛藤がメインテーマとなる場面では、彼らの内面に焦点を当てやすくなります。


 メリット


 主人公の感情や心理描写に密着し、感情の起伏が伝わりやすい。

 主人公の戦闘中の緊張感や焦り、恐怖、興奮がリアルに描写され、読者に緊迫感を与える。

 読者が主人公に強く共感し、一緒に戦っている感覚を得やすい。

 デメリット


 主人公の視点からしか描写できないため、他のキャラクターの状況や全体の戦闘の進行を把握しづらい。

 戦闘の情報が限られ、主人公が見聞きした範囲内に限定されるため、物語の視野が狭くなる可能性がある。

 例

「剣が迫る。反射的に体をひねったが、刃先が頬をかすめた。鋭い痛みが走ると同時に、冷や汗が噴き出す。『やばい』…心臓が狂ったように早鐘を打ち、足が動かない。今度こそ負けるかもしれないという恐怖が頭をよぎった。」


 2. 三人称限定視点

 この視点は、特定のキャラクターに焦点を当てつつも、客観的にそのキャラクターの行動や感情を描写できます。主人公の心理描写にある程度の深みを持たせながらも、周囲の状況や他キャラクターの動きを描写できるため、戦闘全体の流れを掴みやすいのが特徴です。感情表現と戦闘描写のバランスを取りたい場合に適しています。


 メリット


 一人称よりも広い視点で物語を描きつつ、キャラクターの感情や思考にも入り込むことができる。

 戦闘中のキャラクターの動きや周囲の状況を広く描写しやすく、読者に全体像を伝えやすい。

 キャラクターの心理描写と戦闘のダイナミクスを組み合わせて描写できる。

 デメリット


 キャラクターの内面描写に限界があり、感情に深く踏み込むには不十分なこともある。

 例

「アッシュは剣を瞬時に振り上げ、敵の攻撃をかろうじて弾いた。重い金属音が耳に響く中、冷や汗が背中を伝うのを感じる。しかし、アッシュの視線は次の敵の動きをすでに捉えていた。隙を見せずに次の一撃を繰り出す準備を整えていたのだ。」


 3. 三人称全知視点

 全知視点では、戦場全体を描写しつつ、複数のキャラクターの視点を自在に切り替えながら物語を進めることができます。この視点は、各キャラクターの内面的な状況や感情を深く掘り下げることができるため、複数のキャラクターの思考や感情、行動を同時に描くことが可能です。また、戦術や戦略的な戦闘描写にも適しており、戦場の広範囲な描写が求められる場面では特に有効です。


 メリット


 複数のキャラクターの視点を交互に描くことで、戦闘全体の状況や各キャラクターの役割を明確に描写できる。

 敵側の視点や状況も自由に描けるため、戦闘の緊張感を高めやすい。

 戦場全体の戦略や戦術を描写するのに適しており、広範囲の状況を把握することが可能。

 デメリット


 読者が特定のキャラクターに感情移入しにくくなる可能性がある。

 複雑な戦闘描写では、どのキャラクターに焦点を当てるべきかが混乱することがある。

 例

「アッシュが剣を振り抜くと、フィンはその瞬間を見逃さなかった。敵の背後に静かに回り込み、すでに矢を放つ準備をしていた。一方で、エルザは戦場全体を見渡し、さらに遠くの山から迫り来る別の脅威に気づき、その目は鋭く光っていた。」


 4. 複数視点(多視点)

 複数視点を使うことで、戦闘の各場面で異なるキャラクターの視点を自由に切り替え、戦場の広範囲な描写や各キャラクターの役割を細かく描写することが可能です。各キャラクターの感情や思考を多角的に描きながら、戦闘の流れや展開をスムーズに進められるため、特に大規模な戦闘や複数キャラクターが活躍する場面では効果的です。


 メリット


 戦闘中の異なるキャラクターの視点を切り替えることで、戦闘全体の流れや戦術を詳細に描写できる。

 複数のキャラクターの感情や思考を掘り下げることができ、読者に多面的な視点を提供できる。

 戦闘の進行に伴い、緊迫感を保ちながら次々と視点を変えて描写することで、読者の興味を持続させやすい。

 デメリット


 頻繁な視点の切り替えは読者を混乱させる可能性があるため、注意が必要。

 視点の切り替えが不自然だと物語の流れが途切れ、戦闘の緊迫感が失われることがある。

 例

「アッシュは必死に敵の剣をかわしながら、周囲の仲間たちの動きを追っていた。フィンは敵の注意を引くために巧みに矢を放ち、リナはその隙に詠唱を終え、炎の矢を空に放つ。エリックは影に潜む弓兵を狙い澄まし、素早く矢を射った。戦場は一瞬一瞬で姿を変え、全員がそれぞれの役割を果たしていた。」


 あとがき


 集団戦、個人戦、観客の有無でも変わりそうで難しい。

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