二章 9

 畑川はたかわ小麦こむぎ


「あなたの事はずっと見ていました、畑川小麦さん。やっとお話が出来ます」

 紫苑しおんちゃんの記憶に潜ったはずなのに、私が今見たのは、全く別人の記憶だった。

 何でこんなことが起きているのか、理屈は分からないが、それでも今目の前に立つ紫苑ちゃんではない彼女からは、敵意らしい雰囲気は感じない。

 彼女の立ち居振る舞いはどこか私と似通ったところがあるとすら感じる。不思議な感覚だった。

 一見するとそれは二重人格のように思える。見た目は紫苑ちゃん、声も本人のものなのだが、纏う雰囲気や仕草が他人のそれだ。

 しかし、今見た記憶が正しいのならば、今彼女の中にいるのは来栖くるす凛苑りおん、紫苑ちゃんの姉で間違いない。

「今私の身体は、篠宮しのみや神社に幽閉されています。どんな方法でも良い、私をそこへ連れて行って下さい。そして出来れば……殺して欲しい」

 その突然の提案に私は戸惑い、狼狽えてしまう。ただでさえ今起こっていることを受け入れるのに時間がかかるというのに、次から次へと混乱する言葉が彼女から出てくる。

 何からどう聞けば良いのか分からないし、どういう事情があってそんな事を言ってくるのか、納得が出来ない。私は返事を言い淀んだ。

「このままだと、稀人まれびとがやってきてしまう。止めないと」

「稀人……」

 以前紫苑ちゃんの口から出た言葉だ。それでやっと気づけた。

 今まで紫苑ちゃんが一瞬だけ別人のようになっていたのは、この人の人格が出てきたのが理由だったのか、と。

「あの武者のようなものが、そうなんですか?」

 そう聞きながら私の脳裏に、箱守はこもり邸を出た時に襲われた首の無い落ち武者のような化け物の姿が過る。

「あれは違う。元の人間が上書きされたものです。稀人は別次元の存在……。そうですね、私たちの言葉で形容するならば、神が一番近いでしょうか」

 私はその単語で、篠宮で信奉されていた土着信仰の御神体を連想した。

「神……。つまり、さんかく様の事ですか」

「それもただの繋がりに過ぎない。それに今は、です」

 話を聞いていても、全く理解が追いつかない。だが、今の発言を咀嚼すればつまり、「さんかく様」になった自分を殺せ、というニュアンスに聞こえる。

「だから、あなたを殺せと?」

「そう、繋がりを切ってしまえばいい」

 彼女の話す内容は抽象的で、本質を掴みづらい。それでもとにかく神社に向かえば良いということだけは理解した。

 それでも「私を殺せ」「繋がりを切る」という言葉の真意は計り兼ねる。死にたがっているわけではなさそうだし、むしろそうしなければならないという圧力が感じられる。

 段々と頭が落ち着いてくると、思考が纏まってきた。さっき凛苑さんの記憶の最後に見た、雪の結晶のような小さな粒を思い出す。

「あなたの見つけたクルス粒子と、何か関係があるのですか……?」

 凛苑さんは私を冷たい瞳で見つめてから、一拍置いて答えた。

「全てはあの粒子から始まりました。……あなたのその力も」

 私は全く予想していなかった言葉に面食らった。彼女に見つめられていると、その瞳の奥から全てを見透かされているような不思議な感覚になるのだが、ここまで確信的な事を突かれたのには流石に驚いた。

 衝撃が大きすぎて次の言葉が言い出せずにいると、凛苑さんはそんな私を見つめながら続ける。

「クルス粒子とは、人の意識を介して作用する別次元の物質です」

 人間の意識、精神というものは、実際にこの世界にのだと彼女は語った。

 クルス粒子が意識と結合すると、結合した人間の意志──科学的に言うと脳波の作用らしい──によって自由自在にコントロールすることが可能なのだという。

 意識に結合したクルス粒子が引き起こす現象は、時空間で起こり得る物理的な法則を全て無視して作用する性質がある。YOMIヨミの場合、接続者の意識に結合したクルス粒子が時空間を超えて「メタバース」へ送り込まれるというメカニズムになっているそうだ。

 そして、人間の強い思いや意志は思念の塊となってその場に残る場合があり、死者の意識もまた、肉体が死んだ瞬間に残留思念となる。

 幽霊とは、この世に未練を残すほど強い残留思念を残した死者の意識に、クルス粒子が結合してしまった結果生まれるものなのだという。

「あなたの力の場合は、場所や物体に僅かに残った残留思念に、あなたが宿すクルス粒子が作用して起きているのです」

「私が、宿す?」

「あなたを生んだ母親にも、何か不思議な力があったはず」

 そう言われ、私は母との記憶を思い出す。

 母との別れの際、記憶に潜った時に私も気付いた。母には人の心を見透かすような力があったのだということに。

 クルス粒子は空間を漂い、宿主を常に探している。高い濃度のクルス粒子に曝露され続ける環境に居続けると、その人間にはクルス粒子が宿っていくのだそうだ。

 そして、宿した粒子は子に遺伝する事もある。そういう者は生まれながらにして高い濃度の粒子を宿し、超常的な力を扱うことが出来るという。

 私は、長い間「そういうものだ」となんとなく受け入れていただけの自分の不思議な力の正体をいきなり突きつけられて、ただただ困惑した。

 凛苑さんの語る内容が頭に入っているのかいないのか、それすらも判然としない。どこか夢を見ているようなぼやっとした感覚が私を包んでいた。

「クルス粒子は、あちらとこちらを繋ぐ橋渡しをする……言わば扉のような役割を持つものから流れ込んできました。いつからなのか、どうしてなのかは分かりません。ここ篠宮の地だけでなく世界中に、太古の昔からずっと存在し続けていた」

 そして、篠宮は土着信仰の影響なのか、古い時代からずっとクルス粒子に曝露され続けてきた土地なのだと、凛苑さんは語った。

 そこまで聞いてやっと、なんとなく話が分かってきた。

「その繋がった扉がつまり、さんかく様なんですね」

 私の言葉に、凛苑さんはゆっくりと頷いた。

 にわかには信じがたい話だったが、私自身の力が存在する以上、信じるしか無い。それに、幽霊というものが本当に存在するのだと証明されるなら、私や朱音あかねちゃんが見た影の説明も出来る。

「じゃあ、稀人というのは……」

「稀人は、クルス粒子そのものに意識が宿った集合思念体です」

 意識を持つ粒子。それが一体どういう存在なのか想像して、私は寒気を覚えた。

 そこまで話した時、凛苑さんが突然私の手を引いて車まで走った。

 あまりに唐突だったので、どうしたのかと聞こうとした瞬間、またあの血の臭いが私の鼻腔を駆け抜けた。

 振り返ると、朝見たときよりもはっきりとした形で、あの首の無い武者が何も無い空間から突然現れるのが見えた。

 凛苑さんは無言で私を運転席に押しやり、助手席に乗って武者の方を向いて警戒している。

「神社まで向かいましょう。早く」

 凛苑さんに従ってエンジンをかけた瞬間、私のスマートフォンに着信が入る。朱音ちゃんからだった。反射的に出ると電話口に出たのは朱音ちゃんではなく、思いもよらぬ人物だった。

原崎はらざきだ。千代ちしろ邸に新堂しんどうと居るから合流しろ。以上だ」

 数秒もない通話だったが、何故要さんが朱音ちゃんと千代邸にいるのか、そもそも彼は生きていたのかと色々な情報が頭の中を錯綜した。ただでさえ難しい話を聞いていた私の脳内が情報で溢れ、混乱の渦に陥りそうだった。

 今の通話を聞いていた凛苑さんが反応した。

「……ならば、神社へ向かうのは原崎くんと合流してからにしましょう」

 多すぎる情報量に私が混乱してアクセルを踏めずにいると、武者がもう目の前まで来ていたのに気付くのが遅れた。そして、車目掛けて今まさに刀を振りかぶっているところだ。

 私が絶叫しかけると、武者は急にぴたりと動きを止めた。刀を上に振りかぶった形のまま静止して動かない。そこだけ時が止まったようだった。

「今のうちに早く」

 凛苑さんが止めているのか? 一体どうやった?

 いや、とにかく今は指示に従ったほうが良い。私は思い切りアクセルを踏み込んで、千代邸に向かって出発した。

 カーブを曲がって見えなくなるまで、武者は消えもせずただ動きを止めたままだった。

「あの、そういえば……紫苑ちゃんは?」

 私はずっと疑問に思っていたことを助手席の凛苑さんに質問する。

 成り行きで彼女の話を聞いてきたが、そもそも本当に彼女が凛苑さんなのか分からない。凛苑さんが紫苑ちゃんの中にいる、というのもよく考えたら不思議だ。それもクルス粒子が為す作用とやらの影響なのだろうか?

「今は眠ってもらっています。私が交代するまでは」

 彼女から帰ってきた答えは、相変わらずなんとなく分かるような分からないような回答ではあったが、一先ず無事だということは伝わった。

「身体は紫苑のものなので、宿す粒子濃度は少ない。もうあの異形を止めることは出来ないでしょう」

 やはりさっきの武者の動きを止めたあの芸当は、彼女が行っていたものだったのかと納得する。と同時に、「宿す粒子濃度」という言葉が引っかかる。

「紫苑ちゃんにも、何か影響が出てるって事ですか?」

「今はまだなんとも……。あなたが何回か彼女に力を使っている事の影響はあるかもしれません」

 私はそれを聞いて複雑な気持ちを覚える。良心の呵責というものはこういう心境なのだろうか。

 私自身はこの力の事を受け入れているが、それは小さい頃から当たり前に存在した、言わばアイデンティティの一つだからである。

 もし彼女が同じような力を手に入れてしまったら、そしてそれが凄く辛い体験を強いる何かだったら。

 そう考えると、彼女のためを思って無闇矢鱈にこの力を使ったのは悪手だったのかも知れないと後悔した。もしそうなってしまったら、私が責任を持って彼女を支えなければ。

「前!」

 思考の海に潜り過ぎていたせいで、私は凛苑さんの叫びに反応するのが一瞬遅れ、道路に仁王立ちする武者の姿に気付けなかった。

 その刹那、頭の中で凛苑さんから先程聞いた情報が瞬いた。

『クルス粒子の作用は時空間の物理法則を無視する』

 次の瞬間、激しい衝撃と鈍い音が車内に大きく響き、ぐちゃぐちゃになった視界でなんとか急ブレーキを踏みつける。

 車がなんとか止まったのと同時に、突き立てられた刀が私を貫いているのだけが見え、続いて焼けるような強く鋭い痛みが襲ってきた。視界が光で弾け、吐き気すら覚える激しい痛みで、目の前と頭の中が真っ白に染まっていく。

 意識が途切れる一瞬、私を貫いた刀を反射的に掴むと、一気に意識がどこかへ引っ張られていく。凛苑さんが何かを叫んでいるのだけが聞こえたが、それもやがてぼやけた視界とともに彼方へ消えていった。


 身体を激しく打ち付ける雨の音で気がついた。

 薄暗い景色の中で、大勢の人間の気配が私の周りを取り囲んでいる。叫び声と、鉄と鉄がぶつかりあうような音、あとは雨の音しか聞こえない。

 重い体を無理やり起こそうとすると、私に覆い被さっていたのが死体だったと分かり、絶句する。軽装だが重そうな鎧を着込んでいて、首に打ち込まれた矢が貫通して絶命している。

 私は虚ろな目のその死体をどかし、視界の妨げになる兜を脱ぎ捨てた。周辺を見渡して状況を確認する。

 死屍累々のここは森の中で、今いる場所は獣道になっている。少し登った先の奥の方で何人かが激しくもみ合っているのが見えた。

 周囲の空気が揺れるような大きな雄叫びを上げ、私は落ちていた刀を拾って向こうの方へ突進すると、こちらに気付いた色の違う鎧を着た兵士が怯えた顔で後退していく。

 彼らを追撃し、体力の続く限り刀を振るい、何人か斬り伏せていると、そのうちに味方らしき兵が両手を上げて喜んだ。撃退に成功したのだ。

 はぐれた他の味方を集めるために林の向こうへ登ろうとしたとき、振り返った私の正面の木の陰から、長槍を構えた敵が潜んでいるのに気づいた。その瞬間視界が反転し、空が地面になり、地面が空になる。

 追撃で腹部を貫かれながらも最後の力を振り絞り、そいつの喉に刀を突き立てたのを確認した後、私も膝から崩れ落ち、段々と雨の音が聞こえなくなっていった。

 ──これは、あの武者の記憶だ。

 そう気付いた時、私は記憶から抜けようともがいたのだが、うまくいかない。

 為すすべもないまま映像はどんどん切り替わっていく。私の頭の中に、膨大な量の情報が一挙に流れ込んできた。

 はるか昔、御家人として篠宮の地を統べることになった彼の一族は、村の者たちと結託し、平和な暮らしを営んでいた。

 正妻をめとり子宝にも恵まれ、豊かな自然と人々に囲まれたこの地を守り抜く事こそが彼の使命だった。

 しかし、戦乱の炎はやがて篠宮の地を脅かすようになり、豊かだった村が血に染まってゆく。

 敵対勢力から篠宮を防衛するために、自ら矢面に立った彼は誰よりも勇敢に戦った。決して退却せず、仲間を見捨てず、臆すること無く敵陣へ切り込んでいくその勇姿は、仲間たちの目に強く焼き付いていった。

 敵の本陣を崩し、勝鬨を上げたその時、逃げ延びていた敵の別働隊が居ることを伝令から伝え聞いた。

 だが追撃に向かった先で伏兵に遭遇する。伝令が卑怯にも敵の罠だったと気付いた頃はもう遅く、彼の命の灯火は無惨にも消え去る。

 雨の音が消えゆく中で彼が最後に見たのは、妻と子供たち、村人のみんなが何不自由無く幸せに暮らしてゆける、平和な篠宮の光景だった。

 だが、それは最早叶わないと悟る。外部からの余所者のせいで、侵略者のせいで何もかもが奪われるのだと。そうして絶望の渦中で雨の音は消えていき、ただ闇の中へ落ちていった。

 目を覚ます一瞬前、真っ暗な何も無い世界の奥で、小さな光が現れた。

 そこに居たのは、無表情な銀髪の男。彼に手を差し伸べられ、耳元で一言囁かれる。

「余所者に死を」

 抑揚の無いその声は、闇そのものから囁かれたような冷たく、底の知れない恐ろしさを感じさせた。


 遠くで誰かが呼んでいる声が近付いてきて、それが耳元で聞こえた瞬間、私は意識を取り戻した。

「小麦さん!」

 凛苑さんの声がやけに響いて聞こえる。歪んだ視界に浮かんだのは、ボンネットの上で横たわる首なし武者と、その手に握られている私を貫通した刀。

 それに気付くと同時に耐え難い激痛に襲われる。歯を思い切り食いしばっていなければ、痛みで意識が朦朧としてしまうほどだった。視界の中を光がちかちかと弾け続けている。

 それでも私は力を振り絞り、腹部を貫通した刀を引き抜いていく。少しでも気を抜けば、喉が潰れるほど絶叫してしまいそうだった。

 その間武者は一切の抵抗をせず、ボンネットへ横たわったままだった。

 私は引き留めようとする凛苑さんを制し、倒れる様に外へ飛び出す。横たわる武者の投げ出された手をなんとか握りしめ、彼の名前を呟いた。

鏑木かぶらぎ……永盛ながもりさん」

 自分が何者であるかも忘れ、篠宮に災いをもたらす外部の者への復讐のみに取り憑かれてしまった、悲しい人。

「あなたの守りたかったものは、もうここにはありません」

 私は握った手に力を込め、私が知る限りの篠宮の姿を思い返した。彼に届くよう、少しでも救いになればいいと強く思って。

 戦乱は終わったこと、平和な時代が訪れていること、子孫は続いていること。彼の守りたかったものは既に存在せず、しかし確かに受け継がれて続いている。

 手のひらから握った感触が無くなっていき、彼の姿が空気に溶けていく。

 ふと顔の部分を見上げると、千切れていたはずの首がはっきりと形作られていた。どこか悲しそうな儚いほほ笑みを浮かべた、凛々しい顔立ちの人だったが、それもやがて、篠宮の空に溶けるように見えなくなっていった。

 私は急にいたたまれなくなり、どうか彼の魂が安らかに眠ることを願わずには居られなかった。

 消滅を見届けて力を一瞬抜いた時、激痛が再び襲ってきた。立っていられなくなり、私はそのまま地面に崩れ落ちた。

 凛苑さんが横で私を支えてくれ、貫かれた腹部を手のひらで覆った。

「大したものですね、あんな相手でも共感を示すとは」

 彼女が手を離すと傷はいくらか塞がっており、止血されていた。痛みもいくらか抑えられている。細胞を活性化させて云々と彼女が説明していたが、クルス粒子はこんなことまで出来るのかと感心してしまった。

「私達と同じ、人間だったから」

 そう言った私を見て、凛苑さんは微笑した。

「そうですね。鏑木の人間として篠宮を外敵から守るという使命が彼にはあって、そこにつけこまれた」

 それを聞いて私は驚く。どうして知ってるのだと聞くと、「今見ましたから」と呟いた。

「この村に長く居たからでしょう。クルス粒子の影響が強くなっていって、あなたの力も絶えず変化している」

 鏑木永盛というあの武者の記憶を、私を通してその近くに居た凛苑さんにまで共有していたということなのだろうか?

 思い返してみれば、紫苑ちゃんの記憶をコピーしたのもそうだ。今までは出来なかったのに急に可能だと確信したのも、本能で私は自分の変化に気づいていたのだろうか。

「とにかく今は千代家に向かいましょう。車はもう駄目でしょうが、脅威が無くなった今なら歩いても着ける」

 一瞬、加賀美さんの怒り顔が過ったが、帰ったら全力で謝って弁償すればいい。

 凛苑さんは私に肩を貸してくれた。身体は紫苑ちゃんのものだし華奢ではあるのだが、その行動力は朱音ちゃんに似た頼もしさを感じた。

 少しでも負担を軽くしようと私もなんとか踏ん張ってみたが、力を入れると痛みが増してしまって思うようにはいかない。

 凛苑さんが言うには内臓は逸れているから問題無いとの事だったが、やはり無理は出来ないようだった。

 しばらく歩いていると、冷たい何かが頬に当たって空を見上げる。どうやら雪が少し降り始めているようだった。厚い雲に陽が隠れ、気温が下がってきていた。

「……稀人と共感しようなんてことは、思わないでくださいね」

 凛苑さんが一言呟いて、その言葉の意味するところを想像したが、今はまだ私には理解出来なかった。

 クルス粒子が意思を持ったもの。それがどんなものなのか、そもそも意思の疎通が出来るものなのか、全く想像もつかない。それに、凛苑さんが何故稀人を止めたいのか、その理由も。

 こことは違う世界から訪れた粒子によってもたらされた数々の現象。つまり、私が見たあの母の姿や、七彩ななせさんの影は、本物だったということなのだろうか?

 そして何よりも、「何かがこちらへやってくる」感覚の正体が、稀人のせいなのだとしたら。

 私はもう一度空を見上げて、灰色の雲を粒子の集まりに見立ててしまう。稀人とはどういう存在で、何が目的なのか。

 一体、これから何が起ころうとしているのだろう。

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