第4章 選択

未明

 私は力ないものを嫌悪する。

 力がないことを言い訳に思考を放棄し、力あるものに縋るしか能の無い他者を、心の底から嫌悪する。

 今、私は死の淵にいる。

 こうして歩いていることさえ、奇跡と言っていいだろう。

 動かさないでくれ!と叫ぶ足を引き摺り、休ませてくれ!と懇願する肺の悲痛な声を無視し、歩き続ける。

 目前には、一本の大樹が威風堂々と聳えている。

 そこまで。もう少し無理を聞いてくれ。

 

「バウリット……貴様……よくも……」

「長よ……今は……時間がありません。小言は……ふっ……お互い死んでからに……しましょう」

 牢を開き、跪く。

「あなたの運命は変わらないでしょう。未来を見るまでもありません…最期にあなたに伝えておきたかった。私は道を誤りました。いつか私とは違った道を歩む者が現れるでしょう。あなたにはその者の道標となっていいただきたいのです。私に贖罪の機会を与えていただきたいのです」

 これが最後だ。


 今の惨状は自らで考えることを放棄した、我ら〈メス〉の民への呪いである。

 私を含めて誰も自分自身と向き合うことをしてこなかった。

 そんな愚かな民を率い英雄を気取っていた私がもたらした呪いだ。

 私たちは、ただ生きていければ、それだけで良かったのだ。

「数十年、数百年後の同志よ。これは私からの心ばかしの呪いだ。私の、そして〈メス〉の悲願を果たしてくれ給え」

 私は自分自身を嫌悪する。

 力があることを言い訳に期待に応えることに執心し、力無きものに叶いもしない夢を見せた自分を、心の底から嫌悪する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る